背景.超音波気管支鏡下経食道的針生検法(Endoscopic UltraSound with Bronchoscope-guided Fine Needle Aspiration:EUS-B-FNA)は経食道的生検が可能な病変に広く適応可能な有用な生検手技であるが,実臨床では広く普及しているとはいいがたい.本研究では第一選択としてEUS-B-FNAを行った症例の検査成績をもとにその有用性を検証した.方法.2020年4月から2022年11月までに当院にて,EUS-B-FNAを施行した症例は45例(縦隔病変39例,肺病変6例)であった.これらの症例について診断率,合併症の有無,非小細胞肺癌であれば遺伝子変異の検索およびprogrammed cell death ligand 1(PD-L1)発現率について診療録をもとに後方視的に検討した.結果.93.3%で病理診断が得られた.検査後に介入を要した合併症は軽症の血腫を1例認めたのみであった.遺伝子パネル検査の結果が得られたのは75%,PD-L1の検索が可能であったのは82.4%であった.結論.EUS-B-FNAを第一選択としても診断率・安全性ともに過去の報告と同程度であった.EUS-B-FNAは経食道的生検が可能な病変において選択肢として考慮すべき手技であり,特に全身状態不良の患者には有用性が高い手技である.
背景.肺静脈閉塞症(pulmonary veno-occlusive disease:PVOD)は,肺静脈の狭窄・閉塞により肺血管抵抗が上昇し,肺高血圧症を呈する疾患である.初診時より肺胞出血による呼吸不全と,右心不全から脾機能亢進を呈したことによる血小板減少をきたした症例を経験したため報告する.症例.18歳男性.発熱とI型呼吸不全のために緊急入院となった.来院時著明な血小板減少(22,000/μl)を呈し,胸部CT検査では小葉間隔壁肥厚,両側胸水,両側下葉優位のすりガラス陰影と脾腫を認めた.心臓カテーテル検査で肺高血圧を認め,気管支鏡検査で肺胞出血,さらに肺機能検査では著しい拡散能の低下を認め,PVODと診断した.非侵襲的陽圧換気療法を一時要したが,体液管理と酸素投与により,呼吸状態および肺野の陰影や血小板減少は改善し,在宅酸素療法を導入し退院した.結論.PVODは不顕性の肺胞出血を呈することがあり,早期診断には,気管支鏡検査が有用であった.さらに重度の右心不全による脾機能亢進が,本症例では血小板減少をきたしたものと考えられ,教訓的なPVODの1例を経験したため報告する.
背景.クリプトコッカス胸膜炎は稀な疾患であり,診断に局所麻酔下胸腔鏡検査が用いられた報告は極めて少ない.症例1.78歳男性.近医より胸部単純X線検査で左胸水を指摘され当院へ紹介となり,精査目的に局所麻酔下胸腔鏡検査を施行した.胸膜生検組織培養からCryptococcus neoformansが検出され,クリプトコッカス胸膜炎と診断した.症例2.79歳男性.近医より胸部単純X線検査で左胸水を指摘され当院へ紹介となり,精査目的に局所麻酔下胸腔鏡検査を施行した.胸膜生検検体から莢膜を伴う酵母様真菌が検出され,クリプトコッカス胸膜炎と診断した.症例3.78歳男性.特発性器質化肺炎に対しステロイド治療中に右胸水が出現したため,精査目的に局所麻酔下胸腔鏡検査を施行した.胸膜生検組織培養からCryptococcus neoformansが検出され,クリプトコッカス胸膜炎と診断した.結論.局所麻酔下胸腔鏡検査による胸膜生検はクリプトコッカス胸膜炎の診断に有用であった.
背景.有瘻性膿胸は外科的治療を要する場合が多いが,外科治療困難な場合,他の治療選択肢として気管支充填術がある.症例.88歳,男性.前医に右膿胸で入院し,胸腔ドレナージと抗菌薬投与による保存的治療が行われたが,経過中に胸腔ドレーンより著明なエアリークが持続したため,有瘻性膿胸の診断で治療目的に当科へ転院搬送された.入院後の胸部CTで同定された気管支瘻孔部位へ,Endobronchial Watanabe Spigot(EWS)を用いた気管支充填術を術中cone-beam CT(CBCT)併用にて行うこととした.右B6に4つのEWS挿入を行い,CBCTを撮像し,責任気管支がCBCT画像上でも充填されていることを術中に確認した.術後,エアリークの消失とデッドスペースの縮小を認め,ドレーンを抜去し退院とした.結語.有瘻性膿胸に対する治療としてCBCT下でのEWSによる気管支充填術が奏効した1例を経験した.CBCTは目的とする気管支への確実な充填術を支援する有用なツールの1つと考えられ,報告する.
背景.難治性肺瘻に対し気管支塞栓術施行中に縦隔気腫および対側の緊張性気胸を発症した症例を経験したので報告する.症例.67歳女性.肺非結核性抗酸菌症で前医通院加療中,咳嗽後の呼吸困難を契機に右気胸と診断され前医入院し胸腔ドレーンが2本留置されたが改善なく外科治療目的に当院へ転院した.当院にて気管支塞栓術施行中,左前胸部に著明な皮下気腫が出現.意識レベルと酸素化の低下を認め緊急に気管挿管.CT検査で左気胸・縦隔気腫・皮下気腫・後腹膜気腫の新出を認め,左胸腔ドレナージを行った.以後経過は安定し,気管支塞栓術施行10日後に自宅退院した.結語.これまで気管支塞栓術中に対側の気胸を発症したという報告例はなく,考察を交え報告する.
背景.間質性肺炎(interstitial pneumonia:IP)に合併した気胸の治療ではIPの急性増悪が問題となり,手術成績は不良である.胸膜肺実質線維弾性症(pleuroparenchymal fibroelastosis:PPFE)合併気胸に対して手術を行い良好な経過が得られた報告は少ない.症例.69歳,男性.PPFEの診断で在宅酸素療法を導入されていた.両側軽度気胸を発症し経過観察されたが,左気胸が進行した.胸腔ドレナージ後に自己血による胸膜癒着療法を6回行ったが奏効せず,右側にドレーンを留置後,左気胸に対し胸腔鏡補助下肺瘻閉鎖術を行った.IPの急性増悪を予防するため手術手技を工夫し,肺保護換気を行った.術後は合併症なく,術後9日目に退院となった.術後5か月間左気胸の再発なく経過した.結語.PPFE合併気胸であっても,IPの急性増悪に注意し手術を遂行することにより良好な転帰が得られる可能性がある.
背景.超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA)の際,バルーン非使用下で穿刺可能な病変についての報告は少ない.症例1.70代,女性.ゴム手袋にアレルギーあり.ぶどう膜炎の精査中に多発リンパ節(#4R,#7)腫大を指摘された.症例2.40代,男性.ゴム手袋にアレルギーあり.肺腺癌の術後経過観察目的に撮像したCTで縦隔リンパ節(#7)の腫大を指摘された.結果.症例1,2ともに,バルーン非使用下に腫大した縦隔リンパ節に対してEBUS-TBNAを施行した.症例1は#7が短径10 mm,#4Rが短径15 mm,症例2は#7が短径17 mmと腫大しておりバルーン非使用下でも十分に病変の描出・穿刺が可能であった.症例1はサルコイドーシス,症例2は肺腺癌術後再発と診断した.結論.バルーン非使用下にEBUS-TBNAを行う際,標的病変の穿刺難易度を検査前に評価しアプローチが比較的容易と考えられる病変を選択するなど十分に準備した上で検査に望むことが重要である.
背景.関節リウマチ患者ではしばしば胸水貯留を認めるが,アミロイドーシスが胸水貯留の原因とされる症例は稀である.症例.71歳の女性で,35年前から関節リウマチを発症し長い薬物治療歴がある.4年前から腎機能が悪化し,しだいに呼吸困難を訴え,左大量胸水を指摘され当院に紹介となった.局所麻酔下胸腔鏡検査の結果,壁側胸膜にAAアミロイドの沈着を認め,関節リウマチに関連した続発性AAアミロイドーシスの胸膜病変と診断した.エタネルセプトによる治療を開始したところ,血清アミロイドA蛋白の低下に伴い,胸水の減少と呼吸困難の改善を認めた.結論.関節リウマチ患者に難治性胸水が合併した際には,続発性AAアミロイドーシスも鑑別に挙げ,胸膜生検を施行しアミロイド沈着を検索することが重要である.