地盤工学ジャーナル
Online ISSN : 1880-6341
ISSN-L : 1880-6341
17 巻, 2 号
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論文
  • 久保田 恭行, 森 守正, 安田 亨, 小山 倫史, 西山 哲
    2022 年 17 巻 2 号 p. 135-145
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/06/01
    ジャーナル フリー

    トンネル工事での地下水問題に対応するため,迅速かつ正確な湧水量の予測手法が求められる。このため,岩盤工学的な物性がほぼ一様であり湧水量の変動の小さい地山を対象に,坑口湧水量を予測し,施工に反映する湧水量の予測手法が開発されたが,予測値が観測値より大きくなり,濁水処理設備の規模等に関して過剰設計が指摘されている。原因の一つとして,実現象で発生する湧水の鉛直浸透の影響と切羽前方の地下水位が低下する影響を考慮していないことが考えられる。そこで,本研究では開発された湧水量の予測手法を基に,それらの影響を新たに考慮できるよう物理モデルを拡張した湧水量の予測手法を提案し,岩盤工学的な物性がほぼ一様であり湧水量の変動の小さい既施工トンネルのデータを用いて検証を行った。その結果,精度良く湧水量を予測でき,施工に効率的に反映できる可能性を示した。

  • 﨑田 晃基, 菊地 輝行, 西山 哲
    2022 年 17 巻 2 号 p. 147-157
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/06/01
    ジャーナル フリー

    落石調査の効率化を目的に,地形量図と機械学習による落石発生源箇所の検出手法について検討をおこなった.現在,点検個所の見落としによる落石被害が報告されており,道路防災点検を確実に実施するための手法が必要となっている.これに対して,航空レーザ測量の活用が注目されている.中でも,計測データから作成する地形量図を活用することで効果的な点検が期待できる.本研究では機械学習を応用した物体検出を地形量図へ適用し,落石発生源の机上検出を行うシステムを提案する.地形量図の 1 種であるウェーブレット解析図をベースに,サポートベクトルマシンによる物体検出を適用した結果,既存の点検個所すべてを検出することに成功し,道路防災点検の効率化に向けたツールとして有効であることが示された.

  • 藤田 真粹, ドロハン ニロ レムエル, 森口 周二, 寺田 賢二郎, 京谷 孝史
    2022 年 17 巻 2 号 p. 159-169
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/06/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,三次元極限平衡法の一つである Hovland 法を用いて実際の広域地形を対象とした安定解析を実施した結果を報告する。Hovland 法は,すべり土塊を分割する分割柱間の相互作用を無視する簡便法であり,他の手法に比べて計算コストが低いために広域での斜面安定解析に対して適用しやすいことが知られている。広域を対象としたこの斜面安定解析手法の特性を確認するため,実際に豪雨や地震によって多数の斜面崩壊が発生した事例を対象として斜面安定解析を実施した。また,ROC 曲線を用いて実際の崩壊分布に対する整合性を定量的に分析した結果,本解析条件下での Hovland 法は,実際の被害を過大評価することを確認した。また,地震と豪雨の複合外力条件下における解析結果を例示し,本解析手法の適用性について考察した。

  • 赤司 有三, 山越 陽介, 勝見 武
    2022 年 17 巻 2 号 p. 171-180
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/06/01
    ジャーナル フリー

    港湾工事で発生する浚渫土砂の有効利用技術であるカルシア改質土について,工事における強度管理を目的とした品質管理として,浚渫土砂から溶出するシリカ成分とカルシア改質材から溶出するカルシウム成分の定量試験法を提案した。カルシア改質材から溶出するカルシウム量の測定法として,環境庁告示第 46号で定められている溶出試験方法を改良し,溶媒を人工海水に,試料を有姿の粒度分布に,振とう時間を30 分間へ変更する方法を提案した。浚渫土砂から溶出するシリカ量の測定法は,試料を水中で 7 分程度撹拌して検液を作製する方法を提案した。これらの溶出結果と,6 種類のカルシア改質材と 15 種類の浚渫土砂の一軸圧縮強さを比較分析した結果,提案した方法で得られた溶出値によって強度発現を予測することができ,実工事における強度管理の 1 次判断指標として適用しうることを示した。

  • 小河 篤史, 高井 敦史, 肴倉 宏史, 目黒 緑, 勝見 武
    2022 年 17 巻 2 号 p. 181-194
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/06/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,今後の地中熱利用促進等に起因する地盤温度の変化が土中からの重金属類の溶出特性に与える影響を確認するため,実際の自然由来重金属含有粘土を用いて 10,20,35,50°C の 4 条件で拡散溶出試験を行った結果,実験温度が高く,乾燥密度が低いほど拡散溶出が促進され,前者の影響が支配的であることを確認した。また,全含有量および初期間隙水濃度をそれぞれ用いて算出した拡散係数を比較し,後者のほうが温度の影響をより忠実に反映することができることを示唆した。さらに,溶出フラックスの温度依存性に及ぼす要因として間隙水の粘性が関与している可能性を示唆した。本研究により,地中熱利用技術の導入には温度の影響を考慮した安全性評価を実施し,許容し得る温度変化を明確にすることの重要性が示された。

  • 西方 美羽, 保高 徹生, 森本 和也, 井本 由香利
    2022 年 17 巻 2 号 p. 195-204
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/06/01
    ジャーナル フリー

    吸着層工法で用いられる吸着材は,浸透水による長期的な水接触の中,数十年以上にわたる吸着性能の維持が求められる。本研究では吸着材が水と接触した際の吸着性能および吸着材の変化を評価することを目的として,主成分の異なる 4 種類の吸着材に対して,吸着材を所定期間水に浸漬させる浸水前処理の後,繰り返しの吸着試験であるシリアルバッチ式フッ素吸着試験を行い,吸着率および結晶相の変化を確認した。その結果,2 種類の材料において結晶相とフッ素の吸着率が変化しており,水接触による固相の変化が吸着性能に影響を与え,本試験が材料と水接触の影響を評価する際の一助となることが示唆された。

報告
  • 中島 康介, 八嶋 厚, 村田 芳信, 苅谷 敬三, 岡田 和弘, 笹本 直之, 関口 将司
    2022 年 17 巻 2 号 p. 205-216
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/06/01
    ジャーナル フリー

    高速道路盛土は盛土材料,支持地盤,施工方法等の要因が複合して形成される個々の異なる特性(本論文では「個性」と呼ぶこととする)を有している。そしてそれらの個性により,供用開始の段階における盛土の初期状態と,供用後の経年変化にも違いが生じると考えられ,維持管理を行ううえで,とりわけ初期状態の把握は重要である。本研究では高速道路の初期状態を線的・面的に把握する手法として2次元表面波探査もしくは電気探査による計測を行った。その結果,盛土の剛性と深く関係する S 波速度の初期分布を把握することができた。これにより,盛土材料による違いや,転圧が困難な箇所での局所的な違いが確認された。また,開発した台車およびFWD 試験車を起震源として利用することで,探査速度を著しく向上することができ,開通前のごく短期間での計測が可能となった。

  • -斜面規模と計測精度の関係-
    笹原 克夫, 佐藤 渉, 渡邉 聡, 岩田 直樹, 土佐 信一, 小泉 圭吾
    2022 年 17 巻 2 号 p. 217-225
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/06/01
    ジャーナル フリー

    斜面の変位の計測に必要な精度は斜面の規模により異なる。これが不明であると計測機器の選択ができない。これを解決するために,本稿では斜面の規模と変位の計測精度の関係を明らかにした。模型斜面や実斜面での変位計測事例を用いて,崩壊までの変位で正規化した変位計測間隔と,各々の計測間隔のデータと実測データの偏差の関係,そして崩壊までの時間で正規化した計測時間間隔と,各々の時間間隔のデータと実測データの偏差の関係を求めた。すると正規化した変位計測間隔と計測時間間隔が0.05 以下であることが精度の高い計測に必要なことが判明した。この関係に,斜面の規模と崩壊までの変位の間に線形関係の仮定を加え,表層崩壊の発生する長さ50m 程度以下の斜面の変位の計測に必要な,変位計測間隔と計測時間間隔の目安を提案した。

  • 門田 浩一, 佐藤 成, 東郷 智, 金子 俊一朗, 本橋 あずさ
    2022 年 17 巻 2 号 p. 227-245
    発行日: 2022/06/01
    公開日: 2022/06/01
    ジャーナル フリー

    盛土造成地の滑動崩落に関する安定解析は,法令で規定されており,国の技術指針では,二次元分割法が用いられている。一方,滑動崩落の被害形態は,すべり崩壊だけでなく,残留変形現象の地すべり的変形もあるため,予測される被害形態の発生要因等に応じた適切なモデル化が安定解析の課題となっている。本稿では,地すべり的変形の発生を精度良く予測するため,その発生要因を考慮した実用的な安定解析モデルの構築方法について検討した。地すべり的変形が発生した仙台市内の盛土造成地において,土質特性・地下水特性の評価及び発生要因の分析を行い,影響が大きい要因を適切に反映できる盛土のモデル断面の設定方法を示した。さらに,動的有効応力 FEM 及び円弧すべり法による再現解析より得られた応答加速度,安全率などを踏まえて,安定解析における妥当な過剰間隙水圧及び強度定数の考え方について示した。

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