日本緑化工学会誌
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48 巻, 2 号
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特集「技術資料への投稿のすすめ」
技術資料
  • 中村 剛志
    2022 年 48 巻 2 号 p. 334-336
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2023/01/11
    ジャーナル フリー

    本研究は,植生マット工の侵食防止効果について,植生の有無や種構成による違いを明らかにすることを目的とし,①:外来牧草を主体とする試験区,②:在来種を主体とする試験区による2種類の緑化面を降雨強度100 mm/hで60分間の人工降雨に暴露し,土砂の流出量を比較したところ,対照区である裸地からは,1,417 gの土砂が流出したのに対し,緑化面からの土砂流出量は,試験区①で1.1 g,試験区②で31.5 gであった。このことから,緑化がのり面の侵食防止に大きく寄与することが確認できた一方で,在来種を主体とする植生に比べ,外来牧草を主体とする植生が,より土砂流出を軽減する効果に優れることが示唆された。

  • 萩野 裕章
    2022 年 48 巻 2 号 p. 337-340
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2023/01/11
    ジャーナル フリー

    飛砂の移動形態には地表近くを移動する「跳躍」と「匍行」および上空に舞い上がった「浮遊」がある。植物に対する飛砂害には,飛砂が継続して押し寄せて植生が埋没した状態と飛砂粒子が激しく枝葉に衝突して傷害を与えた状態がある。飛砂量の観測は,その場の移動形態を想定して捕捉器を選び,複数で配置した捕捉器の値から海岸林等における分布状態を把握する。その分布状態から対象地に達した飛砂総量が推定でき,対象地の飛砂防備機能を定量的に評価する指標になる。本稿で紹介した観測方法と機能評価方法については,今後も議論や情報交換を経て必要に応じ更新させていくべきものと考える。

  • 上野 直哉, 飯田 毅, 秋山 菜々子, 田中 賢治
    2022 年 48 巻 2 号 p. 341-344
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2023/01/11
    ジャーナル フリー

    近年,戦後の拡大造林で植栽された人工林が主伐期を迎えており,再造林において植栽や下刈,獣害対策等にかかるコストが非常に高くなっている。そこで,異分野技術を活用することで新たな技術を開発し,低コスト再造林を実現するための実証試験を行った。実証試験では,下刈作業の負担低減を目的としてのり面緑化分野で使用していた植物活性剤「フジミンⓇ」を用いて樹高成長量確認試験を行った。また,獣害対策のコストおよび作業員の負担低減を目的として,食品分野で使用されていた唐辛子を基に開発された資材「カプスガードプラスⓇ」を用いて獣害対策効果確認試験を行った。

論文
  • 當山 啓介, 久本 洋子, 三次 充和, 広嶋 卓也
    2022 年 48 巻 2 号 p. 345-356
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2023/01/11
    ジャーナル フリー

    房総半島南部のスギ主体の85年生人工林で間伐を実施した後の下層植生推移を4年間観測し,シカ生息下の暖温帯高齢人工林への間伐による針広混交林化の可能性を検証した。

    防鹿柵を設けた柵有区は木本種数,木本被度,多様度指数やシカ選好性樹種の樹高1.3 m以上個体数については,柵無区より高い傾向がみられた。伐出時の搬出路を区内に含む撹乱区は低撹乱区と比べて,1・2年目には木本種数が多かったが,木本被度の増加の程度がやや小さく,4年目では低撹乱区より有意に低かった。量的には低木であるイズセンリョウなどの少数の種が優占しており,多くの種は僅かであった。柵有区では,先駆性のイイギリやヒメコウゾが成長しており,落葉高木であるイイギリの成長を維持できれば針広混交林化の進展が見込める結果であった。高木性常緑広葉樹の中では,最終的に林冠下に留まるシロダモは柵内外に比較的多くみられ,シロダモを中心とする複層林化であれば防鹿柵なしでも達成が期待できる。しかし防鹿柵を設置した場合でも,種子供給が比較的期待できる食散布型樹種も含めて,間伐実施による林冠層を構成する高木性常緑広葉樹の侵入の促進は容易でないことが示唆された。

  • 久保 満佐子, 世古 大貴, 飯塚 康雄, 井上 雅仁
    2022 年 48 巻 2 号 p. 357-363
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2023/01/11
    ジャーナル フリー

    火入れが行われている草原には既に木本が生育しており,それらの萌芽は遷移の進行に重要な役割を果たす。そこで,毎年火入れが行われている島根県三瓶山麓の火入れ草原においてヤマナラシの萌芽による更新特性を調べた。2 m×2 mの調査区を設定し,ヤマナラシの水平根と根萌芽,焼けた幹や根株からの萌芽の分布を調べた結果,調査区のヤマナラシに当年生実生はなく,全て根萌芽および萌芽であった。長いものは10 m以上の根系で12株が繋がっていた。水平根は地表下1 cm付近に多く,根萌芽を発生させる水平根の太さは3 mmほどであった。前年の萌芽幹が太く多い方が当年の萌芽本数は多かった。また,枯死した根株は生存する根株より水平根が太い傾向があった。毎年の火入れにより地上部が焼失する中で,生産力の高い根株が存続していると考えられた。本調査地のヤマナラシは,細い伸長する水平根から根萌芽を発生させて分布を拡大し,火入れにより地上部が焼失するとその修復のために萌芽を発生させ,ススキ草原の中で存続していた。

  • 田代 みなみ, 久徳 康史, 新岡 陽光, 原田 芳樹
    2022 年 48 巻 2 号 p. 364-373
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2023/01/11
    ジャーナル フリー

    自然環境の貨幣価値の評価法の中でも,仮想的市場評価法(CVM)は幅広く活用され,都市の公園への応用も拡大している。先行研究では,従来の写真の代わりにバーチャルリアリティ(VR)を用いて評価対象を提示し,支払意思額(WTP)を問う実験が増えているが,VRの利用がWTPに及ぼす影響は対照実験を通して十分に検証されていない。本研究では池を有する都市の公園を対象にCVMによる調査を行い,画像提示方法(VRか写真)がWTP,ロイヤルティ,気分尺度,印象評価,WTP回答時の視線指標に与える影響を検証した。また,提示する画像の視界範囲(正面カ全方向)がWTPと視線指標に与える影響を検証した。その結果,WTP,ロイヤルティ,気分尺度,視線指標に画像提示方法間の差はなかったが,正面に比べて全方向の視界におけるWTPが高かった。したがって,都市の公園を対象にCVMを用いる調査において,写真より高価で扱いの難しいVRを使う長所は確認できなかったが,視界範囲を統制する必要性が示唆された。今後は幅広い属性の被験者と緑地のデザインを対象とし,画像提示方法と視界範囲が評価に及ぼす影響の検証を進める必要がある。

  • 外崎 公知, 今井 一隆, 手代木 純, 木田 仁廣, 石塚 成宏
    2022 年 48 巻 2 号 p. 374-385
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2023/01/11
    ジャーナル フリー

    森林および農地から開発地への土地利用変化に伴う土壌炭素蓄積変化を明らかにするため,代表的な開発地として宅地と道路が一体的に整備されるニュータウンと産業団地を対象に,調査手法を検討するとともに,全国30地点以上で土壌調査等を実施した。これらの結果と森林および農地から開発地に転用された地点の位置情報等を参考に,開発地の土壌炭素蓄積量の初期値を,森林からの転用時21.9±16.5 MgC/ha,農地からの転用時22.8±17.6 MgC/haと算出した。開発地の多様な土地利用形態を,既往統計の区分等により宅地系,道路系,草地系,公園系の4つの土地利用区分に集約した。既往資料や空中写真等により,転用後の植生回復による各土地利用区分の土壌炭素変化量を初期値に加算し,開発地の平均土壌炭素蓄積量を28.1±17.5 MgC/haと算出した。この算出方法により,開発地に転用される森林および農地の面積比や転用先の土地利用区分の構成比の変化に対応し,開発地の平均土壌炭素蓄積量を定期的に更新することが可能である。

短報
技術報告
  • 大澤 啓志, 肥後 昌男, 岡田 陽介, 清水 秀一
    2022 年 48 巻 2 号 p. 391-396
    発行日: 2022/11/30
    公開日: 2023/01/11
    ジャーナル フリー

    壁面緑化施工地でヘデラ・ヘリックスの立枯症状が認められたため,発症/非発症の植栽ユニット内の土壌を採取し,土壌微生物相を解析した。計9サンプルのDNA検出数合計においては,門不明を除き,Ascomycota門が優占していた(69.9%)。Ascomycota門において,発症の有無別で平均DNA検出数に比較的大きな差が認められたのはSordariomycetes綱であり,なかでも発症ユニットで著しく高い値を示したのはHypocreales目のNectriaceae科であった。Nectriaceae科における属別での比較では,Fusarium属及び属不明が発症ユニットで著しく高い値を示し,他の属のDNA検出数は僅かであった。ただし,Fusarium属において発症ユニットで特異的に高いDNA検出数を示したのはF. solaniであったにも関わらず,本細菌の一般的な病害症状と本緑化施工地におけるヘデラの症状には不一致が認められた。また,植栽ユニット内の温度を連続計測した結果,植栽ユニット内は1日の温度変化が小さく,夏季は平均温度が25℃を越えるような高温状態が幾日も続いていた。これによりFusarium属菌が増殖し,立枯症状が生じたものと推察された。

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