特殊教育学研究
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49 巻, 5 号
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原著
  • ―音読潜時と発話時間から―
    井上 知洋, 東原 文子, 岡崎 慎治, 前川 久男
    2012 年 49 巻 5 号 p. 435-444
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    本研究では、学齢期の定型発達児(N=120)における読字能力と音韻処理能力の関連の発達的変化、ならびに読み困難児(N=10)における読みの困難と音韻処理の特性および両者の関連性について検討した。課題はひらがな単文字、単語、非単語の読字課題と、モーラ削除課題、非単語復唱課題を用いた。その結果、定型発達児における読字能力と音韻処理能力の関連の様相は学年段階ごとに異なり、通常の読字発達過程における両者の関連の発達的変化が示唆された。また読字課題の反応時間を音読潜時と発話時間に分けて分析したところ、読み困難児に共通する特徴として単語に対する音読潜時と非単語に対する発話時間、さらにモーラ削除課題の遂行時間の延長が認められた。これらの結果から、ひらがなの読み困難のメカニズムにおいては、単語全体として認識する能力の発達の障害と、音韻意識の障害の二点が強く影響していることが示唆された。
資料
  • 野口 晃菜, 米田 宏樹
    2012 年 49 巻 5 号 p. 445-455
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    米国では、学力向上と格差の縮小を目的とした「スタンダード・ベース改革」が行われている。連邦法において、障害のある児童生徒に対しても、スタンダード・ベース・カリキュラムの適用と試験への参加が義務づけられた。その一方で、知的障害のある児童生徒については、障害特性に応じた機能的生活カリキュラムが適用されてきた。本稿では、スタンダード・ベース改革の法的枠組みを明らかにし、知的障害のある児童生徒へのスタンダード・ベース・カリキュラムの適用に関する議論を整理した。その結果、(1)教育改革の一環として、障害のある児童生徒が試験へ参加することにより学校の指導・支援状況が評価されること、(2)知的障害のある児童生徒については、教育内容・方法に大幅に変更が加えられるが、代替スタンダードに基づいて評価をしなければならないこと、が明らかになった。今後、代替スタンダードの内容設定と、評価方法の実践的検討を進める必要がある。
  • 長谷部 慶章, 阿部 博子, 中村 真理
    2012 年 49 巻 5 号 p. 457-467
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    本研究は、小・中学校における特別支援教育コーディネーター(以下、コーディネーターとする)の役割ストレスを検討することを目的とし、質問紙調査を実施した(有効回答376部)。そして、役割ストレスに関連する要因として、コーディネーターおよび学校の属性、職場風土(職場の雰囲気)、学校内におけるサポート、コーディネーション行動を取り上げて検討した。分散分析の結果、役割過重は児童生徒数と特別支援学級の有無による有意差が認められ、役割葛藤は、児童生徒数による有意差が認められた。また、役割曖昧は年齢、経験年数、校務分掌(学級担任、通級担任)、特別支援学級等の経験の有無による有意差が認められた。さらに、校長、同僚教師などからサポートを受けていると感じているコーディネーター、および職場風土を良好ととらえているコーディネーターの役割ストレスは低かった。また、役割曖昧得点とコーディネーション行動各下位尺度得点、役割葛藤得点と職場風土認知得点間には中程度の負の相関が認められた。以上の結果から、学級担任がコーディネーターの役割を遂行することの困難さ、同僚教師の支援の重要性などが考察された。
  • 渡辺 大倫, 笠原 芳隆
    2012 年 49 巻 5 号 p. 469-479
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    本研究は、これまでおもに知的障害領域において検討されてきた自己決定の機会について、重度・重複障害児を対象に、その実態と規定する要因を検討した。ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health: 国際生活機能分類)の分類項目を用いて、重度重複障害児の自己決定の機会に関与する可能性のある要因を検討し、質問紙を構成した。愛知県の特別支援学校(肢体不自由)8校の重複障害学級在籍児童生徒の保護者549 名を対象に調査を実施した。回答者は420名、分析対象者は394名であった。共分散構造分析の結果、重度重複障害児自身の生活機能よりも環境因子のほうが自己決定の機会を規定する要因として影響力が高かった。またパス解析により、環境因子としての教育的支援環境、物的支援環境が自己決定に対する保護者の意識を高め、自己決定の機会の拡大をもたらすという支援方略についての示唆を得た。
  • ―能力・人柄に関する潜在的-顕在的ステレオタイプ―
    栗田 季佳, 楠見 孝
    2012 年 49 巻 5 号 p. 481-492
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    障害者に対する態度は両面価値的であるといわれているが、その構造は、明確にはわかっていない。本研究は、障害者に対する両面価値的態度について、態度の現れ方に関する表明次元と、態度の内容に関するステレオタイプ内容次元という2つの視点から検討した。大学生・大学院生30名に対して、潜在的および顕在的な障害者に対する評価、能力ステレオタイプ、人柄ステレオタイプを測定した。その結果、表明次元にかかわらず障害者に対して、ネガティブな能力ステレオタイプ(能力が低い)とポジティブな人柄ステレオタイプ(あたたかい)が存在することがわかった。障害者に対する評価は表明次元によって異なり、顕在的にはニュートラルであったが、潜在的にはネガティブであった。これらの結果は、障害者に対する両面価値的態度が表明次元と内容次元に生じていることを示している。
展望
  • 二川 敬子, 高山 佳子
    2012 年 49 巻 5 号 p. 493-503
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    本研究は健常の子どもの「約束」概念の発達に関する研究を概観し、「約束」の理解と履行に関して発達的視点からの検討を行うこと、そして今後の研究課題を明らかにすることを目的とした。先行研究より、子どもは幼稚園や保育所といった社会的な生活の場で「約束する」という対人関係における相互作用の経験を通して「約束」というものを理解していくこと、年齢の上昇に伴って状況に応じた適切な「約束」の履行判断ができるようになることが示された。一方、発達障害児は「約束」を交わす経験が健常児に比べて少ないこと、「約束」における相手の意図が理解されにくいこと等が示唆された。今後は、健常児に加えて発達障害児の「約束」概念の発達と発達に影響を与える要因を検討する研究、行動観察やエピソード分析等の方法により、実際に「約束」をどのように履行(または破棄)したのかを明らかにする研究が必要であると思われる。
実践研究
  • 裴 虹, 園山 繁樹
    2012 年 49 巻 5 号 p. 505-516
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    本研究では、選択行動を一連の行動連鎖ととらえた「選択行動アセスメントマニュアル」を作成し、中国の知的障害特別支援学校1校で実際に適用し、その社会的妥当性を検討した。教師22名に本アセスメントマニュアルを、学校の多くの日常場面において、担当する知的障害生徒22名に適用してもらい、適用後に、教師に対して、「記録表の内容」「記録表の記入」「アセスメントの実施」「アセスメントの効果」「アセスメントマニュアルの合理性」の5項目に関する社会的妥当性評価のアンケート調査を実施した。その結果、選択行動アセスメントマニュアルはおおむね妥当であったと評価されたが、記録表の記入が難しかった教師も少数あり、記録の仕方やアセスメントの実施により、時間がかからないような工夫が求められた。今後は、本アセスメントマニュアルを適用した指導事例の検討を行い、その具体的な有用性と使用方法を検討する必要がある。
  • 岩橋 由佳, 相本 広幸, 藤原 秀文, 井上 雅彦
    2012 年 49 巻 5 号 p. 517-526
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    本研究では、知的障害児童に対する交流学級児童の適切なかかわり行動を増加させるため交流機会を事前にアセスメントし、具体的な交流場面を取り上げた障害理解授業を行い、交流学級児童の理解と両者の行動変容に及ぼす効果について検討した。その結果、授業前後の意識調査において、交流学級児童の意識変化が確認された。また、交流学級児童28名中11名が知的障害児童に対し適切なかかわりを行い、授業で取り上げていない場面へのかかわり行動の般化と、知的障害児童の自発的行動の増加が確認された。交流学級児童から障害のある児童への適切なかかわり行動を増加させるためには、(1) 事前のアセスメントにより、交流学級児童から障害のある児童へのかかわり行動が生起しやすい場面とターゲットスキルを設定すること、(2) 交流学級児童自らが具体的なかかわり方を考えたり、実際にロールプレイを実施できる、主体性のある授業を構成することの重要性が示唆された。
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