近年, シクロヘキセンの合成方法として, Pt, Pd系触媒を用いたベンゼンの部分水素化反応が研究1)~5)されているが, 転化率は低くまたシクロヘキサンの副生も多く満足な結果が得られていない。さらに, 反応生成物中には未反応ベンゼンも含まれるので, これら成分を単離することは沸点が互いに近似しているため非常に困難である。著者らはこれまでにNi-SiO
2-Al
2O
3触媒を用いたハイドロアルキレーション (水素化二量化反応とも呼ばれている) によるシクロヘキシルベンゼン (CHB)およびシクロヘキシルアレン類の合成8)(Eq. (1)) およびこれら化合物のCr
2O
3/Al
2O
3触媒による脱水素反応9)について検討してきた。シクロヘキシルアレンはその構造により脱水素反応が選択的に起こるものと分解反応が主として起こるもの, また両反応が併発して起こるものに大別され, 分解生成物として主にメチルシクロペンテンが得られることを見い出した。
本報はシクロヘキセンを選択的に合成する新しい方法としてシクロヘキシルアレン類の接触分解反応について検討したものである (Eq. (2))。反応は固定床気相流通系反応装置を用い常圧下で行った。各種触媒について検討したところ, シリカ-アルミナは分解活性が非常に大きい反面, 主反応生成物はメチルシクロペンテンでありシクロヘキセンの生成はごくわずかであった (
Fig. 1)。シリカ-アルミナにモリブデナを担持した場合, 担持量の増大とともに分解活性, 異性化活性は低下しシクロヘキセンの選択率は向上したがモリブデナ担持量約30wt%で最大となった。一方, 脱水素生成物はモリブデナ担持量の増大とともに増大し25wt%以上担持した場合には主生成物となった (
Fig. 1)。シクロヘキセンのこれら触媒による挙動を調べたところ
Fig. 3に示したようにシリカ-アルミナ上では約80%が異性化されメチルシクロペンテンになること, およびモリブデナ担持量の増加とともに異性化活性は低下することがわかった。また, モリブデナ担持量を30wt%に固定しシリカ-アルミナ組成の反応に及ぼす影響をリアクタントとしてCHBを用いて調べたところ
Fig. 2に示したようにアルミナ含有量が増大するにつれて転化率は若干向上し, 26wt%以上では低下した。シクロヘキセン, メチルシクロペンテンの選択率の変化も転化率と同様の傾向を示し, シリカ-アルミナの酸性度分布と対応していることが示唆された。一方, 脱水素生成物はアルミナ含有量にかかわらず主生成物であったが26wt%で最低となった。
これらの実験結果から, 触媒の強酸点が分解と異性化の主たる活性種であることおよびモリブデナの含浸法による担持によりシリカ-アルミナ上の強酸点がモリブデナで覆われるために分解, 異性化活性が低下する反面, モリブデナによる脱水素反応が促進されることがわかった。リアクタントについてみると
Table 2に示したようにアリール基の塩基性が強い程, 分解されやすくかつシクロヘキセンの選択率が向上することがわかった。これらのことから, シクロヘキセンを選択的に合成するためには触媒としては異性化活性の少ない弱酸性の触媒が有利であり, リアクタントとしてはアリール基の塩基性の強いものを用いることが好ましいことが示唆された。
2,4,6-トリメチル-1-シクロヘキシルベンゼン (2,4,6-TMCHB)をリアクタントとし, シリカ, γ-アルミナ, γ-アルミナにアルカリ金属塩を担持した触媒についてさらに検討したところ, 0.8wt%程度NaOHまたはCsNO
3をγ-アルミナに担持した触媒が好ましいことがわかった (
Fig. 4)。0.87wt%NaOH-Al
2O
3触媒を用い, 2,4,6-TMCHBをリアクタントとした場合の最適反応条件は, 反応温度400°C, 接触時間(W/F) 10g-cat•hr/molであり, この条件下における転化率およびシクロヘキセンの選択率はそれぞれ91%, 95%であった。
動力学データは, 律速段階が吸着リアクタントと活性点との表面分解過程であるとした場合に最もよい適合を示した。また活性化エネルギーは12kcal/molであることがわかった。
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