胆道
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36 巻, 2 号
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第57回日本胆道学会学術集会記録
日本胆道学会認定指導医養成講座
  • 古川 徹
    2022 年 36 巻 2 号 p. 91-97
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    IPNB(胆管内乳頭状腫瘍)とは拡張胆管内に肉眼的に同定される規模で認められる乳頭状腫瘍性病変をさす.顕微鏡的に,狭い線維性血管芯を伴う上皮の乳頭状増殖を主体とし,時に管状成分も混在する.種々の異型度を呈し,軽度異型,高度異型に分けられ,高度異型は上皮内癌と同等となる.胆管内を越えて浸潤を示す例は浸潤性胆管内乳頭状腫瘍と呼ばれる.浸潤部は管状腺癌や粘液癌の形態を示すことが多い.腫瘍性乳頭の病理組織学的形質により,胃型,腸型,膵胆型,オンコサイト型に分けられる.IPNBは日韓合同研究により,細線維血管芯を持ち,よく発達した乳頭状を呈する1型と比較的不整な乳頭状構造を示す2型に分けられ,その臨床病理学的・分子病理学的特徴が明らかにされた.

  • 本田 五郎, 森 泰寿, 大目 祐介, 樋口 亮太, 植村 修一郎, 松永 雄太郎
    2022 年 36 巻 2 号 p. 98-105
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    われわれは腹腔鏡下胆嚢摘出術に際して,Rouvière溝と方形葉(S4)基線の右端(肝門板と胆嚢板の境界)を遠景で観察して胆嚢(板)の位置を確認することと,漿膜下層内層(SS-inner)を露出する層で鈍的剥離を行うことを胆管損傷回避のための必須手順として標準化して行ってきた.しかし,S4基線の右端の定義には曖昧さが残っており,また,SS-innerと類似した肝外胆管の線維筋層(FM)表面は胆嚢のSS-inner表面と見誤ることがある.手術手技の標準化は安全性向上のために有効であるが決して万能ではなく,不注意や思い込みによるエラーまでを完全に防ぐことはできない.手術の確実性や安全性を高めるためには,適切に標準化された手術手技を習得するとともに,様々なピットフォールを予め認識して,危険個所では慎重に手術を進めることが重要である.

  • 三浦 文彦
    2022 年 36 巻 2 号 p. 106-112
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2018(Tokyo Guidelines 2018:TG18)発刊後のエビデンスを紹介した.2018年のNCDデータを用いた研究により胆嚢摘出術(胆摘)の術後90日死亡率が0.6%と決して低くないことが明らかとなった.カナダでの大規模観察研究により,早期胆摘は待機的胆摘よりも胆管損傷が有意に少ないことが示された.PTGBDに関する高いレベルのエビデンスはなかったが,オランダで行われた腹腔鏡下胆摘(Lap-C)と比較するrandomized controlled trialが報告された.PTGBD群で胆道疾患再燃率,重篤な合併症発生率は有意に高かったが,死亡率には差がなかった.これによりPTGBDのLap-Cが施行できない場合のサルベージとしての妥当性は示されたとも考えられる.胆嚢ドレナージ法と胆嚢ドレナージ後の至摘手術時期については,今後のエビデンスの集積が待たれる.患者の状態を十分に把握した上で施設の状況を加味した治療選択が望まれる.

  • 安田 一朗, 林 伸彦, 松野 潤, 中村 佳史, 井上 祐真
    2022 年 36 巻 2 号 p. 113-120
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    胆管癌の水平方向進展度診断は,切除の可否や切除範囲・術式を検討する上で必要であり,遠位胆管癌においては肝側の進展度診断は特に重要である.その進展様式には表層進展と壁内進展があり,また,胆管癌の肉眼型は乳頭型,結節型,平坦型に分けられてそれぞれに膨張型と浸潤型があるが,乳頭型や結節膨張型(いわゆる限局型)では表層進展が多く,結節浸潤型や平坦型(いわゆる浸潤型)では壁内進展が多いとされる.壁内進展は腫瘍の粘膜下浸潤と線維化によって壁の肥厚や硬化,内腔の狭小化をきたすため,こうした所見をMDCT,MRI/MRCP,EUS,ERCP(+IDUS)といった画像から読み取って進展範囲を診断する.一方,表層進展は腫瘍が粘膜表層を置換するように進展していくため,腫瘍の進展範囲を壁変化として捉えることは困難であるが,近年,経口胆道鏡所見や直視下のマッピング生検が有用であるとの報告がみられる.

  • 加川 建弘
    2022 年 36 巻 2 号 p. 121-129
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    胆汁酸は胆汁分泌のdriving forceであるばかりではなく,近年,糖代謝,脂質代謝を含め,生体の恒常性を維持するためのシグナル分子として注目されている.胆汁酸は肝でコレステロールから産生され,胆管を介して腸管に排出され,腸内細菌の増殖を抑制するなど影響を与える.その一方で,腸内細菌により脱抱合,脱水酸化を受け,その後,腸管から再吸収され,門脈を介して肝に戻ってくる(腸肝循環).即ち,胆汁酸は腸内細菌を含む腸内環境を肝に伝達する分子であるといえる.本総説では胆汁酸代謝に関与する分子機構を詳述するとともに,先天性,後天性胆汁うっ滞症の発症機序,さらに胆汁酸関連分子を標的とした治療について最近の知見を概説する.

  • 北川 裕久, 武藤 純
    2022 年 36 巻 2 号 p. 130-135
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    偶発胆嚢癌は腹腔鏡下胆嚢摘出術の進歩とともに増加しているが,T1b(MP)以上,特にT2(SS)以上であった場合には追加切除が推奨される.T2(SS)胆嚢癌では胆摘+胆嚢床切除+肝外胆管切除+D2郭清からなる拡大根治的胆嚢摘出術,いわゆるGlenn手術が基本的な根治術式とされるが,偶発胆嚢癌の追加切除もこの術式を基本に行われる.当科で最近良性胆嚢疾患の診断で手術を行った3,061例中偶発胆嚢癌は48例(1.6%)で,うち再発は19例(40%)であった.追加切除は11例(23%)で全て二期的に開腹で行われ,再発は3例にみられていた.胆嚢摘出時には緊急手術であろうとも術前には胆嚢癌を念頭に置いた十分な画像診断を行い,胆嚢癌が疑われる場合には術中胆汁漏出の可能性が少ない全層胆摘が望ましく,術後T1b以上の胆嚢癌と診断された場合には追加切除を考慮すべきである.

原著
  • 上田 順彦, 三浦 聖子, 甲斐田 大資, 宮田 隆司, 宮下 知治, 藤田 秀人, 山田 壮亮, 向井 強
    2022 年 36 巻 2 号 p. 136-144
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    画像診断が進歩しても胆嚢癌と黄色肉芽腫性胆嚢炎(Xanthogranulomatous cholecystitis;以下XGC)を明確に判別することは困難であるが,良性疾患であるXGCに対して過大手術をできるだけ回避する必要がある.今回,当科で経験したXGC15例を対象として,診断のポイントおよび治療上の問題点を明らかにすることを目的として検討したので報告する.XGCを強く疑う所見として,①中等度以上の胆嚢炎発作の既往歴がある,②造影CTで肥厚した胆嚢壁内に低吸収域を認める,③内腔面が均一に造影される,④短期間の経過で画像が変化する,などが挙げられた.胆嚢癌とXGCの判別が困難な症例では,術前にこれらXGCを示唆する項目がないかを検討し,術中は可能な限り病理診断を駆使しながら過大侵襲の手術にならないように細心の注意を払う必要がある.

総説
  • 古川 徹
    2022 年 36 巻 2 号 p. 145-150
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    胆道において炎症と発癌は極めて深い関係がある.胆管に慢性炎症を来す肝内結石あるいは総胆管結石の肝内胆管癌に対する相対危険率は17.64と報告されている.膵液の胆管内逆流を来し胆管に慢性炎症を惹起して胆管癌発生リスクを高める膵胆管合流異常症における胆管・胆嚢癌の合併頻度は成人例拡張型で20%程度,成人例非拡張型で40%程度とされている.原発性硬化性胆管炎では7%程度に胆管癌を認める.肝吸虫は胆管の慢性炎症と胆管癌発生の原因となる.これら炎症を来している胆管には胆管癌の前駆病変である胆管上皮内腫瘍,胆管内乳頭状腫瘍が認められる.胆管癌ゲノム解析における変異シグネチャー解析からは炎症に関連するAPOBEC経路の関連が示されている.胆管周囲付属腺には胆管上皮再生に寄与する幹細胞が存在し,炎症による胆管上皮再生の亢進と遺伝子変異による癌化の母地となることが示唆されている.炎症と発癌の関係の分子機序を明らかにすることで予後不良な胆管癌の予防,早期診断,効果的な治療法開発が進むことが期待される.

  • 杉浦 禎一, 蘆田 良, 大木 克久, 山田 美保子, 大塚 新平, 上坂 克彦
    2022 年 36 巻 2 号 p. 151-157
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    胆道癌において根治を目指せる治療は外科的切除である.胆道癌は肝門部領域胆管癌,遠位胆管癌,十二指腸乳頭部癌,胆嚢癌などに分類されるが,特に肝門部領域胆管癌は手術難易度が高い.血管(肝動脈・門脈)合併切除再建,肝膵十二指腸切除など,技術依存性,高侵襲性の手術が多いが,近年その成績は向上している.胆道癌に対する薬物療法の進歩も目覚ましく,切除可能胆道癌に対する術前化学療法などの開発も期待される.本稿では胆道癌,特に肝門部領域胆管癌の外科的治療の現状を明らかにするとともに,今後の展望についても述べる.

症例報告
  • 高 賢樹, 西田 保則, 小豆畑 尚典
    2022 年 36 巻 2 号 p. 158-165
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    胆嚢腺扁平上皮癌を発生から切除まで,経時的に観察し得た症例を経験した.症例は79歳の女性.胆嚢ポリープの発生を認め,経過観察されていた.2年のあいだに3.9mmから24mmまで増大傾向を認めたため,胆嚢癌の診断で手術を施行し,病理で腺扁平上皮癌と診断された.本例では経時的な観察により,腫瘍倍増時間(DT;Doubling Time)が111日と算出できた.胆嚢癌のなかでも腺扁平上皮癌は増殖速度が速く,きわめて予後が悪いとされているが,本症例を検討したところ,腫瘍の扁平上皮癌成分の割合により増殖速度が変わる可能性が示唆された.胆嚢腺扁平上皮癌でも,症例により増殖速度が速くない可能性もあり,腺癌と同様の治療方針,すなわちリンパ節郭清を伴った完全切除を考慮する必要があると考えられた.

  • 水野 成人, 田中 秀和, 富原 英生, 橋本 和彦, 辻江 正徳
    2022 年 36 巻 2 号 p. 166-171
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    膵頭十二指腸切除術後に針状の肝内結石形成を反復する1例を報告する.症例は60歳代男性.膵管内乳頭粘液性腫瘍に対して膵頭十二指腸切除術を施行した.術後2年目のCTで左肝内胆管から胆管空腸吻合部にかけて線状の高吸収像が出現した.術後4年目に中等症の急性胆管炎を発症し,バルーン小腸内視鏡によるERCを施行した.左胆管から胆管空腸吻合部にかけて黒茶色の針状物の束と泥状の結石が充満しており,把持鉗子,バスケット鉗子を用いて除去した.経過は良好であったが,内視鏡治療2年後に急性胆管炎を発症し,CTで前回同様に線状の高吸収像が出現した.再び小腸内視鏡検査によるERCを施行し,吻合部に針状の結石を認めたため除去した.その後のCTで線状の高吸収像は消失していたが,再治療1年後に再び描出されるようになり,現在も経過観察中である.針状物を成分分析に提出したところ,主成分はビリルビンカルシウムであった.

Video Reports
胆道専門医講座 胆道癌治療の最近の進歩
  • 古瀬 純司
    2022 年 36 巻 2 号 p. 176-184
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    胆道癌の化学療法は切除不能例だけでなく,切除手術の術後補助療法を含め,重要な役割を果たし,活発に開発が進められている.切除不能胆道癌に対する化学療法は,ゲムシタビン(GEM)+シスプラチン併用療法(GC療法)が標準治療として広く用いられている.さらにわが国では第III相試験の結果,GEM+S-1併用およびGC+S-1療法も選択肢の一つとして推奨されている.GC療法後の2次治療として,英国からmFOLFOX(フルオロウラシ+ロイコボリン)の有効性が報告され,海外では標準治療として位置づけられている.胆道癌の術後補助療法は英国ではカペシタビンの有用性が示され,わが国ではS-1の第III相試験が行われている.最近,胆道癌においても免疫チェックポイント阻害薬やがんゲノム解析に基づく薬物療法が多く開発されており,新たな治療選択肢が増えつつある.今後さらに胆道癌患者の予後改善が期待される.

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