本研究はリスクアセスメントの枠組を提示したうえで居住環境におけるアスベスト汚染により発生しうるリスクを見積り,その評価を行った。まず,本研究の分析枠組を示したうえでアスベスト汚染のリスクに関する知見を整理し,居住環境においても危険性が存在することが示された。また日米の社会的対応の比較分析を行い,米国の対応が我が国より早く進められた要因を示し,我が国においてもリスクの見積りおよび評価を行う必要性を明らかにした。次にアスベスト汚染の発生経路を同定し,さらに立地特性別の曝露レベル,曝露人口を推定するとともに,将来濃度の予測を行った。その結果,現状の汚染レベルがこのまま推移した場合,汚染源が特定されない一般環境においては2.5×10
-4程度の生涯死亡率が予測されることが示された。 このリスク規模を他のリスクと比較したところ,リスク分布の50%点で鉄道,自転車事故等と同レベルであり,対策の必要性が認められる。また,吹付けアスベスト汚染を対象にリスクと削減コストとの比較分析を行った結果,リスク分布の95%点では補正割引率で2%程度までコスト対リスク比が1以下となることが示された。さらに,吹付けアスベスト汚染と歩行者の自動車交通事故を比較した場合,年間死亡率はアスベスト汚染対策の方が1000分の1程度低いのに対し,コスト当りのリスク削減効果では同じオーダーとなることが明らかにされた。
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