背景.本邦のアレルギー性気管支肺真菌症(allergic bronchopulmonary mycosis:ABPM)研究班が2019年にABPMの新診断基準を提唱し,診断の幅が拡がった.症例.43歳女性.喘息既往なし.1か月持続する咳嗽を主訴に来院した.胸部CTで右B4の中枢側に気管支拡張を伴う粘液栓,末梢側に多発粒状影と浸潤影を認めた.血清総IgE値や末梢血好酸球数は正常であった.気管支鏡検査にて右B4を閉塞する粘液栓を採取,除去し,粘液栓中に著明な好酸球と糸状菌を認めた.後日スエヒロタケと同定され,血清抗スエヒロタケIgG,IgE抗体共に強陽性であった.その後咳嗽と陰影は消失し,5年間再発を認めていない.過去の基準では診断に難渋したが,新基準によりABPMと診断した.結論.中枢気管支内粘液栓を認めた場合,喘息の有無に関わらずABPMの可能性を考え積極的に気管支鏡検査をすべきである.
背景.アレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)では喘息非合併やAspergillus属以外の真菌による非典型例の増加が指摘され,2019年に本邦より新たなABPM臨床診断基準が発表された.症例.69歳,男性.末期腎不全で7年間の維持透析歴あり.4か月前に食道癌に対する化学放射線療法を完遂.1か月前から抗菌薬不応の咳嗽と発熱,肺陰影があり紹介受診した.末梢血好酸球増多と血清総IgE高値,胸部CTで放射線照射野を主体に照射野外にも分布する両側縦隔側優位の多発性陰影を呈し,右肺下葉縦隔側に高吸収粘液栓(HAM)を認めた.気管支鏡検査にて粘液栓を採取し,細胞診で著明な好酸球浸潤を認め,培養検査で糸状菌が検出された.副腎皮質ステロイド全身投与が奏効し,後日Schizophyllum commune(S. commune)同定と同菌特異的IgE,IgG強陽性からABPMと確定した.結語.CTでのHAM検出,それに続く気管支鏡検査の実施がS. communeによるABPM非典型例の診断に有用であった.
背景.Paradoxical reactionは結核治療開始後に一過性に既存病変の悪化や発熱などを生じる現象であり,しばしば他疾患との鑑別に難渋する.症例.クローン病治療中の35歳女性.発熱と胸部異常陰影精査のため当院を紹介受診した.喀痰抗酸菌塗抹,結核菌群PCRともに陽性であり肺結核および粟粒結核と診断した.結核専門病院で入院治療を行い,退院後は当院で治療を継続し画像所見の改善も認めていた.しかし治療開始15か月後から咳嗽悪化と喀痰抗酸菌塗抹再陽性化を認めたほか,胸部CTで縦隔リンパ節と右下葉コンソリデーションの増大,中間幹のポリープ様病変を認めた.気管支鏡にて各病変の生検を施行したところ乾酪壊死と類上皮細胞を認めたが,抗酸菌は検出されなかった.Paradoxical reactionによる変化と考え結核治療を継続したところ症状は改善し,気管支鏡検体の抗酸菌培養陰性確認をもって治療を終了した.結論.Paradoxical reactionでは遅発性に複数の所見を呈することがあり,他疾患除外のためにできる限り組織学的診断を行うべきである.
背景.好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis;EGPA)は,気管支喘息やアレルギー性鼻炎が先行する,好酸球に富む全身性の壊死性肉芽腫性炎症である.発症初期の急性期の死亡率も数%あり,早期診断・早期治療が重要である.症例.83歳男性.37℃台の発熱と喘息発作を繰り返すため,当院を受診した.左上肺野優位に両肺に浸潤影,すりガラス陰影を認めたが,他に血管炎による所見を得られず,経気管支肺生検(transbronchial lung biopsy;TBLB)により特徴的な組織所見が得られたことでEGPAの確定診断に至った.ステロイドパルス療法の効果が不十分であり,cyclophosphamideパルス療法による治療を追加し,経過は良好であった.結論.TBLBによって診断された肺限局のEGPAはまれであり,報告する.また,80歳以上の高齢者への治療内容は慎重な検討が必要である.
背景.肺クリプトコッカス症は,基礎疾患のない健常人にもしばしばみられる.クリプトコッカス・ネオフォルマンスは肺クリプトコッカス症において検出頻度が最も高い病原体であり,肺癌,細菌性肺炎,肺結核,その他の肺真菌症と画像的に鑑別を要する.我々の調べた範囲では,ガイドシース併用気管支腔内超音波断層法(endobronchial ultrasonography using a guide sheath:EBUS-GS)における肺クリプトコッカス症の超音波画像所見に関する報告は,これまで存在しない.症例.免疫不全をきたす疾患の既往のない55歳男性が,無症状ではあるものの,増大する多発性の右下葉結節影を呈した.EBUS-GSを用いて経気管支生検を行い,気管支内超音波検査でheterogenous pattern with hyperechoic dots and short lines(type IIIa)と確認した.病理学的解析の結果,肺真菌症と判明し,血清中にクリプトコッカス・ネオフォルマンス抗原が検出された.肺クリプトコッカス症と診断し,フルコナゾールの治療を開始した.結論.EBUS Bモード画像でtype IIIaの所見を呈した肺クリプトコッカス症の1例を経験した.
背景.長期介在気道異物の報告例の多くは無症状とされるが,経過中に症状を生じることがある.症例.75歳男性.前医でX-9年の健診での胸部X線写真で右下肺野に金属を疑う異物が認められた.無症状であったため,患者の希望により経過観察となった.X-2年のCTで少量の右胸水を指摘された.X年のCTで周囲に陰影を伴い咳嗽が出現したため,当科へ紹介された.気管支鏡所見は右B10の入口部に易出血性で肉芽様の組織を認めたが,異物を確認できなかった.そのため,異物と周囲の陰影を含めた切除のため右肺下葉切除術を行った.病理所見は異物の陥入部から末梢の肺実質には高度の線維化および形質細胞とリンパ球の集簇を認め,閉塞性肺炎に器質化を伴った像であった.結論.長期介在気道異物において周囲に陰影を伴っており,悪性疾患が否定できない場合,外科的切除を検討する必要があると考える.
背景.肺切除術後の気管支瘻の対応には難渋することが多い.症例.77歳男性.左肺癌に対して左下葉切除術,右肺癌に対して右S2部分切除術と右S9+10区域切除術を異時性に施行し,同時性3重複肺癌と診断した.右肺癌の術後2か月時に右S9+10区域切除後の気管支瘻と診断し開窓術を施行した.その9か月後にB9+10に対してEndobronchial Watanabe Spigotを留置して筋弁充填・胸郭成形術を施行したが,気管支瘻孔部の閉鎖が不十分で再度膿胸腔を形成したため再開窓した.再開窓時,気管支瘻孔部は約9 mmの大きさで,徐々に呼吸困難が出現した.苦肉の策としてDumon stentを用いることとした.Dumon stentの片側を閉鎖し,開窓部から閉鎖側を先端として瘻孔部に挿入した.その後,人工呼吸器での呼吸管理,気管切開および声門閉鎖を要したが,Dumon stent留置後4か月で自宅退院となった.結語.片側を閉鎖したDumon stentの使用は気管支瘻による呼吸不全からの回復に有効であった.
背景.続発性肺胞蛋白症(secondary pulmonary alveolar proteinosis:SPAP)は,基礎疾患を有する,抗granulocyte macrophage-colony stimulating factor(GM-CSF)抗体陰性の肺胞蛋白症(pulmonary alveolar proteinosis:PAP)と定義される.症例.48歳.男性.抗melanoma differentiation associated gene 5(MDA5)抗体陽性皮膚筋炎に合併した間質性肺炎に対して,ステロイドや免疫抑制薬で加療されていた.治療経過中に,間質性肺炎の増悪を疑われ,免疫抑制治療を強化されたが,胸部CT所見がさらに悪化した.気管支肺胞洗浄と経気管支肺生検を施行し,PAPに矛盾しない所見を認め,抗GM-CSF抗体が陰性であったことからSPAPと診断した.結論.間質性肺炎に対する免疫抑制治療中に肺病変が悪化した場合,PAPを鑑別し,気管支鏡検査の施行を検討する必要がある.
背景.異物誤嚥による気管支潰瘍の形成はいくつか報告があるものの,ほとんどは食物や歯牙であり,梅肉エキスの報告はない.症例.92歳女性.市販の梅肉エキス含有の粒状栄養補助食品を5粒食べた後から喘鳴,呼吸困難が出現し,前医を受診した.胸部CTで右底幹に高吸収異物を認め,内視鏡による除去を試みたが困難であったため当院を紹介された.局所の抗炎症作用目的でステロイドを投与し,誤嚥2日後に気管支鏡検査を施行したところ,右B9に嵌頓するオリーブ色の異物を認め,把持鉗子で除去した.除去後の内腔は全周性に浮腫を来しており,白苔や出血,壊死物質を認め一部潰瘍を形成していた.異物は症状出現前に服用した健康食品であることを確認した.除去9日後に再度気管支鏡検査を施行し,気管支潰瘍は改善していることを確認して退院となった.結論.栄養補助食品による気管支潰瘍に対して気管支鏡検査による異物除去術が奏功した症例を経験したので,文献的考察を含めてこれを報告する.
背景.原発性骨髄線維症(PMF)を含む骨髄増殖性腫瘍では,一般集団に比して悪性リンパ腫の合併が高率であると報告されているが,本邦ではPMFに合併した悪性リンパ腫の報告は少ない.症例.78歳女性.X-20年PMF発症.X-6年JAK阻害薬ルキソリチニブ開始.X年に倦怠感と乾性咳嗽が出現し,胸部CTで両肺に多発腫瘤影を認めた.入院第6病日に経気管支生検(TBB)を施行し,EBV陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断した.第8病日に発熱と呼吸不全が出現し,多発腫瘤影とすりガラス陰影の増悪を認めた.急速に呼吸不全が進行し第14病日に永眠された.結論.JAK阻害薬投与中のPMFに合併した肺原発悪性リンパ腫をTBBで診断した.PMFに合併した肺病変の鑑別の1つに悪性リンパ腫を挙げる必要がある.