石油中の高沸点留出油である減圧軽油 (b. p. 300~500°C) は非常に複雑な混合物であるために, その詳細な分析例は多環芳香族やバイオマーカーなどの一部の化合物グループに限られていた。そこで本研究では, 減圧軽油を化合物クラス別の成分に分離し (
Fig. 1), 各成分の主要な化合物をキャピラリーGC, GCMCにより分析した。
飽和成分 (Frs. S1, S2, A1), 芳香族成分 (Frs. A2~A7) および極性成分 (Fr. PO) の含有率はそれぞれ54.9, 39.7, 5.4wt%であった。飽和成分では直鎖パラフィン類, C
16, C
18, C
19, C
20のイソプレノイド類, メチルアルカン類, アルキル-シクロヘキサン/シクロペンタン類が検出された (
Fig. 3)。Fr. A2およびFr. A3はアルキルベンゼン類を主とする単環芳族成分であり (
Fig. 4), Fr. A3のクロマトグラムには長鎖のアルキル基とメチル基とをもつベンゼン類が規則的に流出した (
Fig. 5)。飽和および単環芳香族成分のFPD-GC分析では, 硫黄化合物がほとんど検出されなかった。
Fr. A4ではナフタレン類 (
MW156+14
n), アセナフテン/ベンズインダン類 (
MW182+14
n) とともに, ベンゾチオフェン類 (
MW176+14
n) を主とする硫黄化合物が多く検出された (
Figs. 6, 7)。高沸点領域に規則的に流出するベンゾチオフェン類は, その質量スペクトルから長鎖のアルキル基とメチル基をもつものと考えられた (
Fig. 8)。Fr. A5は硫黄化合物であるジベンゾチオフェン類 (
MW184+14
n) が主成分であり, ほかにフルオレン類 (
MW180+14
n) が含まれていた (
Fig. 9)。
Fr. A6はフェナントレン類 (
MW178+14
n), ベンゾナフトチオフェン類 (
MW234+14
n) が主成分であり, そのほかにピレン類 (
MW202+14
n), 2-フェニルナフタレン類(
MW204+14
n), ジベンゾチオフェン類が含まれていた(
Fig. 10)。Fr. A7にはピレン類, クリセン類 (
MW228+14
n), ベンゾピレン類 (
MW252+14
n), ベンゾナフトチオフェン類などが含まれていた。Fr. POでは, カルバゾール類(
MW167+14
n), ベンゾカルバゾール類 (
MW217+14
n) が検出された (
Fig. 12)。本成分の硫黄含量は2.0wt%であり, 相当量の硫黄化合物の存在が示唆されたが, FPDガスクロマトグラムはベースラインが盛り上がるのみで, 明瞭なピークが現れなかった。
本研究で用いた減圧軽油は, (1)石炭液化油等に多く含まれているアントラセン, フルオランテン, ビフェニルなどが非常に少ない, (2)長鎖のアルキル基がついたベンゼン類やベンゾチオフェン類が多く含まれている, (3)
Fig. 7に示されるようにメチル基がエチル基やプロピル基に比べて非常に多い, といった特徴があった。また, フェナントレンやメチルフェナントレンはかなり多く含まれていたが, それらの2水素化物や4水素化物は検出されなかった。
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