フェノール類および
p-ベンゾキノン類の効率的な合成法の開発を目指して, 芳香族化合物の過酸化水素あるいは酸素による酸化反応について検討した。
ベンズアルデヒドのフェノール類への変換は合成手法の1つとして大切なもので, 通常, 過酸を用いる Baeyer-Villiger 酸化により達成される。われわれは, この種の反応が, 酸性メタノール中, 過酸化水素 (30-35%) を用いるだけで容易に起こることを見出した。この反応の特徴は, [(i) 過酸酸化では, フェニルエステルおよび/あるいは安息香酸類がえられるのに対し, 本反応系では, フェノールおよび/あるいは, 安息香酸メチルがえられる。(ii) 過酸に対しては不安定な官能基も安定である。(iii) 反応はペルオキシヘミアセタール経由で進行する。] といった点にある。たとえば, 2,3,4-トリメトキシベンズアルデヒドは収率97%で2,3,4-トリメトキシフェノールに酸化される。なお, このフェノールは後述するように補酵素Qの類縁体合成の鍵中間体である2,3-ジメトキシ-
p-ベンゾキノンに導かれるものである。
上記反応系はシクロアルカノンのラクトン類への変換にもある程度, 適用可能である。特に, 1つの発展型であるH
2O
2/CF
3CH
2OH系は, シクロブタノンのγ-ラクトンへの酸化に対し極めて有効であることがわかった。
フェノール, 特に2,3,6-トリメチルフェノールは, RuCl
3触媒により, 過酸化水素酸化され, 90%の収率でトリメチル-
p-ベンゾキノンを与える。このキノンは, トコフェロール (ビタミンE) の合成中間体として重要なものである。不均一系触媒, Ru(5%)/Cも触媒として有効であって, ギ酸-酢酸中では, 98%収率で, 一方, 酢酸中では76%収率でキノンがえられた。反応は, トリメチルハイドロキノンを経由して進行する。また, トリメチルフェノール以外のアルキルフェノールも, これらの反応系である程度, 相当する
p-ベンゾキノンに変換される。ルテニウム触媒, 特にRu/Cを用いた反応の結果は, 不均一系白金族金属触媒が有機化合物の過酸化水素酸化を触媒するはじめての例であろう。
トリメトキシフェノール類のジメトキシ-
p-ベンゾキノン類(補酵素Qおよびその類縁体合成の中間体) への酸化には, 酸素酸化の方が, 過酸化水素酸化より有効であった。酢酸エチル/H
2O二層系で, CuCl
2触媒を用いて, 上記フェノール類を酸素酸化すると選択的に, 相当するキノンがえられた。
トリメトキシベンゼン類を酸化して, 直接,
p-ベンゾキノンを得る反応についても検討した。過安息香酸類を用いて酸化すると, まずまずの選択率でトリメトキシフェノールがえられ, 硫酸を含む酢酸中でH
2O
2酸化すると, キノンの他, 酸化的環開裂生成物がえられた。種々の鉄触媒を用いた過酸化水素酸化についても検討した結果, トリメトキシベンゼン類の
p-ベンゾキノン類への過酸化水素酸化には, ヘキサシアノ鉄が有効であるこがわかった。
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