ポリマーの光酸化反応についてはこれまでに多くの研究がなされているが
1)~7), この反応における酸素収支について検討した報告は非常に少ない。我々はアイソタクティックポリプロピレン (PP) 粉末に低圧水銀灯を照射した際の光酸化反応について検討した。PP粉末を水に浮かせ30W低圧水銀灯を照射すると, 低温でも極めて速かに酸化反応が進行することが認められた。
Fig. 1に, 70°C, 中性水およびアルカリ水を用いて光酸化を行ったときの酸素吸収曲線を示したが, この図よりいずれの場合も誘導期もなく速かに酸化が進行していることがわかる。
本反応の特徴は, 反応率によらず吸収酸素の約半分が二酸化炭素生成に関与することである (
Table 1)。二酸化炭素と水は酸素酸化反応における最終生成物であるが, 低温で, しかも反応率が低いところで二酸化炭素が高収率で生成する反応は極めて特異なものである。PPについても, バルクの酸化反応では二酸化炭素の生成は微量で, 主生成物はハイドロパーオキサイド, アルコール, ケトン, アルデヒドである
12)~14)。本反応においても, 二酸化炭素に加えて, 過酸化物, カルボニル化合物の生成も認められ, 又, 微量のメタノール, 酢酸, アセトン, 過酸化水素の生成も確認された。これらの生成物により, 吸収酸素の80~90%が明らかにされた。
酸素圧が低い場合, 水素, メタン, 一酸化炭素が検出されたが, 150torr以上になるとこれらの生成はほとんど認められなくなった (
Fig. 3)。これらの事実は紫外線照射により水素原子, メチルラジカルがPPより生成することを示唆している。
30~70°Cの温度範囲では, 酸化速度, 生成物分布に対する温度の影響は小さかった。また水の存在の有無によっても本質的な差は生じなかった (
Table 1)。PP粉末の大きさについては, 粉末のサイズが小さくなり, 表面積が大きくなるつれて酸化速度は増加したが, 生成物に対する影響はなかった (
Table 2)。
PPのモノマー単位あたりの酸素吸収量が極めて高い反応率に達しても, 酸化反応後PPの多くは回収され, PP中へとり込まれる酸素の量は非常に小さいことが分かった (
Table 3)。
以上述べたように, PP粉末に低圧水銀灯を照射したときの紫外線酸化の特徴は, 酸化速度が非常に速いこと, さらに二酸化炭素が低温にもかかわらず, しかも反応率によらず高収率で生成することである。本反応の機構についても考察した。
抄録全体を表示