本研究は,都市近郊二次林の衰退による減少が懸念されている日本固有の野生サクラ類のヤマザクラ (
Cerasus jamasakura) と近縁種ウワミズザクラ (Padus grayana) を調査対象として,両種の保全を図る上で重要となる基本的生態情報の取得を目的としている。そのため,奈良市郊外の二次林内に設置した観測プロット (面積:2.21 ha) において, 2006年と 2011年に毎木調査を実施し,この期間での胸高直径 (DBH) の差から上記 2種の断面積成長量 (ΔBA) を求めた。さらに,ΔBAの自然対数 (ln ΔBA) を目的変数とする成長予測モデルの構築によって,近隣個体間競争の他,地形条件 (凸状指数,傾斜量,斜面位置,斜面方位) などの環境要因との関係性を検討した。その結果,2樹種とも,2006年から 2011年にかけて幹密度,胸高断面積合計は低下した。また,この期間での断面積成長量は 2cm
2/年未満の小さな値を示した個体が高頻度で見られ,成長量低下,個体群衰退傾向にあることが示唆された。ヤマザクラでは競争指数を説明変数とする成長予測モデルの説明力は 54%であり,近隣の競争個体からの被圧による成長への影響が強く見られた。しかし,ウワミズザクラの成長予測モデルでは説明力は 17%程度にとどまり,他要因からの影響の可能性も考えられた。
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