環境科学会誌
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最新号
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一般論文
  • 石河 正寛, 松橋 啓介, 金森 有子
    2024 年 37 巻 2 号 p. 33-42
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    家庭CO2統計の調査票情報等を利用した回帰モデル推計により,市区町村別燃料種別の世帯当たり家庭エネルギー消費量の推定を試みた。世帯当たりの電気,ガス(都市ガスとLPガスの合計),灯油のエネルギー消費量を目的変数とし,世帯規模や建て方などの世帯レベル変数および人口密度や暖房度日などの都市レベル変数を説明変数とする回帰モデルを10地方区分別に作成した。ガスと灯油のモデルはtwo-part modelの考え方を導入し,燃料の使用有無と使用量の大きさを表現するモデルをそれぞれ作成して組み合わせた。

    作成した回帰モデルを用いて予測した燃料種別の世帯当たりのエネルギー消費量の推計値は,公表されている家庭CO2統計の値と比べて90%程度の整合を有する結果となった。予測結果は,元とした家庭CO2統計の値と比較して,エネルギー消費有無は過大に,エネルギー消費量は過少となり,約90%の整合性を有する結果となった。今後,こうした点の改良に加えて,地域で進む脱炭素関連の政策形成に資する参考情報となる統計等の整備についてさらに検討を重ねていきたい。

  • 栗本 温子
    2024 年 37 巻 2 号 p. 43-52
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    近年,野生動物の生息地域の広がりによって人獣共通感染症の発生が懸念されている。公衆衛生政策においては,各法令に基づく公的検査体制が重要な役割を担っている。しかし,これまで公的検査に関する政策執行面はあまり論じられてきていない。

    一方,生物医学領域における新たな客観性として,規制的客観性という考え方が議論されている1)。この概念は,エビデンスの共同生産を重要視するもので,臨床医療の客観性に帰結するものとされている。これに対し本稿では,公衆衛生分野における公的検査について,2001年から開始された国内の牛海綿状脳症(BSE)検査における規制的客観性のあり方を検証した。その結果,本事例では,科学的信頼性の他に,執行可能性(食肉流通を勘案した迅速性,作業の簡便さ,品質管理等)が考慮されつつ,規制的客観性が構築されていることが明らかになった。先行研究では,規制的客観性は限定されたアクター間を想定して構築されるものであったが,本事例(公的検査)の場合では,行政,消費者,生産者といったより広いアクターへの影響を想定することが不可避であったと考えられる。こうした点からも,規制的客観性は執行可能性が考慮されて構築されているといえる。

    また,検査体制構築の場面では,その時点で利用可能な資源や技術が経路依存的に活用され,さらに技術のロックインが起きていた。新技術の導入には,検出感度の画期的改善だけでなく,検査キットの市場が必要であり,感染症が清浄化する中では,検査体制を再構築するインセンティブが生じないことが窺える。

  • 木下 輝昭, 小田 智子, 栗田 翔, 山崎 貴子, 猪又 明子, 佐久井 徳広, 野原 健太, 中村 李, 土屋 裕子, 小林 憲弘
    2024 年 37 巻 2 号 p. 53-63
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)による水道水中農薬168種のスクリーニング分析データベースをアジレント・テクノロジー社製の装置で作成し,標準液および河川水試料を用いて定性・定量精度の検証を行った。データベース作成から約1カ月後に再度,各農薬0.05 mg/Lの標準液をデータベース作成時と同一条件でスクリーニング分析を行ったところ,データベースに登録した168農薬のうち162農薬を検出できた。検出できなかった6農薬は定量下限が0.05~0.1 mg/Lの範囲にあったが,水道水中の農薬検査で要求される定量下限は十分に満たした。一方,誤同定に注意を要する農薬も幾つか存在することが明らかになった。実試料へのスクリーニング分析の適用時には,これらの農薬の定性には特に注意する必要がある。多摩川中流域5地点の河川水にスクリーニング分析を適用した結果,異なる検査員が実施した通常分析と検出農薬は全て一致した。また,スクリーニング分析による定量値は通常分析の0.63~0.98倍の範囲にあり,河川水試料から検出された農薬については,スクリーニング分析法の定量誤差は通常分析と比べて1/2~2倍以内に収まることが示された。スクリーニング分析法は標準品を用いずにデータベースに登録した農薬を迅速・簡便に,なおかつ通常分析と比べて一定の誤差範囲内の定量精度で分析可能であることから,水道水中農薬の検査においてスクリーニング分析法の有用性は高いと考えられる。

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