著者ら4)はポリマー中からの不純物の除去操作への超臨界流体抽出法の適用性の検討および除去機構の解明を目的として, ポリ酢酸ビニル (PVAc) およびポリスチレン (PS) 中からのベンゼンの超臨界二酸化炭素 (SC-CO
2) による除去実験を行ってきた。今回は実験装置に紫外分光光度計を取り付けて気相組成を連続的に分析し全除去量から脱圧時に除去される量を分離して求めることができるように装置を改造した上で, 温度313K, 圧力7.95MPaにおいてSC-CO
2によるPVAcおよびPS中のベンゼンの除去実験を行った。さらに前報4)で報告した物質移動モデルを用いて, 実験値の理論的な整理を行った。
実験装置の概略図を
Fig. 1に示す。抽出セル出口側流路に取り付けた紫外分光光度計によって, 抽出されるベンゼンの定量分析を操作圧力下で行い, ポリマー中のベンゼン濃度の経時変化を測定した。実験終了後に抽出セル内を大気圧まで脱圧した後, ポリマー試料をガスクロマトグラフを用いて分析し, 抽出後のポリマー中に含まれるベンゼンの濃度を決定した。
Fig. 2は本実験で用いた抽出セルの概略図である。
Fig. 3に抽出実験の一例として試料厚さ1.25mmのPVAc試料からベンゼンを抽出した結果を示す。本研究の実験法に基づくベンゼンの除去量は, SC-CO
2との接触時に試料の内部から拡散してCO
2相中に抽出されるものと, 脱圧時にCO
2に同伴されて除去されるものの二つに分けることができる。ここではこれらを抽出除去および脱圧除去と呼ぶことにする。
Fig. 4はPVAc中からのベンゼンの抽出実験を膜厚2.3mmの比較的厚い試料について, 抽出時間を変えて行った結果である。時間の経過と共に抽出除去量は, 次第に頭打ちになっているのに対して, 脱圧除去量は明らかに増加している。これはSC-CO
2との接触時間が長いほど, PVAc中へのCO
2の溶解量が増すため, 脱圧除去量が増加したものと考えられる。特に, 膜厚が2.3mmと比較的厚い試料の場合, 試料内部までCO
2が溶解するのに時間がかかるため, この様な傾向が顕著に現れたものと思われる。
同様な実験をベンゼン+PS系について行った結果を
Fig. 5に示す。試料の膜厚は0.50mmである。ベンゼン+PS系においても抽出除去および脱圧除去が存在することが分かる。
抽出除去と脱圧除去が全除去率に対してどの程度寄与しているのかを検討するためにベンゼン+PVAc系について試料の膜厚を変えて抽出実験を行った結果を
Fig. 6に示す。試料が厚くなるにつれて, 全除去率および抽出除去率は低下する。また, 脱圧除去率は厚くなるにつれて上昇する。つまり, 試料の厚さを薄くすれば抽出除去のみでPVAc中のベンゼンを十分除去することが可能である。しかし, 膜厚が厚い試料については抽出除去のみでは不十分であり脱圧除去が重要であることが分かる。
前報4)では物質移動モデルを作成し, 全除去をSC-CO
2が溶解したポリマー中のベンゼンの見かけの拡散係数で整理した。しかしながら, その後の研究によって全除去には抽出除去に加え脱圧除去も含まれることが明らかとなったため, 拡散係数の相関値の物理的な意味は希薄であることが分かった。そこで本研究ではこれらの実験結果を踏まえ, 抽出除去および全除去について,前報4)で報告した単純な物質移動モデルを用い, SC-CO
2が溶解したポリマー中のベンゼンの拡散係数という形で実験結果を整理することを試みた。
Fig.7に, 試料膜厚2.3mmにおけるベンゼン+PVAc系の抽出実験値の相関結果を示す。また,
Fig. 8に, 試料膜厚0.45mmにおけるベンゼン+PS系の実験値の相関結果を示す。これらの相関によって得られたCO
2が溶解したPVAcおよびPS中のベンゼンの拡散係数を
Table 1に示す。
まず, ベンゼン+PVAc系の拡散係数の相関値と Swaid ら9)によるSC-CO
2中のベンゼンの拡散係数の実験値,およびKokesら10)によるCO
2が存在しない場合のPVAc中のベンゼンの拡散係数の実験値を比較する。CO
2が溶解したPVAc中のベンゼンの拡散係数の計算値は, SC-CO
2中のベンゼンの拡散係数とCO
2が存在しない場合のPVAc中のベンゼンの拡散係数の中間的な値をとることが分かる。CO
2が溶解したPVAc中のベンゼンの拡散係数はCO
2が存在しない場合に比べて約5けた大きくなっている。
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