東京湾内湾部において,1993年4月16日に捕獲した魚類及び甲殼類中のトリブチルスズ(TBT)化合物,トリフェニルスズ(TPT)化合物,そのジ体(DBT,DPT)及びモノ体(MBT・MPT)をガスクロマトグラフ炎光光度検出器(GC-FPD)により分析したTBT及びTPTの濃度範囲はそれぞれ,甲殼類からは16~56(平均29),5~50(平均26)ng塩化物/g(湿重量)(以下ppbと略す)で,魚類筋肉からは6~423(平均90),20~146(平均54)ppbで魚類肝臓からは<3~245(平均110),<3~388(平均132)ppbであった。この測定結果から小型甲殼類から魚類に至るまでの広い生物層が有機スズ化合物により汚染されていることが示された。また,TBT及びTPT濃度は,甲殼類,魚類筋肉,魚類肝臓の順にやや高くなる傾向がみられた。試料中の有機スズ化合物の濃度からTBT/(TBT+DBT+MBT,以下BTsと略す)及びTPT/(TPT+DPT+MPT,以下PTsと略す)を計算した。TBT/BTs及びTPT/PTsはそれぞれ,甲殼類試料では,15~73(平均43)%,15~82(平均60)%で,魚類の筋肉試料では,39~89(平均65)%,44~100(平均72)%で,魚類肝臓試料で0~70(平均34)%,56~100(平均80)%であった。魚類の筋肉試料と肝臓試料のTBT/BTs値の比を魚種別に計算すると1.15~6.38(平均2.39)となり,TPT/PTsでは0.51~1.26(平均0.94)となった。以上の結果から,魚類の肝臓中でTBTは比較的代謝され易いが,TPTは代謝され難いことが示唆された。
抄録全体を表示