日本緑化工学会誌
Online ISSN : 1884-3670
Print ISSN : 0916-7439
ISSN-L : 0916-7439
49 巻, 1 号
選択された号の論文の36件中1~36を表示しています
論文
  • 大澤 啓志, 廣瀬 文人
    2023 年 49 巻 1 号 p. 3-8
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    カワラナデシコが野外で埋土種子集団を形成するか否かを検証するため,夏季の海岸砂丘の表土内(深さ5 cm)の種子密度及び種子発芽能を調べた。前年かそれ以前産の種子が,26地点の合計で194個/0.52 m3(186.5個/m2)確認された。表土中の種子密度はコウボウシバ群落が最も高く,シバ群落,ヒメヤブラン群落,ハイネズ群落の順であった。発芽試験での累積発芽率は,恒温・暗条件では21.6%であったが,太陽光を当てる変温条件に置くと85.6%に増加し,吸水だけでは休眠が解除しない種子が多く含まれることが明らかにされた。本種は春季を過ぎても発芽能を有する種子が表土中に残存し,埋土種子集団を形成することが示された。

  • 山田 夏希, 森本 淳子, 中村 太士
    2023 年 49 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    表層崩壊後3年目の崩壊斜面において, 植物種の多様性に貢献する環境要因を解明した。土壌侵食の抑制に寄与する環境要因をSpearmanの順位相関係数を用いて評価した。また,植物種の多様性向上に貢献する環境要因を, GLMMで評価した。その結果, 生物学的遺産による土壌侵食防止効果が認められ, 植物の初期侵入に寄与していることが示唆された。また,生物学的遺産に含まれる攪乱前の植物と,新規侵入植物の根系を支持する土壌硬度が種多様性を向上させた。以上より, 適度な土壌硬度と生物学的遺産が, 積雪寒冷地の緩傾斜地における表層崩壊地の植物種の多様性に寄与していることが明らかになった。

  • 鎌田 美希子, 岩崎 寛
    2023 年 49 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    近年,働き方の多様化によりシェアオフィスが増加している。一方で,勤務者のストレスが社会問題となり,対策としてオフィス緑化が注目されているが,シェアオフィスを対象とした研究はほとんど見られない。また既往研究から園芸療法などのプログラムがストレス緩和に有用であることが報告されている。そこで本研究では,シェアオフィスにおける植物プログラムが勤務者の心理に与える影響を明らかにすることを目的とし,実際のシェアオフィスで働く勤務者を対象に共用部の植物を用いた植物プログラムを実施,その心理的効果の検証を試みた。その結果,植物プログラムが勤務者の感情状態や主観評価の改善に有効であることなどが明らかとなった。

  • 駒ヶ嶺 光, 法理 樹里, 松下 京平, 深町 加津枝
    2023 年 49 巻 1 号 p. 21-26
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    本研究は,小学生時の自然体験と,その後の自然との感情的つながり,環境態度,環境配慮行動との関係性を把握することを目的とした。アンケート調査によってデータを収集し,分散分析を行ったところ,自然との感情的つながりと環境配慮行動の頻度は,小学生時の自然体験の頻度が高いほど有意に高かった。環境態度には自然体験の頻度は関係しなかった。また,自然体験の体験地域は,自然との感情的つながり,環境態度,環境配慮行動に関係しないことが明らかになった。

  • 小宅 由似, ファン=クイン=チ , 小山 克輝, 河野 遼人, 紙本 由佳理, 中原-坪田 美保, 坪田 博美
    2023 年 49 巻 1 号 p. 27-32
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    自然公園区域内での開発に伴う法面緑化の知見蓄積のため,宮島の最終処分場法面における地域性種苗による緑化後2年までの成立植生を明らかにした。1年半経過時にニホンジカによる食害が確認された。1年8ヶ月経過時点で高さ1.41~1.95 mの草本群落が成立していた。斜面上部より下部の出現種数と植被率が高い傾向にあり,種多様性や遷移度の増加もみられた。ヨモギが優占するコドラートでは目標植生構成種のアラカシが被圧されていた一方,外来寄生生物アメリカネナシカズラが多いコドラートでは種多様性や遷移度の増加傾向がみられた。優占する大型草本の高さの抑制に起因すると考えられ,刈取りなどの管理が必要と示唆された。

  • 平野 尭将, 隅倉 光博
    2023 年 49 巻 1 号 p. 33-38
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    光条件および踏圧がバミューダグラス3品種(Celebration,TifGrand,Tifway)に及ぼす影響の評価を目的として,LED補光装置による室内生育実験を実施した。実験は異なる日積算光量と踏圧処理条件を組み合わせ5条件で実施した。数量化Ⅰ類による分析の結果,Celebrationはポット枠外乾燥重量が多く,TifGrandはポット枠内乾燥重量が多い。日積算光量は供試植物の地上部と地下部乾燥重量の増減に与える影響が大きく,踏圧処理は地下部や匍匐茎の乾燥重量の増減に与える影響が大きい。そのため,日射を取り込む工夫や踏圧により発生した生育被害に応じた養生期間の調整が重要である。

  • 濱田 碧, 岸本 大地, 中島 敦司
    2023 年 49 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    チカラシバの発芽促進処理方法を明らかにすることを目的に,総苞毛や籾殻を除去した穎果と除去していない小穂に対して発芽実験を行った。その結果,15℃~30℃下では穎果の方が小穂よりも早く発芽し,特に,15℃や20℃下では半月早く80%の発芽率に達した。10℃で播種した場合,5℃または15℃で保存した小穂と穎果は採取直後よりも1ケ月以上早く発芽することがわかった。また,傷を付けた穎果は無傷の穎果や小穂より早く高い発芽率に達した。発芽した穎果の含水率は未発芽の小穂内にある穎果よりも高く,総苞毛や籾殻は小穂内の穎果の吸水を阻害している可能性が考えられた。

  • 鍜冶元 雅史, 中村 大, 渡部 樹, 川口 貴之, 川尻 峻三, 宗岡 寿美
    2023 年 49 巻 1 号 p. 45-50
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    本研究では,凍結融解履歴が植生工の侵食防止効果に与える影響を評価するための研究手法について検討した。具体的には,ケンタッキーブルーグラス(Poa pratensis L.)を生育させた供試体を作製し,これに凍結融解履歴を与えた上で侵食試験を実施している。侵食試験には,既往研究で開発された侵食試験装置と侵食試験方法を採用した。また,凍結融解履歴は供試体表面に冷却盤を設置し,これを低温恒温水槽で制御することで与えた。試験の結果から,本研究で用いた研究手法で,凍結融解履歴による植生供試体の侵食抵抗の低下を定量的に評価できることが確認できた。

  • 島田 博匡
    2023 年 49 巻 1 号 p. 51-56
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    スギ・ヒノキ人工林において間伐が水平根補強強度に及ぼす影響を明らかにするために,三重県内の間伐後6~11年経過したスギ林,同6~8年経過したヒノキ林各5カ所の間伐実施林分において間伐区と間伐を行わなかった無間伐区の水平根補強強度を比較した。水平根補強強度は立木間中央における水平根分布データにRBMwを適用して推定した。いずれの樹種でも,間伐区では,無間伐区よりも立木間距離が大きいにも関わらず補強強度は同程度であり,間伐直後に一時的に低下した補強強度が回復傾向にあると考えられた。補強強度は立木間距離が大きいほど小さく,ヒノキ林では同じ立木間距離で間伐区が無間伐区よりも大きい傾向がみられた。

  • 上田 晋輔, 岡 浩平, 平吹 喜彦, 松島 肇
    2023 年 49 巻 1 号 p. 57-62
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    本研究は,仙台湾沿岸の津波被災地を対象に,外来植物オオハマガヤの分布と海浜植物への影響を解明するために実施した。まず,小型UAV による空撮画像を用いて,オオハマガヤと在来のテンキグサのパッチ分布を調べた。次に,オオハマガヤが繁茂する範囲に5 本の測線を設け,合計155 地点で植生と光環境を調べた。オオハマガヤは,テンキグサに比べて,防潮堤より陸側の地盤高1.0~2.0 m に多かった。また,オオハマガヤの被度や植物高が高い場所ほど,相対光量子束密度が低く,海浜植物の被度や種数も低値を示した。以上のことから,オオハマガヤによる被陰により,防潮堤より陸側では,海浜植物の生育が阻害されやすいと考えられた。

  • 宇高 優介, 中村 大, TUMURKHUYAG Zorigt, 川口 貴之, 川尻 峻三, 宗岡 寿美
    2023 年 49 巻 1 号 p. 63-68
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    本研究では,クサヨシ(Phalaris arundinacea L.)を生育させた供試体を作製し,のり面の極表層の土被り圧を模擬した低鉛直応力の定圧一面せん断試験を実施した。試験結果から,外来種のケンタッキーブルーグラス(Poa pratensis L.)を用いて実施された既往研究と同様に,クサヨシにおいても根系が発達した供試体ほど,大きなせん断変位においてせん断抵抗が増加し,土の靭性を向上させていることが明らかとなった。また,自生種のクサヨシを用いた植生工においても,適切な時期に播種を行うことができれば,ケンタッキーブルーグラスと同程度もしくはそれ以上の補強効果を得られることが確認できた。

  • 田中 慶太, 深町 加津枝
    2023 年 49 巻 1 号 p. 69-74
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    京都市鞍馬本町の伝統行事「鞍馬の火祭」では, 松明の「柴」として太さ1~2 cm のコバノミツバツツジなどの広葉樹中低木種の萌芽枝が用いられてきたが, 近年, 同町内での調達が難しくなっている。本研究では, 鞍馬本町におけるコバノミツバツツジの潜在生育地の推定や, 立地検討, 現地調査を行い, 資源利用ポテンシャルを明らかにした。同種の生育特性を基にしたGISによる推定の結果, 同町内全域の33.2%が潜在生育地と判定された。また, 聞き取り調査や現地調査の結果, 現状1年あたりに使用可能な同種の萌芽枝は, 松明に必要な量の約30分の1であり, 資源利用ポテンシャルは低く, 生育環境改善が必要であることが示唆された。

  • 小林 徹哉, 前中 久行, 大野 朋子
    2023 年 49 巻 1 号 p. 75-80
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    公園緑地や植物園では緑化樹や観賞用樹木として,その地域に自生しない国産樹種や外国産樹種が植栽されてきた。本研究では,これら非在来樹種の実生が周辺の植生,地域環境に及ぼす影響を調べるために,神戸市立森林植物園をフィールドに非在来樹種の実生の発生状況を把握し,その母樹の位置を確認した。その結果,非在来樹種の実生19種,139本を確認した。散布様式別では,動物散布の樹種は9種102本,風散布の樹種は9種41本を確認した。木本の開花・結実は,実生で発生した後数年かかることから,非在来樹種の園外への逸出・拡散を防ぐには,結実する成木にならないよう,数年に1度の周期で刈取るなど適切な管理が必要である。

技術報告
  • 山口 侑希, 岡 浩平
    2023 年 49 巻 1 号 p. 83-86
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    本研究は,瀬戸内海沿岸部の小規模な砂浜海岸を対象に,漂着物が帯状に堆積した打ち上げ帯に着目し,植生の種組成や立地環境に関する基礎資料を得ることを目的とした。調査は,広島県3か所,愛媛県1か所の計4か所を対象に,打ち上げ帯の出現種とそれらの生育する標高を調べた。調査の結果,突堤に囲まれた開放度が小さい地点では,外来植物のホコガタアカザや塩生植物のホソバハマアカザの個体数が多かった。また,開放度が大きい地点ほど,打ち上げ帯の出現種の標高が高くなった。これらのことから,波による攪乱の頻度や強度が打ち上げ帯の種組成や標高に影響すると考えられた。

  • 荒瀬 輝夫, 内川 義行
    2023 年 49 巻 1 号 p. 87-90
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    長野県根羽村では山地酪農が進められており,その一貫として,餌資源活用と植生管理の目的で,斜面林(隣接する遊休農地を含む)への林間放牧が2019年に行われた。本研究では,放牧前と放牧後3年間の植物群落調査を行い,植生変化を解析した。現地の植生は斜面林6群落,草地4群落に区分され,放牧区域外の1群落(カラマツ-ヒノキ林)を対照区とした。放牧後,ササ類の稈密度はスギ林以外で回復した一方,稈高は矮化した。ササ類以外の種組成の変化は顕著ではなく,放牧後に増加した種と減少した種とで生育型組成の一致度が低かった。また,斜面林と草地の境界付近の群落で,雑草類の侵入種数,消失種数とも多い傾向が見られた。

  • 田崎 冬記, 川嶋 啓太, 青木 菜々花, 石田 憲生, 稲垣 乃吾
    2023 年 49 巻 1 号 p. 91-94
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    釧路湿原の茅沼地区(KP32 周辺右岸)の蛇行復元箇所周辺のハンノキ高木林において,地下水位の高さに応じて3段階の試験区を設定し,環状剥皮を行い,枯死状況,萌芽状況,種子結実割合,下層植生の湿生植物の種数等について3年間追跡調査を行った。その結果,枯死木は環状剥皮2年後から増加し,地下水位が高い程,枯死木が増加した。葉面積は,環状剥皮1年後には対照区の1/4程度まで低下したが,その後は回復し,対照区との差は小さくなった。湿生植物の種数も環状剥皮3年後までは大きな変化は見られなかった。当該地区では湿原内のハンノキ高木林が枯死した後もヨシ・スゲ類等の湿原植生に変化するには更に時間が必要であると考えられた。

  • 中村 華子
    2023 年 49 巻 1 号 p. 95-98
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    2011年の地震による地盤沈下,津波により海岸線が後退,洗掘され,それとともに多くの砂浜や海岸林,海岸植物群落も消失した。時間の経過とともに地盤高が上昇し,砂礫が堆積してくると,海岸植物の定着,群落の拡大が確認されるとともに種数も増加した。一方,その後同じ立地環境では復旧工事等による人工的な改変をうけて再度,多くの植物群落が消失した。気仙沼市波路上地区における10年間の海岸植物の定着,消失および生育環境の変化を報告する。

  • 古野 正章, 伊津見 和広, 田中 淳, 内田 泰三
    2023 年 49 巻 1 号 p. 99-102
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    熊本地震で崩壊した,熊本県南阿蘇村火の鳥温泉地区の斜面の復旧事業において,地域性系統のススキの種子が導入された法面の,施工後3年目の植生の状態を調査した。その結果,対象法面では,ススキが優占する群落が形成されていた。また,ネコハギ(Lespedeza pilosa (Thunb.) Siebold et Zucc.),ヤハズソウ(Kummerowia striata (Thunb.) Schindl.),ヤブツルアズキ(Vigna angularis (Willd.) Ohwi)などの多くの自然侵入種もみられた。他方,対象法面で成立している植生は,大きく3つのタイプがみられることも明らかとなった。

  • 寺本 行芳, 下川 悦郎, 江﨑 次夫, 土居 幹治, 松本 淳一
    2023 年 49 巻 1 号 p. 103-106
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    豪雨によって崩壊した林業専用道の切取法面を対象にして,地質の違いが崩壊発生とその後の植生回復に及ぼす影響を検討するための現地調査を行った。切取法面は軽石層あるいは砂岩と花崗岩の互層から構成されていた。調査の結果,軽石層の方が砂岩と花崗岩の互層の切取法面に比べ,崩壊面積,崩壊土砂量,同程度の切取高に対する崩壊面積と崩壊土砂量は大きく,崩壊地に自然侵入した木本植生の個体数と種数は少なく,同木本植生の最大樹高は低いことが明らかになった。この理由として,軽石層の切取法面の方が,雨水による崩壊に対する抵抗力が弱く,土砂移動が発生しやすい条件であったため,植生の生育環境も厳しかったことが考えられた。

  • 夏目 壽一, 川西 良宜
    2023 年 49 巻 1 号 p. 107-110
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    伊勢自動車道(玉城IC~伊勢西IC)は,伊勢神宮の内宮と外宮の中間を通過すること,また,伊勢志摩国立公園の一部を通過することから,計画当初より神宮司廳,環境庁(現環境省)との協議が行われた。神宮司廳との協議で,森林を中心とする生態系の破壊の防止に留意すること,特に大型動物の行動圏の維持のため横断路の確保に取り組むことの2 点を自然環境保全方針とした。沿線の生態系保全に係る事前調査と様々な保全策を実施し,計画路線周辺の自然豊かな動植物の生息・生育環境の保全に配慮したエコロードとして整備された。供用後30年目の調査を含む,過去5回の自然環境追跡調査結果から,保全策は保全方針を満足し,沿線の生態系の維持に役割を果たすことを示した。

  • 小林 拓真, 有本 智, 中島 敦司
    2023 年 49 巻 1 号 p. 111-114
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    ゲンジボタルとヘイケボタルの両種が確認される和歌山県孟子不動谷において,発生時期と分布の違いを明らかにする目的で,夜間の発光個体数調査と生息環境の調査を行った。その結果,ヘイケボタルはゲンジボタルよりも発生時期が長く,発生ピークが複数回あることが確認された。また,ゲンジボタルは湛水域を伴う水田区画に隣接した細流沿いに,ヘイケボタルは湛水域を伴う水田区画内に個体が集中していた。さらに,ゲンジボタルの発生地点は,発生初期から終盤にかけて下流域から上流域までだったことに対し,ヘイケボタルの発生地点は,発生初期には上流から下流までだったが,発生期間の中盤以降は下流域に限定された。

  • 楠瀬 雄三, 福井 亘
    2023 年 49 巻 1 号 p. 115-118
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    海岸クロマツ林は海浜や集落と隣接していることが多く,これらの環境の様相は地域ごとに異なり,それが海岸クロマツ林とその周辺における生物群集の多様性や地域差の要因となっていると考えられる。本研究では,海岸クロマツ林とその周辺の生物群集の1事例として,高知市種崎で鳥類群集を調べた。結果,繁殖期でのクロマツ林の優占種は周辺環境の利用形態が異なること,越冬期の種組成に調査地の孤立化が影響を与えている可能性があること,全体の種多様性に海浜の種組成が寄与する程度が高い可能性があることなどが明らかになった。

  • 松本 薫
    2023 年 49 巻 1 号 p. 119-122
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    小面積皆伐により更新した22年生以下(22,21,13,8年生)の林と50年生以上の大径木の林におけるナラ枯れ被害を比較した。被害は胸高直径11.6 cm 以上のコナラで確認された(8年生は被害なし)。穿孔密度を目的変数,周辺木の影響(5,10,15 m 範囲の本数と胸高断面積合計,平均穿孔密度,前年被害木の有無),園路からの距離,胸高直径を説明変数として,22年生以下と50年生以上について解析した。変数の重要度を比較した結果,22年生以下の若い林では,太い木を選んで集中穿孔し,単木的な被害であった。対して,50年生以上の大径木では,太い木に加えて,周辺5 mの穿孔密度が高いほど集中穿孔しており,周辺木を含んだ被害であることが判明した。

  • 梅原 瑞幾, 荒井 菜穂美, 田中 希依, 今井 一隆, 日下部 友昭, 岩崎 寛
    2023 年 49 巻 1 号 p. 123-126
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    働き方改革の一環として,オフィス以外の空間をワークプレイスとして利用することが検討されている。身近な緑地空間である公園はその選択肢の1つとしてあげられるが,実際に公園で勤務利用した際の心身への効果や,ワークプレイスとして必要な設備などに関する研究は,ほとんど見られない。そこで本研究では,公園をワークプレイスとして利用した際の心理的効果や必要な設備の把握を目的とし,国営昭和記念公園を対象に実証実験を行った。その結果,公園内で勤務することは通常の勤務に比べ,心理面,仕事面いずれの主観的評価も改善することや,Wi-Fiや電源などの整備が必要であることなどが明らかとなった。

  • 荒井 菜穂美, 梅原 瑞幾, 藤川 淳, 岩崎 寛
    2023 年 49 巻 1 号 p. 127-130
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    近年の働き方改革の推進や新型コロナウィルス感染症(COVID-19)拡大により,新しい環境に適したオフィスの形態として,「フリーアドレス」を導入する企業が増加している。

    そこで本研究では,フリーアドレスを採用するオフィスに複数種の植物区を設置し,植物によるストレス緩和効果やコミュニケーションの活性化等の検証を行った。その結果,植物設置により勤務者の心理面の改善や職場環境への満足度の向上がみられ,設置期間が長くなるとその効果がさらに上昇し,植物撤去後も継続することがわかった。一方で,フリーアドレスに対しては,席の移動を好まない一定数の勤務者によるネガティブな印象もあったが,実験実施によりポジティブな印象が増加した。

  • 星田 遼太, 長谷川 啓示, 高橋 輝昌, 岩崎 寛
    2023 年 49 巻 1 号 p. 131-134
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    既往研究よりウレタン樹脂混入芝における歩行は,通常の芝での歩行に比べ印象評価が良いことなどが報告されているが,リハビリや運動の場として検討する場合,膝や腰への負担といった物理的側面からの評価が求められる。足底圧は利用者の足裏へ体重負荷を測定したものであり,その圧力の分散程度により,膝や腰への負担が評価できる指標である。そこで本研究ではウレタン樹脂混入芝を歩行した際の足底圧について測定し,コンクリート板を歩行した際の結果と比較することにより,足底圧の分散傾向を把握することを目的とした。その結果,ウレタン樹脂混入芝は,コンクリート板に比べ,足底圧が分散される傾向が見られた。

  • 岩崎 寛, 矢羽田 明照, 中村 純子, 関根 大樹
    2023 年 49 巻 1 号 p. 135-138
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    既往研究から,オフィスにおける個人デスクへの植物設置が勤務者のストレス緩和や仕事のはかどりなどに有効であることが報告されている。一方,植物への反応においては,特性不安傾向による違いなど,個人差があることも報告されている。不安傾向が高い場合は,休職などに繋がる可能性も高く,その対策が求められる。そこで本研究は,特性不安傾向の違いによる植物設置の効果を明らかにすることを目的とし,オフィスの個人デスクへの植物設置による心理指標の測定を試みた。その結果,高不安群の方が,低不安群に比べ,植物設置により,感情状態(POMS2)や仕事や職場に対する主観評価(VAS)が改善することが明らかとなった。

  • 小島 仁志, 小谷 幸司, 石川 さくら
    2023 年 49 巻 1 号 p. 139-140
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    寺院に多様な植物が植栽される所以は,仏教の教義の一部が植物生態や種名の由来等に喩えて説かれることに因る。そのような寺院敷地の植物は,季節を彩る景観構成要素として,また地域の緑地保全においても重要な存在である。今日では,持続的社会の実現推進から地域の自然資源を活用した課題解決手法やその価値の見える化に資する社会学的研究も求められている。本研究では,神奈川県藤沢市遊行寺を対象地に,来訪者がもつ境内植物の印象,またその保全的価値についてアンケートを行った(n=200)。結果,寺院の持つ歴史文化にならび,植物の存在が来訪契機や寺院自体の魅力向上に関与していることがわかった。

  • 金 甫炫, 松本 浩
    2023 年 49 巻 1 号 p. 141-144
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    グリーンインフラが有する多様な機能は,近年,流域治水などの防災減災を含め,様々な場面において,その役割への期待が高まっている。その計画等においては,他部局間の連携や合意形成等のため,標準的に使用できるデータが求められるが,都市計画の基礎調査や緑の基本計画の策定・改定の際に土地利用等,緑地の分布やボリュームを把握するためのものが多く,グリーンインフラや治水等に関連した活用はほとんどされていない状況である。本研究は,グリーンインフラや緑地の計画等で行う現況把握,シナリオ分析等に活用可能な緑地に関連する地表面データの現況と課題を把握することを目的として実施した。

  • 青柳 一翼, 矢嶋 準, 森岡 千恵, 瀬口 栄作, 中嶋 聡, 中尾 浩康, 加藤 薫, 杉山 智治
    2023 年 49 巻 1 号 p. 145-148
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    琵琶湖南東岸に分布する松林(約13 ha)は,樹木の密生化に伴い計画的な密度調整が必要となり実行計画を策定したが,マツ類の位置図が整理されておらず,具体的な密生状況の把握が困難であった。このため,マツ類の個体ごとの位置等の情報についてUAV等を活用した3次元レーザ計測により樹木位置・樹高・幹直径 の計測を行い,約6,000本のマツ類の個体情報を取得してGISデータベースを作成した。これにより密度管理対象木の迅速な現地特定の他,密度管理作業の効率的な進捗管理を図った。人工林以外の樹林を対象とした点群データからの樹木寸法計測事例は少ないため,代表区画にて取得したデータの現地検証を行い,精度検証と検出誤差を精査し,95.6%の検出率を得た。

  • 平林 聡
    2023 年 49 巻 1 号 p. 149-152
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    樹木による大気中からの二酸化炭素の吸収および樹木体内への炭素固定は脱炭素社会を実現するための重要な要素である。しかし日本全国におけるその定量的な評価は概算を行うための手法に限られているのが現状である。また関東圏にある圃場での実測値に基づく二酸化炭素吸収量推定のためのアロメトリー式が存在するが,別の地域での算出には適していない。そこで本研究では,i-Tree Ecoの炭素固定量算出に用いられている地域ごとの樹木成長期間,樹勢,露光環境に基づく調整手法を適用することで,これら関東圏でのアロメトリー式を日本全国に適用可能とした。

  • 大西 竹志, 石黒 一弘, 石栗 太, 飯塚 和也, 根津 郁実
    2023 年 49 巻 1 号 p. 153-156
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    都市緑地は,多様な役割があり,最近では脱炭素社会および循環型社会構築への貢献も求められてきている。本研究では,緑化樹木の植栽基盤へのバイオ炭施用によるCO2固定効果を評価することを目的とした。植栽基盤(黒土およびマサ土)に数種類のバイオ炭(木炭,竹炭およびもみ殻くん炭)を混合し,造園樹木の苗木の生育試験(9月~12月)を行った。得られた結果より,CO2固定効果と緑化樹木の生育効果の最適化を考察した。いずれのバイオ炭を土壌に施用した場合でも,植物生育の明確な阻害は確認されなかった。また,バイオ炭の施用割合別に,植栽基盤に固定することのできるCO2量は,0.03~0.24 t-CO2/m3と試算された。

  • 服部 紘依, 木村 圭一, Undarmaa Jamsran, 大黒 俊哉
    2023 年 49 巻 1 号 p. 157-160
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    草原の劣化が進む乾燥地では,播種による緑化効率を高めるための種子コーティング技術の開発が進められているが,その適用には対象地の環境や用途に合わせた手法の適正化が必要である。本研究では北東アジアの荒廃草原における緑化候補植物として注目されているイネ科一年草Chloris virgata Swartz を想定した種子コーティング手法の開発を試みた。結合剤としてヒドロキシエチルセルロースを,充填剤として珪藻土を用いたコーティング手法を検討し,凝集種子数が3種子以上,粒径2.0~4.0 mmのペレットを安定的に作成する作業手順の妥当性を確認した。また,活性炭や尿素等の混合が発芽・伸長の増加に効果的であることを示した。

  • 大西 崇太, 藤井 紫生, 柴原 寛太, 服部 浩崇, 寺﨑 寛章
    2023 年 49 巻 1 号 p. 161-164
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    脱炭素化や低環境負荷社会に応え,また激甚化する降雨災害に対抗しうるのり面緑化資材として,生分解性を有する新規植生シートを作製し,その性能について評価した。素材は動物性繊維である羊毛を主原料としたシートを作製し,植物生育能力および侵食防止性能を評価した。その結果,試作した羊毛植生シートには植物性の稲わら植生シートと同等以上の植物生育能力があり,また化学繊維製侵食防止シートと同等以上の侵食防止性能も併せ持つことが確認された。これは羊毛特有の繊維構造や含有成分等が寄与し,羊毛は新規の植生シート材料として非常に有望であると考えられる。

  • 佐藤 厚子, 林 宏親
    2023 年 49 巻 1 号 p. 165-166
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    生育が旺盛で草丈が高く葉の面積が大きいなど面的な広がりを持って空間を遮るため,維持管理上の課題があるオオイタドリについて,これまでシートの被覆により生育を抑制する方法を検討し,地上部だけでなく地下部についても生育を抑制できたことを確認した。本調査では,1年目に引き続きメッシュシートで被覆してから2年経過後のオオイタドリの地下部を観察した。その結果,2年目の地下部の生育状況は1年目とほぼ同じであった。このことから,メッシュシートによる被覆はオオイタドリの地下部の生育抑制に関して,被覆1年で抑制の効果が高度に発揮されるものの,その後地下茎は一定量維持されることを確認した。

  • 武藤 惠, 上條 隆志, Luan Chunyang, 小川 泰浩, 石森 良房
    2023 年 49 巻 1 号 p. 167-170
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    生態系と景観の修復を目的とした緑化資材である東京クレセントロール®の泥流抑制と植生回復の長期的効果を検証するため,三宅島で流出土砂量調査と植生調査を実施し設置2年後と6年後を比較した。流出土砂量は資材区と対照区に設置した土砂受け箱で計測し,植生については1 mコドラートを用いた植被率と種構成の調査と樹木の分布調査を行った。流出土砂量は資材区で少なく,対照区に対する削減効果は4年間で約9倍になった。植被率は両試験区で2016年より2021年で有意に高く,試験区間の比較では2021年のみ資材区が有意に高かった。種構成はハチジョウススキが約90%を占め樹木密度は資材区で有意に高かった。

feedback
Top