日本森林学会誌
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90 巻, 3 号
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論文
  • 澤田 晴雄, 梶 幹男, 大村 和也, 五十嵐 勇治
    2008 年 90 巻 3 号 p. 129-136
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    ブナとイヌブナについて豊凶現象,落葉量,BA成長量を12年間にわたり調査し,豊凶現象が樹体の成長にどのような影響を与えるのかについて明らかにした。豊凶現象と落葉量の関連については,両樹種とも堅果と殻斗の落下量が多い年ほど落葉量が少ない傾向がみられ,豊作・並作年には凶作・不作年に比べて葉の生産量が減少していると考えられた。また,豊作年にBA成長量が減少する傾向が認められ,その傾向は豊作から数年間みられた。以上の結果から,ブナとイヌブナは開花・結実のために大量の貯蔵物質と光合成生産物を生殖器官に分配し,それによって消費した資源を回復するために少なくとも数年間を要することが示唆された。
  • 安久津 久, 来田 和人, 内山 和子, 黒丸 亮
    2008 年 90 巻 3 号 p. 137-144
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    トドマツの材質改良のため,異なる環境における年輪構造と遺伝的変異をX線デンシトメトリ法で検討した。供試木は美唄と厚岸の精英樹準次代検定林より採取した林齢32∼40年生のトドマツ精英樹家系で,美唄で74家系444個体,厚岸で24家系96個体であった。解析の項目は年輪幅(RW), 早材幅(EW),晩材幅(LW),年輪密支場度(RD),早材密度(ED),晩材密度(LD)の6形質であった。夏季の低温と日照時間の不足の影響で厚岸のLDとLWの値は美唄よりも小さかった。狭義の遺伝率は美唄では幅が0.17∼0.27で,密度が0.26∼0.34,厚岸では幅が0.47∼0.79で密度が0.26∼0.66であった。厚岸の晩材幅と晩材密度の狭義の遺伝率は他の形質と異なった結果となり,夏期の天候が影響していると考えられた。検定林で共通の23家系を用いた解析で地域内家系と検定林間の交互作用はLWとRDとEDとLDで認められ,成長や気象害・病害抵抗性と同様に,材密度においてもトドマツの需給区分の必要性が確認された。
  • —アカシデおよびイヌシデとの比較—
    井藤 宏香, 竹内 朱美, 伊藤 哲, 中尾 登志雄
    2008 年 90 巻 3 号 p. 145-150
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    九州の冷温帯落葉広葉樹林の渓畔域において,異なる土性(砂質土壌および礫質土壌)に生育する渓畔種サワグルミの当年生実生の根系の形態を調査し,同じ環境に生育するアカシデおよびイヌシデと比較することにより,1)渓畔林構成種は土壌基質に順応して根系を展開しているか,2)順応の結果は生残率に影響を及ぼすか,を検討した。樹種間および土性間で根系を比較した結果,礫質土壌におけるサワグルミの最長側根長,最長根長(根系基部から根の先端までの最長距離)および最長側根長/主根長は最も高い値を示した。このことから,サワグルミは礫質土壌において側根を最も長く伸ばせるという特徴があり,アカシデおよびイヌシデに比べて礫質土壌に順応する能力が高いと考えられた。また,サワグルミの生残率は礫質土壌において高かったことから,サワグルミの礫質土壌に対する根系の順応が渓畔域での当年生実生の定着・生残に影響していることが示唆され,根系の順応はサワグルミの重要な特徴のひとつであろうと推察された。
  • 河合 洋人, 西條 好廸, 秋山 侃, 張 福平
    2008 年 90 巻 3 号 p. 151-157
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    竹林の拡大機構を解明するため,岐阜県西部においてモウソウチク地下茎を100 m2方形枠で掘り取り,採取した試料から成長様式と年間伸長量,発生後年数を推定した。その結果,節間長の配列には振幅性があり,極端に節間長が短くなる部分を年次の境界と仮定した場合,その節間の狭窄部は7∼29 mmの範囲にあり,1振幅における最長節間長の40%以下であった。地下茎の分岐点と節間長の狭窄部から採取した50本の試料について1年間の伸長量を推定した結果,0.02∼3.63 m,平均1.27±0.90 mであると推定され,西日本における他の事例よりも小さいことが明らかとなった。採取した地下茎が方形枠に侵入し,その枠外へ伸長していくまでの経過年数は4∼12年と推定され,経過年数と各年における平均年間伸長量,合計伸長量,全分枝数,新規分枝数について解析した結果,新規分枝数が3年に一度大きな値をとることが明らかとなった。以上から,節間長の配列によって年間伸長量の推定が可能であると考えられるが,さらなる検討が必要である。また気候や土壌などの立地環境が地下茎の成長に影響を与えている可能性についても同様である。
  • —植生保護柵設置後7年目の結果から—
    田村 淳
    2008 年 90 巻 3 号 p. 158-165
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    シカの採食圧でスズダケが退行した丹沢山地の冷温帯自然林に植生保護柵を設置して,7年後に柵内外で林床植生の種組成と高木性樹木の稚幼樹を調査し,樹木の更新に及ぼす植生保護柵の効果を検証した。林床植生全体の植被率やスズダケの植被率・桿高,稚幼樹の密度・樹高のいずれも柵内で高かった。種組成は柵内ではスズダケや高木類,低木類を中心に構成されていたのに対し,柵外では一年生草本や小型の多年生草本が多かった。稚幼樹の密度は柵内で高く,その差は6倍以上であった。ほとんどの樹種の樹高は柵内で40∼60 cmの範囲にあり,シナノキやリョウブなど9樹種の一部の個体はスズダケの桿高を上回っていたが,柵外ではほとんどの樹種が10 cm程度であった。これらのことから,植生保護柵は退行したスズダケを回復させるとともに高木性樹木の稚幼樹を定着・成長させる効果をもち,シカの更新阻害地における冷温帯自然林の再生手法として有効であると結論づけた。どの樹種が後継樹になるかを見きわめ,将来的な管理方針を決定するためには,さらに長期の継続調査が必要である。
  • —フィジー国ナンロガ州ロマワイ村の再植林事業事例からの提言—
    福嶋 崇, 中嶋 真美
    2008 年 90 巻 3 号 p. 166-173
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    吸収源CDMは新規植林,再植林を対象としており,大きなインフラをもたない最貧国や小島嶼国などにおいても実施可能な制度として期待されている。本稿では小島嶼国の一つ,フィジー農村部におけるマングローブを対象とした小規模吸収源CDM事業を事例として取り上げ,関係諸アクターの動向の分析を通じ,吸収源CDM事業の特性を総合的に評価し,推進の方向性を検討することを目的とした。この結果,クレジット収入や伝統文化の保全など地域にとってさまざまな利点を有する吸収源CDMは,不確実性の高さ,採算性の低さといった特に事業者側にとっての問題により,現行ルールにおける事業の推進には限界があることがわかった。しかし,フィジーのような小島嶼国は海水面上昇の影響に非常に脆弱であることから,これらの地域における吸収源CDM事業は,衡平性の観点からも緩和策のみならず適応策として可及的速やかに実施,推進される必要がある。将来枠組みにおいてはセクター別CDMを適用し,「開発」などの吸収源CDM固有の利点をより適切に評価し,事業実施のインセンティブの向上により事業の推進を図ることが望まれる。
  • 釜田 淳志, 安藤 正規, 柴田 叡弌
    2008 年 90 巻 3 号 p. 174-181
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    高密度に生息するニホンジカによる樹木剥皮が森林衰退の大きな原因となっている大台ヶ原において,植生の異なる東大台地域と西大台地域における剥皮害の地域的分布の違いおよびその要因を明らかにすることを目的とし,樹木剥皮の程度,ニホンジカによる樹種選択性,シカの選好性が認められた樹木の分布状況およびニホンジカの土地利用頻度に関する調査を行った。その結果,針葉樹ではウラジロモミ,トウヒ,ヒノキ,広葉樹ではヒメシャラ,リョウブ,コバノトネリコがニホンジカによって選択的に剥皮を受けていることが明らかになった。この6種をニホンジカによる選好性樹木と定義し,東大台と西大台間で選好性樹木における剥皮強度を比較した。その結果,西大台よりも東大台で,樹木剥皮が激しいことが明らかになった。また,東西でニホンジカの樹種選択性およびニホンジカの選好性樹木であるウラジロモミ,ヒノキおよびリョウブの分布状況はほぼ同一であった。一方,ニホンジカの生息密度を反映する土地利用頻度は西大台よりも東大台で有意に高かった。以上のことから,ニホンジカの土地利用頻度が高いため,東大台で剥皮害が激しいと考えられた。またその背景には,ニホンジカが主要な餌としているミヤコザサの存在が関係していることが示唆された。
  • 重永 英年, 高橋 正通, 長倉 淳子, 赤間 亮夫
    2008 年 90 巻 3 号 p. 182-189
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    日本に広く植栽されているスギについて,人工林の窒素の栄養状態を全国規模で評価すること,針葉窒素含有量が高いまたは低い地域を見出すこと,針葉窒素含有量と生育地の温度ならびに降水環境,緯度との関係を検討することを目的として,全国の531地点から採取された針葉の窒素含有量を調べた。針葉窒素含有量の平均値は14.0 mg N g-1であり,採取地点の半数で概ね適正と考えられる12.5 mg N g-1から15.5 mg N g-1の範囲にあった。空間クラスターの探索に利用されるGi(d)統計量を用いた解析から,針葉窒素含有量の空間分布には地域スケールでの偏りがあることが明らかとなり,福井県周辺と紀伊半島西部は針葉窒素含有量が高く,東北地方中部は低い地域であることが指摘された。生育地の温度ならびに降水環境,緯度と針葉窒素含有量との関係は明瞭ではなく,これらの因子が野外で観察される針葉窒素含有量の変動に及ぼす影響は小さかった。
短報
  • 高尾 和宏, 大村 寛
    2008 年 90 巻 3 号 p. 190-193
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    刎橋が,江戸時代に静岡県北部,大井川の上流部に存在した。古文書の調査によれば,架橋当初の1607(慶長12)年から1692(元禄5)年まで85年間の橋長は72.8 m(40間)のままであった。ところが1692年に刎橋の10 km上流で推定3,600 haの森林が伐採され始め,1700(元禄13)年までの9年間に皆伐状態にされた。森林の伐採後,1702(元禄15)年に橋長は85.5 m(47間)となり,以後,1729(享保14)年に91.0 m(50間),1815(文政8)年に100.0 m(55間)と,架け替えのたびに長くなっている。架橋場所は橋台を建設する場所の限定から,毎回同じ場所であった。橋長の延長は,大井川の川幅の拡大によるものであろう。すなわち,洪水により流失した刎橋は,拡大した川幅に併せて架け替えされたと推測される。さらに,洪水の原因は,上流部における大規模伐採で森林の保水機能が失われたことによるものと推測される。
  • 本間 莉恵, 小野 弘則, 阿久津 雅子, 堀川 智子, 堀 秀隆, 平 英彰
    2008 年 90 巻 3 号 p. 194-197
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    ジャーナル フリー
    筆者らが新たに食品汚泥から開発したコンポストを,スギの挿し付け床に施肥し,コンポストが挿し木の発根と成長に及ぼす影響を調査した。コンポスト施肥個体では高濃度の施肥(0.9 g N/pot)にも関わらず,施肥による発根傷害は認められなかった。また,無施肥個体では,樹高伸長がほとんど認められなかったのに対し,コンポスト施肥個体では,挿し付け100日後から急速な樹高伸長が始まり,高濃度の施肥では,挿し付け後170日で平均樹高伸長量が9.2±5.0_cmに達した。スギの挿し付け床にコンポストを施肥することによって,挿し木の発根率を損なうことなく,成長を著しく促進できると考えられる。
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