日本歯周病学会会誌
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39 巻, 3 号
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  • 佐藤 恭代, 松尾 朗, 坂倉 康則, 矢嶋 俊彦
    1997 年 39 巻 3 号 p. 299-312
    発行日: 1997/09/28
    公開日: 2010/11/29
    ジャーナル フリー
    細胞培養実験系を用いて, 埋伏歯ならびに歯周疾患罹患歯の実験的処理根面におけるヒト歯肉由来線維芽細胞の移動・配列ならびに線維 (結合組織) 性付着の形成を研究した。
    ルートプレーニング後, クエン酸で部分脱灰処理した埋伏歯と歯周疾患罹患歯の歯根横断切片 (100μm) を作製した。それらの実験歯片を線維芽細胞の前培養で形成したシート構造上に静置・密着させ, 位相差顕微鏡・暗視野顕微鏡で細胞動態を経時的に観察した。処理歯根面では, 培養開始4時間で, 線維芽細胞は歯根面へ移動・付着, 歯根面に垂直に配列し, 細胞外基質の産生を始めた。培養1週で, シャーレ底面とセメント質問に細胞と線維からなるシート構造が形成され, 新生コラーゲン細線維と露出セメント基質コラーゲンとの結合が観察された。処理歯根面への細胞付着率に埋伏歯と歯周疾患罹患歯での差異は認められなかった。
    歯周疾患罹患歯歯根へのルートプレーニングと部分的脱灰処理は線維性付着への適切な処理の一つであることが示唆された。本細胞培養系は歯周疾患罹患歯の根面処理のin vitroでの評価と根面への線維性付着機構の解明に有用な実験系であることも示めされた。
  • 下山 雅通, 辰巳 順一, 栗原 徳善
    1997 年 39 巻 3 号 p. 313-323
    発行日: 1997/09/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    リポ多糖体 (LPS) は, 歯周病の発症および歯槽骨の吸収に重要な働きをしている。この研究は, LPS刺激による破骨細胞前駆細胞内チロシンリン酸化反応および破骨細胞形成に及ぼす影響についてP. gingivalis LPSと大腸菌由来のLPSと比較検討した。破骨細胞の形成はヒト臍帯血由来のCFU-GMを用いた。両LPSとも10-100ng/mlの濃度で, 23C6 (CD-51) 陽性の多核細胞の形成が促進された。この多核細胞の形成は, 抗IL-1抗体の添加により抑制された。また, 骨吸収は, 歯周病原性細菌由来のLPSは, 大腸菌由来のLPSに比べて1.4倍の吸収活性を示した。この吸収は, 抗src抗体の添加で抑制された。ウェスタンブロッティング法によりLPS刺激による破骨細胞前駆細胞チロシンリン酸化を検討すると, 歯周病原性細菌由来のLPSにより42-kDaの基質蛋白の存在が確認できた。さらにLPSによる破骨細胞形成系にherbimycin Aを添加しても破骨細胞の形成は抑制されなかった。以上の結果より, LPSはヒト破骨細胞前駆細胞の増殖・分化を促進し, その機序は, CFU-GM系の破骨細胞前駆細胞がIL-1を産生し, オートクラインに働き破骨細胞の形成を促進するとともに, その刺激伝達に特異的にチロシンリン酸化される2, 3の基質蛋白の関与が考えられた。また, LPSによる破骨細胞の形成には, c-srcの関与のないことも明らかになった。
  • 谷口 拓郎
    1997 年 39 巻 3 号 p. 324-337
    発行日: 1997/09/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    本実験の目的は歯周疾患の発症と進行に深く関与していると考えられているextracellular vesicles (ECV) が, 多形核白血球 (PMN) 機能に与える影響を検討することにある。すなわち歯周病関連細菌のひとつであるPorphyromonas gingivalis (P. gingiualis) からECVを調製し, ECVがPMNのスーパーオキシド産生, 貪食能および走化能に与える影響を調べた。またECVとPMNの相互作用を透過型電子顕微鏡を使用して調べた。P. gingiualis W50, W83, ATCC 33277の培養上清から硫安塩析法にてECVを調製した。P. gin-giualis W50 ECVをPMNに60分作用させると, 透過型電子顕微鏡観察より, PMNがECVを貪食している像が認められた。3種のECVをPMNに作用させた後, cytochromec還元法によるスーパーオキシド産生量の測定を行った。その結果, ECVは, PMNのスーパーオキシド産生に影響を与えなかったが, ECVで前処理後FMLP, PMAで刺激すると, PMNのスーパーオキシド産生を有意に抑制した。また3種のECVをPMNに60分作用させた結果, PMNの貧食能はECV処理で抑制する傾向を示し, またPMNの走化能も低下する傾向を示した。以上のことから, 歯肉溝や歯周組織中に遊走したPMNはP. gingiualis ECVによって影響を受け, スーパーオキシド産生, 貪食能および走化能が低下し, 歯周病の進行に深く関与している可能性が示唆された。
  • 六川 彰, 筒井 健機
    1997 年 39 巻 3 号 p. 338-347
    発行日: 1997/09/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    テトラサイクリン系抗生物質 (TCs) の安全性を遺伝毒性の面から検討する日的で, ヒト歯肉由来培養線維芽細胞 (HFG/MS細胞) にテトラサイクリン (TC), クロルテトラサイクリン (CTC), デメクロサイクリン (DMC), ミノサイクリン (MINO) を作用させ, 染色体異常誘導能を調べた。その結果,
    1) 各TCsの細胞毒性を細胞生存率から調べたところ, CTC, MINO, TC, DMCの順で強くなった。
    2) Ca2+, Mg2+ならびに血清等を含有する通常の培養液中でTCsの100~1, 000μMを24または48時間細胞に作用させたが, 染色体異常は誘導されなかった。
    3) ラット肝ミクロソーム由来の薬物代謝酵素存在下で, MINOの100~1, 000μMを2時間作用させても染色体異常の誘導はみられなかった。
    4) Ca2+, Mg2+不含の塩類溶液中でTCsの10~100μMを1時間作用させたが, やはり染色体異常は誘導されなかった。
    5) 上記の各実験系で, 陽性対照として用いたN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジンやアフラトキシンB1によって, 細胞に染色体異常が誘導された。
    以上の結果は, 各TCsによりHFG/MS細胞に対する細胞毒性が異なること, また, いずれのTCsも, 本実験条件下では, HFG/MS細胞に染色体異常を誘起しないことを示している。
  • 山田 泰生, 福田 光男, 箕浦 伸吾, 石川 和弘, 多湖 準, 三輪 晃資, 杉 大介, 鈴木 弘毅, 野口 俊英
    1997 年 39 巻 3 号 p. 348-354
    発行日: 1997/09/28
    公開日: 2010/11/29
    ジャーナル フリー
    現在まで. レーザーの照射によってエナメル質の硬度が増加したという報告は多い。もし. セメント質へのレーザー照射で同様のことが認められるなら. 根面ウ蝕および歯周病の予防に有効と思われる。本研究の目的は. Nd: YAGレーザーのセメント質への照射によりセメント質の硬度. Ca/P比. 表面の形態学的変化がどのように起こるかを検討することにある。歯周病に罹患していない健全な歯を20本用いた。残存している歯根膜線維はコラゲナーゼを用いて除去した。除去後. セメント-エナメル境より根尖側約5mmの平坦な部分を75ヵ所選び3t×3mmの照射野を設定し. 被験部位とした。この被験部位のうち25試片 (10試片を硬度測定. 10試片をCa/P比測定. 5試片をSEM観察) をコントロールとした。また. 残りの50試片のうち25試片 (10試片を硬度測定. 10試片をCa/P比測定. 5試片をSEM観察) を30mJ群. 25試片 (10試片を硬度測定. 10試片をCa/P比測定. 5試片をSEM観察) を50mJ群とした。照射後5×5mmの試片にカットし. ヌープ硬さの測定を25gの荷重で行った。さらに3×3mmの試片を切りだし. 一部をCa/P比測定のためのXMA用に. 残りをSEM観察用に通法通りの手順で前処理した。ヌープ硬さは. コントロール群24.95±6.59Hk. 30mJ群39.58±16.16Hk. 50mJ群51.42±20.93Hkで. 両照射群でコントロール群に比べ有意に増加した。Ca/P比は. コントロール群1.76. 30mJ群1.78. 50 mJ群1.84であった。50mJ群ではコントロールとの間に有意な差が認められた。SEM観察ではコントロール群では残存線維は認められず. 比較的平坦な面を呈していた。30mJ群では溶解した像はほとんど認められず平坦であった。50mJ群では溶解し再凝固したような像が高頻度に観察された。以上よりセメント質の形態学的な変化がほとんど生じない30mJの照射でも表層の硬さ. Ca/P比など. 物理的な質的変化の起こることが明らかとなった。
  • 森下 真行, 河村 誠, 笹原子 妃佐子, 河端 邦夫, 中田 二三江, 岩本 義史
    1997 年 39 巻 3 号 p. 355-360
    発行日: 1997/09/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    電動歯ブラシは, プラーク除去や歯肉炎の改善に対して手用歯ブラシと同等の効果があることが報告されている。しかし電動歯ブラシを4週間から8週間と, 短期間使用した時の効果についての報告は多いが, 1年以上の長期間にわたって使用した場合の効果についての報告は少ない。そこで今回は, 初期治療およびメインテナンスの期間中も電動歯ブラシを使用した場合の臨床的パラメーターに対する効果について検討する目的で研究を行った。
    初期治療において電動歯ブラシ (インタープラーク®,IP) によるブラッシング指導を受け, 引き続きメインテナンスの期間中もIPを使用している患者23名をIP群とした。同様に初期治療およびメインテナンスを受けている患者で, 手用歯ブラシを使用している患者 (14名) を手用歯ブラシ群とし, 両群について初期治療終了後, 3ヵ月毎にリコールを行い, 6カ月, 12カ月および24カ月後にPCR, PD, およびBOPなどの臨床診査を行った。その結果, IP群, 手用歯ブラシ群ともに初期治療によりPCR, PDおよびBOPなどの臨床的パラメーターは改善され, メインテナンスの期間中も良好に推移した。
    以上の結果より, IPは初期治療およびメインテナンスを継続している患者が長期間使用した場合でも, 手用歯ブラシと同等の効果があることが示された。
  • 1. 残存歯率および残存歯の条件
    宮武 祥子, 伊與田 清美, 原 宜興, 廣藤 卓雄, 田中 みのり, 前田 勝正
    1997 年 39 巻 3 号 p. 361-367
    発行日: 1997/09/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    歯周外科手術時にハイドロキシアパタイト (以下HAPと略す) を補填した部位における歯の転帰を調査した。術後5年以上の長期経過した70部位の歯について, 経過年数別, 歯種別に残存歯数を調べ, それぞれの症例数に対するその割合を残存歯率として評価した。さらに, 指示された定期的リコールに応じたかどうか, 固定の有無, 術前のプロービング深さ, 分岐部病変の有無といった条件の影響についても調査した。
    HAP補填後5年で87%であった残存歯率は, 経過年数とともに減少し, 特に7年から8年後にかけて急激に減少し, 10年後では47%であった。歯種別に残存歯率をみると, 上顎大臼歯が44%と最も低く, 単根の上下顎前歯および下顎小臼歯がそれぞれ75%, 91%, 72%と高かった。条件を比較すると, 分岐部病変を有する症例では抜歯に到ったものが多かったが, それ以外の調査項目による影響は特には認められなかった。このことは逆に術前に深いプロービング深さを呈する症例でも十分に良好な予後が長期にわたって得られることを示していた。以上のことから, 単根歯の深い骨欠損部にHAPを補填することにより, 抜歯に到るような状況を回避して, 治療計画の立案が可能であることが示唆された。
  • 第一報: tet M, tet Bについて
    八重柏 隆, 菊池 隆, 藤本 淳, 熊谷 敦史, 上野 和之
    1997 年 39 巻 3 号 p. 368-374
    発行日: 1997/09/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    過去6カ月以内にテトラサイクリンの投与を受けていない歯周炎患者38人の歯周ポケット内のテトラサイクリン耐性遺伝子tet M, tet BならびにActinobacillus actinomycetemcomitansについてPolymerase chain reaction法を用いて実態調査を試みた。その結果, tet Mおよびtet Bの各陽性率はそれぞれ60.5%, 34.2%であり, 両者間に有意差が認められた (カイ2乗検定, p<0.05) 。tetMの陽性率を歯周ポケットの深さによって比較すると, 浅い部位 (=4mm, n=19) では31.6%, 深い部位 (>4mm, n=19) 部位では89.5%と有意差が認められた (カイ2乗検定, p<0.01) 。Actinobacillus actinomycetemcomitansの陽性率は全体で44.7%であり, この細菌の陽性部位におけるtet Mおよびtet Bの各陽性率は, それぞれ52.9%, 41.1%であった。歯周炎患者の歯周ポケット内には, テトラサイクリンを投与する以前にテトラサイクリン耐性遺伝子が既に高い割合で存在し, その種類や環境によって分布が異なること, Actinobacillus actinomycetemcomitans等の歯周病関連細菌が, 同じ歯周ポケット内に存在する観陽性細菌からデトラサイクリン耐性遺伝子を獲得する可能性が否定できない状況下にあることなどが示唆された。
  • 楊 秋波, 和泉 雄一, 南 睦美, 末田 武
    1997 年 39 巻 3 号 p. 375-381
    発行日: 1997/09/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    Interleukin-1 (IL-1) は歯周炎の発症および進行において重要な役割を果している。IL-1には, IL-1α, IL-1βおよびIL-1receptor antagonist (IL-1ra) が存在し, IL-1raはIL-1αとIL-1βの特異的抑制因子である。そこで, 歯周組織の炎症の変化によるIL-1α, IL―1βおよびIL-1ra量の変動を明らかにするために, 成人性歯周炎患者において, scaling/root planing (Sc/RP) 前およびSc/RP後2週, 4週, 12週に臨床的診査を行い, 同時に歯肉溝滲出液 (GCF) 中IL-1α, IL-1βおよびIL-1ra量をsandwich ELISA法により測定した。その結果, bleeding on probing (+), probing depth 3~6mm, clinical attachment loss 3~7mmのinflamed moderate pockets (MP, 18部位) は, bleeding on probing (-), probing depth 3mm未満, clini-cal attachment loss3mm未満のshallow pockets (SP, 9部位) と比較して, IL-1α, IL-1β量は有意に高い値を示し, IL-1ra量は高い傾向が認められ, IL-1α, IL-1βに対するIL-1raの比率は低下する傾向が示された。Sc/RPを行ったMP16部位では, 臨床指数はSc/RP後に有意な減少を示し, 12週まで維持された。Sc/ RP後2週からIL-1α量, IL-1β量は有意な減少が認められ, IL-1ra量は4週, 12週に若干減少する傾向が認められた。さらに, IL-1α, IL-1βに対するIL-1raの比率はSc/RP後で有意に上昇した。以上の結果から, 歯周炎におけるGCF中のIL-1αおよびIL-1βとIL-1raとの比率は歯周ポケット内の炎症や歯肉の炎症の変化に関係することが推測された。
  • 症例報告
    大澤 銀子, 仲谷 寛, 永田 達也, 西澤 聡, 西澤 和利, 小島 武志, 鴨井 久一
    1997 年 39 巻 3 号 p. 382-389
    発行日: 1997/09/28
    公開日: 2010/08/25
    ジャーナル フリー
    GTR法の併発症として歯肉弁の退縮による膜の露出が多く報告されている。膜の露出に伴う問題点として, 感染の危険性の上昇や再生組織量の減少が考えられる。また, 歯肉弁が大きく退縮すると膜摘出後に再生組織を被覆することが困難となる症例も多い。そこで, 非吸収性膜を用いたGTR法で大きく膜が露出した症例に対し, 膜摘出時に上皮下結合組織移植を併用した。患者は42歳, 女性。歯肉の腫脹を主訴に来院。中等度の成人性歯周炎と診断された。初期治療後, 上顎右側第1小臼歯近心側の深い垂直性骨欠損に対して, 非吸収性膜 (Gore Tex Periodontal Material) を用いたGTR法を施行した。手術後1週目より歯肉弁の退縮による膜露出が認められた。その後も歯肉の退縮, 膜の露出も徐々に拡大したため, 5週目に膜除去のための手術を行うことにした。膜の下にはラバー様硬度の再生組織が存在したが, 歯肉弁の退縮が大きく再生組織の被覆は困難であった。再生組織を被覆する目的で口蓋歯肉より上皮下結合組織を採取し, 移植した。その結果, 良好な歯肉形態および組織再生が得られた。以上の結果, GTR法において歯肉退縮により膜の露出を示した症例に対し, 膜除去時に上皮下結合組織移植を行うことは, 再生組織の被覆また審美的に良好な結果が得られる有効な方法の一つであると考えられる。
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