日本臨床救急医学会雑誌
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12 巻, 4 号
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原著
  • ―救急医療に,より多くの女性医師が勤務する可能性について一
    和田 貴子, 岡本 博照, 笠置 康, 松田 剛明, 山口 芳裕, 角田 透
    原稿種別: 原著
    2009 年 12 巻 4 号 p. 405-411
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    諸事情で離職中の女性医師や救急医療に興味ある女性医師を,救急医療現場に活用する可能性と必要な勤務条件を調査・検討する目的で,平成18年2月~3月にかけて杏林大学同窓会の女性医師638名に対して郵送式調査を行った。160名の有効回答者のうち,すでに救急医療に従事している医師は52名(32.5%), どのような条件でも救急に従事しない医師は67名(41.9%),条件によって救急に従事する意思を示し勤務条件も回答した医師は41名(25.6%)であった。

    救急に従事しない医師67名は,その理由として「技量や知識に自信がない(15名)」に次いで「育児・介護をしながら働く環境が整備されていない(13名)」,そして「救急での勤務条件・環境が整備されていない(2名)」を挙げており,この点を配慮して勤務条件を整備すれば,この30名の女性医師も救急に従事する意思を示した可能性が考えられた。

    救急に従事する意思を示した41名のうち29名は「医師としての研修・修練」を理由に選び,17名が「市民に対する義務感/責任感」,13名が「地域医療の向上」を理由に選び,回答した女性医師の向上心と使命感の高さが認められた。また,大多数が最近の内科救急やACLSなどの再研修(講義・実習)を希望した。以上から,育児や介護を配慮した勤務条件の整備と再研修プログラムの設置があれば,救急に従事する女性医師を増加できる可能性が示唆された。

    第2報において,救急に従事する意思を示した女性医師41名が回答した勤務条件について報告する。

  • 畝井 浩子, 峯村 純子, 桒原 健, 西澤 健司, 平田 清貴, 石川 雅健, 遠藤 重厚
    原稿種別: 原著
    2009 年 12 巻 4 号 p. 412-419
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    目的:医療安全の面などから,救急医療における薬剤師関与の認識が高まっている。救急医療現場における薬剤師業務の実態を明らかにすることを目的としてその現状調査を行った。方法:全国救命救急センター・日本救急医学会指導医指定施設計209施設のセンター長・薬剤部長を対象にアンケート調査を実施し,2007年2月までに返送された回答を基に集計。結果:回収率はセンター長55.0%,薬剤部長65.6%。担当薬剤師配置率は34.9%。薬品管理実施率が83.3%,薬剤の投与方法など,適正使用に関する情報提供実施率が約50%。 センター長の約60%が情報提供を希望し,80%以上が薬剤師の配置が必要と回答。薬剤師配置の障害として両者ともに半数以上が“”施設基準がない”,“薬剤師の数が少ない”と回答。考察:救急医療への薬剤師関与の必要性が明確になった。今後,救急医療における薬剤師業務指針などを作成するとともに,薬剤師配置のための環境整備が必要である。

  • 石川 秀樹, 有賀 徹, 石原 哲, 森村 尚登, 泉 裕之, 櫻井 淳, 武田 宗和
    原稿種別: 原著
    2009 年 12 巻 4 号 p. 420-427
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    東京消防庁救急相談センターでは,相談が予想される主訴・症状別に現在98のプロトコールを準備している。2007年6月の開設から同年12月までの全相談14,422件の81.5%にプロトコールを使用し対応したが,月ごとに使用頻度は上昇した。最も使用頻度が高かったのは「発熱(小児)」(7.8%),次いで「頭部外傷(小児)」(6.0%)「異物誤飲」(4.8%)と,いずれも小児が主対象で,成人を主対象とした「腹痛」「頭痛」「めまい」「発熱」が続いた。8月に「熱中症」,年末に「嘔吐・吐き気(小児・成人)」「下痢(小児)」が増えたが,使用頻度上位10のプロトコールで41.9%の相談をカバーした。プロトコール使用の有無で緊急度に差はないが,高いプロトコール使用率は緊急度判断標準化のために重要である。小児・成人とも相談内容が偏り,これらの主訴・症状に対応するプロトコールのいっそうの充実と相談者への啓蒙が期待される。

  • 一千葉県こども病院における問題点一
    相澤 まどか
    原稿種別: 原著
    2009 年 12 巻 4 号 p. 428-436
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    目的:当院を中心に千葉県における新生児救急搬送の現況と問題点を報告する。対象と方法:2005年1月1日から2007年12月31日までに,千葉県こども病院に入院した児を,診療録をもとに後方視的に検討した。結果:当院は千葉県の小児専門病院であり,産婦人科が併設されていないため,全例院外出生の児で新生児搬送されて当院に入院となる。年間入院数は約200,県内の他施設ではほとんど扱っていない先天性心疾患,脳外科疾患などの新生児期に手術を要する疾患を多く扱っている。胎内診断されていない症例がほとんどであるため,診断が遅れて状態が悪化したり,搬送元が遠方で搬送に時間がかかって状態が悪化することもしばしばあった。考察:新生児搬送はリスクが高いため母体搬送が理想的であるが,やむを得ず母体搬送ができなかった場合は新生児搬送が必要となる。児へのストレスを最小限にして速やかに搬送するためには,地域間の連携やシステムの構築が必要である。

調査・報告
  • 一手段別臨床調査よりー
    米満 弘―郎, 小川 智也, 島原 由美子, 若井 聡智, 前野 良人, 大西 光雄, 白 鴻成, 西野 正人, 木下 順弘, 定光 大海
    原稿種別: 調査・報告
    2009 年 12 巻 4 号 p. 437-442
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    目的:精神科入院病床のない救命救急センターに搬送された自殺企図者を,企図手段別に特徴を調査し,治療の問題点を検討した。方法:当センターに搬送された自殺企図患者を服薬群(drug群)と自傷群(selinury群)に分類し,治療経過,入院前後の精神科診断,退院経路などを比較した。結果:drug群は,20~30歳代の女性に多く,8割に精神科疾患既往歴があり,入院後精神科コンサルトは約半数のみで,15%が自己退院した。self-injury群は,約半数に精神科疾患既往歴があり,精神科コンサルト率は8割で,20%が精神科へ転院した。結論:2群間の精神科的背景および経過には大きな違いがあり,自殺企図として画一的に対応されるべきではない。drug群は精神科医にコンサルトできずに,不確実なかかりつけ医への紹介となるケースが多く,解決すべき点と考えしれた。

  • 吉井 友和, 橋口 尚幸, 本田 隆志, 田中 淳, 山森 祐治, 松原 康博, 城 有美, 畑 倫明, 坂野 勉
    原稿種別: 調査・報告
    2009 年 12 巻 4 号 p. 443-448
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    島根全県で携帯電話の圏外地域(以下,不感地帯とする)がオンラインメデイカルコントロールに与える影響についての現状を明らかにするため,指示要請した心肺機能停止589症例を調査し,明らかになった問題点の解決を図った。最初の指示要請が不通であった症例が73症例(12.4%),その原因は地域の不感地帯によるもの32症例,病院内の不感地帯によるもの41症例であった。指示要請に要した時間は,不感地帯なしが平均4.1分,不感地帯ありが平均7.2分であり,不感地帯により明らかに遅れを生じていた。現場滞在時間,患者予後には有意差を認めなかった。院内の不感地帯対策として該当病院にメデイカルコン トロール協議会が主導し,アンテナ増設など具体的な対策を要請し,実現した。昨今の病院前救急医療体制の急激な変化(進歩)を勘案すると,通信の確保の重要性は増すばかりであり,より積極的に取り組み問題点を解決する必要がある。

症例報告
  • 木村 一隆, 佐野 常男, 青木 光広
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 12 巻 4 号 p. 449-452
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    57分間の治療抵抗性心室細動に対し,経皮的心肺補助法(以下,PCPS)を施行し社会復帰した1例を経験した。症例は60歳代,男性。糖尿病,冠動脈バイパス術,慢性腎不全などの既往があった。某日,路上で卒倒,通りがかった消防学校生がただちに救急要請と一次救命処置を施行した。救急隊到着後,電気ショック,アドレナリン静注されるも心拍再開せずに搬送された。来院後,通常の二次救命処置として電気ショック,アドレナリンと抗不整脈薬投与などを行った。一時的に心拍再開するもすぐに心室細動に陥った。卒倒57分後,PCPSを開始した。PCPS開始から10分後,心拍が再開,以後,心室細動に陥ることはなかった。PCPS開始から28時間後にPCPSを離脱した。その後,意識も改善を認め,第17病日,リハビリテーション目的に転院した。9カ月後,後遺症はなかった。難治性心室細動に対しては迅速なPCPS導入が必要である。

  • 新谷 裕, 箱田 滋, 木内 俊―郎
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 12 巻 4 号 p. 453-457
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    症例は70歳代,男性。主訴は腹痛。来院時,意識障害,低血圧,徐脈,縮瞳を呈し,血中アミラーゼ値の増加を認め,急性膵炎と当直医に判断され,入院した。徐脈に対し硫酸アトロピンを投与していた。当直医は縮瞳と血中コリンエステラーゼ値の低下から有機リン中毒を疑い,救急科医師へ診療を依頼した。しかし,状況から有機リン中毒は否定的で,臭化ジスチグミンによるコリン作動性クリーゼと判断し,治療を引き継いだ。呼吸管理,循環管理に難渋したが,意識は回復し,人工呼吸器から離脱し,第7病日に昇圧剤も中止した。通常,コリン作動性クリーゼの発症は臭化ジスチグミンを投与して1週間以内の発症が多く,危険因子は高齢者,腎機能障害などとされる。高齢者人口の増加に伴い本症も増加すると思われる。とくに認知症を有する患者では危険因子の察知も困難となるため,十分な配慮のうえの投薬が望まれる。また来院患者の内服薬の把握は重要と思われる。

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