(1) 淡路島近海産の雌鯛3尾から肉蛋白を調製し其のの分離300gを加水分解してSchryverの銅鹽法に依つてアミノ酸を試みた.其の結果として13種のアミノ酸を分離し其の量は窒素として加水分解物中の全窒素に對して約82%に達した(第3表).
(2) 尚ほ加水分解物中から分離し得なかつた所のシスチン,メチオニン及びトリプトフアン等を定量し,その窒素量をも加算して見た所,加水分解物の全窒素に對して約87%に達した.又一方分離したアミノ酸と定量したアミノ酸との總和は供用蛋白量に對して80%であつた(第4表).
(3) 分離したアミノ酸を一層精製したものについて其の窒素量と融點とを測定した結果によつて精製したアミノ酸の純度を確認した.
(4) そのうち多量に分離し得たものはグリシン,アラニン,ロイシン,グルタミン酸及びリヂン等である.加之,シスチン,メチオニン,ヒスチヂン,トリプトフアン,プロリン,及びフェニルアラニン等の如き食用蛋白の榮養價を高上せしめる爲めに必須なアミノ酸をも亦比較的に多量に分離し得た.
(5) 鯛肉蛋白中の糖類と無機成分とを定量して鯛肉中にはカリウムとマグネシウムとの燐酸鹽が比較的多量に存在しナトリウムとカルシウムとの燐酸鹽等は比較的に少量であることを明らかにした.又鐵,銅及び亞鉛をも定量したが之は燐の一部と共に鯛肉中にて無機態として存在するよりも寧ろ鯛肉蛋白を組成する元素として存在することを推定した.
(6) (4)及び(5)に記述したことによつて鯛肉蛋白は榮養的に必須なるアミノ酸を豐富に含み又鐵,銅,亞鉛及び燐の如き無機物を適當量に於て而も有機態をなして蛋白分子中に含有して居る.夫故に鯛肉に食味に於て優れて居るばかりでなく其の蛋白の榮養價も亦優れて居ることを明らかにし得た.
終りに本研究を行ふに當り終始御墾篤なる御指導を賜はりし恩師近藤金助教授に對し謹みて感謝の意を表し併せて實驗中多大の御助力を辱うせし森茂樹氏及び同研究室の諸氏に深謝す.
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