特殊教育学研究
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49 巻, 4 号
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資料
  • ―コミュニケーションと遊びの分析を通して―
    館山 千絵, 鄭 仁豪
    2011 年 49 巻 4 号 p. 339-350
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    本研究は、音声言語をおもなコミュニケーション手段とする聴覚障害幼児を対象に、健聴母親とのコミュニケーションと遊びを検討し、母子相互作用の発達的特徴を明らかにすることを目的とした。1歳から3歳の先天性重度聴覚障害幼児とその健聴母親26組の、母子で自由に遊ぶ場面での遊びレベルとコミュニケーション手段、機能、ターンについての分析を行った。研究の結果、聴覚障害1歳児では、物を中心とする遊びの中で、母親主導の母子相互作用が行われ、聴覚障害2歳児の遊びでは、健聴児よりやや遅れる傾向があるものの、コミュニケーションの質的変化により、1歳児とは異なる母子相互作用が行われていた。また、聴覚障害3歳児の遊びでは、健聴児と同等のレベルでの、活発な母子相互作用が行われることが示された。総じて、聴覚障害幼児は1歳から3歳にかけて、コミュニケーションが拡充され、同時に遊びの内容も深まり、母子相互作用が量的・質的に広がっていく発達的傾向が示された。
  • ―重回帰分析による再検討―
    渡邉 はるか, 前川 久男
    2011 年 49 巻 4 号 p. 351-359
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    本研究では、通常の学級に在籍する362名の定型発達児と33名の特別な教育的ニーズ(Special Educational Needs; 以下SENとする)のある児童に対して、学業適応感、学校生活適応感に関する質問紙調査を実施した。本研究の目的は、渡邉(2009)の尺度を改訂し、学業適応感が学校生活適応感へ与える影響の再検討およびSENの有無が学校生活適応感へ与える影響を検討することである。学業適応感は、因子分析の結果、学業満足感と学業困難感の2因子が抽出された。学校生活適応感に対する学業適応感の影響を検討するために重回帰分析をした結果、学業満足感の影響が確認され、学業困難感の影響はみられなかった。また、学校生活適応感の要因として、特別な教育的ニーズがあることの影響が示唆された。以上より、学校生活適応感に影響を及ぼす要因として、学業満足感に注目することができ、あらためて児童の学習面のニーズに注目する必要性が指摘できる。
展望
  • ―育児方法の支援において保護者にかかる負担の観点から―
    神山 努, 上野 茜, 野呂 文行
    2011 年 49 巻 4 号 p. 361-375
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    本研究は、発達障害である自閉症スペクトラム障害、注意欠如・多動性障害、学習障害を対象とした育児方法に対する保護者支援の先行研究において、保護者の負担がどの程度考慮されたかを検討することを目的とした。方法に関しては、2005年から2011年までの保護者支援の実践研究64本について、対象者の生活年齢および障害種別の標的行動、実施されたアセスメント、保護者の負担に関する記述の有無について分析した。その結果、保護者の負担に関する記述はいずれも半数以下にとどまり、保護者に関してや、標的行動・介入手続きの選定に関するアセスメントの実施も少なかった。今後の課題として、保護者の負担を考慮する必要があり、介入手続きの学習や実施維持において保護者にかかる負担を軽減するために、保護者の特性や、標的行動介入手続きの選定に関するアセスメントを検討する必要を指摘した。
  • 李 熙馥, 田中 真理
    2011 年 49 巻 4 号 p. 377-386
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    ナラティブは、ある出来事について組織化し、意味づけたものを他者に伝える活動である。本研究は、自閉性スペクトラム障害(以下、ASD)者におけるナラティブに関する研究の動向をさぐり、ナラティブに関する研究の意義を考えることを目的とした。ASD者は、ナラティブにおいて聞き手の理解を促すために必要な情報をまとめ、与えるなどの工夫を行わないことが報告されている。それは語用論の障害として指摘され、おもに「心の理論」獲得の困難さとの関連が論じられてきた。しかし、ASD者におけるナラティブは、語用論の障害をとらえるものだけではなく、ナラティブを通してASD者の社会性の特性や発達との関連について検討できること、ASD者の社会性を促すひとつの手段になる可能性が考えられる。今後は、ナラティブを通して社会性の特性や発達、支援に関する実証的な検討が必要であろう。
実践研究
  • ―非随伴強化手続きの応用―
    小野寺 謙
    2011 年 49 巻 4 号 p. 387-394
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    通常学級に在籍する小学5年女児の注目機能を有するかんしゃく行動(過度に泣いたり、叫んだりする行動)を改善するために、対象児の級友が対象児を日常的に強化していく非随伴強化手続きを導入した。具体的には、級友が対象児への対応の仕方を学習し、帰りの会で対象児の1日の行動を評価した。その結果、かんしゃく行動はほとんどみられなくなり、それはフォローアップ期においても維持された。さらに、学級全体による取り組みにより、級友の問題行動に対する接し方が変容した。意図的、視認的な支援手続きを実行することにより、対象児と対象児を取り巻く級友の行動が変容されうることが示された。
  • ―運動感覚とコミュニケーションに焦点を当てて―
    高橋 眞琴
    2011 年 49 巻 4 号 p. 395-404
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    重度・重複障害のある子どもの多くは、運動・認知・言語・社会性などの領域において、さまざまな障害をあわせもつことも多く、医療行為や医療的ケアを必要とする子どもも多い。重度・重複障害のある子どもの教育では、医学的・リハビリテーション的な視点に基づく指導は重要である。それらの視点とともに、常に認知・感覚・運動・コミュニケーションなどの発達的視点からの指導を重視し、その指導内容や方法、学習形態について検討していくことが教育関係者にとっては重要であると考えられる。本研究では、重度・重複障害のある子どもが、母親以外の大人の指導者の指示に基づいて学習する場面(個別モデル)と、複数の同年代の子どもとともに学習する場面(ピア・モデル)を経験した際の社会的相互作用と手指操作について、時系列的に比較を行い検討した。その結果、ピア・モデルに基づく学習が、重度・重複障害のある子どもの手指の感覚過敏の一時的軽減や、社会的相互作用に影響を与えている可能性が示唆された。
研究時評
  • 石坂 郁代
    2011 年 49 巻 4 号 p. 405-414
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    本研究では、わが国における発達性読字障害の評価と指導について、海外の文献と比較しながら、その現状と課題について分析した。評価においては、標準化された包括的検査は開発されていないがスクリーニングは可能であることや、読字障害の背景要因を個々に評価した結果で総合的に判定したり、アメリカのRTIモデルのように段階的に読字障害を検出する試みなどが行われている現状について述べた。指導においては、読字の基盤となる要素を指導するボトムアップと文章を理解するための方略を指導するトップダウンという観点で指導の方向性を整理し、代償手段なども並行して導入する必要性について指摘した。今後の課題としては、注意障害と読字障害の関連性の研究や、脳機能など医学領域との連携研究、さらに高等教育における読字障害者の支援に関する研究が望まれると分析した。
  • ―わが国における発達障害児への教育的対応の現状と課題―
    竹村 洋子
    2011 年 49 巻 4 号 p. 415-424
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    特別支援教育への転換が法的に裏づけられたが、通常学級における発達障害児への教育的対応には課題が山積している。行動論的支援では、「問題行動」への介入について児童と環境との相互作用の視点の重要性が認識されており、本邦では通常学級における介入研究が増加している。本稿では、「問題行動」をめぐる児童と環境との相互作用に視点を置き、発達障害児の学校適応を促進するための課題を明らかにすることを目的に、それらの研究を概観した。児童と教師との接近的相互作用の成立の重要性が指摘されるとともに専門機関や保護者など他者との良好な連携が支援効果を高める条件となるが、環境への介入には課題が多いことが指摘された。「問題行動」をめぐって複数の変数が関連した複雑な相互作用が成立し、その分析と介入の方略が求められている。教師の評価に着目した分析により、「問題行動」をめぐる相互作用について関連要因が明確化され、通常学級における課題を解決するための指針が得られる可能性について言及した。
  • ―障害種別にみた特徴と家族に与える影響―
    林 恵津子
    2011 年 49 巻 4 号 p. 425-433
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/09/14
    ジャーナル フリー
    障害のある子どもは、眠れない、睡眠覚醒リズムが乱れる、睡眠時の異常運動があるといったさまざまな睡眠関連病態を高い割合で呈する。子どもの睡眠関連病態は、子どもの昼間の行動や気分に影響するばかりでなく、後の心身の発達にも影響する。また、家族の心身の健康にも影響するので、看過できない問題である。本稿では、障害種別ごとに、併存する睡眠関連病態を整理した。障害種別により、併存しやすい睡眠関連病態があることから、障害の背景にある神経機構と睡眠関連病態の背景にある神経機構に関連があることが示唆された。さらに、家庭での睡眠関連病態への対処法を整理し、その効果を示した。生活の最大の基盤である睡眠が確保できないと、親は子どもの将来を冷静かつ建設的に考えることが難しい。睡眠関連病態への迅速で丁寧な支援が期待される。
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