生態・環境緑化研究部会では,熊本地震からの復旧,復興に寄与する活動として,2017年に現地見学会およびシンポジウムを熊本にて開催した。この中で,災害復旧が地域の生物多様性に与える影響を懸念する声が多数あがった。これを受けて,同部会では「阿蘇小規模崩壊地復元プロジェクト」を立ち上げ,波野において,地域性種苗の調達から導入するまでの一連のプロセスを実践している。花暦の作成,写真展や自然観察会の開催などの活動も始まっており,地域経済や地域社会の活性化にもつながっている。現在では,波野に加えて新たな地域での活動も展開している。
本稿では,地域性種苗を取り巻く課題を再整理し,その解決に向けての取り組み事例の概要をまとめた。その結果,種子流通,特に採種方法と種子選別,これらに関する信頼できるビジネスモデルの不在と,技術開発が進んでいないことが明らかになった。また,地域性種苗を取り扱う施工技術のコストダウンの取り組みも十分とは言えなかった。このため,本学会として取り組まなければならない課題は,1)発芽を安定化させる種子の取り扱い技術の開発,2)低密度播種工や種子付枝条播き工法など簡易播種工の開発,3)取り扱える植物種を増やす,これらの事例を積み上げることで社会信用を高めることが考えられた。種子流通のコストダウンも課題であり,4)種子採種の高精度化,5)種子生産/流通のビジネスモデル化,そのための地域協働が重要で,今後は農村社会学や地域経済学の研究との文理融合や地域との協働の必要性はさらに増すとみられた。
夏季雨天時の緑地観賞による生理・心理的効果を明らかにするために千葉大学松戸キャンパス内の緑地にて検証実験を行った。その結果,生理的効果は確認されなかったが,雨天時の緑地観賞後はPOMSの「緊張―不安」,「抑うつ―落ち込み」,「疲労」といったネガティブな感情が緑地鑑賞前よりも有意に減少しており,雨天時においても緑地の心理的効果を得られることが明らかとなった。さらに,雨天時に体調不良を感じやすい人ほど,雨天時の緑地の心理的効果が高い傾向も確認された。一方,夏季晴天時では高温や不快害虫の存在からほとんど心理的効果が認められず,緑地の心理的効果を得るのが困難な条件の存在も示唆された。また,緑地タイプによる心理的効果の違いはほとんど見られず,緑地タイプによらず心理的効果を得られることも明らかとなった。印象評価の結果では天候により緑地の印象は大きく変わらない傾向も示され,晴天時同様の印象で雨天時の緑地も利用できると考えられた。
植生工に対するシカの採食被害が懸念される地域においてシカとの共生が可能なのり面緑化手法の有効性を確認するため,ノシバ種子の植生シートに亀甲金網および採食被害を軽減させる目的で立体金網を敷設したもの,一般的な緑化植物種子の植生マットの3工法による比較試験を行った。ノシバ種子の2工法は,施工2生育期後には共に植被率95%を越え,施工3年2ヶ月後まで植被率を維持した。一般的な植生マットの植被率は,施工当年の1生育期後には88.3%,2生育期途中には91.7%となったが,以後シカの採食被害を受け施工3年2ヶ月後には61.7%と衰退していった。導入種とシカの採食被害度は,ノシバのように採食被害が激しくても生存できる種,採食被害を受けて衰退する種,採食被害をあまり受けず生育する種など緑化植物でも採食に対して多様な反応を示すことがわかった。施工3年2ヶ月後に亀甲金網と立体金網を設置したノシバの区を比較すると,立体金網区の草丈が高くなったが,植被率や出穂数に差はなかった。シカ採食被害が懸念される地域でも,ノシバを活用した緑化は,立体金網などの採食被害軽減をはかる対策などを併用する必要は少ないのり面緑化手法になり得ると考えられた。
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