環境科学会誌
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23 巻, 4 号
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シンポジウム論文
  • 劉 晨, 王 勤学
    原稿種別: シンポジウム論文
    2010 年 23 巻 4 号 p. 259-267
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/25
    ジャーナル フリー
    中国農村地域を主なフィールドとして,食生活や農作や人間排泄物の排出ルートなどの人間活動およびその変化が農業生態系の水・物質循環に及ぼす影響を統計資料と現地調査などによって,定量的に解明した。その結果,長江流域の農業系と生活系から水域への窒素輸出総量は1980年の1.98 Tg-Nから,1990年の3.03 Tg-N,2000年の4.50 Tg-Nにまで増加した。1980年の窒素排出源は主に下流流域に集中していたのに対し,1990年代には中流流域まで,2000年には中下流を中心として周辺へと広く拡大した。化学肥料使用量の急増および肥料利用効率の低下が河川窒素負荷量の増加の主な要因であった。また,現地調査の結果によると,人間の排泄物の環境への潜在窒素負荷量として,都市部では年間1人当たりおよそ1.02 kg-Nが土壌へ,5.49 kg-Nが水域へ,農村部では年間1人当たりおよそ4.33 kg-Nが土壌へ,1.60 kg-Nが水域へ排出されることとなる。さらに,経済の発展や都市化の進展が農村地域における肉類の消費量を増加させたり,地域内の人間排泄物の土壌還元率を減少させたりしている一方,水域排出率を増加させたり,化学肥料や県外からの輸入飼料に依存するようにさせたりしていることも明らかとなった。化学肥料施用量の減少,利用効率の増加および排泄物などの有機物の循環再利用は河川富栄養化を抑制するための重要な鍵となる。
  • 戸田 任重, 鈴木 啓助, WANG Dexuan, MO Jiangming, FANG Yunting, FENG Zhaozhong, ...
    原稿種別: シンポジウム論文
    2010 年 23 巻 4 号 p. 268-276
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/25
    ジャーナル フリー
    イオン交換樹脂(アンバーライトMB-1,オルガノ)を詰めた樹脂カラムを,中国のハイラル,長春,長白山,北京(東霊山),広州(黒石頂と鼎湖山)の6地点の,広葉樹林・針葉樹林,および樹林外に設置し,大気からの窒素沈着量を測定した。測定された年間窒素沈着量(硝酸態とアンモニア態窒素の合計)は,林外雨で2.5~20.7 kgN/ha/年,林内雨で1.4~39.2 kgN/ha/年であり,北部で少なく南部で多い傾向を示した。また,窒素沈着量と人口密度には有意な相関がみられた。窒素沈着量が大きい地域では,樹林内の窒素沈着量が樹林外の沈着量を上回っており,大気汚染の深刻な地域では,葉面への乾性沈着の寄与が大きいことが示唆された。また,窒素沈着量の大きい地域では,アンモニア態窒素が卓越していた。現在の中国では,肥料や畜産排泄物に由来する窒素が,自動車・工場等からのNOxに由来する窒素よりも,相対的な寄与が大きいのであろう。土壌中に埋設した樹脂バッグにより測定した窒素溶脱量は,窒素沈着量が大きい地点ほど大きかったが,窒素溶脱量が窒素沈着量を上回っている場合が多かった。広州・鼎湖山における樹脂バッグによる測定値(40~50 kgN/ha/9ヶ月)は,小集水域における水収支に基づく窒素流出量(40.4 kgN/ha/年)ともよく一致していた。窒素溶脱量の大きかった広州・鼎湖山の小河川では,年間を通して硝酸イオン濃度が高く(2.6~8.5 mgN/L),降水に伴う流出高の増大時にその濃度が急激に増大した。人間活動の増大に伴う窒素沈着量の増加は,中国の森林地域からの窒素流出の増加を引き起こしている可能性が示唆された。
  • 柴田 英昭, 福澤 加里部
    原稿種別: シンポジウム論文
    2010 年 23 巻 4 号 p. 277-283
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/25
    ジャーナル フリー
    北海道北部の天然林生態系における窒素循環について,北海道大学研究林における事例研究から,その特徴や課題について論じた。北海道北部は大気汚染の影響が比較的小さく,大気沈着で森林に供給された窒素のほとんどは森林生態系内部に保持されている。土壌から河川への窒素溶脱については,生物活性が低く,大量の融雪水が供給される融雪期に年間の約6割に相当する窒素が溶脱していた。15Nをトレーサーとした室内培養実験の結果から,土壌表層に生息する土壌微生物による速やかな窒素有機化は,生態系の窒素保持メカニズムとしてとくに重要であった。一方,掻き起こし施業における植生や表土の除去により,植生による窒素吸収の停止,土壌微生物による硝化の促進,窒素有機化低下の結果として,土壌から下層への硝酸態窒素の溶脱ポテンシャルが増加することが示された。しかしながら,流域レベルでの樹木伐採に対しては,林床植生として残存したササが細根バイオマスを増やし,養分吸収することによって土壌から河川への硝酸態窒素の溶脱を軽減する役割を果たしていた。また,北海道北部の森林地帯は地形が比較的緩やかであり,河川近傍には河畔帯が広がりやすい特徴を有している。そのため,生態系の窒素循環プロセスの結果として生成される河川水質に対し,河畔部での脱窒や養分吸収が大きく影響していた。以上のことから,北海道北部の天然林生態系において,さまざまな環境変動に対する窒素循環プロセスの変化や応答を理解するためには,多雪寒冷である気候特性をはじめとして,樹木やササ,土壌微生物による生物コントロール,流域内の土壌分布や河畔帯での窒素保持を含めた地形水文コントロールを含んだ評価やモデルを発展させることが重要である。
  • 田中 充
    原稿種別: シンポジウム論文
    2010 年 23 巻 4 号 p. 284-296
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/25
    ジャーナル フリー
    地球温暖化の深刻化に伴う温暖化対策の促進が求められる中で,地方自治体における温暖化・エネルギー対策の一層の強化が期待されている。本研究では,こうした自治体エネルギー行政に焦点を当て,エネルギー対策の方向性と課題を抽出する「政策マトリックス」 の概念を検討する。これは,自治体の役割である消費主体,事業主体,政策主体という3つの側面と,地域対策の対象分野となる需要側対策,供給側対策,需給両面対策の3つの分野に区分し,自治体エネルギー対策の枠組みを体系化する考え方である。
    次に,自治体エネルギー行政の対策体系を分析することを目的に,政策マトリックスに基づく「エネルギー対策チェックリスト」を検討・考案し,その内容を項目体系として取りまとめて提示する。また,大都市近郊の2つの基礎自治体として日野市と枚方市を対象に事例研究を行い,チェックリスト手法の適用可能性と対策課題の抽出を試みる。その結果,各々のエネルギー対策体系に関してこの手法を適用して取組状況を分析したところ,2つの自治体のエネルギー行政は総体的評価である総合点では同じ水準であったが,対策分野別には得点分布の状況が異なっており,自治体が取り組むべき対策課題を把握することができた。これはチェックリスト分析が,自治体が従来から取り組んできたエネルギー対策の実績等を反映したものと考えられる。こうした結果を踏まえて,本研究ではチェックリスト手法の有用性を明らかにし,今後の自治体エネルギー行政の一層の強化に向けた検討課題を抽出している。
  • 2008年の全国市区町村の対策実施状況に基づく分析
    中口 毅博
    原稿種別: シンポジウム論文
    2010 年 23 巻 4 号 p. 297-306
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,市区町村における地球温暖化防止対策の実施パターンを定量的に分析し,それに基づき市区町村を類型化することにより,近年の市区町村の温暖化対策実施状況の特徴について分析した結果,以下のことが明らかになった。(1)2008年度に市区町村に実施したアンケート調査を集計した結果,回収された1,111の市区町村の温暖化対策の実施率は平均でわずか8.6%であり,市区町村の地球温暖化防止対策はあまり進んでいない。(2)分野別には公共施設における省エネや市民・事業者への普及啓発は比較的進んでいるが,低炭素型都市基盤整備の分野は対策が進んでいない。(3)人口規模が大きい市区町村は実施率が高く,小さい市区町村は低い。(4)温暖化関連の計画を策定している市区町村は,策定していない市区町村に比べ実施率が高かった。(5)対策実施パターンの類似性に着目し,数量化III類分析を行った結果,「自然系-人工系」「社会システム系-設備系」「新技術系-在来技術系」の3つの軸が抽出された。(6)数量化III類の第1軸・第2軸のサンプルスコアにより,分析対象の855の市区町村を5つに類型化した結果,自然-社会システム型が272市区町村,人工-社会システム型が67,人工-設備型が274,自然-設備型が104,中間型が138となった。(7)人口規模と類型との関係をみると,人口規模が小さい市区町村は自然-社会システム型に属するものが多く,人口規模が大きい市区町村は人工-設備型の割合が多いことが分かった。
  • 竹内 恒夫
    原稿種別: シンポジウム論文
    2010 年 23 巻 4 号 p. 307-313
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/25
    ジャーナル フリー
    これまで,我が国におけるCO2削減策は,国全体又は都道府県・市町村の区域を対象にして,10年程度先の削減目標を設定し,計画を策定してきたことなどから,電気製品・自動車・製造設備などの高効率機器への転換,太陽光発電の普及,消費者・事業者の省エネ行動の促進などといった単体的,短期的な取組みしか視野に入れてこなかった。低炭素社会の実現にとって本質的な取組みは,都市・地域構造,エネルギー供給構造,交通体系などの変革というシステム的,広域的,長期的な取組みである。本稿では,まず,名古屋市を対象に積上式による長期(2050年まで)のロードマップを策定し,次に,より広域的なロードマップ策定のため,名古屋都市圏(愛知・岐阜・三重県)を対象に2050年に1990年比マイナス80%を前提としたロードマップ(イメージ)を2種類(「サプライサイド・ロードマップ」,「地域に根差したロードマップ」)作成し,比較・考察した。
  • 環境モデル都市アクションプランを例として
    増原 直樹
    原稿種別: シンポジウム論文
    2010 年 23 巻 4 号 p. 314-320
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/25
    ジャーナル フリー
    本研究は地域・自治体レベルの温暖化対策,とりわけ中長期的な温室効果ガス(GHG)削減へ資する諸事業の実現可能性を高める条件は何か,という問題意識に基づいている。具体的には,環境モデル都市の行動計画を対象として,計画の実現可能性を高めると考えられる基準を提案し,試行的に各モデル都市の行動計画を評点化した。手順としては,まず既存の調査研究を参考に仮説的な基準を提案し,当該基準に基づいて各モデル都市の行動計画の内容を分析し,各自治体文書の評点化を試みた。最後に,その評点と排出削減効果の関係を考察した。分析の結果,主として次の4点が明らかになった。
    ・豊田市や横浜市などモデル都市募集以前から環境首都・都市をうたっていなかったという意味での「後発」自治体の評点が高くなっていること。
    ・計画内容については,大都市や地方中心都市の評点が高く,小規模市町村においては温暖化対策に関連計画が少ないことや域内の温室効果ガス排出特性・傾向などのデータ整備が十分でないことが考えられること。
    ・推進体制についても,大都市及び地方中心都市の評点が高く,小規模市町村では事業の推進組織が十分構想できていないことや専任部署の設置が困難であること。
    ・今後の主な研究課題としては,複数基準間の重み付け,すなわち5つの基準間の重要性をいかに「評価」するか,それら基準間の重要性の差異をどのように説明するか,が残された。
  • 自治体政策過程における合意形成作用を手掛かりに
    青木 一益
    原稿種別: シンポジウム論文
    2010 年 23 巻 4 号 p. 321-331
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/25
    ジャーナル フリー
    2008年6月,東京都は,「環境確保条例」の改正により,キャップ・アンド・トレード型の二酸化炭素(以下,CO2)排出削減策(以下,C&T)を導入した。国・地方を問わず,わが国で初となる施策展開であり,関連のステーク・ホルダーからは,賛否両論を含む大きな関心が寄せられた。特に,排出主体の自主的措置の限界を指摘し,総量削減義務を法定した都の決定に対して,遵守負担を憂慮する日本経団連や各種業界は,原単位に依拠した従来の国の政策を尊重すべしとして,反発の姿勢を示した。一方,賛成派の環境NPO(非営利組織)やマス・メディアは,今回の都の施策が,他の自治体や国の対策を牽引する第一歩になるとして,これを高く評価した。双方に共通するのは,都のC&Tが国や他の自治体によって模倣・追認され,全国レベルでの制度化につながるとの見方である。
    そこで,本稿は,政治学・政策過程論に依拠したパースペクティブの下,本施策の実現可能性がなぜ確保され得たのかをアクター間の合意形成作用に探ることで,都のC&Tの政策波及の可能性に考察を加える。考察で用いる知見は,当該政策過程における主要アクター(都行政・議会の政策担当者,環境NPO,学識経験者,事業関係者など)への対面による聞き取り調査および資料・文献等調査に基づくものである。
    考察の結果,(1)域内排出主体構成が提供する政治的合意形成の機会,(2)オリンピック招致活動の一環としてのCO2削減策という位置づけ,(3)それゆえに可能となる潤沢な財源・予算措置,の重要性を指摘する。そのいずれもが,都に固有の政策的文脈を規定する極めて特異な地政学上の要因であり,他の地域・区画においては,都のC&Tの模倣・追認の試みが,むしろ,アクター間の合意形成の機会やCO2削減策としての合理性を阻害する問題を生むため,本施策の政策波及の可能性は低いとの理解を示す。
    また,本稿の最後では,考察成果に鑑みつつ,国や都における今日的政策動向が,わが国の削減策の帰趨にいかなる含意を持つのかに触れた。
  • 蒲原 弘継, 後藤 尚弘, 藤江 幸一
    原稿種別: シンポジウム論文
    2010 年 23 巻 4 号 p. 332-340
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/07/25
    ジャーナル フリー
    地球温暖化対策の一環として注目されてきたバイオエネルギーの生産であるが,近年においては,土地利用の改変に伴う環境影響が危惧されている。本稿では,バイオ燃料の原料としても注目されているインドネシアのパーム油の生産拡大に伴う環境負荷低減策について検討した。そこで,先ず,インドネシアの熱帯雨林の減少とパーム油生産拡大に関する情報を整理し,その現状を明らかにした。次に,パーム油生産拡大に伴う環境影響として,1)熱帯雨林伐採に伴う生物多様性の損失,2)温室効果ガス排出,3)エネルギー資源の消費について示し,その環境影響の低減策について検討した。その中で,本稿では,プランテーション開発に伴う熱帯雨林伐採は直接的,間接的に生物多様性や生物個体数の損失に繋がることを指摘した。さらに,新たな土地利用の改変を伴わないパーム油生産拡大の可能性として,単位面積当たりの作物収量の増大による土地倹約の効果を明らかにした。次に,本稿では,パーム油と他の植物油の生産にかかるエネルギー資源の消費量を比較するとともに,インドネシアにおけるパーム油からのバイオ燃料の生産に伴うエネルギー・資源消費量の増大に関する問題点について指摘した。今後,持続可能な消費に向けて,パーム油生産にかかるエネルギー・資源消費量及び土地の使用量を最小化する農業・バイオマス利活用技術の開発を推進するとともに,植物油の需要側の対策も必要であると考えられた。
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