日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
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8 巻, 4 号
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原著
  • 廣田 哲也, 塩川 智司, 野阪 善雅, 渡辺 知朗
    原稿種別: 原著
    2005 年 8 巻 4 号 p. 287-292
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    2003年12月~2004年2月にインフルエンザを疑わせる症状を有してERに自己来院し,迅速診断検査(キャピリア®️ Flu A, B)を行った119例の患者背景(年齢,性別,インフルエンザ患者との接触歴,予防接種歴),発症から受診までの経過時間,臨床像と判定結果について前方視的に検討した。検査陽性は68例(57.1%)で,患者背景は陽性例と陰性例の間に有意差を認めなかった。発症から24時間以内(1病日)での陽性率は発症24~48時間(2病日)と比較して有意に低率であった。検査陽性に関与する臨床像の多変量解析では最高体温,咳,鼻汁が有意な予測因子であった。ERでも迅速診断検査が頻用されるが,病初期は偽陰性の発生する可能性が高い。したがってインフルエンザの流行期に突然38℃以上の発熱と咳あるいは鼻汁を有して1病日にERを自己来院する患者に対しては,他の感染性疾患を除外したうえで迅速診断検査を行わずに抗インフルエンザ薬を処方すべきと考えられた。

  • 神頭 定彦, 小林 澄雄, 瀬口 達也, 吉川 節雄
    原稿種別: 原著
    2005 年 8 巻 4 号 p. 293-301
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    長野県飯田下伊那の病院外心停止例をデータベース化し検討した。ウツタイン様式では年間心停止例は88.8例/10万人(心原性47.5%,非心原性52.5%)で,心原性で目撃あり例のバイスタンダーCPR実施率は58.6%と大阪,ニューヨーク,ヘルシンキより高率であった。心拍再開率34.5%,入院率13.8%,生存退院率0.0%は,高齢化の地域特性を考慮しても満足できるものではなかった。単変量分析では,心拍再開群は非心拍再開群に比し目撃ありの割合(67.6% vs 34.7%),心室細動(Vf)の割合(13.5% vs 1.7%),無脈性電気活動(PEA)の割合(29.7% vs 10.7%),特定行為の除細動施行の割合(10.8% vs 2.5%)がおのおの有意に高値であった。問題点として半自動体外式除細動器による無脈性電気活動(PEA)のVf誤判定例が1例あった。データベースを用いた評価をさらに重ね,救急医療体制の改善に努めねばならない。

調査・報告
  • 廣田 哲也, 塩川 智司, 則本 和伸, 野阪 善雅, 渡辺 知朗
    原稿種別: 調査・報告
    2005 年 8 巻 4 号 p. 302-307
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    年々増加傾向にある救急搬送要請に対応するためには救急外来受診より入院までに要する診療時間(滞在時間)を可及的に短縮する必要がある。平成15年9月~11月に救急外来より入院した内科症例のうち,滞在時間が3時間以上の長時間滞在例169例の各担当医に対して前方視的にアンケート調査を行った。さらに平成15年9月より導入した救急専従医による「遅出勤務(毎週水曜日13時~21時40分)」の効果についても検証した。長時間滞在にもっとも関与した要因は「診断」,「経過観察」,「検査待ち」,「外来混雑」の順に多く,勤務帯別にみると「経過観察」は平日当直,「検査待ち」は平日日勤,「外来混雑」は土日祝日における主な滞在要因であった。平日当直のうち,「遅出勤務」と重複した水曜日(17時~21時)の長時間滞在率は他の曜日の同時間帯と比較して低率であった。救急外来でのよりよい診療体制を構築するうえで,各科専門医間の意思統一(診療の標準化),観察用ベッドの設置,「外来混雑」に対する人員配置の見直しなどがあげられ,これらに対して病院全体で取り組む必要がある。

臨床経験
  • 森本 文雄, 渋谷 正徳, 吉岡 伴樹, 鈴木 秀道, 鈴木 義彦, 木村 一隆
    原稿種別: 臨床経験
    2005 年 8 巻 4 号 p. 308-311
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    (目的)消防機関と連携して行った看護学生に対する心肺蘇生実習を評価する。(対象および方法)2003年および2004年に看護学生83名に対し,消防職員が中心となって心肺蘇生実習を行った。学生8~9名に対し指導者1名がつき,マネキン人形を用い普通救命講習のうち成人向け心肺蘇生のみを90分で指導した。学生に対するアンケートで実習を評価した。(結果)78名から回答を得た。76名が消防職員の指導が的確であったと評価し,70名が心肺蘇生を理解でき,72名が有意義な実習であったと回答した。74名が消防職員による指導が今後も必要であると答えた。心肺蘇生に対する自己評価は,受講後に著明に改善した。(結論)消防機関と連携した看護学生に対する90分での心肺蘇生実習の評価は高く,試みる価値のある実習方法と考えられた。

症例・事例報告
  • 関 匡彦, 中村 達也, 福島 英賢, 畑 倫明, 小延 俊文, 松山 武, 村尾 佳則, 奥地 一夫, 阪口 昇二, 吉川 公彦
    原稿種別: 症例報告
    2005 年 8 巻 4 号 p. 312-316
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    症例は68歳,女性。腹痛にて発症し,腹部CTにて小腸間膜の炎症および小腸壁の浮腫,門脈および上腸間膜静脈に血栓を認め当院転院となる。上腸間膜動脈造影および経皮経肝的に門脈より血管造影を行い,門脈から上腸間膜静脈にかけて広範な血栓を認めた。経皮経肝的に血栓除去術を施行した後,上腸間膜動脈および経皮経肝的に門脈より持続的に血栓溶解療法と抗凝固療法を施行したところ,上腸間膜静脈および門脈の血流は改善し,腸管の浮腫も軽減,腹痛も消失し,腸管切除を免れ得た。本症により小腸大量切除を余儀なくされた場合には短腸症候群に陥る可能性もあり,本症例のように広範囲な血栓を認めた場合には,より選択的な経路として経皮経肝的に血栓除去術や抗凝固・線溶療法を行うことは有効であると考えられた。

  • 平岡 裕, 渡辺 勝也, 武本 和之
    原稿種別: 事例報告
    2005 年 8 巻 4 号 p. 317-321
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    平成16年6月20日に行われた“にちなんおろち100kmマラソン”において,日南病院職員を中心とする救護部を編成し参加選手の救護にあたった。マラソンコース内に4カ所の常設救護所を設置,さらにコースを8区間に分割,巡回救護車を各1台ずつ配備した。参加選手は592名,完走選手は441名で,うち救護を必要とした選手は101名であった。内訳は,熱中症14名,筋肉痛,肉離れなど50名,靴擦れなど10名,足底豆8名などであった。ほとんどは軽症で,コース上での簡単な処置を行った後レースに復帰することが可能であった。熱中症14名中9名は救急車で当病院に搬送し,輸液などの治療を行った。夏場のロードレースには,熱中症に対する救護体制と,冷却,点滴などの迅速な処置が必要であった。また,致死性不整脈に対する除細動器の配備などに留意し,安全に大会を運営することが重要である。

  • 吉田 徹, 今井 寛, 町井 正人, 松山 斉久, 浅利 靖, 永井 智紀, 栗原 克由, 相馬 一亥, 和泉 徹
    原稿種別: 症例報告
    2005 年 8 巻 4 号 p. 322-328
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    症例は42歳,男性。約1時間前からの嘔気,前胸部痛を主訴に救急隊を要請,救急隊到着直後に心肺停止状態となった。心肺蘇生法を施行しつつ当院に搬送され,エピネフリン1mgの静注で心拍再開した。冠動脈造影で明らかな有意狭窄を認めなかったが,びまん性の左室壁運動低下を認めた。カテーテル検査中に血行動態が悪化し,大動脈バルーンパンピング(IABP)と経皮的心肺補助(PCPS)を使用して血行動態を維持しつつICUで経過観察したが,第4病日に死亡した。法医解剖所見では右冠動脈および左冠動脈前下行枝,回旋枝にびまん性の内膜肥厚による約80%の内腔狭窄を認めたが他に明らかな所見を認めなかった。蘇生直後の冠動脈造影で検出不能の冠動脈狭窄が判明したものであり,冠動脈攣縮の関与を推測させるも具体的な機序は現時点では不明である。心筋虚血等による突然死の機序およびその冠動脈造影による検出能について考察するうえで重要な知見と思われた。

  • 宮本 哲也, 黒田 祐一, 高岡 秀幸, 藤田 信彦, 小林 誠人, 松山 重成, 冨岡 正雄, 中山 伸一, 小澤 修―
    原稿種別: 症例報告
    2005 年 8 巻 4 号 p. 329-333
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    当センターのドクターカーシステムでは心肺停止(cardiopulmonary arrest;CPAと略す),胸痛症例に対し医師が現場に直接出動し,acute coronary syndrome(ACSと略す)が疑われた場合,現場からセンターに緊急心カテーテル検査(coronary angiography;CAGと略す)の準備を指示する体制となっている。今回は56歳,男性の急性心筋梗塞(acute myocardial infarction;AMIと略す)による心肺停止症例に対してドクターカーが出動し,早期に再灌流を行い救命できたので報告する。患者は胸痛出現後心肺停止となり救急要請。ventricular fibrillation(Vfと略す)に対し救急救命士が包括的除細動を2回施行,心静止となった。ドクターカー現場到着後,エピネフリン投与と気管挿管を行い,覚知から20分後に心拍が再開し,現場よりCAGの準備を依頼した。センター搬入後intraaortic balloon pumping(IABPと略す)を挿入。CAGを行い左前下行枝(♯7)に99%TIMI分類2の病変を認めた。同部位に対しpercutaneous coronary intervention(PCIと略す)を行いTIMI分類3のflowが得られ,かつ完全に開大することに成功した。door to balloon timeは約45分であった。患者は第26病日で退院し,社会復帰することができた。本症例はドクターカーシステムによる適切なプレホスピタルケアによって救命できたと考えられた。

  • 新谷 裕, 箱田 滋, 木内 俊一郎
    原稿種別: 症例報告
    2005 年 8 巻 4 号 p. 334-336
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    23歳,女性。自殺企図で,フェノチアジン系抗精神病薬28錠,塩酸ミアンセリン21錠,塩酸アミトリプチン42錠など計168錠を服薬し,搬入された。胃洗浄のため経鼻胃管の挿入を試みたが食道途中から先へ進まず,原因検索と胃洗浄目的で緊急内視鏡を施行した。薬剤が溶解後に再凝固した状態で一塊となり下部食道を閉塞していた。これを内視鏡で胃内へ落とし込み,内視鏡下に胃洗浄を施行した。薬物塊付着を認めた食道粘膜に発赤を認めた。本症例の摂取水分量は不明だが,薬剤の食道粘膜への付着によつて閉塞が起こったと思われる。このような症例はまれであるが,胃管の挿入困難時には内視鏡の施行を考慮すべきであり,食道潰瘍発症にも注意が必要である。

  • 米川 力, 鎌田 敦志, 湊 貴至, 西 登美雄, 中永 士師明, 多治見 公高
    原稿種別: 症例報告
    2005 年 8 巻 4 号 p. 337-340
    発行日: 2005/08/31
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    症例は81歳,男性。腰椎脊柱管狭窄症に対する手術(L4/5開窓術)の前処置としてグリセリン浣腸を行ったところ血圧低下,肛門からの出血がみられた。その後,発熱と肉眼的血色素尿がみられ,血液検査にてLDH 552 IU/lと上昇がみられ,グリセリン浣腸による溶血と診断し手術は延期となった。血色素尿は輸液のみの対症療法で速やかに消失し腎不全への進展はみられなかった。翌日,大腸内視鏡を行い下部直腸側壁に浅い潰瘍を確認し,同部位から浣腸液が吸収され溶血をきたしたものと考えられた。その後は絶食のみの保存的加療を行い予定通り開窓術が行われた。グリセリン浣腸は簡単な手技のため看護業務として日常的に行われているが,重篤な合併症の存在を念頭に置く必要がある。

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