日本緑化工学会誌
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45 巻, 1 号
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論文
  • 小宅 由似, 今西 純一, 石原 一哉, 柴田 昌三
    2019 年 45 巻 1 号 p. 3-8
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    1996 年以降,生態系や景観の保全を目的とした地域性苗木による植栽施工事例がみられる。本研究では,新名神高速道路沿いの盛土法面を対象地として,地域性苗木による植栽11年後の林分構造を明らかにすることを目的とした。調査プロット(合計300 m2)内で合計29 種の植物を確認した。このうち木本は14 種であったが,毎木調査の対象となる1.3 m 以上の木本は4 種のみであった。最大樹高は7.32 m(アカマツ),平均樹高は4.18 m であった。林分構造の指標として樹高階分布をみると,上層をアカマツが,下層をコナラが優占する2 層構造が確認された。現時点ではアカマツ及びその下枝による他の植物の被圧が考えられたが,下枝の落下やアカマツの衰退による将来的な光環境の改善が予想された。

  • 山口 滉平, 中村 大, 川口 貴之, 川尻 峻三, 山下 聡, 中陳 実咲希
    2019 年 45 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    本研究では,土質の違いが植物根系の補強効果に与える影響を明らかにするため,火山灰質砂質土と火山灰質粘性土の土供試体に外来草本植物(KBG)の種子を散種して根系を生育・発達させ,低鉛直応力で定圧一面せん断試験を実施した。また,土質の違いだけでなく,根系の補強効果に影響を与えると考えられる生育期間や凍結融解履歴といった要因についてもあわせて検討した。この結果,土質の違いに関わらず,土供試体中に伸長・発達した多数の根系は土の靭性を向上させていることが明らかとなった。また,植物根系を含む土供試体のせん断強度に対する凍結融解履歴の影響は,土質によって異なることも確認された。

  • 人見 拓哉, 稲見 安希子, 高橋 輝昌
    2019 年 45 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    本研究では,都市緑地での枝葉の元素濃度と分解特性の変化を明らかにするため,都市化の影響をほとんど受けていない山地域と都市域で共通して生育していたイヌシデを対象に周囲の道路面積率,土壌の化学的性質,枝葉の元素濃度と分解特性を調査した。その結果,山地域と比較し都市域では土壌への交換性塩基の量が増加し,枝葉の窒素濃度とマンガン濃度が増加し,ひいては枝葉の分解特性にも影響を与えていることが明らかとなった。つまり,都市環境では枝葉の前期の無機化率は促進され,後期の無機化率は抑制されるため,都市緑地における土壌有機物の質が変化することが推察された。

  • 若林 咲, 衣笠 利彦
    2019 年 45 巻 1 号 p. 21-26
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    屋上緑化に用いられるセダム類9種の高O3応答を評価した。2ヶ月にわたって週に一度120 ppbのO3に暴露し,乾燥重量と植被面積の変化を調べた。乾燥重量の高O3応答は種によって異なったが,その変化率は最大でも±10%程度であった。乾燥重量の変化は主に光合成窒素利用効率の変化によるものであった。植被面積はほとんどの種でO3処理により減少傾向を示したが,減少率は大きくても15%程度であった。週に一度,光化学スモッグ注意報が発令される程度の都市環境であれば,セダムを用いた屋上緑化に大きな影響はなく持続可能だと考えられた。

  • 宮崎 直美, 平田 昌弘, 菊池 俊一
    2019 年 45 巻 1 号 p. 27-32
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    都市人工林の更新過程を把握するため,植栽後35 年が経過し林冠部が閉鎖した落葉広葉樹林,常緑針葉樹林ごとの林床環境が7 年生以下の木本実生の侵入定着過程に与える影響を検討した。広葉樹区の林床はミヤコザサが優占し,針葉樹区では特定の種の優占はなかった。両林分で実生が生育する林床の光量はササの有無によらず低く差はなかったものの,広葉樹区は開葉期にやや明るい値だった。広葉樹区で林床植物の生存に有効な春季の光量があるにもかかわらず,実生は針葉樹区で生存個体数が維持され,広葉樹区では生存個体数は少なかった。ミヤコザサが優占する落葉広葉樹林の林床では,実生の定着に光以外の阻害要因が関与していることが把握された。

  • 黒沼 尊紀, 久保 堅司, 信濃 卓郎, 石原 竜彰, 孔 大徳, 東島 一成, 安藤 匡哉, 渡辺 均
    2019 年 45 巻 1 号 p. 33-38
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    本研究では,屋上緑化芝地における大気汚染に関わる14 元素の経年変化を調査した。その結果,コウライシバ(以下,シバと表記)の全元素濃度は施工後,上昇しており,シバおよび有機物層に含まれるTl を除いた元素量についても,施工後増加した。これは,シバに沈着した元素がサッチとして有機物層に蓄積したためと考えられた。さらに,屋上緑化芝地の単位面積当りのCd,Pb,Ni,Cu,Zn,Ag 量が,施工後上昇することが明らかとなった。以上のことから,屋上緑化芝地は大気浄化能を有することが示された。

  • -鳥取県日南町の事例-
    永松 大, 中井 結依子, 番原 昌子
    2019 年 45 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    中国山地中央部の鳥取県日南町に特定外来生物オオハンゴンソウの定着が確認されており,本研究はその分布傾向を解析した。9 河川で計8,431 株のオオハンゴンソウ開花が確認され,日南町では人為かく乱の多い河川の最上流部に分布が多かった。さらに日南町内の耕作放棄水田にてオオハンゴンソウ刈り払い管理にともなう植物群落への影響を評価した。刈り払い時の地表処理は植物群落の種多様度に影響せず,オオハンゴンソウの強い競争力が目立った。処理よりも環境条件がオオハンゴンソウを抑制していることが考えられ,在来植物が優勢となる条件を検討することが生態的にオオハンゴンソウを抑制する端緒となる可能性が考えられた。

  • ―千歳川流域舞鶴遊水地の事例―
    畔柳 晶仁, 森本 淳子, 志田 祐一郎, 新庄 久尚, 矢部 和夫, 中村 太士
    2019 年 45 巻 1 号 p. 45-50
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    湿地の減少に伴い衰退する湿地性植物種や植物群落の代替生育地としての機能を遊水地が果たしうるか検討した。舞鶴遊水地(北海道石狩川水系千歳川流域)で,植物,掘削履歴,環境を調査した。在来種を主体とした湿地性植物種が再生すること,植物群落の生育立地環境を特徴づける要因は,掘削からの経過年数,水深,pH,EC であることが示された。昭和初期まで石狩川流域の湿地には高層湿原を構成する希少種主体の植物群落が存在していたが,農地・都市開発に伴い衰退し,平成初期の湿地は低層湿原を構成する普通種主体の植物群落になった。舞鶴遊水地は低層湿原が成立する条件下にあり,平成初期の湿地に類似した植物群落が成立したことが明らかになった。

  • 小田 龍聖, 深町 加津枝, 柴田 昌三
    2019 年 45 巻 1 号 p. 51-56
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    琵琶湖疏水は,2015 年に重要文化的景観の選定を受けた岡崎地域を代表する都市水系である。重要な水生生態系として琵琶湖疏水をとらえ,これらの基盤となる沈水植物の流入と分布を調査した。琵琶湖疏水内の85 区画で調査を行い,この調査では11 種の流入および8 種の沈水植物が確認された。被度と底質の分布を用いてnMDS による分析を行ったところ,疏水分線では泥底質とオオカナダモが,疏水白川では中礫底質とササバモがよく見られた。疏水分線・疏水白川の両方に出現したネジレモは,細礫底質でよく見られた。

  • 伊東 時子, 我妻 尚広, 岡本 吉弘, 森 志郎
    2019 年 45 巻 1 号 p. 57-61
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    本調査では北海道でハマエンドウを地域性種苗として利用する際の移動可能範囲を検討するため,北海道に自生するハマエンドウの葉緑体ゲノムの塩基配列を解析し,遺伝変異を調査した。その結果, 種のハプロタイプが検出され,石狩市,新ひだか町と浦幌町では全個体がハプロタイプ,せたな町ではハプロタイプ: が:,奥尻町ではハプロタイプ:: が::,長万部町と雄武町ではハプロタイプ: がそれぞれ: と:,と各地域で出現するハプロタイプの種類やその出現割合に違いがみられた。北海道の主要ハプロタイプは で先行研究の北陸から東北に分布すると報告されたハプロタイプと一致することが明らかになった。

  • 七海 絵里香, 大澤 啓志, 石川 幹子
    2019 年 45 巻 1 号 p. 62-67
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    宮城県岩沼市の津波被災海岸林において,2013 年の空中写真から樹冠分布図を作成し,その後の樹冠形成樹の生残状況を把握することで,枯死・消失の実態を事例的に明らかにした。その結果,対象地ではマツ類やサクラ類,コナラ等が約1,754 本生育していたが,2019 年には746 本に減少していた。マツ類は876 本が枯死・消失し,特に内陸側でのアカマツの枯死率はクロマツより高かった。さらに,調査地面積の約59 %が復興事業等により造成されたことから,全枯死・消失木の6 割以上が造成による消失であった。また,台風による倒木は39 本見られ,特に浜堤での被害が少なかったことから,地下水位の高さや盛土造成地の隣接地での暴風吹抜けとの関連が考えられた。

  • 谷本 緒子, 上田 正文
    2019 年 45 巻 1 号 p. 68-73
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    ヤドリギ(Viscum album L. subsp. coloratum Kom.)とその宿主3 樹種について,日中の葉の水ポテンシャル,蒸散速度,葉細胞の飽水時の浸透ポテンシャルおよび初発原形質分離時の水ポテンシャルを測定するとともに,木部の水分通導組織構造を観察した。その結果,ヤドリギは,蒸散速度が高いことに加え木部の水分通導度が低く,葉の浸透ポテンシャルと初発原形質分離時の水ポテンシャルも低いために,日中の水ポテンシャルが宿主よりも著しく低下する可能性が考えられた。

  • -融解現象の検出
    上田 正文, 丸田 恵美子
    2019 年 45 巻 1 号 p. 74-79
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    冬期の野外環境下において,樹幹と枝の木部の凍結-融解現象を,ひずみゲージ法による木部ひずみ測定,ADR 法による木部含水率測定,HRM による樹液流速度測定により検出できることを示した。木部の凍結-融解時,木部ひずみはピークを示し,木部含水率および 算出された樹液流速度は特異な変化を示した。本研究の結果,ひずみゲージ法による木部ひずみ測定,ADR 法による木部含水率測定およびHRM による樹液流速度測定が,樹幹と枝の木部の凍結-融解現象を検出するための新たなパラメータを提供すると考えられた。

  • -カラタネオガタマ(Michelia figo (Lour.) DC.)を対象にして-
    竹内 真一, 篠崎 圭太郎, 本間 秀一, 松島 大樹, 日髙 英二, 飯田 真一
    2019 年 45 巻 1 号 p. 80-85
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    大型根鉢の適用が移植困難木の移植成功度を高める,との仮説を検討するために,カラタネオガタマを対象として幹径の7倍の直径の根鉢を作成し,移植前後のヒートパルス速度および蒸散量の変化を2 回実測した。その結果,ヒートパルス速度は,根鉢作成に伴う根系切断により,移植前に比べ21%低下したが,移植後2 年間の年最大値には大差は見られなかった。移植後3 年目に,同一個体について再度大型根鉢を作成したところ,実測された蒸散量は初回と同量であった。さらにこの根鉢のサイズを縮減するとヒートパルス速度は53%低下し,蒸散量も45%減少した。これらのことから,大型根鉢を用いれば当該樹木を順調に移植可能であると結論される。

  • 小沢 真代, 上田 正文, 古井 真陽, 植村 恭子
    2019 年 45 巻 1 号 p. 86-90
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    ブナハバチの食害を模した摘葉が,ブナ当年枝木部の水分通道能力および細根量に与える影響を明らかにした。展葉完了まもなくのブナ苗木に強度の異なる摘葉処理を行い,当年枝木部の水分通道を表すパラメータと細根量を測定した。摘葉強度の上昇とともに平均道管内径は小さく,道管密度は高くなった。また,比水分通道度(Ks)は摘葉強度の上昇とともに低下し,細根量は摘葉により減少した。以上の結果から,展葉完了まもなくの摘葉は,当年枝木部の水分通道能力を低下させるとともに,土壌からの水分吸収を担う細根量を減少させることが明らかとなった。

  • 植村 恭子, 上田 正文, 谷脇 徹, 斉藤 央嗣, 相原 敬次
    2019 年 45 巻 1 号 p. 91-96
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    食葉性昆虫による食害がブナに与える影響を明らかにするため,圃場に生育する 10年生の中型サイズのブナに,異なる時期及び強度で摘葉し,当年枝木部の水分通道組織構造を調べた。5月摘葉処理では,摘葉強度の上昇にしたがい,平均道管内径が低下し,道管密度は高くなった。それに対し,6月摘葉処理では,水分通道組織構造への影響は認められなかった。5月の強度摘葉処理では,摘葉処理翌年においても,木部水分通道組織構造への影響が認められた。これらのことから,展葉完了後まもなく生じるブナハバチによる食害は,当年枝木部の水分通道組織構造へ大きな影響を及ぼし,その影響は翌年にも及ぶと考えられた。

  • 武井 理臣, 柴田 尚志, 藤野 裕太, 橘 隆一, 福永 健司
    2019 年 45 巻 1 号 p. 97-102
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    ガマズミ種子は形態生理的休眠を有していることから,散布後に発芽するまで18 ヶ月ほどを要する。本研究では,ガマズミ種子を採取後早期に発芽させることを目的とし,休眠打破方法を検討した。ガマズミ種子の形態生理的休眠の打破には,冷温湿層処理の前に暖温湿層処理を行う必要がある。そこで暖温湿層処理を25 ℃16 h/ 15 ℃8 h 切り替えの変温条件で90~120 日間行ったところ胚が成長し,発根が始まった。その後,発根した種子に0 ℃恒温条件の冷温湿層処理を60~90 日間行うことで発芽した。以上から,休眠打破にかかる日数を約180 日間に短縮することに成功し,ガマズミがdeep simple epicotyl dormancy(上胚軸休眠)を持つことを確認できた。

  • 呉 崇洋, 田中 凌太, 藤好 恭平, 服部 一華, 赤路 康朗, 廣部 宗, 坂本 圭児
    2019 年 45 巻 1 号 p. 103-108
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    森林の林床を優占する矮性タケ類に関する生態的知見は原生林の林床保全や二次林の林床管理にとって有用な情報である。本研究はブナ林の下層を優占するチシマザサの群落構造に影響を与える環境要因について検討した。その結果,凹地形でチシマザサの地際直径が小さかったのは,凹地形では表土移動が起こりやすいためと考えられた。ホオノキ林冠下とミズメ林冠下の方がブナ林冠下よりチシマザサの稈密度が高く地上部乾重が大きかったのは,フェノロジカルギャップがその一因であると考えられた。以上のように,閉鎖林冠下において地形と林冠樹種の違いによりチシマザサの群落構造が異なることが明らかになった。

  • 大島 潤一, 山下 聖加, 飯塚 和也
    2019 年 45 巻 1 号 p. 109-114
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    本研究では,宇都宮大学船生演習林内のスギ造林地を対象に,ツキノワグマによる剥皮害を受けた林分の林相,林分構造および立地環境を調査し,剥皮害の発生要因について検討した。被害林分は,胸高直径,樹冠長,立木材積が大きく,枝下高比および形状比が低かった。また,被害林分は,低木層および第二低木層の種数が少なく,低木層および第二低木層の植被率が低かった。さらに,被害林分は,国道からの距離が遠く,尾根からの距離が短い場所に位置していた。重回帰分析により,剥皮率に対する影響する因子として,樹冠長,相対幹距比,傾斜および尾根からの距離が抽出された。

  • 香山 雅純, 竹中 浩一, ブルー アベベ, エミル ブルハーヌ
    2019 年 45 巻 1 号 p. 115-120
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    エチオピア北部では、土壌劣化を防ぐために植生回復が必要であるが、植栽した樹木は乾燥した気候のために高い枯死率を示す。そこで、現地に分布する郷土樹種であるオリーブとハウチワノキについて、生存率を高め、アーバスキュラー菌根菌との共生を促進させるAcacia etbica 製の木炭を添加して植栽した。その結果、炭の添加は樹木の成長を促進させなかったが、アーバスキュラー菌根菌の感染率を増加させた。炭の添加は、アーバスキュラー菌根菌の感染率が低下しやすい乾燥した気候下において、菌根菌との共生関係を向上させる働きがあり、エチオピア北部における植生回復に有効であると結論した。

  • 加藤 顕, 田村 太壱, 市橋 新, 小林 達明, 高橋 輝昌
    2019 年 45 巻 1 号 p. 121-126
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    森林の階層構造や植被率の把握は,生物多様性の指標や森林管理にとって重要である。しかし,目視による調査しか行われず,データの正確性や客観性には限界があった。本研究では,これまでの人による階層構造や植被率の判断を,地上レーザーによる3 次元データによる手法に置き換えることで,より客観的で簡易的な手法を検討した。その結果,3 次元データにボクセル法を適用することで,センサーから10 m 以内を0.125 m のボクセルサイズで解析した結果が最も正確に植被率が把握でき,その垂直分布より自動で階層構造が把握できた。本解析手法は関東周辺温帯林で適用可能であったが,今後,様々な林分構造にも適用できる汎用性の高い手法としたい。

  • 佐藤 えり, 岩崎 寛
    2019 年 45 巻 1 号 p. 127-132
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    病院緑化の推進を目的とし,オンラインアンケートを用いて全国の医師・看護師・理学療法士・作業療法士を対象に植物に対する意識調査を実施した。その結果,多くの医療従事者が植物の必要性を認識していること,緑化に対し,「患者の安らぎ」や「景観向上」だけではなく,「職員の安らぎ」も期待していることなどがわかった。また,医療従事者のストレスとして「職場の人間関係」が最も多いことが示され,植物と関わることが職場の人間関係の評価に寄与する可能性が示唆された。これらの結果から今後の病院緑化においては,医療従事者のメンタルケアを考慮した緑化の必要であると考えられた。

  • 鈴木 弘孝, 大内 善広, 加藤 真司, 岩崎 寛
    2019 年 45 巻 1 号 p. 133-138
    発行日: 2019/08/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    本研究は,大学キャンパス内に設置されている緑化壁とコンクリート壁を座位と歩行の二つの行動パターンで被験者に眺めてもらい,壁面緑化のもたらす心理的効果について検証することを目的としてPOMS 試験とSD 調査,STAI Y-2 調査を実施した。得られたデータから分散分析を行った結果,座位と歩行のいずれの場合においても,コンクリート壁よりも緑化壁を眺めた場合の方がネガティブな感情が抑制され,ポジティブな感情が高まる傾向が確認できた。また,特性不安の低い人では,緑化壁を歩行しながら眺めた際に植物との日常的な関わりがある人の方が,植物との関わりがない人よりも「友好」の感情が高まる傾向が見られた。

技術報告
  • 福田 尚人, 久保 征治
    2019 年 45 巻 1 号 p. 141-144
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    北海道羅臼地域治山緑化において,自生種と外来種を混成 した方法と自生種のみを使用した方法 2 つの事例について施工後の調査を行った。その結果,自生種と外来種を混成した事例では外来種の播種量や生育型についての検討が必要であり,自生種のみ使用事例ではクサヨシの植被率が大きく侵食・表層崩壊抑制効果が高く地域に適応した治山緑化方法と考えられた。また半低木イワヨモギが他植物との光競争にも耐え,根系が木質化するなど緑化用植物として適した性質であることも明らかとなった。

  • 稲垣 栄洋, 藤岡 伸吾, 小笠原 勝
    2019 年 45 巻 1 号 p. 145-148
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    緑化用植物を活用した雑草防除では,緑化用植物がマット状に全面被覆するまでの雑草の侵入が問題になる。そこで,緑化用植物として乾燥条件に強いセダム属植物と,水分を吸着し土壌を乾燥条件にする効果を有する焼成焼却灰の施用を組み合わせた雑草防除法を検討した。焼成焼却灰を25%土壌に混和すると乾燥により雑草の出芽は抑制された。セダム属植物であるタイトゴメとメノマンネングサは焼成焼却灰を25%加えた場合,生存率は低下し,植被率は小さかった。他方,メノマンネングサとヒメツルソバを混植した場合に,メノマンネングサ,ヒメツルソバそれぞれを単植した場合に比して,生存率は高まり,植被率も高く,緑化が可能であることが示唆された。

  • 稲垣 栄洋, 徳田 有美, 石関 真衣, 西川 浩二
    2019 年 45 巻 1 号 p. 149-152
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    緑化用植物として利用されるソバの秋型そば品種を春播きすることにより,夏季の雑草抑制効果を調査した。日長反応性が高い秋型品種の大野在来を 4 月播種した場合,伸長成長が継続し,旺盛な栄養成長を示した。5 月播種した場合,伸長成長には供試品種間の差異は認められなかったが,大野在来は乾物重が大きかった。4 倍体中間型品種である信州大ソバでも大野在来と同様の旺盛な生育が認められた。その結果,大野在来と信州大ソバでは,中間型,夏型品種に比して雑草抑制効果が高かった。

  • 佐藤 厚子, 畠山 乃
    2019 年 45 巻 1 号 p. 153-156
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    トールフェスクは,環境省の「産業管理外来種」に指定され,利用上の留意事項に沿って適切な管理が必要な植物であるが,寒冷な地域でも適応し早期に確実な緑化が可能な植物でもある。今回,植物の生育環境として厳しい北海道のような地域において,トールフェスクにより緑化した箇所で種の拡散の可能性を調べた。その結果,調査した地域においては他ののり面緑化用植物を駆逐するような攻撃的影響力はないといえる。

  • 坂井 清春, 高瀬 哲郎, 岡崎 壮一, 下條 信行, 全 槿雨, 金 錫宇, 寺本 行芳, 河野 修一, 江﨑 次夫
    2019 年 45 巻 1 号 p. 157-160
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    唐津市史跡に指定されている唐津城跡では,石垣解体修理の際に石垣表面を覆っていたつる性植物であるオオイタビの根系が石垣の裏に侵入していることが発見された。根系は石垣裏の栗石層と盛土層の境界付近で旺盛な成長をし,これにより,栗石層の乱れや目詰まり,盛土の流出が発生していることが確認された。これらのことは,根系が石垣内部で広範囲にダメ-ジを与えたことの証であり,大きな災害を誘引する恐れがあると判断された。全国各地の石垣についても同様なことが危惧される。今後,大雨,大風や大型台風の来襲,さらに太平洋側では大規模な地震発生が予測されていることから防災・減災という視点に重点をおいて早急な対策が求められる。

  • 全 槿雨, 全 錫宇, 寺本 行芳, 松本 淳一, 土居 幹治, 河野 修一, 江﨑 次夫
    2019 年 45 巻 1 号 p. 161-164
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    ミズクラゲチップの木本植物に対する施用効果を検討するため,暖温帯の海岸域で分布が認められ,海岸防災クロマツ林後方の適応樹種としての可能性が高いアラカシを用いて実験を行った。実 験 で は , ミズクラゲチップと土壌との混合割合を 4段階に定めた。これに従来のクラゲチップの 2 段階と対照区を設定した。それぞれを市販されている赤玉土(小粒)1.0 L と混合し,ポット(中鉢 7 号 3.5 L)に充填した。これらに種子を播種し,育苗した 1 年生のアラカシを 1 ポットに 1 本植栽し,5反復で 4 年間実験を行った。その 結果,葉数,根元直径及び乾物重量は施用区と対照区間で有意な差が認められ,ミズクラゲチップの木本植物に対する有用性が確認された。

  • 河野 修一, 江﨑 次夫, 寺本 行芳, 松本 淳一, 土居 幹治, 全 槿雨, 金 錫宇
    2019 年 45 巻 1 号 p. 165-168
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    愛媛県今治市の標高 357 mの笠松山は,平成 21年 8月 24日発生した火災で山林約 107 haを焼失した。翌年の春に火災跡地の約 1 haにくらげチップ区施用区や無施用区(対照区)等を配置し,それぞれの試験区にアカマツ,コナラ,クヌギ及びヤマザクラの 4種を合計 600本植栽し,森林再生を試みている。ここでは 9年経過後の生育状況の調査を実施し,くらげチップの効果について検討した。その結果,全ての樹種の樹高において,くらげチップ施用区と無施用区との間には,0.1から 1%レベルで有意差が認められ,引き続き,クラゲチップ施用の効果が確認された。しかし,その樹高伸長率は,鈍化傾向になっており,再施用の時期の検討に入る必要性が示唆された。

  • 髙木 康平, 藤田 祥代, 日置 佳之
    2019 年 45 巻 1 号 p. 169-172
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    緑道は,「歩行者と自転車が安全に通行できる緑の多い道」で,生態的回廊や防災・減災など多くの機能を有する。緑道の機能を評価するにはその構造を把握する必要があるが,緑道の構造は3次元的であり,従来の方法では計測に多大な労力を有する。そこで筆者らは,地上3Dレーザースキャナを用いて緑道の計測を行った。その結果,樹木位置,形状,緑道基盤等を正確に把握することができ,断面図を活用することで緑道の機能評価に繋がる可能性が示唆された。一方,樹種の同定や緑量を計測できない課題が明らかとなった。

  • 戎谷 遵, 中村 凌, 岡 浩平
    2019 年 45 巻 1 号 p. 173-176
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    隠岐郡西ノ島では,海崖に生育するトウテイランが切土法面に分布を拡大している。本研究では,トウテイランの生育する切土法面の特徴を把握するために,西ノ島の道路を踏査し,トウテイランの分布と生育環境を調べた。その結果,トウテイランは切土法面に1,000 個体以上が分布し,被度は岩盤硬度が硬く表面に土壌が少ない切土法面で高かった。切土法面には,他に絶滅危惧種ハマウツボ等も生育しており,希少種の新たな生育地になり得ると考えられた。

  • 大澤 啓志, 釜淵 嵩大
    2019 年 45 巻 1 号 p. 177-180
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    河床掘削工事時に保全対策が取られた柏尾川のミズキンバイについて、約10 年後の生育状況を把握した。2000 年前後の記録に対し、2017 年、2018 年の生育量は約1/4 に減少していた。ただし、河川流程上の分布傾向は大きな変化は無く、河川全体で個体群を維持していた。ツルヨシの多い生育量や水際部での優占群落の高い延長割合が認められ、現在の競合植物となっていた。堆積土砂による洲の拡大と流路の固定化も本種の減少要因と考えられた。

  • 寺本 行芳, 下川 悦, 江﨑 次夫, 河野 修一, 全 槿雨, 金 錫宇, 土居 幹治, 松本 淳一
    2019 年 45 巻 1 号 p. 181-184
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    花崗岩急斜面において,表層崩壊発生後の経過年数が2 年および11 年では,イヌビワ,アカメガシワなどが多く出現した。同13 年,25 年および27 年では,上述した落葉広葉樹に加え,ヒサカキ,アオキなどが多く出現した。同42 年では,同27 年までに出現した樹種に加え,アラカシ,マテバシイなどが多く出現した。また,表層崩壊跡地における表層土は,植生遷移の進行に伴って発達しており,表層土の発達速度は0.31 cm year-1 であった。さらに,表層崩壊発生後42 年が経過した急斜面では,調査実施年(2018 年)から約50 年後に表層土厚の安定の限界値に達することが予測された。

  • 奥田 淳, 山瀬 敬太郎
    2019 年 45 巻 1 号 p. 185-187
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    スギコンテナ苗の生育に与えるファインバブルの効果を検証するため,直播後約8 か月間ファインバブル水を潅水した試験区の苗を,原水を潅水した試験区(以下,対照区とする)と比較した。その結果,ファインバブル区が対照区に対し苗高が33.6%,幹直径が28.8%,主枝数が38.1%,個体内の最長の主枝長が30.9%増加し,T/R 比が21%減少したことから,地上部の生育量に関わるパラメーターの増加と,地下部が充実することが確認された。

  • 辻 盛生, 鈴木 正貴, 佐々木 理史
    2019 年 45 巻 1 号 p. 188-191
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    水質や管理の異なるカサスゲ群落の生育状況,他の植物の侵入状況を評価した。その結果,富栄養化した水域では草高,密度共に高く,純群落を形成した。栄養塩濃度の低い水域では,他種の侵入も見られたが,群落は安定して維持された。刈取りが行われた群落におけるカサスゲの再生は迅速で,他種の侵入は少なかった。種多様性の低下は懸念されるものの,比較的低い草丈で水辺空間の植生を維持できる点で有効と考えられる。

  • 正田 佑, 今西 純一, 柴田 昌三
    2019 年 45 巻 1 号 p. 192-195
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    京都府京都市において,街路樹のイチョウ(Ginkgo biloba L.)2 本の葉面積と葉,枝,幹の重量を計測した。また,街路樹のケヤキ(Zelkova serrata (Thunb.) Makino)1 本の枝,幹の重量を計測した。既存のバイオマスの算定式より求めた推定値と実測値を比較した結果,樹齢20 年のイチョウでは推定値は実測値の57%,樹齢50 年のイチョウでは140%であった。また,ケヤキでは推定値は実測値の101%であった。街路樹のイチョウ2 本の葉面積指数(LAI)について,既存の算定式より求めた推定値と実測値を比較した結果,樹齢20 年のイチョウでは,推定値は実測値の106%であった。樹齢50 年のイチョウでは推定値は実測値の74%であった。

  • 三島 らすな, GARDINER Tim, 倉本 宣
    2019 年 45 巻 1 号 p. 196-199
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    ウラギクは塩性湿地に生育するキク科の植物で,東京都においては絶滅危惧IB 類に指定されている。本研究では,東京都立葛西臨海公園の護岸を対象に,ウラギクの分布規定要因を明らかにすることを目的とした。護岸の測量調査と植生調査の結果,当護岸には満潮時に塩分の含まれた水に浸ることがあるエリアと,普段水に浸ることがないエリアが存在し,ウラギクはどちらにも生育していた。ウラギク個体が存在する箇所には基質の堆積が見られ,基質の堆積は本種の生育に必要な条件となっている可能性が考えられた。護岸において基質の堆積を考慮するという観点は,我が国において,水域と陸域の間の移行帯特有の植生を保全及び再生する上で重要なものだと考える。

  • 平林 聡, 譚 瀟洋, 柴田 昌三
    2019 年 45 巻 1 号 p. 200-203
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    i-Tree Eco は樹木による生態系サービスの定量的評価を行うシステムである。樹木による医療費および冷暖房費削減モデルを日本国内に適用するためのカスタマイズ手法について,京都市中京区を例として解説する。

  • 長田 美保, 岡 浩平
    2019 年 45 巻 1 号 p. 204-207
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    塩生植物のハママツナ,ハマサジ,フクドの3 種の発芽特性を把握するために,光・温度・塩分が発芽に与える影響を検証した。フクドは,5℃~20℃の広い温度範囲で発芽率が高く,3.7%人工海水の1/2 の濃度でも発芽率が高かった。ハマサジは,12.5℃と20℃で発芽率が高く,3.7%人工海水の1/2 の濃度では発芽率が顕著に低下した。ハママツナは,全体に発芽率が低かったが,5℃の定温もしくは14 日間の低温湿潤処理を施した場合に,発芽率がやや高い傾向にあった。光の有無は,3 種ともに発芽率に有意差はなかった。以上の結果より,対象とした3 種は,播種に適した時期や土壌塩分は種によって異なり,ハママツナ<ハマサジ<フクドの順に適した播種条件が限定的と考えられた。

  • 山口 桃華, 大澤 啓志, 瀧 寛則, 屋祢下 亮, 渡邊 敬太
    2019 年 45 巻 1 号 p. 208-211
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    水辺創出に用いる固化土壌基盤におけるアゼスゲ,ハンゲショウの生育適性の検証を行った。2017 年9 月に実験池を施工し,2018 年3 月~10 月にかけて月に1 回,株毎に生育状態を6 段階で評価した。両種とも初夏季に良好な生育を示し,植栽部位による差は認められなかった。非植栽面からの出芽シュート数は9 月時点でアゼスゲが計789 シュートに対してハンゲショウは計32 シュートと土壌緊縛能としてはアゼスゲの方が適していることが示された。

  • 宮崎 直美, 平田 昌弘, 菊池 俊一
    2019 年 45 巻 1 号 p. 212-215
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    都市人工林に自然侵入する若齢木の樹齢情報の取得のため,地際直径および樹高と樹齢実測値との関係から樹齢推定式を得る方法を検討し,異なる林分での樹齢推定式の適用性を検証した。有意な相関関係を得られた樹種のうち,10 本程度の円盤採取による樹齢解析で,地際直径,樹高および地際直径と樹高の積と樹齢実測値とのいずれの一次回帰式からも樹齢推定が可能であった。地際直径および樹高と樹齢との相関係数にほとんど差がなかったため,地際直径だけで簡便で迅速な樹齢推定が可能と考えられた。異なる林分への樹齢推定式の適用は,樹種によって樹齢推定の精度が低下したことから,樹齢推定式は同一林分での適用が適切であることが示唆された。

  • 倉本 宣, 谷尾 崇, 上小牧 駿
    2019 年 45 巻 1 号 p. 216-219
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    2016年末から2017年初にかけて,鬼怒川水系,多摩川水系,相模川水系のすべてのカワラノギク個体群について,種子食害昆虫ツツミノガ属の1種の生息の有無を調査した。ツツミノガ属の1種の生息が確認できたカワラノギクの個体群はほとんどなかった。カワラノギク個体群の再生の際にツツミノガ属の1種の導入は考慮されていなかった。絶滅危惧種と種子食害昆虫の関係を保全した再生手法について検討し提案した。

  • 大嶋 辰也, 久保 満佐子, 井上 雅仁, 田村 徹, 森定 伸, 西尾 隆
    2019 年 45 巻 1 号 p. 220-223
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    島根県にある浜田・三隅道路の盛土法面でタブノキ二次林の表土と粘性土を混合して貼り付ける緑化を行い,表土採取地の植生,施工 2 年後までの法面の植生および木本の種と個体数,樹高,種子または栄養体(根など)の起源の違いを調べた。その結果,法面では 90 種を確認し,そのうち 4 種が表土採取地で出現した種であった。法面の植被率と群落高,木本の個体数と平均樹高は施工 1 年後から 2 年後まで増加した。施工 2 年後における種子を起源とする個体は全個体数の 77.7%を占めたが,栄養体を起源とする個体の平均樹高が種子を起源とする個体の 3.5 倍あり,森林表土利用工において栄養体は施工 2 年後に樹高の点で有効であることが示唆された。

  • 古賀 和子, 岩崎 寛, 西廣 淳
    2019 年 45 巻 1 号 p. 224-227
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    自然地の健康増進効果の検証は都市公園や管理された森林環境が中心に行われており,衛生面や安全面でネガティブな印象のある湿地や湖沼を対象とした研究はほとんど行われていない。そこで本研究では都市近郊の遊水地において,近隣勤務者の利用状況に関する質問紙調査と散策利用による心理的効果の評価を行った。質問紙調査から遊水地利用者の属性や利用状況などが明らかになり,アクセシビリティなどの課題を改善することでより利用が活発になる可能性が示唆された。また心理評価の結果から,臭いや安全性への懸念があるものの,利用により十分な心理的効果が得られることが明らかとなった。

  • 中村 彰宏, 藤野 和臣, 木寺 由樹, 中山 祐一郎, 守村 敦郎
    2019 年 45 巻 1 号 p. 228-231
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    樹木管理や野外調査の外業と内業を効率化するために,スマートフォンで動作するデータベースを開発した。多くの人が多様な調査内容に応じてデータベースを構築できるよう,具体的な作成,使用方法を解説した。データベースが動作するスマートフォンを用いたサクラの開花と台風被害調査で,写真撮影と状態選択を1 個体約30 秒でできた。結果のデジタル出力,スクリプト処理により,整理に多大な労力を要した画像出力と名前変更の一括処理が瞬時にできた。デジタル端末とデータベースを用いた現地調査によって,一次的な内業時間をほぼ削減でき,従来の紙ベースの現地調査での外業と内業の多くを効率化できた。

  • 中村 華子
    2019 年 45 巻 1 号 p. 232-235
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    宮城県気仙沼市波路上地区周辺の地形変遷・変化と海岸植 物の定着について,前報で 2011 年から約 4 年間の状況を報告し た。2018 年までに地形の変化や復旧事業による改変もあった一方,新たに定着した海岸植物が確認された。本報では同地区における海岸植物を中心とした状況変化について,また複数回変更された復旧工事の範囲や内容がほぼ決定し,工事が進行中であるのでその内容について,今後の課題を含めて報告する。

  • 島田 博匡
    2019 年 45 巻 1 号 p. 236-239
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    高木種がほとんどみられず,亜高木種や低木種が優占する約35 年生マツ枯れ被害林において,マツ枯損木を伐倒した上で,胸高直径4 cm 未満の広葉樹の除伐と株立木整理を行う低密度区,胸高直径2 cm 未満を除伐する中密度区,除伐を行わない高密度区を設置し,除伐後2 年間の広葉樹成長を調査した。いずれの密度区でも,主要樹種のコナラ,ソヨゴ,イヌツゲの胸高直径と樹高の成長量はわずかであり,除伐強度の影響は認められなかった。除伐後2 年間で樹高が低下した個体が多数みられたが,これらの発生は胸高直径や樹高が大きいほど少ない傾向がみられ,除伐強度が大きい低密度区では他の密度区よりも樹高が低下した個体の発生が少なかった。

  • 新町 文絵, 中村 颯人, 水野 真二, 小谷 幸司, 渡辺 慶一, 小島 仁志
    2019 年 45 巻 1 号 p. 240-243
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    海浜植物ハマボウフウは,保全が必要な植物の一つであるが,発芽率が非常に低く,また発芽までに長い時間を要することが知られている。そこで本研究では,組織培養技術を利用した大量増殖方法を確立するため,まず種子を表面殺菌し,無菌播種をすることで無菌植物の調製を試みたところ,種子の表面殺菌処理をすることで発芽率が向上した。また砂耕栽培の個体植物葉を殺菌し,カルス誘導を試みたところ,葉身よりも葉柄の方がカルス誘導されやすいことが明らかとなった。

  • 小川 泰浩, 玉井 幸治, 村上 亘, 岡田 康彦
    2019 年 45 巻 1 号 p. 244-247
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2019/12/27
    ジャーナル フリー

    2000 年以降に急速に設置された木製治山ダムは施工から約20 年が経過し,堤体の自然劣化が進んでいる。しかし,堤体に多点を接触させる必要のある計測機器では短時間に堤体外形の劣化状況を把握できない。そのため,こうした計測機器で劣化診断を行う前に堰堤の外形を遠隔から把握する方法を検討する必要がある。外形を比較的短時間に把握できる非接触型の測定方法であるUAV写真撮影と面的計測可能な光波測量を組み合わせた方法を検討した。その結果,上空10~25 m の写真から傷や接合ボルトを確認できたが,水通し部分の水分状態が光波測量の計測時間に大きく影響することが分かった。

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