(1) 蛋白の溶解現象は分子分散物質のそれとは相異して相律に從はないことは事實である。
(2) 此の現象を説明するためにOstwald氏は蛋白の溶解現象が澱量律に從ふことを以て蛋白の溶解は膠質溶解の一形式であると見做し之を以て蛋白の行爲を化學的又は物理化學的に考察すべからざることの論據となした。
(3) 之に反してSórensen氏は蛋白の構造に關する成分圖説によつて異常溶解現象を巧みに物理化學的に解明せられてOstwald氏に應酬せられた。
(4) 之に加へて筆者は成分圖説を修正して更に嘗つて想定した鹽類の蛋白基成分解離イオン化説を適用することによつて蛋白が電解質溶液に溶解する現象を化學的に澁滯なく説明した。
(5) 夫故に蛋白の性質を化學的又は物理化學的に説明することはSórensen氏の主張の如く可能であり又其の態度は正しいと筆者は信ずる。何となれば蛋白は夥多ではあるがChemical valenciesを有する兩性化合物であるからである。このことはOstwald氏も肯定する所であらう。
(6) 溶解現象から考察すればEgg-albuminも亦成分團蛋白であつてSvedberg氏が考ふる如くにIsobare Eiweissmoleküleではない。のみならず一般蛋白は基成分蛋白の集合體であつて其の構成は從來考へられて居つたやうに特殊的でもなく又固定的でもないのが普通である。而も其の成分團蛋白の分子量が常に約34500の倍數であるといふSvedberg氏の説は實驗事實と一致しない。一般蛋白の構成が特殊固定的でないといふ筆者の考へは蛋白に關する從來の難問を易く解釋する楔ともなるであらう。
(7) 蛋白-電解質系の溶解現象は化學的に正しく説明し得らるると雖も澱量律は恰もよく其の結果現象を單に記述したものであるが故に蛋白の溶解に澱量律の記述を借用することは解釋を實際的に容易ならしめる方便ともならう。
(8) 蛋白の性質のうちには膠化學上の法則にて説明する方が容易便利なものもあるべく又蛋白によつては其の行爲が全然膠化學的のものもあるのである。
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