環境科学会誌
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35 巻, 1 号
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2020年シンポジウム
  • 有村 俊秀
    2022 年 35 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    パリ協定を機に,排出量取引制度(ETS),炭素税などのカーボンプライシング(炭素価格付け)が重要な政策手段として改めて注目されてきた。日本でも脱炭素に向けた本格的なカーボンプライシングの導入の検討が必要だ。しかし,日本では国が導入した炭素税(地球温暖化対策税)は低率で,排出量取引は東京都と埼玉県で導入されたのみである。それは,産業界を中心に,排出量取引の効果や経済影響などへの懸念が示されてきたからである。そこで本稿では,欧米及び日本を対象とした事後検証を中心に排出量取引に関して明らかになったことをレビューし,これらの懸念に対して,学術的な回答を示した。特に,多くの事後検証から,排出枠の価格が低下しても,制度が安定しており,将来的に削減目標が厳しくなることが分かっている場合,排出量取引は削減効果を発揮することが示唆された。さらに,炭素リーケージ・国際競争力問題については,排出枠のアップデート方式の配分方法などの対応方法についての経済分析を用いた効果を紹介する。最後に,脱炭素社会に向けた第一歩として,自治体による排出量取引制度の全国展開を提案する。

  • 松本 茂
    2022 年 35 巻 1 号 p. 10-18
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    段階料金制度の下では電力使用量に応じたブロック分けが行われ,ブロック間で異なる電力価格が適用されている。また,近年では電力使用のピークシフトを目的に,時間帯別の料金制度が導入されるようになってきている。本研究では,東京電力管内在住の151世帯に対しアンケートの調査を実施し,各世帯の電力契約内容と2016–19年の4年間にわたる8–10月の電力使用量のデータを入手した。入手したパネルデータを用いて,電力需要の価格弾力性がブロック間で異なるか,時間帯別料金を利用している世帯と利用していない世帯の間で価格弾力性が異なるかを検証した。分析の結果,電力使用量の多いブロックでは使用量の少ないブロックよりも価格弾力性が高いことが確認された。一方,時間帯別料金を利用しているかどうかは,価格弾力性に影響を及ぼさないことが確認された。

  • 鷲津 明由, 尾沼 広基, 有村 俊秀
    2022 年 35 巻 1 号 p. 19-27
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,オフィスビルにおける省エネルギー対策の実施状況に関するアンケート調査結果を利用して,温室効果ガス削減対策として期待の大きいゼロ・エネルギー・ビルディング(ZEB)の導入効果を評価した。この評価は,国内の大規模オフィスビルが,「ZEB設計ガイドライン」で提案されている省エネ対策基準に,どれだけ近づいているかを把握したことに意義がある。さらに,同結果を東京都の都市エネルギー消費マップに適用することで,東京都のオフィスビルによる対策実施効果を把握した。その結果,省エネ対策を講じているオフィスビルはそうでないビルに比べて,東京都で平均33.8%,その他の道府県で平均25.7%エネルギー消費量が少ないと計算された。東京都を含む大規模オフィスビルの多い都府県では,最新技術(高断熱外皮,空調制御,照明制御,高効率モーター,省エネ温水供給,高効率エレベーター,など)がその他の道府県よりも多く導入されており,設備機器の高効率化が相対的に進んでいた。特に東京都では,高断熱外皮のような導入に費用のかかる省エネ対策や,照度適正化,照明制御など,高効率照明をより効果的に運用するための対策について,取り組みの水準が相対的に高かった。高効率照明(LED)の導入率については,地域間で統計的に有意な差は見られず,水準としてはその他道府県の平均実施率が最も高かった。調査結果に基づいて東京都のオフィスビルによる省エネ対策の導入効果を試算した結果,東京都全体で25.0 PJの一次エネルギー消費量が削減されていた。

  • 木元 浩一
    2022 年 35 巻 1 号 p. 28-33
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    本稿では,環境経済学で議論されている「二重の配当」という概念に着目して,雇用保険制度を通じた還元の意義について考察している。気候変動などの影響もあり,地球環境の保全が叫ばれている中で,本格的に高い環境税率を課すことが検討されている。環境税を課すことにより,環境税収が得られるが,その使い道についても検討する必要がある。環境税収の還元を行うということは,環境税を負担する経済主体から,還元対象となる経済主体への所得移転を伴う。したがって,財政学的な視点から還元の意義について検討し,政策的な正当性を明確にする必要がある。本稿では,主に雇用保険制度への還元を取り上げて還元の意義について検討する。

    環境税の賦課により,資源配分上の効率性を促すのが主たる目的ではあるが,それには産業構造の変化を伴う。産業構造の変化の過程にあっては,生産要素に対する需要の変化から,失業問題が浮かび上がってくる。雇用保険制度は失業への対策として形成された社会保険制度である。失業の発生により,雇用保険制度の財政的負担が生じる。したがって,環境税による税収を雇用保険制度を通じて還元する方策は,補償的な意味合いを持つ。また,環境税収を雇用保険制度の財源に充当することによりスムーズにクリーンな産業構造の転換が促され,経済成長および環境の改善にも資することになるだろう。したがって,環境税収を雇用保険制度の財源に充当することは政策的な正当性があるだろう。

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