日本臨床救急医学会雑誌
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26 巻, 6 号
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会告
原著
  • 須田 果穂, 山勢 博彰, 井上 真美, 南原 桃子, 藤村 夏音
    原稿種別: 原著
    2023 年 26 巻 6 号 p. 687-693
    発行日: 2023/12/28
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,直近のBLS訓練の経験によって,心理的準備のない状況におけるBLSの手技の質が維持されるかを検証することである。方法:同一対象者に2つの方法を行う前後比較試験で実施した。大学生21名を対象に,心理的準備のある状況とない状況でのBLSの手技の質を比較した。結果:BLS開始後5秒間の胸骨圧迫のテンポは,心理的準備のある状況ではmd 120(IQR 108-126)回/分に対し,心理的準備のない状況では96(90-120)回/分と有意に減少しており(p<0.05),推奨されているテンポより遅くなっていた。また,人工呼吸の手技の質も有意に低下していた(p<0.05)。結論:直近のBLS訓練の経験によって,心理的準備のない状況におけるBLSの手技の質は心理的準備のある状況と比較して部分的に維持できるが,BLS開始直後の胸骨圧迫のテンポ,人工呼吸の手技の質は低下することが示唆された。

  • 稲垣 孝行, 宮川 泰宏, 中井 剛, 鈴木 章悟, 鈴木 輝彦, 阪井 祐介, 森 智子, 梅村 朋, 長尾 能雅, 山田 清文
    原稿種別: 原著
    2023 年 26 巻 6 号 p. 694-702
    発行日: 2023/12/28
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    目的:ICUでの内服薬投与は,経鼻胃管チューブでの投与が多く,薬剤によってはチューブ閉塞を起こしやすい。閉塞によるチューブの入れ替えは,患者および医療者の負担が大きい。そこで,過去に発生したインシデント事例および経管投与時に注意すべき薬剤を調査した。方法:2018年1月〜2020年7月の全病棟での閉塞事例,および2020年1月〜2020年6月にICUで使用した内服薬の製剤学的特徴を調査した。調査に基づきICUにおける薬剤の経管投与方法を標準化した。結果:過去の閉塞事例の原因は,酸化マグネシウム(9/31件)や複数薬剤の同時投与による閉塞(7/31件)などであった。他剤に影響する内服薬は,キレート形成する電解質製剤や溶解性を悪化させるシロップ剤などであった。調査結果より,一覧表を作成した。結論:看護師の投与手技の標準化や薬剤師の一覧表を用いた疑義照会が可能となり,ICUでのチューブ閉塞が減少している。標準化による新たな問題点を抽出し,今後の改善へつなげたい。

調査・報告
  • 平湯 恒久, 鍋田 雅和, 宇津 秀晃, 山下 典雄, 高須 修
    原稿種別: 調査・報告
    2023 年 26 巻 6 号 p. 703-710
    発行日: 2023/12/28
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    集中豪雨や台風による水害は年々増加しており,気候変動の影響により今後もさらなる頻発・激甚化が懸念されている。当院は九州地方最大の河川である筑後川の畔にあり,氾濫すると1階に位置する救命救急センターは最初に被害を受ける。2020年,2021年と集中豪雨による河川氾濫の危機に直面し垂直避難を経験したため報告する。垂直避難をする際の課題点は,①タイミング,②マンパワーの確保,③避難先の病床確保,④医療機器などの避難があげられる。対応策として,①河川の水位とその後の降水状況,マンパワーを加味し判断する,②病院全体での協力体制を構築し,避難する時間帯を考慮する,③入院病床を有す救命救急センターには重症患者が多く,病院全体で事前のベッドコントロールが必要である,④事前に高額医療機器の避難場所の確保をしておく。水害は毎年のように各地で多発している。実害を被るまで時間的猶予のある災害であるが,垂直避難も考慮した危機管理体制が必要である。

  • 宮安 孝行, 藤村 一郎, 小倉 圭史, 田代 雅実, 小野 勝範, 田中 善啓, 大保 勇, 赤木 憲明, 髙本 聖也, 五十嵐 隆元
    原稿種別: 調査・報告
    2023 年 26 巻 6 号 p. 711-720
    発行日: 2023/12/28
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    目的:2017年に自身らが行った外傷全身CTの被ばく線量(CT装置に表示されるCTDIvolとDLP)の全国調査から5年が経ち,2020年には外傷全身CTについて医療被ばくの線量指標となる診断参考レベル「5,800 mGy・cm」が明記された。5年後の再調査を行い,公表後の外傷全身CTの被ばく線量の変化を明らかにすること。方法:全国の救命救急センター290施設を調査対象とした。日本救急撮影技師認定機構が運用しているメーリングリストに依頼し,賛同が得られた施設での成人標準体型群(20〜80歳,体重50〜70kg)の連続30例の被ばく線量の要約値(最小値・25%値・中央値・75%値・最大値)を集計し,統計学的解析を行った。結果:64施設,77条件の被ばく線量の要約値が得られた。中央値群の中央値が4,509 mGy・cm,最小値群の最小値が1,025 mGy・cm,最大値群の最大値は11,041 mGy・cm,最大値/最小値は10.77であった(前回の最大値/ 最小値は7.31)。結語:施設間での被ばく線量の格差は広がっていた。

  • ―事故種別,年齢別の分析―
    三橋 正典, 田邉 晴山, 小川 理郎
    原稿種別: 調査・報告
    2023 年 26 巻 6 号 p. 721-729
    発行日: 2023/12/28
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    背景:全国における救急搬送人数はCOVID-19感染の拡大した2020年中に対前年比11.4%減となったが,月ごとの変化や年齢別などの詳細に関しての検討は行われていない。目的:感染拡大による救急搬送需要の変化を明らかにするために救急搬送人数の月別,年齢別事故種別ごとの変化について調査する。方法:救急搬送人数の2019〜2020年への変化に関して,月別,年齢5歳ごと,事故種別ごとの年齢別について分析した。結果:救急搬送人数はすべての年齢別で減少していた。人口10万人当たりの救急搬送人数の変化率は,0〜4歳が−33.5%ともっとも大きく,年齢が低いほど減少率が大きい傾向がみられた。急病,交通事故,運動競技は,全年齢で減少し,急病,交通事故の年齢別では若年層ほど変化率が大きかった。 結論:年齢別の人口10万人当たりの救急搬送人数の変化率でみると若年層ほど大きく減少していた。

  • 江川 香奈, 縫村 崇行
    原稿種別: 調査・報告
    2023 年 26 巻 6 号 p. 730-737
    発行日: 2023/12/28
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    目的:感染症流行時の患者の受け入れに対応可能な医療施設の建築設計に資する知見を得ることを目的とし,感染症が疑われる患者の受け入れと診療で使用した場所への医療者の印象などを把握する。方法:全国の200床以上の調査時に感染症が疑われる患者の診察または受け入れを行っている病院勤務の医師50人を対象に,感染症が疑われる患者のトリアージと診療の実施場所の現状と印象についてアンケート調査を実施した。結果:トリアージエリアは外来入口前,救急入口前,エントランスホールに比較的多く設営されている。外来入口前をトリアージの実施場所として使用する場合は,広さが確保できること,見通しがよいこと,設備環境が整っていること,敷地外に搬送しやすいこと,独立した動線を確保できることが全体満足度の上昇にかかわっていた。結論:感染症が疑われる患者のトリアージの実施場所と診療の実施場所の満足度に関連する要件の概要が把握できた。

症例・事例報告
  • 目黒 雄太, 清住 哲郎, 加藤 昌義, 瀬沼 耕一, 後藤 清
    原稿種別: 症例・事例報告
    2023 年 26 巻 6 号 p. 738-742
    発行日: 2023/12/28
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    Do not attempt resuscitation(DNAR)プロトコールを学ぶ研修では,従来,隊長役以外の参加者の学びに限界があるなどの課題があった。課題を克服するためvirtual reality(VR)教材を作成して研修に取り入れた。研修に参加した救急救命士153名を対象として質問票によるアンケート調査を行い,前回の研修で隊長を経験した受講者(隊長群)と経験していない受講者(非隊長群)について比較した。参加者全員(隊長群31名,非隊長群122名)が問題なくDNAR教材を使用した。VRは実習の代替になる(そう思う,ややそう思う)と,隊長群15名,非隊長群82名が,DNARブースはVRで行ったほうがよい(そう思う,ややそう思う)と隊長群15名,非隊長群66名が回答した。群間に有意差はみられなかった。 DNARプロトコールを学ぶ研修会において,VR教材を活用することにより,従来の集合型研修で隊長を経験できなかった受講者全員に隊長を経験させることができ,受講者から好意的な反応を得た。

  • 後藤 沙由里, 関根 萌, 鈴木 光子, 小野寺 誠, 伊関 憲
    原稿種別: 症例・事例報告
    2023 年 26 巻 6 号 p. 743-746
    発行日: 2023/12/28
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    5%パラコートと7%ジクワット液剤の合剤であるプリグロックスL®は,少量の服用で死亡する。また,パラコートの経皮吸収による死亡例も報告されている。今回,自殺目的に致死量のパラコートを服用し短時間で死亡した1例を経験した。救助者の二次曝露も認めたため,周囲への注意喚起も含めて報告する。症例は58歳,女性。自殺目的に致死量のプリブロックスL®を服用しドクターヘリが要請され,救急車で陸路搬送した。来院から約4時間後に死亡した。機器分析ではパラコートのほか,グリホサートも検出された。一方,患者の夫は両上肢に吐物を曝露したが発赤は認めず,遅発性肺障害も認めなかった。本症例の問題点として,患者搬送方法と救助者の二次曝露があげられた。パラコートの患者の搬送は,患者と医療者の安全を考慮して搬送方法を選択する。また,パラコートに曝露した二次被害者に対しては速やかに除染を行い,入院の目安は皮膚障害が指標になる。

  • 榊原 丈, 菅田 淳悟, 大屋 悠真
    原稿種別: 症例・事例報告
    2023 年 26 巻 6 号 p. 747-751
    発行日: 2023/12/28
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    当市では近年,社会生活基盤や家族背景の脆弱性などを背景とする,社会的・心理的な課題(以下「ソーシャルハイリスク」という)を抱える傷病者の頻回の救急要請や救急搬送困難事例が顕在化している。複雑多様化する救急現場の負担を改善するため,市内の医療機関と消防本部が連携することで頻回の救急要請および搬送困難事例の減少につなげる方法を検討した。医療機関との検討を経て,救急隊が傷病者を医療機関に搬送した際,医師に傷病者情報を引き継ぐタイミングで医療機関に常駐する専門職である医療ソーシャルワーカー(以下「MSW」という)に情報をつなぐことで,早期かつ円滑な支援介入を目指した連携体制を令和2年3月に構築した。この医療機関およびMSWとの情報共有に関する仕組みを「EM-PASS連携」と称して構築し,医療機関との連携により,同一傷病者による頻回の救急要請件数の減少につなげる取り組みを進めている。連携を進めるなかで,MSWが常駐しない医療機関への救急搬送や不搬送事案においては連携ができないことから,「EM-PASS連携」を補完する仕組みとして,「支援会議を活用した福祉部局との連携」体制を令和4年4月に構築した。ソーシャルハイリスクを抱える傷病者に対し,「EM-PASS連携」および「支援会議を活用した福祉部局との連携」を構築したことで,「EM-PASS連携」511件,「支援会議を活用した福祉部局との連携」9件においてソーシャルハイリスクを要因とした傷病発生や悪化などに基づく救急要請を回避する効果を認めた。

  • ―エア・コンディショナーの故障による救急病棟避難の経験から―
    山田 哲久, 名取 良弘
    原稿種別: 症例・事例報告
    2023 年 26 巻 6 号 p. 752-757
    発行日: 2023/12/28
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    20床の救急病棟で夏季にエア・コンディショナーの故障により,深夜帯に病棟避難を行った事例を経験したのでCSCATTTに沿って振り返りを行った。事例:16時頃エア・コンディショナーの調子が悪くなったため扇風機で対応をした。翌日0時15分,入院を維持することは困難となり,病棟避難を決定した。入院患者17人で担送12人,護送3人,独歩2人であった。受け入れ病棟はICU 5人,neuro-ICU 1人,SCU 1人,別の救急病棟3人,HCU 1人,一般病棟2人で,4人は避難できなかった。各受け入れ病棟から避難病棟へベッドまたは車椅子持参で患者を迎えに来てもらった。3時7分に完了した。避難病棟の看護師も患者とともに受け入れ病棟で患者看護を継続した。結論:迅速にCSCAを実行できており,TTTは受け入れ病棟の準備を優先し迎えに来てもらったことが患者の分散となり,ストレッチャー,車椅子,独歩が分散され,混乱を避けることができ速やかな避難となった。避難病棟の看護師を受け入れ病棟へ再配置したことが有用であった。

編集後記
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