背景.喀血に対する治療としては,気管支動脈塞栓術(BAE)など,肺に交通する動脈を塞栓する方法が確立されている.目的.プラチナコイルによる動脈塞栓術(AE)の,短期・長期での有効性・安全性を,喀血に関与する動脈別・疾患別に検討した.対象と方法.1998年1月から2012年12月までに,喀血に対しAEを実施した179例を対象とした.塞栓物質はプラチナコイルを用いた.さらに,気管支動脈(BA)と胸壁動脈(TA)に分け,疾患別に塞栓した動脈の結果よりBA疾患群,TA疾患群に分類し,短期・長期の成績を検討した.結果.喀血に対して施行されたAEの短期的結果は,BA疾患群が成功56例,不成功4例(成功率93.3%),TA疾患群が成功111例,不成功8例(成功率93.3%)であった.長期的結果は,BA疾患群が成功54例,不成功2例(成功率96.4%),TA疾患群が成功99例,不成功12例(成功率89.2%)で平均観察期間29カ月であった.喀血の各々の基礎疾患,塞栓した各々の動脈で短期および長期不成功について調べたが有意な差は認めなかった.また,基礎疾患と塞栓した動脈の関係についても有意な差を認めなかった.しかしBA疾患群と比較すると,TA疾患群では有意にBAEに加えTAの塞栓の割合が高く,TA疾患群(40.8%)に対しBA疾患群(1.6%)であった.死亡例や重篤な合併症例はなかった.結論.喀血に対するAEでは,TAの関与が多いと考えられる疾患群は,有意に長期不成功数が多かった.しかし,プラチナコイルにおいては,短期的な成功率は高く・合併症は少なく,喀血に対し推薦される方法であると考えられた.また,喀血にBAが主に関与する疾患では長期的にも満足する結果であった.
背景.本邦で気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage:BAL)の際に鎮静薬を常時使用する施設は37%に留まる.鎮静薬使用による気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage fluid:BALF)の回収率や合併症への影響は明らかでない.BALにおいて鎮静薬,特にフェンタニル(FNT)を使用することでBALF回収率が向上したかどうかを検討する目的に本研究を行った.対象と方法.2019年7月1日から2021年6月30日までに当院でBALを施行した患者180名を対象とした.無鎮静群,ミダゾラム(MDZ)群,MDZ+FNT群の3群に分けて,BALF回収率,鎮静薬の使用量,合併症の有無について,診療録を用いて後方視的に検討した.結果.対象患者のうち無鎮静群は19例,MDZ群は101例,MDZ+FNT群は60例であった.患者背景に有意差はなく,合併症は3群とも認めなかった.3群間でBALF回収率に有意差はなかったが,無鎮静群よりMDZ群,MDZ群よりMDZ+FNT群でBALF回収率が向上する傾向にあった.また,MDZ+FNT群ではMDZ群と比較しMDZ使用量は有意に少なかった.結論.BALの際に鎮静薬を使用,特にMDZとFNTを併用することにより,合併症を増加させることなくBALF回収率を向上できる可能性がある.
背景.気道異物は窒息の原因となり,また放置すると閉塞性肺炎や無気肺などの合併症を引き起こすことがあるため,正確な診断と迅速かつ確実な摘出が求められる.目的.気道異物症例について,その特徴や除去方法について検討した.対象.2005年から2022年までの18年間に当院で気管支鏡検査を行った気道異物症例を対象とした.結果.気道異物症例は10例であった.年齢は68歳から88歳で全例が60歳以上の成人症例であった.男性9例,女性1例と男性が多かった.呼吸困難,咳嗽,発熱などの症状がみられたが,半数程度は自覚症状がなかった.異物陥頓部位は右7例,左2例,気管分岐部1例であった.異物の種類としては歯科関連異物が5例,次いで食物関連異物が3例,PTP包装カプセルが2例であった.胸部X線写真を施行した9例のうち,X線非透過性の異物が5例,X線透過性の異物が4例であった.X線非透過性の異物は全例が歯科関連異物であった.異物は胸部CTを施行した6例全例で確認できた.異物の除去は全例局所麻酔下で行い,使用した鉗子が確認できた9例のうち,鰐口型把持鉗子が7例,生検鉗子が2例であった.異物誤嚥から摘出までの期間は1時間から半年と幅広かった.PTP包装カプセルは内部に薬剤が残っているかどうかによって除去に要する時間が大きく異なっていた.結論.気道異物は今後高齢者の症例が増加することが予想される.胸部X線写真のみでは診断に不十分であり,詳細な問診に加えてCTを用いた画像診断が必要と思われた.
背景.受傷機転が不明瞭で,画像検査や気管支鏡検査で複合的に診断した穿通性気道損傷の1例を経験したため報告する.症例.83歳男性,電動草刈り機を使用中に転倒し前胸部を打撲した.その後から咳嗽に伴い持続的な喀血を認めるようになったため当院を受診した.前頸部と前胸部に小切創を認めた.胸部CT画像では両肺に血液の吸い込みと思われるすりガラス陰影と,気管内膜様部と右前胸部皮下に異物を疑う高輝度結節を認めた.気管支鏡検査では,気管の穿通損傷が疑われたが,異物を直接観察することはできなかった.最終的には左頸部側面アプローチにより外科的に摘出された.異物は電動草刈り機の破片であった.結論.外傷が原因の気道異物を認めた症例を経験した.刺入創が小さい異物では診断が困難な場合がある.病歴を詳細に聴取し早期診断を心がけることが重要と考える.
背景.慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫(chronic lymphocytic leukemia/small lymphocytic lymphoma:CLL/SLL)は成熟B細胞が単クローン性に増殖し,末梢血・リンパ節・脾臓などに浸潤する悪性リンパ腫である.本邦では全白血病の2~3%と稀な疾患であり,過去に超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA)で診断された報告例はない.また,EBUS-TBNAによる確定診断のためには検体採取量の充分な確保が必要である.症例.76歳男性.咳嗽,血痰,呼吸困難を主訴に当院を受診した.聴診にて気道狭窄音を聴取し,胸部CTで縦隔に最大直径75 mmの腫瘤影を認めた.気管支鏡検査でEBUS-TBNAによる穿刺を5回施行し,病理組織学的検査でCLL/SLLと診断した.結論.EBUS-TBNAにより診断したCLL/SLLの1例を経験した.気道狭窄音を聴取した際はCLL/SLLを含めた悪性リンパ腫の可能性を考慮する必要がある.
背景.中枢気管支狭窄をともなうサルコイドーシスは比較的稀である.症例.71歳女性.X-4年に縦隔リンパ節腫大を指摘され紹介受診した.縦隔リンパ節に対し超音波気管支鏡下針生検を施行したが確定診断には至らず経過観察を続けた.X-2年より労作時呼吸困難,X-1年より閉塞性換気障害が出現した.気管支喘息として加療し症状および閉塞性換気障害が軽度改善した.X年2月,胸部CTにて両側区域気管支の気管支血管束が中枢側で肥厚を認めた.気管支鏡検査では右B2,左上区枝,左B6は閉塞していた.閉塞した右B2入口部から生検し非乾酪性肉芽腫を認めた.胸部CT所見,気管支生検結果からサルコイドーシスと診断した.プレドニゾロン15 mg/日を開始し,自覚症状や閉塞性換気障害は著明に改善し,気管支閉塞も気管支鏡検査で改善を確認できた.結語.進行する閉塞性換気障害を認める際には気管支狭窄をともなうサルコイドーシスを鑑別にあげ積極的に気管支鏡検査をするべきである.
背景.気管・気管支内に限局したMALT(mucosa-associated lymphatic tissue)リンパ腫は非常に稀な疾患である.予後は良好と報告されているが,進行した場合,気道狭窄に伴う症状を来すことがあり気管・気管支拡張術が必要となる.症例.75歳,女性.10か月前より持続する労作時呼吸困難を主訴に前医を受診し,胸部CTで気管腫瘍を指摘された.気管腫瘍は気管内腔の80%を占めており,確定診断と気道確保のために気管支鏡下生検とアルゴンプラズマ凝固法(APC)での気管拡張術を行った.病理組織学的診断はMALTリンパ腫であり,FDG-PET,骨髄生検で全身精査を行い,気管原発MALTリンパ腫と診断した.結論.気管支鏡下APCは気道狭窄を来した気管原発MALTリンパ腫の診断目的の生検と気管拡張術として有用である.
背景.Endobronchial ultrasound-guided transbronchial forceps biopsy(EBUS-TBFB)は,endobronchial ultrasound-guided transbronchial needle aspiration(EBUS-TBNA)に追加することで,診断の向上が得られることが報告されている.症例.65歳,女性.X年11月に自宅にて転倒し,歩行困難となったため緊急入院となった.CT画像所見から右下葉原発肺癌cT2bN2M1c,cstage IVB(右大腿部骨転移)が疑われた.組織診断を目的に,気管支鏡検査を実施した.当初右中間気管支幹を閉塞する腫瘍の鏡視下生検を予定したが,壁外性の圧迫による狭窄所見であったため,EBUS-TBNAを実施した.穿刺針の種類や術者の変更,陰圧の調整も行うが検体採取に至らなかった.オリンパス社FB433DⓇをBF-UC290FⓇに挿入し,穿刺孔よりEBUS-TBFBを試みた.超音波下に繰り返し生検した.HE染色では肺胞領域を含め採取されていることを確認し,肺腺癌と診断した.次世代シークエンス法にてRET融合遺伝子変異陽性を得たことから,セルペルカチニブの投与を開始した.2週間程度にて原発腫瘍はほぼ消失し,自宅退院となった.結論.EBUS-TBNAは肺癌組織採取に有用な検査であるが,しばしば組織採取が困難なことがある.追加手技としてEBUS-TBFBは有用と考え報告する.
背景.間質性肺炎患者には肺癌の合併頻度が高いことが知られている.浸潤性粘液性腺癌(invasive mucinous adenocarcinoma;IMA)は肺炎様の浸潤影を呈することが多く,間質性肺炎に合併した場合に画像的な鑑別が難しいことがある.症例.症例は77歳の男性.近医で間質性陰影を指摘されて当院を紹介受診し,特発性肺線維症と診断した.間質性肺炎像の一部に浸潤影を認めており間質性肺炎の線維化像とも思えたが,何らかの合併症の可能性も考えた.6か月の経過観察で左上葉の浸潤影が増悪した.増悪の経過が早いことから感染症や肺癌の合併を疑い気管支鏡検査を行った.左B4で実施した経気管支肺生検の結果,病理学的にIMAと診断し,抗癌剤治療を開始している.結論.間質性肺炎の患者では肺癌の合併を常に念頭に置くべきであり,特にIMAでは肺炎様の浸潤影を呈するため,間質性肺炎に合併した場合には画像的に鑑別が難しいことに留意するべきである.間質性肺炎に強い浸潤影が混在していた場合,積極的に気管支鏡検査を行うべきである.