還流比無限大 (
R=
L0/
D→∞) における不均一系共沸蒸留操作を全還流問題 (
D=0) と無限還流問題 (
L0→∞) に分けて考察する。これまでに報告されている共沸蒸留の無限還流比問題に対する議論は Cairns1) による均一系に対する全還流問題の解法に関するもののみであった。
不均一系共沸蒸留の全還流問題に対して, 次のような解法を提出した。仮定されたリボイラー液組成から始め, デカンターに向けて, 筆者らが先に提出した不均一系気液平衡計算法7)とx
Mji=y
j+1,iの関係を用いて, 逐次段計算を行い各段の気液組成と温度を求める。得られた塔内組成分布からコンデンサー/デカンター, リボイラー, および塔内各段のホールドアップが初期投入原料との物質収支を満足するように, 正規化θ収束法を用いてリボイラーの液相組成を修正する。
この解法を用いて, エタノール/ベンゼン/水系において, 同一のエタノール-水原料に対してベンゼンの投入量による初期投入原料組成を変化して全還流蒸留計算を行った。全還流蒸留曲線は二種類 (Type I and Type II) があることが分かった(
Figs. 1a, 1b)。一つはエタノール-ベンゼン共沸物と三成分共沸物の間にある蒸留境界線とエタノール-ベンゼン軸に沿って, 三成分共沸物の近くからエタノール頂点へ向かう。このとき, リボイラーのベンゼン濃度は水の濃度より高い。もう一つは三成分共沸物近くからエタノール-水軸に突き当たり, そしてエタノール-水軸に沿ってエタノール頂点へ向かう。
Fig. 1bで示したように全還流蒸留曲線の種類が変わる点で, 一番高い純度のエタノールを得ることが分かった。これによって共沸蒸留のスタートアップ時の共沸剤の必要量を決めることができる。原料中の水の組成の変化と各部へのホールドアップの分配比が共沸剤の必要量へどのように影響するかを検討した(
Figs. 2, 3)。
各段の計算方法は上述全還流問題と同じで, 塔への流入量と流出量の物質収支を収束判定条件とする無限還流問題の解法を提出した。
この無限還流問題の解法を用いて二塔共沸蒸留プロセスを解析した結果, 共沸蒸留プロセスにおいて, 共沸剤の補給量の有効操作範囲が存在することが分かった (
Fig. 5)。無限還流蒸留計算より共沸塔の最小理論段数を決定することもできる。(
Fig. 6)。
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