環境科学会誌
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8 巻, 2 号
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  • ―家畜牛を例として―
    西上 泰子, 柳沢 幸雄
    1995 年 8 巻 2 号 p. 129-138
    発行日: 1995/05/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     人口増加と食肉需要の増大に伴い,牛の飼育頭数は急激に増加した。かつて牛は草や農作物残滓を食べて,牛肉や牛乳,皮革を人類に提供し,役畜として働き,その排泄物は肥料にも燃料にもなった。現在は大量の牛の飼育のために放牧地の植生が劣化し,熱帯林が草地へ転換されている。特に先進国では穀物飼育を行い,畜産排泄物は淡水資源を汚染する。これら畜産による地球環境負荷を考察した。さらに温室効果ガス(GHG)の地球規模の排出に,牛が関与する割合を計算した。 牛の飼育とGHGの関係には,GHG発生量の増加と,吸収量の減少の二つの側面がある。放出されるGHGとして,牛のルーメンから発生するメタン,呼吸によるCO2,飼料用穀物の生産のために発生するCO2などがある。他方,過放牧のために植生が減少したり,また草地を作るために森林が開拓されて,大気からのCO2の吸収量が減少する。また化学肥料の使用によって亜酸化窒素(N20)も空気中に放出される。これらの植生劣化まで含めて計算した結果,人為的GHG総排出量に対して,牛が関与する割合はCO2で25%,メタンで19%,N20では不確実性を伴うものの18%となった。メタンについては比較的短い寿命のために,大気中濃度安定化のための削減必要レベルは人為メタン総排出量の10%と小さく,牛の存在がなければメタンの問題は解決し,牛の関与分は大きいと言える。他方,CO2とN20については削減必要レベルはそれぞれ60%以上,70~80%と大きく,世界中で牛の飼育を全部削減したとしても,地球温暖化問題を解決するほどではない。
  • 澤田 信一, 清野 貴幸, 土岐 剛史
    1995 年 8 巻 2 号 p. 139-153
    発行日: 1995/05/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     青森県の全面積(961×103ha)の67%は森林であり,また農耕地が18%を占めている。人口密度が低く,産業は一次産業が中心で,二次産業以上の産業は極めて少ない。この様に,本県はCO2固定者である森林生態系および農業生態系での一次産業が大きな割合を占め,一方において,CO2放出者である二次産業とその他の産業及び地域の人間社会が小さな割合を占めているのが特徴である。そこで,青森県を一つの地域生態系として捉えて,CO2収支の算定を行った。その結果,県全体の植物体の現存量は27.6×106t・C/y,また純一次生産量は4.2×106t・C/yで青森県の面積および人口当たりの現存量と純一次生産量は全国で9番目の値であった。県内の森林生態系,河川・湖沼および農業生態系における土壌呼吸量,各産業および人間生活における物質とエネルギー消費に伴う総CO2放出量は8.2×106t・C/yであり,森林生態系,河川・湖沼および農業生態系における植物の純一次生産による総CO2固定量は,総CO2放出量の1/2であった。総CO2放出量の72%が石油製品の消費および電力生産の際の石油消費によるものであった。この地域生態系と他の系との間での炭素換算の物質移出入において,移入量は移出量の13倍であった。移入量の89%が石油製品および電力生産のための重油で,移出量のほとんどが一次生産物および二次生産物とこれらの加工品であった。以上の知見に基づき,この地域生態系におけるCO2収支の改善方法についても議論した。
  • 周 垂桓, 深見 元弘, 岩下 嘉光, 川崎 秀樹, 管家 英治
    1995 年 8 巻 2 号 p. 155-161
    発行日: 1995/05/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     大気汚染による蚕のフッ素中毒発症の機構を明らかにする目的で,NaFを4齢幼虫に経口投与し,低真空走査電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線マイクロアナライザー(EDX)を用いて観察と分析を行ったところ,中毒蚕の中腸内壁表面に,多量のマグナシウム,リン,酸素などを構成成分とする微小顆粒が観察された。また,NaF投与個体を用いた中腸細胞の超薄切片観察においても細胞質内に同様な微小顆粒が認められた。これは中腸細胞に取り込まれたフッ素化合物により,カルシウムやマグネシウム代謝及びリン濃度調節などに異常が生じた結果,細胞質内にリン酸マグネシウムが微小顆粒として形成され,更に胃腔へ排出されるものと推察された。
  • 坂村 博康, 佐藤 泰史, 宇都野 太, 安井 至
    1995 年 8 巻 2 号 p. 163-169
    発行日: 1995/05/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     地球環境およびリサイクルの問題として,廃プラスチックの処理が世界的に重要な課題となってきている。日本でも年間500万トン以上の廃プラスチックが発生しているが,そのリサイクル量は3割以下であり,かなりの部分が埋立処分や熱回収をしない焼却処分となっている。近年廃プラスチックは焼却してそのエネルギーを回収して有効利用しようとする考えが多くみられるようになってきた。本研究所では,将来廃プラスチックがエネルギーとして回収されるであろうことを予測し,焼却による問題点の一つである燃焼灰に含まれている金属元素の溶出状況を模擬的環境中で調べた。有害金属としては,pb,cdとsbの溶出が比較的顕著に認められた。燃焼灰中の有害金属元素の溶出という観点でみれば,上記3種の有害金属元素を含むプラスチック添加剤の使用を減らすことにより,燃焼灰の安全性は高まるものと推察された。
  • 宮原 裕一, 井本 真波美, 荒井 園枝, 鈴木 潤三, 鈴木 静夫
    1995 年 8 巻 2 号 p. 171-179
    発行日: 1995/05/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     東京都区内の河川において,抗生物質耐性黄色ブドウ球菌の分布を調査したところ,多種多様な耐性菌が多量に河川水中に存在していることが明らかになった。これら黄色ブドウ球菌の汚染源は降雨時に下水道管から越流した下水と考えられた。黄色ブドウ球菌は多様な感染症と食中毒を引き起こすことが知られており,これらが抗生物質耐性を持っならば,それらの治療はより困難となると考えられる。 一方,河川水から分離,純化,同定した58株の黄色ブドウ球菌の11種類の抗生物質に対する感受性を試験した結果,これらのほとんどがペニシリンとメチシリンに耐性を持つことが明らかとなった。さらに,これらの約60%が多剤耐性を有することも明らかとなった。
  • 李 進, 原嶋 洋平, 李 東根, 森田 恒幸
    1995 年 8 巻 2 号 p. 181-192
    発行日: 1995/05/31
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
     環境政策の発展過程を経済発展とのかかわりのなかで解明することは,「持続可能な発展」を実現する為の政策決定の重要な基礎の一つとなる。これまで日本と韓国の環境政策全般の発展過程について,比較分析した例は見当たらない。ここでは,日本と韓国の環境政策の発展過程を比較分析して,その共通点及び相違点を明らかにした。まず,歴史的事実の検証の結果,時間差はあるものの,日本と韓国の環境政策は,共通の性質を有する事象を,概ね同じ順序で経験していることが分かった。そして,経済指標の検証による考察の結果も,この定性的な分析の結果に反するものではなかった。とりわけ,燃料の低硫黄化対策と乗用車排出ガス規制強化が,同じ発展段階で実施されていることは注目すべきである。しかしながら,日本と韓国の環境政策の発展過程には,4つの相違点があることも明らかとしている。日本の場合と違って,韓国の環境行政は,公害規制,快適性(アメニティ)の追求,地球環境保全という3つの政策課題を同時に抱えている。この相違点は,今後の韓国の環境政策を考えるうえで,とりわけ重要なものである。
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