特殊教育学研究
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39 巻, 5 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 三宅 康将, 伊藤 良子
    原稿種別: 本文
    2002 年 39 巻 5 号 p. 1-8
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は、社会性と言語に遅れを有する1名の発達障害幼児(男児)に対し、情動的交流遊びを中心とした指導を実施し、コミュニケーションの発達に効果があるか否かを検討した。情動的交流遊びとは、情動の伝染を媒介として大人と子供が楽しさを共有する遊びである。本事例では、大型遊具を利用して身体を動かす遊びを中心とする指導を10か月間行った結果、指導者と子どもとの間に情動の共有が成立するにしたがい、社会的相互作用の水準、要求の伝達手段、模倣のすべてにおいて向上を示し、コミュニケーション行動の発達が認められた。したがって、情動的交流遊びは発達障害児のコミュニケーション指導にとって有効であることが示唆された。今後の課題として、指導者側の表情等の分析も必要であることが指摘された。
  • 清水 久美子, 高橋 信雄
    原稿種別: 本文
    2002 年 39 巻 5 号 p. 9-15
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    通常学級における授業援助の望ましいあり方を探るために、小学校低学年の聴覚障害児を対象に、授業場面で手話などを用いた「通訳」による授業援助を行った。この過程で、対象児の注視行動と通訳者とのコミュニケーション行動は、対象児と通訳者との関係、通訳者の配慮によって大きく変化した。これらの変化から、(1)対象児の気持ちを受けとめ、応えることで信頼関係を築く段階、(2)情報を求めているときに「通訳」を行う段階(対象児が「通訳」の意味に気づく段階)、(3)キーワードを中心に「通訳」を行う段階(効果的に「通訳」を行う段階)、の3段階が必要であることがわかった。このように、小学校低学年の児童を対象とした手話などを用いる「通訳」は、段階に応じてきめ細かな対応が必要だと考えられる。しかし、今後の課題として、通訳の質的な評価も加える必要があると思われる。
  • 近藤 隆司, 氏家 靖浩, 松木 健一
    原稿種別: 本文
    2002 年 39 巻 5 号 p. 17-23
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    軽度の発達障害が疑われる不登校児への教育支援を検討した。対象児のSは、長期にわたり不登校の状態にあり、かかわり当初は、無気力さや情緒面の不安定さが著しかった。そのようなSに対し、オセロゲームや散歩、河原遊びなどの活動を繰り返し行い、その後、生活・社会技能習得を目指した指導、読字・書字の指導を行った。おおよそ2年にわたる教育支援の結果、集団活動への参加や教室復帰に結びつけることができたが、その過程で、家族の学習面に対する過度な刺激、発達障害に対する理解不足が要因と考えられる破壊行為、あるいは弟への暴力といった問題行動がみられる時期があった。不登校の子どものことを正しく理解することは重要であり、子ども自身だけでなく、家族全体を視野に入れた支援体系を考えていかなくてはならないことが示唆された。
  • 黒田 未来, 東 敦子, 津田 望
    原稿種別: 本文
    2002 年 39 巻 5 号 p. 25-32
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    無発話の重度知的発達障害児に対し、表出手段として、サイン言語に加えて写真や絵、図形シンボルなど複数のAAC手段を指導した事例の経過を述べた。本症例は、対人関係が比較的よく、手指模倣が可能で、自発的なサイン表出がみられたことから、指導初期にサイン言語によるコミュニケーション指導を行った。その結果、サイン言語を表出手段として用いるようになったが、その後表出サインの増加に伴い、手指の巧緻性や記銘力の低さなどからコミュニケーションが取りにくくなったため、写真、パッケージ(「P&P」)などを用いたコミュニケーション指導を行った。最終的にサイン言語だけでなく、「P&P」や図形シンボルなど複数の手段を表出手段として併用することが可能となり、コミュニケーションの伝達性や、視覚的弁別力が高まるなどの変化がみられた。本事例を通して、重度の知的障害児にサイン言語を指導することの効果、手指の巧緻性や視覚的弁別力が比較的低い場合に、サイン言語や「P&P」など複数のAAC手段を併用することの効果、また、他者との円滑な「やりとり」を促すために、家庭や学校など諸機関と連携することの重要性について考察した。
  • 前新 直志, 磯野 信策, 寺尾 恵美子
    原稿種別: 本文
    2002 年 39 巻 5 号 p. 33-45
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    吃音指導における間接法が主に吃音児を取り巻く人的環境に働きかけるのに対し、直接法は吃音児の吃音行動そのものに直接働きかける方法として捉えられている。吃音を主訴とする事例に対して、幼児期から学齢初期に至るまでの約3年半、指導方法を検討しながらアプローチしたところ、吃音症状が改善傾向を示した。その要因として、(1)間接法中心から直接法中心への指導内容の移行、(2)母親の心理的変化、(3)本児の直接法に対する姿勢の3要因がうまくかみ合ったことによるものと考えられた。本事例を通して、吃音児指導は環境面への働きかけだけではなく、直接的に何らかの措置を講じることで問題を改善に導くことができる場合もあると考えられた。
  • 高畑 庄蔵, 武蔵 博文
    原稿種別: 本文
    2002 年 39 巻 5 号 p. 47-57
    発行日: 2002/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は、知的障害養護学校の現場実習及び卒業・就労後の長期的な経過を報告・検討するとともに、事業所での支援ツールによる就労指導プログラムの検討を目的とする。対象生徒は、高等部3年生に在籍する中度知的障害の17歳の男子生徒1名であり、現場実習先は、老人ホーム、病院等のおむつ洗浄を扱うリネン関係の有限会社であった。まず職場において工場長と協議しながら環境調査を実施した。次に業務の選定、業務分析、「ナンバーシール」「業務遂行チェックリスト」等の支援ツールの作成・配置を行い、実地に指導した。さらに就労後1年5か月にわたり定期的にフォローアップを実施した。加えて、事業所の工場長、保護者、対象生徒本人に対してアンケート調査も定期的に実施し、本プログラムに関する社会的妥当性を測定した。結果、現場実習で業務遂行スキルを習得し、そのスキルが卒業・就労後1年5か月にわたって安定して維持していることが確認された。また、本研究で設定した目標、支援ツール、支援手続き、効果について対象生徒、保護者、工場長へ卒業・就労後アンケート調査でも高い評価を得た。現場実習での就労指導プログラムの有効性、業務スキルの獲得及び長期的維持の方略の観点から考察した。
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