日本臨床救急医学会雑誌
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20 巻, 6 号
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会告
原著
  • 大谷 浩史, 田中 秀治, 牧 亮, 田久 浩, 張替 喜世一, 植田 広樹, 曽根 悦子, 匂坂 量
    2017 年 20 巻 6 号 p. 703-711
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2017/12/31
    ジャーナル フリー

    背景:ST上昇型心筋梗塞に対する病院前標準12 誘導心電計(Pre-hospital 12 lead electrocardiogram,以下,PH-ECG)の活用は,治療時間を短縮し死亡率を減少させるが,わが国におけるPH-ECGの使用率,教育の普及率および内容に関する具体的な報告はない。目的:PH-ECGに関する実態調査を行い,救急隊における12誘導心電計の使用状況について調査すること。また,教育施設におけるPH-ECG教育の現状とその問題点を抽出し分析すること。方法:選択した全国の104消防機関,38の民間救急救命士教育施設へそれぞれアンケートを送付し,回答を得た。結果:PH-ECGを使用していると回答したのは49.3%であった。PH-ECGの使用理由では,急性冠症候群の鑑別がもっとも多く(34/34),地域メディカルコントロールによる推奨がもっとも少なかった(13/34)。また,PH-ECGの活用を指導している教育施設は4施設(18%)に留まった。結論:臨床におけるPH-ECGの普及率の増加に比べ,教育施設ではその普及が十分でなかった。今後,地域内でのPH-ECG使用のためのシステムの構築と,その教育が不可欠である。

調査・報告
  • 〜Richmond Agitation-Sedation Scaleとの相関に関する検討〜
    中谷 安寿, 吉矢 和久, 浅井 貴子, 西尾 慎一郎, 瀬尾 恵子, 嶋津 岳士
    2017 年 20 巻 6 号 p. 712-718
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2017/12/31
    ジャーナル フリー

    背景:鎮静深度の主観的評価を補うために,客観的評価について検討することは重要である。麻酔科・集中治療領域では,RASSとBIS値の関連について意見が分かれているが,救急領域においてその報告は少ない。目的:当センターにおけるRASSとBIS値の関連性を検討すること。方法:鎮静下人工呼吸患者を対象にRASSとBIS値についてSpearmanの順位相関係数を算出した。BIS値はSQI 90%以上かつEMG 50dB以下または30dB以下とした。結果:対象は34名(データ数318)であった。SQI 90%以上EMG30dB以下のRASSとBIS値の相関係数は0.414であった。薬剤別では弱い相関を認めた。一方,外傷や敗血症を除いた場合や深夜帯の場合に0.324〜0.654の相関を認めた。考察:非外傷患者では痛みが少なく,深夜帯では照明や処置などの刺激が抑えられることで,RASSとBIS値の関連が強まる可能性が示唆された。結論:RASSとBIS値について,全体的には中程度の相関を,疾患別や勤務帯別など条件によってはさらに強い相関を認めた。

  • 平泉 志保, 越後 整, 野澤 正寛, 岡田 美知子, 加藤 文崇, 塩見 直人
    2017 年 20 巻 6 号 p. 719-725
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2017/12/31
    ジャーナル フリー

    はじめに:当院はドクターカー(doctor car,以下,DC)事業を行っており,脳卒中を疑う症例にも出動している。今回,rt-PA静注療法を行った超急性期脳梗塞症例に対しDCがどのような影響を与えているか後方視的に検討を行った。方法:2011年9月から2016年6月までのrt-PA静注療法を行った57例をDCの介入した群(以下,DC群)10例とDCが介入せず救急車で当院に搬送した群(以下,AM群)47例に分け年齢,性別,病因,基礎疾患,入院時・退院時National Institute of Health stroke scale,時間経過,予後に関して比較検討を行った。結果:覚知から治療開始までの時間がDC群で約24分短縮(p<0.05)されていることがわかったが,予後に有意差はなかった。結論:超急性期脳梗塞においてDCで早期医療介入を行うとともに,受け入れる病院のスタッフと迅速かつ正確な情報共有を図り多職種でのチーム医療を実践することが重要である。

  • 酒井 和也, 問田 千晶, 八木 啓一, 森 浩介, 高橋 耕平, 松本 順, 青山 晃, 森村 尚登
    2017 年 20 巻 6 号 p. 726-732
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2017/12/31
    ジャーナル フリー

    背景:多数の一般ボランティアから構成される医療救護隊員に,短期間で医療救護の知識や対応を習得させることを目的に,マストレーニングの手法を用いた教育プログラムを作成した。方法:横浜マラソン2015の救護隊員講習会で実施する「一次救命処置および無線通信に関する教育プログラム」を作成した。その教育効果は講習の理解度で評価し,講習会の前後で比較した。結果:医療救護隊員414人への講習を,延べ7人のインストラクターのもと7日間で終了できた。講習会の教育効果は得られており,受講生の約8割が講習内容を理解できていた。結語:マストレーニングの手法を用いることで,最小人数のインストラクターで,短期間に多数の医療救護隊員に対する講習を実施することができた。複数の医療救護隊員を養成する必要がある東京オリンピック2020などでは,われわれの教育手法が応用できる可能性が示唆された。

症例・事例報告
  • 田中 拓道, 岩下 晋輔, 金子 唯, 辛島 龍一, 入江 弘基, 笠岡 俊志
    2017 年 20 巻 6 号 p. 733-737
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2017/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は34歳の女性でNeurofibromatosis 1(以下,NF1)の既往があり,呼吸困難を主訴に救急搬入された。来院後間もなくショック状態となり,左椎骨動脈破裂の診断で緊急カテーテル塞栓術を施行した。その後,止血したが脳死とされ得る状態となった。若年症例であり家族の希望から臓器移植のドナー適応があるか検討を行った。NF1に合併する全身血管の奇形や脆弱性が問題となり,臓器提供には踏み切れないとの判断に至った。その後,第21病日に死亡退院となった。NF1はvon Recklinghausen 病として知られる先天性疾患であり,血管奇形・脆弱性から血管破裂・出血をきたし,しばしば重篤なショック状態に陥る。NF1に伴う血管奇形は国内でも多く報告される。本例では出血性ショックおよび血管攣縮で脳幹虚血・梗塞から脳死とされ得る状態になったと考えられた。臓器移植適応も検討されたが臓器提供には踏み切れなかった。

  • 山田 浩二郎, 増本 幸志, 天野 尽, 杉本 一郎, 杉木 大輔, 松島 久雄
    2017 年 20 巻 6 号 p. 738-747
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2017/12/31
    ジャーナル フリー

    背景と目的:埼玉県東部地域では2008年より救急搬送された重症・リスク受傷機転例はメディカルコントロール(以下,MC)担当医が地域で独自に作成した外傷活動記録票(以下,外傷検証票)を用い面談式および書面式事後検証を行うと計画としたが,面談式検証のみ実施されていた。そこで2014年4月より書面式該当例は消防組織内で一次検証し,医師および救急救命士により構成されるワーキンググループ(以下,WG)で二次検証する方式へと変更した。今回制度変更による書面式検証の実施率,検証結果の共有および検証の妥当性などについて検討したので報告する。対象と方法:調査対象;本MC 協議会管内における制度変更前2012 年1 月より1 年間(12消防組織)および変更後2014年4月より1年間(統合された8消防組織)とした。調査項目;1.外傷症例の一次検証(面談式・書面式)実施の有無。2.重症以上の外傷症例数及び一次検証数。3.事後検証結果の消防組織内における共有の有無。4.制度変更後における一次検証と二次検証の結果を比較し妥当性を評価した。結果と考案:1.一次検証は変更前,半分の6消防組織で実施され,その方法は面談式0,書面式6であった。変更後は全8消防組織,その方法は面談式2,書面式7(重複あり)であった。2.重症以上の外傷症例数及び一次検証数はそれぞれ変更前908件,207件(23%),変更後は945件,468件(50%)であった。3.変更前検証結果共有は6消防本部であったが,変更後全消防本部で閲覧可能としていた。4.回収した一次検証書類中約10%にWGによる検証評価の修正が必要であり,各消防組織を通じフィードバックを行った。外傷症例の書面式事後検証に外傷検証票を用いた一次検証を導入しその質を二次検証で確認するMC担当医の負担を著しく増大させない制度変更は,検証の質を維持しつつ検証実施対象事例を増加させ得る一方策である。

  • 的井 愛紗, 矢田 憲孝, 廣田 哲也
    2017 年 20 巻 6 号 p. 748-752
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2017/12/31
    ジャーナル フリー

    症例:78歳女性。現病歴:C型肝硬変・肝細胞癌の既往があり,5年前よりグリチルリチン製剤80mg/日を週4回静注されていた。路上で倒れているところを発見され救急要請となり,救急隊到着時の心電図所見は心室細動であった。除細動とアドレナリンの投与を行い,心拍再開後に当院へ搬送された。来院後経過:来院時,血清K 値は1.6mEq/lと低値であり,心電図ではQTc延長(631ms)を認め,低K 血症により心室細動をきたしたものと考えられた。入院後,低K 血症にもかかわらず尿中K 排泄量は多く,第6病日のレニン活性・アルドステロン値はともに低く,偽性アルドステロン症と診断した。グリチルリチン製剤の中止とカリウム補充により血清K値は正常化し,その経過中に致死性不整脈を併発しなかったが,第18病日に低酸素脳症で死亡した。考察:静注グリチルリチン製剤による偽性アルドステロン症から心室細動をきたした稀な1例を経験した。

  • 栗原 智宏, 関根 和彦, 笹尾 健一郎, 武部 元次郎, 菅原 洋子, 谷山 大輔, 荒川 千晶
    2017 年 20 巻 6 号 p. 753-756
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2017/12/31
    ジャーナル フリー

    症例は70代の男性。1年間に約8kgの体重減少と,1カ月前からの痰絡みを自覚するも,自宅で自立して生活していた。来院日夕方から痰絡みが悪化して呼吸困難を生じ,当院救命救急センターへ搬送された。救急外来で気管挿管し,気管支鏡で吸痰し呼吸不全は改善した。入院翌朝に抜管したが,抜管翌日に再度呼吸不全に陥り,人工呼吸管理を行った。神経筋疾患を強く疑ったが鎮静下での診察には限界があり,喀痰排出不良にて早期抜管は困難と判断した。第7病日に気管切開を施行し,第8病日に総合診療内科へ転科となった。理学所見,電気生理学検査所見から臨床的に筋萎縮性側索硬化症と診断し,最終的に人工呼吸管理のまま転院した。本症例は,喀痰排出困難による呼吸不全が初発症状となり,初診時に人工呼吸管理を要した筋萎縮性側索硬化症のまれな一例である。体重減少があり,人工呼吸器からの離脱困難例では神経筋疾患も念頭に置くべきである。

  • 入江 康仁, 新美 浩史
    2017 年 20 巻 6 号 p. 757-762
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2017/12/31
    ジャーナル フリー

    化膿性脊椎炎は一般的に臨床診断や画像診断が困難で,不明熱などとして見過ごされやすく再発率も高いことから,救急総合診療における重要な鑑別疾患の一つである。2015年度にMRI が診断に有用であった3例の化膿性脊椎炎を経験したため,早期診断におけるMRIの有用性について考察した。本疾患は血行性感染が多く,椎体内の動脈は軟骨終板直下で血管網を形成し,病原体が留まりやすく感染の好発部位である。そのため軟骨終板直下から感染が始まり,炎症は椎体から椎間板を経て隣接した椎体に波及し,やがて椎間板が狭小化する。そして前縦靭帯下,さらに靭帯を越えて進展し傍椎体膿瘍や蜂窩織炎を形成する。単純MRIは早期診断が可能であるが,症例2や3のような炎症初期では特異度は劣るため椎体や椎間板などに形状変化が現れる前の化膿性脊椎炎を診断することが困難である。しかし,造影MRIでは炎症初期でも感染巣に造影効果が得られるためより早期の診断に有用である。

  • 出雲 明彦, 酒井 賢一郎, 田村 恭久
    2017 年 20 巻 6 号 p. 763-768
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2017/12/31
    ジャーナル フリー

    アシクロビルは,帯状疱疹などのウイルス感染症の効果的な治療薬であるが,稀な副作用として脳症を併発する。症例は,86歳男性。腎機能異常の指摘はなかった。受診6日前,左顔面に帯状疱疹を認め,前医よりアシクロビル錠(400mg 8T4X)を処方された。受診3日前より食指不振となり,輸液投与するも改善せず,さらに意識レベル低下を認め当院を紹介された。意識レベルJCS:Ⅱ-20。採血検査で急性腎機能障害(BUN/Cre=77/7.93mg/dl)を認めた。アシクロビルによる脳症を考え,他の内服薬とともに中止し,輸液管理とした。第4病日にはJCS Ⅰ-3へ意識レベルは改善した。アシクロビルは透析を含む慢性腎不全の患者に投与することで脳症を生じることがある。腎排泄型であるため,ことに高齢者では,腎機能異常の指摘がなくても,脱水や他の腎排泄型薬剤との併用が急性腎不全を引き起こし,アシクロビル脳症を引き起こす可能性がある。

編集後記
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