本文は,第63回地盤工学シンポジウム「地盤災害とその対策に関わる研究・調査・報告事例」の投稿論文から選定された論文を収録した地盤工学ジャーナル地盤災害とその対策特集号の発行にあたり,発行の経緯と編集状況を巻頭言としてまとめたものである。
豪雨時に広域で同時多発する土砂流出の到達危険性を評価するために,セルラオートマトン法とマルチエ ージェント法を組み合わせた数値シミュレーションツールを開発している。土砂流出や流動を規定するル ールを簡易化し,大規模な連立方程式を解く必要がなく高速演算が可能となること,すなわち広域モデルを対象とできること,土砂流動の簡易ルール記述に用いるパラメータの変動やばらつきを考慮した検討を多ケース行えること,などの特徴を活かした手法としている。本稿では,単純斜面モデルを用いたパラメトリックスタディや実際の豪雨時土砂災害を対象とした再現解析を実施し,開発ツールの妥当性および適用性を示す。また,複数の渓谷出口地点において,豪雨時に土砂が到達する危険度を相対的に評価した事例を示す。
記録的大雨に伴う堤防決壊が頻発化する近年,粘り強い堤防が求められている。筆者らは,堤防裏法面に破砕貝殻層を敷設することで,キャピラリーバリア(CB)土層として裏法面への雨水浸透抑制と,越水時の裏法面の侵食抑制が可能な貝殻型 CB 堤防を提案してきた。本研究では貝殻型 CB 堤防の社会実装を目指し,堤防裏法面の CB 機能に関する検証と妥当性確認を目的とする。貝殻型 CB 堤防を屋外に構築し,雨量計と堤防内の土壌水分センサによる雨水浸透の計測を約 1 年3 か月継続した。その結果,CB 土層の雨水浸透抑制機能に加え,ブレークスルー後でも浸透水の多くが高透水性の破砕貝殻層を伝って法尻方向に排水されていく排水機能も併せ持つことも確認された。また,ブレークスルーが生じてもしばらくすると回復したことが繰り返し確認され,CB 機能等が供用中の長期間に渡り継続していくことが検証できた。
近年,土砂災害が頻発・大規模化し,危険な土地の住民への土砂災害にかかわる社会システムや防災・減災技術の適応性が課題となっている。本論文では,社会システムの 1 つである土砂災害にかかわる法令・訴訟事例などから見た住民避難と安全な土地利用・土地管理のあり方についてまとめた。住民避難は,自助・共助・公助が重要であるが,住民が避難できた事例と被災した事例を比較すると,自助の重要性が高い。土地の危険性は,地盤技術者の支援による土地所有者・土地管理者・土地開発者・不動産仲介者・行政関係者間での合意形成で解決される事例が多い。頻発する土砂災害の予防として法令の制定や改正そして契約が効果を発揮する。事後処理として訴訟・保険・保障・助成制度が被災者を助けている。著者は,減災技術として土砂災害防止法に基づく土砂災害ハザードマップ以外の危険な土地の評価手法を論述する。
昨今の異常降雨の際に,切土法面の風化した表層土が流出する事象がしばしば発生している。高速道路本線への土砂流出による被害を未然に防止するには,風化による法面の不安定化を予測し,降雨等の外的要因に対する耐久性を向上する必要がある。高速道路では,切土法面完成後の 40〜50 年にわたり全国 10 路線,96 箇所の切土法面において弾性波探査等による風化の追跡調査を実施している。本検討では,この追跡調査データをもとに,弾性波探査による切土法面の風化評価手法について検証を行った。その結果,本手法は風化帯の層厚や安定性を概略的に評価でき,管理優先度を判断する指標になり得ることを示した。
土構造物や自然地盤の高動水勾配下での水の流れによる浸透破壊は,深刻な地盤災害へと繋がり得る力学現象である。本研究では飽和地盤を対象として,その浸透破壊現象を解析するための数値解析手法を提案した。Material Point Method(MPM)で飽和多孔質体としての地盤の大変形を,Darcy-Brinkman 式を支配方程式とし,移流項に有理関数 CIP(Constrained Interpolation Profile)法を採用した有限差分法(Finite Difference Method:FDM)で水の非圧縮性流れと浸透流を解析し,両者の相互作用を考慮する連成手法を開発した。一次元の浸透問題とボイリング問題を通じて,開発手法の妥当性を確認した上で,飽和地盤に根入れされた矢板の周りのボイリング解析を行い,浸透破壊現象への適用性を検討した。
微地形表現図を航空レーザ(LP)測量データより作成する方法のひとつとして,ウェーブレット解析図がある。本検討では,落石発生源となる地物(露岩・転石・小崖)の抽出を目的とし,ウェーブレット解析条件であるスケールファクター(s)の設定と,ウェーブレット係数の可視化方法について検討を行った。検討には航測 LP データより作成したグリッドサイズ 0.5m のグリッドデータと踏査結果を用いた。地物の比高差1.0m~3.0m と正のウェーブレット係数には相関関係があることがわかった。この結果と模擬地形に対する検討結果を用いて,ウェーブレット係数の可視化方法を提案した。s =1.0 とs =0.5 とした検討を行い,落石発生源となる地物の抽出にs =0.5 が有用であることを示した。
近年の極端な降雨事象の増加により頻発化している洗掘災害に対して,橋脚基礎の安定性評価指標の一つである固有振動数を増水中に連続的に捉え,洗掘の進行過程を評価することが重要である。そこで,本稿では,洗掘の進行過程を模擬した大型模型試験から,連続的な固有振動数の変化を把握できる常時微動による推定手法を用い,洗掘程度と固有振動数との関係を整理した。側面洗掘を模擬した場合,洗掘の進行に伴い,固有振動数は線形的な低下傾向を示した。一方で,底面洗掘を模擬した場合,底面掘削率(流下方向橋脚幅に対する洗掘量の割合)が 20%~25%を超えて以降,洗掘発生側への橋脚の変位・傾斜の増大に合わせて固有振動数も連続的に大きく低下していく挙動を示した。また,減水期の埋め戻しによる根入れの回復過程を模擬した場合,固有振動数は回復傾向を示すが,掘削前の約 7 割の値に留まった。
本研究は,秋田県雄物川中流域の強首,九升田,刈和野,大曲の 4 地区において過去の洪水災害履歴を解き明かし,今後発生し得る大規模災害の予測に役立てることを最終的な目的としている。近世の古文書や地域に残存する災害史および生活史の調査結果から調査フィールドを選定し,ハンディジオスライサーを用いた地層調査を行った。採取したコアや炭化物に対して,粒度試験,含水比試験,顕微鏡観察および放射性炭素年代測定を実施した。その結果,各地区において過去に発生した洪水痕跡の特徴を有する層を複数確認することができた。
鉄道盛土の被災時に行われる応急復旧は,崩壊した盛土の性能を十分に考慮しておらず,応急復旧の要否や復旧仕様決定の判断には検討の余地が残されている。本研究では,崩壊した盛土の性能を実証的に評価することを目的に,実物大の盛土模型を対象とした降雨実験により盛土の崩壊を再現し,各崩壊段階において載荷実験を実施した。実験結果より,盛土の崩壊が一定の範囲に限定された場合,列車相当の荷重載荷に対して崩壊が進行しないことが確認された。また,飽和-不飽和浸透流解析により盛土内水位と飽和度を評価し,安定解析モデルに考慮することで,のり面中腹付近までの崩壊規模であれば,崩壊挙動を概ね再現可能であることが示唆された。
福井市高須町では,独自に設置した気象観測装置により現地局所雨量の計測を継続的に実施し,土砂災害発生危険度の分析を行ってきた。その結果,これまでに土砂災害の発生危険度が著しく高まったのは,「平成 30 年(2018 年)7 月豪雨(西日本豪雨)」,「令和 3 年(2021 年)7 月 29 日の大雨」,「令和 4 年(2022年)8 月4 日から5 日の大雨」の 3 回のみであった。本稿では,現地局所雨量データをもとにスネーク曲線を描画することで,集中豪雨と局所的大雨時の土砂災害発生の危険度について分析を行った。また,防災気象情報や避難に関する情報とあわせて,現地局所雨量に基づく土砂災害発生危険度の分析結果などを活用し,住民が自ら避難を開始する基準である「避難スイッチ」や住民一人ひとりの防災行動計画である「マイ・タイムライン」を駆動し,早期警戒・避難行動を起こすための方法について合わせて検討した。
近年の日本では,ICT 技術を用いた計測機器や監視システムが開発され,斜面モニタリングに活用されている。しかし,斜面崩壊時に斜面動態データは計測できるものの,計測値がどのような値を示した時に異常とするかについては検討段階にある。そこで,本研究では遠心場斜面崩壊実験により計測された斜面表層ひずみ時系列データを用いて,線形回帰モデルによりデータを予測し,予測値と計測値の残差から斜面の異常を検知する手法について検証した。その結果,設置した表層ひずみ計から斜面崩壊前に異常が検知できることが確認された。また,計算コストを抑えることを目的としたデータを間引く手法や定常化データである表層ひずみ速度に変換する手法を用いた場合においても,斜面崩壊前の異常検知が可能であることがわかった。
2016 年 4 月に発生した熊本地震により,熊本城では石垣に甚大な被害が生じた。石垣被災箇所の多くが過去の石垣修復箇所と重なっており,熊本城における石垣被災箇所は表層地盤構造と密接な関係があると考えられる。文化財保護の観点からボーリング調査等は熊本城修復工事に必要な箇所に限定されており,熊本城跡地内の地盤構造は部分的にしか明らかになっていない。本研究では,ボーリングデータの不足する地点において常時微動探査を実施し,新たに得られる地層区分でボーリングデータ間を補完することで,熊本城跡全域における旧地形等の立体表示の可能な三次元地盤図を作成した。その結果,阿蘇火砕流堆積物層や盛土の厚さ,地表面から硬質な安山岩層までの深さの程度が石垣の地震被害の有無に影響している可能性が示唆された。
泥岩,頁岩等の泥質岩は,スレーキング現象に象徴されるように経年的に劣化しやすく,切土のり面の施工あるいは維持管理上問題になりやすい。このため,泥質岩の劣化の進行について事前に適切に予測・評価し対策工を講じることは,切土のり面の長期的安定性を確保するうえで重要な課題となっている。本研究では,経年劣化が切土のり面建設上の問題となっている泥質岩を対象として,原位置調査,室内試験及び X 線回折分析を行い,泥質岩の物理的・化学的特性を把握し,特性値相互の関係,及び劣化抵抗度との関係を整理した。その結果,「土粒子の密度 ρs-有効間隙率」,「自然含水比 wn-吸水率 Q」,「風化度 wd-自然含水比 wn」,「自然含水比 wn-有効間隙率」,「自然含水比 wn-一軸圧縮強さ qu」,「吸水率 Q-一軸圧縮強さ qu」等の相関において,劣化抵抗度が低い領域が示唆されている。
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら