著者らは木質系バイオマスの直接液化に関する一連の研究を行っているが, これまでに水素や一酸化炭素などの還元性ガスを用いることなく, 木粉を触媒存在下, 水溶液中高温 (~300°C), 高圧 (~100気圧) で反応させるとアセトン可溶の重油状の液化油が得られること (Ref. 12~16), またこの反応系にアセトンやC
3, C
4の低級アルコール等を添加すると流動性に富む液化油が得られること (Ref. 17) を報告した。前回, 添加溶媒として2-プロパノールを用いて実験を行ったところ, この液化反応が2-プロパノールを水素供与体とする水素化反応でない可能性が示唆された (Ref. 18)。そこで今回, 添加有機溶媒として水素供与性の異なるブタノールの異性体4種 (1-, 2-,
i-,
t-ブタノール) を用いて液化を試み, 反応に及ぼす影響とその役割を検討した。
原料として用いたコナラ木粉の組成, 元素分析値を
Table 1に示す。触媒には炭酸ナトリウムを5wt% (対木粉重量) 用いた。実験は前報 (Ref. 18) で述べたのと同じ手法で行った。反応後, 反応溶液から液化油を抽出, 分離する操作は
Fig. 1に示されている手順にしたがって行った。液化油の収率はジクロルメタン可溶分として定義し, Eq. (1) より求めた。
収率[%]=生成油の重量/料原木粉の重量×100 (1)
水/ブタノール=1:1の条件下での液化の結果を
Table 2に示す。Run 1~8は木粉の存在しない水/ブタノール混合溶媒のみを反応させたブランク•テストである。1-ブタノールが反応を通じて安定であるのに対し,
t-ブタノールは不安定であった。特に触媒が存在しない場合では,
t-ブタノールの20%が脱水反応により分解してブテンになってしまい, 反応後のブタノール存在比は0.3であった。ちなみに本論文中に度々述べられるブタノール存在比とは,
Table 2中*1)で示した [BuOH("Final"/"Initial")] (後以略してブタノールF/I比) を指し, 反応に用いたブタノール量に対する反応終了後の反応混合溶液中に存在するブタノールの量の比で, ブタノール回収の目安となるものである。
Run 9~16は木材の液化の結果である。触媒存在下では液化油の収率は45~55%で, ブタノールの種類にかかわりなくほぼ一定していた。それに対しブタノールF/I比は1-ブタノールで1.0 (Run 9) と反応前のほぼ全量が残存しているのに対し,
t-ブタノールでは0.03 (Run 16) とほとんど残存しておらず, ブタノール種により大きく変化した。2-ブタノールは, ブタノール異性体4種のうち水素供与体として最も有効であると考えられたが, 2-ブタノールを用いた場合の液化油の収率は45% (Run 11) で, t-ブタノールを用いた場合の液化油の収率とほぼ同じであった。これらの結果や反応のマス•バランスの検討から, ブタノール異性体4種につき, 水素供与性の違いは液化油の収率にほとんど影響を及ぼさず, 液化反応がブタノールを水素供与体とする水素化反応によるものではないことが判明した。
触媒 (Na
2CO
3) の効果は顕著であるが, セルロースやヘミセルロース等の高分子の加水分解触媒として, また反応中に木材より生じてくる酸 (酢酸など) を中和し, ブタノールの酸触媒分解反応を阻止する塩基中和剤として作用していると考えられる。
液化反応は, 木材中のセルロースやヘミセルロース高分子が水溶液中で加水分解され, ついで脱酸素反応や種々の分解反応により低分子化しながら進行する。この反応の途中に生じるフラグメント中間体は不安定で, フラグメント同士で再結合して重合体を作りやすい。ブタノールが存在する場合, 反応中に生成されるフラグメントは生じるそばからブタノール層に移動し, ブタノールがこの不安定なフラグメントをかこむことにより, フラグメント同士の再重合などの二次反応を阻止すると考えられる。すなわち, 添加ブタノールは抽出溶媒として作用し, 不安定なフラグメント中間体に対し希釈剤, 安定化剤として機能する。
以上, 水/ブタノール (1:1) 溶媒中で木材の液化反応を行い, ブタノール異性体4種につき各々その液化に及ぼす効果を検討したところ, ブタノール種によりブタノールF/I比は大きく変動するにもかかわらず, 液化油の収率は45~55%で大きな差はみられなかった。ブタノールは水素供与体として作用しているのではなく, 不安定なフラグメント中間体の抽出剤, 安定化剤として作用していると考えられる。
本液化反応において, 添加ブタノールが消費されないことが判明したが, これにより添加有機溶媒をリサイクルして液化反応を行う展望が大きく開けたと考えられる。
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