日本緑化工学会誌
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48 巻, 3 号
選択された号の論文の25件中1~25を表示しています
学会賞受賞寄稿
特集「ポストコロナ時代の魅力的な都市緑地を考える」
特集「i-Treeによる生態系サービス評価―事例紹介と今後の課題」
特集「OECMで活きる!生物多様性に配慮した緑化工学」
特集「生態系のレジリエンスと修復・緑化」
論文
  • 小宅 由似, 三牧 莉久, 小田 龍聖
    2023 年 48 巻 3 号 p. 507-515
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

    森林創出に着目した法面緑化事例が増えつつある一方,長期的に植生を評価できる基準は示されておらず,その整備に必要な法面植生の長期的な変遷の知見も不足している。本研究では造成から約50年が経過した九州自動車道ならびに中央自動車道の播種工により緑化された盛土法面8地点において植生調査ならびに周辺林分の判読を行い,先行研究で示された名神高速道路の盛土法面植生の変遷と比較した。九州自動車道ではタケ類が優占する法面が多くみられ,周辺林分の判読結果からもタケ類が侵入する可能性が高いことが示された。中央自動車道では落葉広葉樹主体の法面が多く,一部の調査地周辺地域におけるマツ枯れ発生後にアカマツが定着できる環境が維持されていたことが示唆された。2路線における成立植生をクラスター分析により分類した結果,落葉広葉樹群落とメダケを指標種とする群落の2パターンに分けられ,約50年経過時点までの植生の変遷は名神高速道路と同等であった。一方,植生の変遷に対する気温や周辺植生に起因する地域差の影響が示唆され,現在解明されている盛土法面における植生の変遷を評価基準とするためには更なる事例の蓄積の必要性が考えられた。

  • 小堀 美玲, 新岡 陽光, 伊藤 睦実, 原田 芳樹
    2023 年 48 巻 3 号 p. 516-526
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

    室内緑化のストレス緩和効果を検証する方法として,被験者に試験を用いてストレス負荷をかけた後,対象空間のVR画像を提示する実験が普及しつつある。しかしこれまでの研究においては,このような検証方法が,ストレス負荷試験の違いにより,どのように影響を受けるかは検証されていない。そこで本研究では,ストレス負荷課題として内田クレペリン検査,VDT作業,情動喚起用刺激画像(OASIS)を採用した上で,緑化されたオフィス環境のVR画像を提示し,ストレス緩和効果を比較した。指標としてPANAS(the positive and negative affect schedule)(NA)と状態-特性不安尺度(STAI)A-Stateを使用した際は,ストレス負荷試験による差はなく,同様のストレス緩和効果が見受けられた。心理指標としてPANAS(PA)やnHFを使用した際は,OASISが有効である可能性が示唆された。今後はストレス反応に関して幅広い生理指標と心理指標を活用し,より一般化された被験者集団に対しても検証を行うことで,ストレス負荷試験の特性を更に深く理解する必要がある。

技術報告
  • 大澤 啓志, 鈴木 涼, 河原 菜月
    2023 年 48 巻 3 号 p. 527-533
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

    環境税等による樹林管理の効果を知るために,12年前に下刈りが再開された栃木県の雑木林において,林床植生の状態を検証した。コナラが優占する落葉広葉樹林において,管理区と管理放棄区を設定し,4 m四方のコドラートによる植生調査を2021年の夏期に実施した。その際,管理区では傾斜や刈り高の異なる2条件区を用意した。その結果,計25個のコドラートにおいて118種が確認された。平均出現種数は有意に異なり(ANOVA,P<0.01),管理区の斜面下部が49.3種(N=7),同じく斜面中部が40.1種(N=9),管理放棄区が21.2種(N=9)であり,管理放棄区が著しく低い値であった。管理区の斜面中部ではヤマツツジが矮性状態で優占しており,これが斜面下部に対し平均種数が少ないことに影響していると考えられた。ヤマハギ,シラヤマギク,ノハラアザミ等のススキクラスの種も散見され,管理区のみで出現するのが特徴的であった。ただし,下刈りは夏期以降に行われるため,夏~秋に開花する高茎種は植物体上部の消失が生じ,開花が抑制されやすいことが示された。

  • 外崎 公知
    2023 年 48 巻 3 号 p. 534-540
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

    開発地における土壌炭素蓄積量算定の基礎資料にすることを目的に,首都圏の開設後30年以上経過したゴルフ場11ヶ所において土壌炭素蓄積量を調査した。土壌深0-30 cmの土壌炭素蓄積量について,コース構成部位間でt検定を行った結果,フェアウェイ群とラフ群の間の平均値の間に有意な差はなかった(p≧.05)。土壌炭素蓄積量とゴルフ場開設時からの経過年数との関係を検討した結果,経過年数が長くなるほど土壌炭素蓄積量が大きくなり,そのバラツキが大きくなる傾向があった。その要因の一つにゴルフ場の造成方法の変化が示唆されたことから,この点を考慮し,既往研究に準拠した土壌深0-20 cmで土壌炭素蓄積速度を推計した結果,0.81~1.19 MgC/ha/年であった(p<.01)。これらの結果からゴルフ場の芝地は,海外の研究例と同様にCO2の吸収源として高いポテンシャルがあると考えられる。土壌炭素蓄積量に対する経過年数と堆肥施用の有無の関係を確認するため,経過年数を考慮した上で,堆肥施用の有無により土壌深0-30 cmの土壌炭素蓄積量が異なるかを分析したところ,土壌炭素蓄積量に有意な差があり(p<.01),堆肥施用が土壌炭素蓄積に効果があることが示唆された。

連載「緑化工学における統計学の利用」
LEE ナビ
  • 山川 博美
    2023 年 48 巻 3 号 p. 545-546
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/04/20
    ジャーナル フリー

    針葉樹人工林皆伐後の自然林再生に対する前生樹の効果を中期的な時間スケール(林冠形成までの12~14年)において明らかにした。針葉樹の伐採時に,前生広葉樹(DBH1 cm以上)を切らずに残す前生樹保残区(保残区)と,すべての前生樹を伐採する前生樹伐採区(伐採区)を設定し,皆伐の1年後および12または14年後に,更新した木本植物の個体密度,種の豊富さ,樹高を調査した。皆伐後12~14年目には,皆伐区で萌芽更新した前生樹も,保残区で切り残した前生樹と同様な高さ分布や階層構造を形成し,両区で階層構造に大きな違いはなかった。また,伐採後に新たに発生した実生(新規実生)の個体数や種の豊富さは,両区の林分形成に寄与していたが,重力分散型の種子を持つ照葉樹林構成種の更新は限定的であった。前生樹広葉樹の保残効果は,皆伐後早期の階層構造の回復に限られ,中期的な時間スケールでは,豊富な前生樹が十分に林内に蓄積され,周囲の種子源が有効に確保される限り,その効果はほとんど消失していた。

コラム 緑化植物 ど・こ・ま・で・き・わ・め・る
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