房総半島南部のスギ主体の85年生人工林で間伐を実施した後の下層植生推移を4年間観測し,シカ生息下の暖温帯高齢人工林への間伐による針広混交林化の可能性を検証した。
防鹿柵を設けた柵有区は木本種数,木本被度,多様度指数やシカ選好性樹種の樹高1.3 m以上個体数については,柵無区より高い傾向がみられた。伐出時の搬出路を区内に含む撹乱区は低撹乱区と比べて,1・2年目には木本種数が多かったが,木本被度の増加の程度がやや小さく,4年目では低撹乱区より有意に低かった。量的には低木であるイズセンリョウなどの少数の種が優占しており,多くの種は僅かであった。柵有区では,先駆性のイイギリやヒメコウゾが成長しており,落葉高木であるイイギリの成長を維持できれば針広混交林化の進展が見込める結果であった。高木性常緑広葉樹の中では,最終的に林冠下に留まるシロダモは柵内外に比較的多くみられ,シロダモを中心とする複層林化であれば防鹿柵なしでも達成が期待できる。しかし防鹿柵を設置した場合でも,種子供給が比較的期待できる食散布型樹種も含めて,間伐実施による林冠層を構成する高木性常緑広葉樹の侵入の促進は容易でないことが示唆された。
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