急性胆管炎・胆嚢炎は,発症から診断までの時間を考慮し,病態が重篤化する前に治療方針を決定することが重要な疾患である.治療の原則は,胆嚢摘出術や胆道ドレナージなどの感染源の局所コントロールと抗菌薬治療である.抗菌薬治療においては,多剤耐性グラム陰性菌の蔓延により抗菌薬治療も変化している.「急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン2018」では,市中発症(重症度別)および医療関連感染に分類して初期治療推奨薬が提示されており,各施設の感受性パターン(アンチバイオグラム)も考慮した抗菌薬の選択を行う.また,エンピリックに投与された初期治療薬は,血液培養・胆汁培養検査にて微生物が同定され,感受性結果が判明すれば,最適治療薬へde-escalationすることが重要である.本稿では,ガイドラインに基づく急性胆管炎・胆嚢炎に対する抗菌薬治療について述べる.
【症例1】82歳男性.自己免疫性膵炎による胆管狭窄に対するプラスチックステント(PS)留置51カ月後に胆管炎を発症した.PS抜去後のERCでType A stent-stone complex(SSC)と診断した.機械式破砕具による治療が困難だったため,経口胆道鏡(POCS)下に電気水圧衝撃波結石破砕装置(EHL)で結石破砕を行い完全結石除去を得た.【症例2】87歳男性.遠位胆管狭窄に対して留置した金属ステント(MS)が11カ月後に胆管内へと迷入しType B SSCを形成した.MS留置23カ月後にPOCS下にEHLでMS内の結石を破砕することで,MS回収と完全結石除去を得た.
SSCはステントを核として形成される結石で胆管ステントの偶発症であり,結石の形態や形成過程によってType AとType Bに分類される.今回我々は両TypeのSCCをPOCS下に治療し得たため報告する.
我々は膵癌に対して膵頭十二指腸切除術後で,バルーン内視鏡を用いた内視鏡的逆行性胆道造影(Endoscopic retrograde cholangiography:ERC)で治療した魚骨を核とした胆管結石3例を経験したので報告する.症例1:80歳男性,発見契機は肝胆道系酵素上昇であった.症例2:72歳男性,発見契機は胆管炎であった.症例3:83歳男性,発見契機は右季肋部痛で,膵癌術後再発を同時に指摘された.全症例でバルーン内視鏡を用いたERCで結石除去し,治療後偶発症は見られなかった.本邦では魚食習慣が根付いており,また膵癌の罹患率上昇とともに術後再建腸管例も増えていることから,本報告のように魚骨を核とした胆管結石のリスクについて十分に注意する必要がある.また,バルーン内視鏡を用いた結石除去術は安全に施行可能であり,特に有症状例においては,積極的に治療を考慮してよいと考える.
症例は67歳の男性で,急性胆嚢炎に対して腹腔鏡下胆嚢摘出術(以下,Lap-C)を施行された.術後15日目のCTで上行結腸腹側に腫瘤を認め,術後4カ月のCTで増大傾向を示し当科紹介となった.針生検で黄色肉芽腫性炎症を認めた.自覚症状を認めず経過観察とした.術後6カ月に右上腹部痛を主訴に当科受診し,腫瘤はさらに増大し周囲臓器と境界が不明瞭であった.腫瘤の増大と症状の出現のため手術の方針とした.手術所見は上行結腸や腹壁,大網と境界が不明瞭で,腫瘤とそれら一部を合併切除した.検体で腫瘤内部に膿瘍を認め,上行結腸に穿通していた.膿瘍内に褐色の小結石を認め,結石分析で胆汁由来であった.病理診断は胆道由来の結石による黄色肉芽腫性炎症を伴う膿瘍であった.Lap-C時の落下結石を核とした膿瘍が消化管へ穿通した報告は検索得しえた範囲ではなく稀な症例と考えられたため報告した.
胆膵内視鏡関連処置は,消化器内視鏡検査の中で偶発症のリスクが高い処置の一つであり,特に十二指腸乳頭部周囲に生じた穿孔は,胆汁や膵液の直接的な暴露も重なり,管理に難渋することも少なくない.症例は47歳男性.肝胆道系酵素の上昇を伴う総胆管結石に対して,ERCPを行なった.EST施行後,結石除去を試みたが,結石の把持と破砕が困難であり,一期的な処置を断念した.処置から5時間後,腹痛を契機に穿孔の診断に至ったため,緊急でERCPを行い,胆管と膵管へ経鼻ドレナージを挿入した.以降,次第に炎症所見は改善し,処置20日後に退院した.当院では,ESTに伴う穿孔を2例,内視鏡的乳頭部切除術に伴う穿孔を2例経験し,ドレナージを行わなかった1例で最終的に外科的手術を要した.乳頭部の穿孔症例に対する内視鏡的胆管・膵管ドレナージ術の有効性が示唆される症例であった.
ERCP関連手技により十二指腸乳頭部穿孔に対して保存的に治療し得た3例を報告する.3例のERCP施行目的は,肝内結石治療,遠位胆管癌精査およびドレナージ,良性胆管狭窄精査であった.穿孔の原因はそれぞれ,プレカット後のガイドワイヤー操作,ESTによる不適切方向への切開,乳頭過切開によるものと推測した.各症例は,ERCP直後,4時間後,2日後に診断したが,経鼻胆道ドレナージやfully-covered self-expandable metal stentの留置,経皮的ドレナージ,超音波内視鏡下ドレナージなどの非外科的治療により,全例で治療し得た.
肝内結石症は完治が難しく,40年以上にわたり定期的に全国多施設調査が行われている.この間,治療法の進歩にもかかわらず,結石遺残・再発率に改善が乏しい.肝内結石症の治療としては非手術的治療である経皮経肝的胆道鏡治療や経口的内視鏡治療であるERC,バルン内視鏡下ERC,POCS(peroral cholangioscopy)下結石除去と,手術的治療である肝切除術,胆管消化管吻合術,総胆管切開結石除去術,乳頭形成術などがある.治療法の変遷をみると,二次性肝内結石症の増加とERCやバルンERC関連手技の進歩により経口的内視鏡治療の増加が著しい.巨大結石に対してはESWLやEHL(electronic hydraulic lithotripsy)などを併用して結石除去を行う.手術的治療については肝切除術が最多であり,近年腹腔鏡手術の報告が増えている.また,完全に結石除去しても胆管癌発生のリスクがある.とくに胆管癌合併のリスクを伴う症例には治療後も長期間かつ厳重な経過観察が必要である.