日本緑化工学会誌
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47 巻, 4 号
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特集「緑化工学にとっての市民,市民にとっての緑化工学」
論文
  • Chitapa WONGSUPATHAI, Kohei TAKAGI, Yoshiyuki HIOKI
    2022 年 47 巻 4 号 p. 466-485
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/08/03
    ジャーナル フリー

    湿地の水文は,その植生に大きく影響し,ひいては人間や野生動植物の生息に影響する。降水量の変動によって生じる水位変動は,湿地生態系の多様性に影響を与え,湿地における植物種の絶滅や変化の大きな要因の1つである。本研究は,タイ・チェンライ県ノン・ボン・カイ禁猟区において,2つの高度(30 m・90 m)の無人航空機(UAV)からの画像に基づいて水域の植生に対する水位変動の影響を明らかにすることを目的とした。研究の結果,2019年~2020年の少雨の影響によって,2018年から2020年の間に,水深が1 mから0.2 mに低下していた。この低水位による陸域の拡大は,陸上植物種に好適な生息条件を提供することとなった。UAVによって高度30 mから撮影された正射投影画像から生成された植生分布図は,自生植物の減少と侵略的外来植物の増加,とくに低水位期間におけるミモザ・ピグラ(Mimosa pigra)の急速な拡大を示した。高度90 mからの画像により作成されたホテイアオイ(Eichhornia crassipes)の分布図は,低水位期間における同種の広い被覆を示した。しかし,ホテイアオイは2019年末に起きた雹害により,2020年3月には減少していた。ホテイアオイによる広範囲の被覆は,湖水の低酸素化をもたらしたことが示唆された。

  • 大澤 啓志
    2022 年 47 巻 4 号 p. 486-494
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/08/03
    ジャーナル フリー

    栃木県の環境税等を用いて下刈り管理が再開された雑木林において,林床の木本植物の種多様性を調査した。10年継続管理区,5年前管理区,20年放置区を設け,10 m2の調査区各8箇所で種毎の個体数と樹高を計測した。その結果,47種,計3,947個体の生育を確認した。下刈りが再開された10年継続管理区,5年前管理区では,ヤマツツジ,ウリカエデが個体数で優占し,それらは低い樹高階層に集中して生育していた。下刈りの継続に伴い,これらの種は矮性状態となり,多数の萌芽により生残すると考えられた。管理強度に伴って種数及び個体数は有意に増加し,特に10年継続管理区では平均360個体/10 m2と高い密度を示した。下刈りの再開で,多様度指数は20年放置区に対して有意に増加した。しかし,下刈りを1回実施した5年前管理区に対しては,下刈りを継続した10年継続管理区の指数値の増加は認められなかった。アズマネザサの高さとの関係では,種数(r=-0.906),個体数(r=-0.766),多様度指数(r=-0.690~-704)ともに負の相関が見られた。多様度指数の相関係数が最も低かったのは,10年継続管理区でヤマツツジやウリカエデ等の一部の種が突出して多く生育したためと考えられた。

  • 茂呂 和輝, 伊藤 直也, 古澤 蘭, 伊藤 睦実, 中島 一豪, 原田 芳樹
    2022 年 47 巻 4 号 p. 495-504
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/08/03
    ジャーナル フリー

    土壌改良資材としての竹炭は,土壌の冷却効果を向上させ,ヒートアイランド現象を緩和する効果が期待される。しかし都市緑化の現場で広く実用化するためには,最適な混入対象や混入率を明らかにする必要がある。本研究では,都市緑化に使われる4種類の土壌(雨水貯留用土壌,空地土壌,園芸用土,コイヤ)に竹炭またはコイヤを混入し(体積当たり0,20,40%),14日間照明を照射した。水分特性,灌水後の体積含水率,蒸発量,土中温度,熱流量,残存水分量の測定から冷却効果の大きさを比較した結果,冷却効果の有無と最適な竹炭混入率は,混入対象により異なった。竹炭を混入した実験群の中で,コイヤに竹炭を40%混入した場合,土中温度の減少幅が最大であった。また,コイヤへの混入率が20%と40%の場合は共に対照群と比較して蒸発量が増え,残存水分量が低下した。一方,雨水貯留用土壌に竹炭を40%混入した場合は,蒸発量の減少幅と土中温度の上昇幅が最大で,冷却効果の向上が見られなかった。先行研究では,本研究で用いた竹炭より細かい粒径のバイオ炭が用いられているため,今後は竹炭の最適な粒径分布を考慮した,混入率の最適化が望まれる。

技術報告
  • 鈴木 涼, 比嘉 友里恵, 大澤 啓志
    2022 年 47 巻 4 号 p. 505-509
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/08/03
    ジャーナル フリー

    開花景観を地域資源とする上での基礎的知見として,野生条件下におけるシュンランの開花状態について,咲き始め,再伸長位,萎え始め,花枯れの4つの開花ステージを設け,花毎にそのステージに達した日を記録した。2021年2月下旬に蕾があるシュンランの株を任意に20株選び,近傍に定点観測カメラを設置し,1日1回の撮影を同年5月中旬まで継続した。また,林内の地表付近に温度ロガーを設置し,1時間ごとに気温を計測した。本調査により,2021年に関しては3月20日頃より多くの開花が見られ,群落単位で観賞価値を保つのが4月20日頃までの約1ヶ月間であったことが明らかになった。また,2021年は3月21日に咲き始めが集中していた点が特筆された。その日は,①約10日間比較的温暖な日(平均気温8~10 ℃)が続いた,②当日の平均気温が13 ℃を越えた等が特徴的であり,また③有効積算温度では80 ℃・日を超える時期でもあった。シュンランの咲き始めを誘発する引き金として,気温の高まりが強く関与していることが示され,有効積算温度等で推定出来る可能性が示唆された。

  • 辻 盛生, 鈴木 正貴, 足澤 匡, 佐々木 理史
    2022 年 47 巻 4 号 p. 510-515
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/08/03
    ジャーナル フリー

    人工的に創出された公園の湛水型調整池に,修景的,生態的機能を付加する目的で水辺緑化を行った事例を対象に,15年経過した時点で植物の生育状況の調査を行った。施工に際しては貧栄養である砂質土を用い,それぞれ湿生植物,抽水植物の生育を意図した湿生部,抽水部を水辺域に創出し,比較的草高が低い植物種を中心に植栽を行った。周囲はシバであり,定期的な管理が行われたが,水辺域において植生の管理作業は行われていない。植栽種は概ね活着し,群落を形成した。その後,種子による生育範囲の拡大が見られた種,植栽した場所に概ね留まった種など,種による差が見られたものの,比較的安定した水辺植生の群落を形成した。一方,外部からの侵入種も見られ,ヒシによる水面の優占,1箇所でヨシの優占が見られたものの,景観を著しく害することはなく,水生生物の生息空間として機能するなど,植栽した植物を中心に安定した水辺エコトーンを形成した。目的とする景観を明確にしてデザインし,貧栄養条件下において積極的な植栽を行うことで,管理労力を抑えつつ良好な水辺環境を維持することができた事例といえる。

  • 安藤 義範, 南 恭亮, 倉園 知広, 三野 和志, 尾嶋 百合香, 坂東 良太, 清水 弘順, 木下 覺, 山﨑 旬
    2022 年 47 巻 4 号 p. 516-522
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/08/03
    ジャーナル フリー

    移植困難種のキンランを対象に,公共事業における保全対策への種子繁殖法の活用可能性の検証と,普及促進に資する知見の蓄積を目的とした試験に取り組んだ。本取り組みでは保全対象の移植個体,養生個体,ならびに保全の確実性を高めるために採種対象とした自生個体も含め,人工受粉・袋がけ,採種,播種を2014~2019年度の6年間行い,播種後のシュート発生状況を調査した。採種は養生個体,自生個体から合計で約43万6千粒を得ることができた。種子は直接播く方法(直播き)と,「種子スティック」を用いて播く方法の2通りで自生地に播種した。調査の結果,2015年度の播種箇所は直播きで約4年5ヶ月後に1個体,2017年度は「種子スティック」で約2年2ヶ月後に5個体のシュート発生を確認した。この取り組みは,保全対策でシュート発生を初めて確認し,実用面で高い価値を有すると考えられる。保全対策で種子繁殖法を適用する場合,個体が開花する,かつ人工受粉が適期に行えるといった,種子が採取できる条件下で特に有効となる可能性が示された。一方,播種からシュート発生までに約2~4年の時間を要するため,長期的な視点で取り組む必要があることが課題として挙げられた。

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