石油学会誌
Print ISSN : 0582-4664
29 巻, 5 号
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  • 加部 利明
    1986 年 29 巻 5 号 p. 345-353
    発行日: 1986/09/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    3Hおよび14Cでラベルした溶媒または3Hでラベルした気相水素を用いて太平洋炭の液化を行い, この反応に伴う石炭成分, 気相, 溶媒間の水素原子の移行 (付加および交換) を追跡した。反応は主に400°C, 水素初圧5.9MPaで行い, 石炭の液化または一次液化油の二次水素化反応における生成物分布および生成物中の3Hおよび14C量の分布に対するNi-Mo-Al2O3触媒, 反応時間および溶媒の効果を調べた。溶媒としては水素供与性を持つテトラリン, それ自体では水素供与性はないが反応系内で水素供与性溶媒に変換可能なナフタレンおよび水素供与性の小さいトルエンを用いた。
    その結果, 石炭液化反応では石炭自身が熱分解して溶媒に溶けていく一次液化と触媒上で水素化分解されて軽質留分に変化して行く二次水素化分解に分けて考えられ, これらの反応に対するラジオアイソトープトレーサー法からの知見は以下のようにまとめられた。
    (1) テトラリン溶媒中に少量の14Cでラベルしたナフタレンを加えて行った液化反応の結果から, 溶媒から石炭分解生成物への炭素原子の移行はほとんど起こらないが, 触媒が共存する系では石炭液化で生じるナフタレンの一部がテトラリンに再水素化され, この再水素化の割合はテトラリンヘ移行した14Cの量から追跡できることが示された (Figs. 2, 5)。
    (2) 触媒上での水素化分解は液化生成物中の重質成分 (例えばプレアスファルテンやアスファルテン) が優先し, 重質成分の共存下では軽質成分 (例えばオイルや灯軽油) の水素化分解は抑制される。従って灯軽油等の軽質成分収量を増すためには一次液化油であるSRCをプレアスファルテン, アスファルテン, オイルに分別後, 各成分ごとに水素化分解を行うのがよいことが示された (Fig. 6)。
    (3) 気相水素と溶媒水素の間の交換反応は触媒が共存する反応条件下では石炭が不在であれば速いが, 石炭成分の共存によって強く抑制される。
    (4) 気相水素を3Hでラベルした実験では, 触媒共存下で溶媒中に移行した3Hはナフタレン<テトラリン<トルエンの順に増加し, 石炭成分中に移行した3H量はトルエン中が最大であった (Figs. 7, 9, 10)。
    (5) 水素供与性のないトルエン溶媒中では触媒が共存することにより一次液化も二次水素化も, ともに気相水素から直接水素供与を受けて進行する。これは石炭内部の反応と考えられる一次液化でも触媒の作用により気相水素がスピルオーバーする機構が存在することを示している (Fig. 9)。
    (6) ナフタレン溶媒中では触媒が無いと液化率は低く抑えられるが触媒の共存により気相水素が反応に関与するようになり, このとき気相から溶媒中に移行した3H量が多くなる。これは, ナフタレンを水素化して生じたテトラリンが石炭の液化を促進しているためと考えられる。また, この機構はナフタレン溶媒中の反応では石炭成分中に移行した3H量はトルエン溶媒の場合より低いことからも支持される (Fig. 10)。
    (7) 最後に, 気相-溶媒-石炭成分間の水素移行量を付加反応によるものと交換反応によるものとに分離する計算を行い, 気相水素および溶媒水素の移行量に対する溶媒および触媒の効果を明らかにした (Fig. 8)。
  • 今村 寿一
    1986 年 29 巻 5 号 p. 354-363
    発行日: 1986/09/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    著者らの研究した酸化プロピレン, 過酢酸, および芳香族アルデヒド合成に関する液相自動酸化反応の概要を記すとともに, これらの研究を通して得られた種々の知見についても考察し, これらに基づいて本反応を解説した。
  • 芳香族化合物の過酸化水素による酸素化
    松本 正勝
    1986 年 29 巻 5 号 p. 364-372
    発行日: 1986/09/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    フェノール類およびp-ベンゾキノン類の効率的な合成法の開発を目指して, 芳香族化合物の過酸化水素あるいは酸素による酸化反応について検討した。
    ベンズアルデヒドのフェノール類への変換は合成手法の1つとして大切なもので, 通常, 過酸を用いる Baeyer-Villiger 酸化により達成される。われわれは, この種の反応が, 酸性メタノール中, 過酸化水素 (30-35%) を用いるだけで容易に起こることを見出した。この反応の特徴は, [(i) 過酸酸化では, フェニルエステルおよび/あるいは安息香酸類がえられるのに対し, 本反応系では, フェノールおよび/あるいは, 安息香酸メチルがえられる。(ii) 過酸に対しては不安定な官能基も安定である。(iii) 反応はペルオキシヘミアセタール経由で進行する。] といった点にある。たとえば, 2,3,4-トリメトキシベンズアルデヒドは収率97%で2,3,4-トリメトキシフェノールに酸化される。なお, このフェノールは後述するように補酵素Qの類縁体合成の鍵中間体である2,3-ジメトキシ-p-ベンゾキノンに導かれるものである。
    上記反応系はシクロアルカノンのラクトン類への変換にもある程度, 適用可能である。特に, 1つの発展型であるH2O2/CF3CH2OH系は, シクロブタノンのγ-ラクトンへの酸化に対し極めて有効であることがわかった。
    フェノール, 特に2,3,6-トリメチルフェノールは, RuCl3触媒により, 過酸化水素酸化され, 90%の収率でトリメチル-p-ベンゾキノンを与える。このキノンは, トコフェロール (ビタミンE) の合成中間体として重要なものである。不均一系触媒, Ru(5%)/Cも触媒として有効であって, ギ酸-酢酸中では, 98%収率で, 一方, 酢酸中では76%収率でキノンがえられた。反応は, トリメチルハイドロキノンを経由して進行する。また, トリメチルフェノール以外のアルキルフェノールも, これらの反応系である程度, 相当するp-ベンゾキノンに変換される。ルテニウム触媒, 特にRu/Cを用いた反応の結果は, 不均一系白金族金属触媒が有機化合物の過酸化水素酸化を触媒するはじめての例であろう。
    トリメトキシフェノール類のジメトキシ-p-ベンゾキノン類(補酵素Qおよびその類縁体合成の中間体) への酸化には, 酸素酸化の方が, 過酸化水素酸化より有効であった。酢酸エチル/H2O二層系で, CuCl2触媒を用いて, 上記フェノール類を酸素酸化すると選択的に, 相当するキノンがえられた。
    トリメトキシベンゼン類を酸化して, 直接, p-ベンゾキノンを得る反応についても検討した。過安息香酸類を用いて酸化すると, まずまずの選択率でトリメトキシフェノールがえられ, 硫酸を含む酢酸中でH2O2酸化すると, キノンの他, 酸化的環開裂生成物がえられた。種々の鉄触媒を用いた過酸化水素酸化についても検討した結果, トリメトキシベンゼン類のp-ベンゾキノン類への過酸化水素酸化には, ヘキサシアノ鉄が有効であるこがわかった。
  • 辻 浩, 河上 巧, 栗原 正巳, 上山 宏輝, 滝沢 治夫
    1986 年 29 巻 5 号 p. 373-377
    発行日: 1986/09/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    軽油の低温実用性能と関係の深い析出ワックス分を迅速, 簡便かつ高精度に定量するための自動分析装置を開発した。本装置は試料油を低温恒温槽内のろ過器に導入後, プログラマブルコントローラーにより, 冷却-ろ過-洗浄の操作を自動的に行うことができる。析出ワックス分はフィルター上に捕集したワックスを風乾後秤量して得る。本装置をJIS 2号軽油に適用した場合, -10°Cにおける析出ワックス分の分析精度は変動係数5%以下と良好で, 大気降下速度に近い徐冷条件下 (1°C/hr) での手動法の測定値とよく一致し, 分析所要時間も約100分と短かかった。
  • タイ国マエソ産シェールオイル灯軽油留分の水素化処理
    高橋 至朗, 佐藤 信也, 松村 明光, 榎本 稔, 中村 悦郎
    1986 年 29 巻 5 号 p. 378-383
    発行日: 1986/09/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    タイ国マエソ産オイルシェールから得られたシェールオイルの灯軽油留分をNi-Mo-Al2O3系工業触媒を用いて, 反応温度310-350°C, 水素圧力25-100kg/cm2, LHSV 1hr-1, 水素/油比1,000/1vol/volで水素化処理し, 主として脱窒素精製について検討した。その結果, 反応温度の上昇, 水素圧力の増加に伴い, 脱窒素率およびH/Cは高くなり, 比重および粘度は低くなった。脱窒素率は全ての反応条件においてコンドル産の場合より低かった。本反応における脱窒素反応の見かけの活性化エネルギーは水素圧力に依存し, 25, 50, 100kg/cm2でそれぞれ7.7, 17.4, 26.8kcal/molであり, 水素圧力の対数の増加に比例して大きくなった。
  • 触媒の開発
    俵 欣也, 藤原 寛, 赤穂 満, 松本 孝二, 関谷 正明, 佐藤 幹雄
    1986 年 29 巻 5 号 p. 384-390
    発行日: 1986/09/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    機能性高分子材料の1つとなるp-ビニルフェノールモノマーを, p-エチルフェノールの脱水素反応により合成する触媒の開発を行った。エチルベンゼン脱水素用の代表的な触媒4種を試験したところ, いずれも脱エチル化反応が激しく起こった。Standard 1707触媒中のカリウムは, 高温領域でエチル基の脱離反応を促進することが判明した。MgO•Fe2O3•CuOの3成分からなる改良触媒により, 高い選択率でp-ビニルフェノールが得られることを見出した。p-ビニルフェノールはきわめて熱重合性が高く, 脱水素反応時に特殊な防止対策が必要であった。IR, NMR, MSにより, 得られた反応主生成物の構造確認分析を行った。
  • 触媒寿命と速度論
    俵 欣也, 藤原 寛, 松本 孝二, 関谷 正明, 佐藤 幹雄
    1986 年 29 巻 5 号 p. 391-398
    発行日: 1986/09/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    p-エチルフェノールの脱水素反応用に見出された, MgO•Fe2O3•CuO 3成分系触媒の寿命を調べた。脱水素反応を8時間, 燃焼再生を16時間とする単位を90回繰返す連続反応を行った。数回の繰返しのうちに活性がやや低下するものの, その後は安定に使用できることがわかった。反応速度論的に調べた結果, p-エチルフェノールの脱水素反応は主反応副反応とも, エチルベンゼンの脱水素反応と同様に1次式で表現できることがわかった。また, この3成分にK2Oを添加した Standard 1707触媒では, フェノールとp-クレゾールの副生反応の活性化エネルギーが500°Cから急上昇し, 新しい副生機構の発現が認められた。
  • 山田 幾穂, 森 秀樹, 平岡 節郎, 神田 昌典, 丹羽 博嗣
    1986 年 29 巻 5 号 p. 399-403
    発行日: 1986/09/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    多成分系蒸留の設計型全還流問題に対して, 数値的厳密解法を提出する。解法は仮定された原料供給段上の液組成にもとづく濃縮部, 回収部の逐次段計算, そして各成分の総括物質収支を満足させるための正規化θ法による仮定された液組成の修正ループからなり, 広沸点域混合物, 非理想系混合物を含む種々の分離問題に適用できる。また, 数値計算例により本解法の収束特性および有用性を示す。
  • 加藤 覚, 川崎 順二郎
    1986 年 29 巻 5 号 p. 404-411
    発行日: 1986/09/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    (O/W)/O乳化型液膜を用いる炭化水素混合物の分離法を, 石油精製の中間製品であるナフサ中の環式炭化水素の分離に適用した。iso-オクタンを溶媒としてかくはん槽中で回分抽出実験を行った結果, 主要な芳香族炭化水素に対する収率の最大値は70%であった。また, n-ヘキサンを基準成分とする選択率の最大値として9という高い値が得られた。本分離法と既往の芳香族炭化水素抽出法を比較した結果, 乳化型液膜の方が選択率は大きいことが明らかになった。また, 乳化型液膜は芳香族炭化水素を速やかに透過させることが明らかにされた。
  • 山田 幾穂, 張 秉権, 森 秀樹, 吉田 誠, 平岡 節郎
    1986 年 29 巻 5 号 p. 412-418
    発行日: 1986/09/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    無限段数を指定した多成分系ガス吸収問題に対して操作型解法を提出する。本解法は多成分系蒸留の最小還流問題に対して提出された仮想ピンチ段の概念を適用し, 基本的には, 仮想ピンチ段上の気相または液相組成の正規化θ法による修正ループおよび仮想ピンチ段を去る液流量の修正ループから成る。ここでは, 無限段数をもつガス吸収問題をリッチガスおよびリーンオイル中のそれぞれイナートガス, イナートオイルの存在いかんによって4つのケースに分類し, それぞれに対して本解法は異なるアルゴリズムを与える。また, 数値計算例によって本解法の有用性を示す。
  • 岡林 卓治, 西村 拓朗, 的場 康浩, 山脇 一公, 石井 康敬, 浜中 佐和子, 小川 雅弥
    1986 年 29 巻 5 号 p. 419-425
    発行日: 1986/09/01
    公開日: 2008/10/15
    ジャーナル フリー
    ジシクロペンタジエン (DCP) のヒドロキシおよびアセトキシ誘導体のエポキシ化反応を過酸化水素を酸化剤に用い, 12-モリブドリン酸のトリセチルピリジニウム塩, [C5H5N+(CH2)15CH3]3(PMo12O40)3-を触媒として行った (Table 1)。エポキシ化反応の位置および立体選択性は導入した置換基の立体配置により支配されることがわかった。例えば, 1α位, 8a位および8s位にヒドロキシル基を導入したDCPのエポキシ化反応の選択性は, 基質のヒドロキシル基に配位した peroxo-モリブデン種とオレフィン性π-結合との間に syn 型の遷移状態を考えることによって説明できた (Scheme 1および2)。しかし, 1β位にヒドロキシル基を導入したDCP誘導体, 1β-DCP-OH, を同様な条件のもとで酸化反応を行ったところ, エポキシドは生成せず, 基質の水酸基が脱水素されたエノン5を与えた。これは, エポキシ化に都合のよい syn 型の遷移状態 (Scheme 1-B) が立体反発のためとれず, 立体反発の小さい Scheme 1-Cのような遷移状態を経て反応が進み, 脱水素反応がエポキシ化より優先するものと考えられた。一方, 1α位にアセトキシ基を導入した1α-DCP-OAcのエポキシ化反応を行ったところ, アセトキシ基はヒドロキシル基と異なった効果を示した。すなわち, アセトキシ誘導体のエポキシ化反応においては, アセトキシ基は立体障害として働き, エポキシ化の位置選択性はヒドロキシ誘導体のそれとは逆になり, アセトキシ基から離れた側の二重結合が選択的にエポキシ化されることが明かとなった。以上のことから, 反応性の異なった二種の二重結合をもつDCPへのある種の置換基の導入は位置選択的なエポキシ化反応を行うのに有効な方法であることがわかった。
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