日本臨床救急医学会雑誌
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12 巻, 1 号
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原著
  • 鱸 伸子, 柳澤 厚生, 和田 貴子, 山内 亮子, 馬場 道夫, 深澤 政富
    原稿種別: 原著
    2009 年 12 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2009/02/28
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    近年,大学生のコミュニケーションカ不足が問題とされている。著者らは,救急救命士をめざす大学生のコミュニケーション能力,およびチームワークを育成するために,コーチングによるコミュニケーションの習得を目的とする実習を行った。その教育学的有用性を調査するため,実習前後に情動知能指数(Emotional Intelligence Quotient,EQ)における3知性・8能力・24素養を測定した。対象は救急救命士課程3年学生66名で,3時間のロールプレイを中心とした基本技術(傾聴,質問,承認,提案)を体得する実習を3ヶ月間で5回実施した。コントロール群は臨床検査技術学科学生43名とした。24素養の分析には,コーチング群,コントロール群はともに,過去3年分のデータを解析した。EQの素養をもとに学生の行動特性を評価した結果,学生自身の心内知性,対人関係知性,状況判断知性を構成する8能力(自己認識力,ストレス共生,気分創出力, 自己表現力,アサーション,対人関係力,対人受容力,共感力)すべてのスコアが上昇した。しかし,これら8能力を構成する24の素養のうち18の素養のスコアの上昇がみられたが,6つの素養は変化がなかった。変化が出なかった6つの素養のうちで特記すべき点は,情的温かさと感情的被影響性である。情緒的感受性と共感的理解が高まったことにより,卒後,消防官として災害現場で活動する際に,傷病者や傷病者の家族の気持ちに共感的に理解を示す能力を高めた。しかし,情的温かさと感情的被影響性は変化を認められなかったことで,共感により左右されず,適切にクールに判断し活動できるようになったと推測される。以上の結果から,救急救命士をめざす学生の行動特性の育成に,コーチング実習の導入は有用な方法であると示唆された。

  • 遠藤 久慶, 岡崎 康広, 岩田 知洋, 関戸 響子, 櫻井 勝, 小口 喜美夫
    原稿種別: 原著
    2009 年 12 巻 1 号 p. 8-16
    発行日: 2009/02/28
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    もし急に人が倒れても,すぐに救急車が到着するとは限らない。この場合,救命にあたり最も重要な処置は効果的な胸骨圧迫とAEDによる除細動である。とくに胸骨圧迫は特別な器具を必要とせず,心停止時に血中酸素分圧が維持されている症例ではきわめて重要である1)。場合によっては,バイスタンダは長時間の胸骨圧迫を行わなければならず,そのためには効率的な胸骨圧迫が必要とされる。目的:本研究では,熟練者が行う胸骨圧迫は効率的であることを明らかにし,そのうえで胸骨圧迫時の効率的動作と非効率的動作の相違点について検討し,効率的な圧迫動作に対する重要点(ポイント)を抽出する。このポイントを非熟練者に指導することで効果的でまた効率的な胸骨圧迫を習得させうるかを試みる。方法:胸骨圧迫法に熟練した被験者(救急救命±6名)と経験の浅い被験者(6名)に心肺蘇生練習用人形に対する胸骨圧迫を実施させ,各種機器を用いて連続した胸骨圧迫中の肘の角度,筋活動量,圧迫の深さ,圧迫の回数の変動について測定した。結果:熟練者は非熟練者に対し,明らかに効率的な胸骨圧迫を行っていた。その動作のポイントが「肘の角度の固定」にあると考えられた。非熟練者に対し肘を「まっすぐ伸ばすよう」に口頭で修正することで,容易に熟練者と同等の胸骨圧迫に改善され,余計な筋肉を使うことなく,効果的でまた効率的な胸骨圧迫を実施させることができた。

  • 金子 直之, 阪本 敏久, 岡田 芳明
    原稿種別: 原著
    2009 年 12 巻 1 号 p. 17-24
    発行日: 2009/02/28
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    背景:特別養護老人ホーム(特養)で協力病院(協病)に収容を断られたCPA患者の治療を経験し,家族の意向を受けて急変患者に対する特養の対応の現状を調査した。方法:2005年に救急隊が特養に出場した251件で,現場医療者の有無,協病収容率を調査した。CPA 13例についてはbystander CPRの質も検討した。また市役所も特養の医療機器,急変患者の搬送先調査を行ったので併せて検討した。結果:現場に医師・看護職員がいたのはおのおの1%・68%,患者が協病に搬送されたのは35%。救急隊が協病に収容依頼を行ったのは協病別に13~70%,その受け入れ率は50~94%。CPA事例のbystander CPR施行率は77%,適切に行われたのは38%。特養に心電図,AEDはほとんど配備されていなかった。結語:特養における医療者の対応,協病との関係,CPRの内容,配備機器,記録に関して改善すべき点が多い。

  • 岩下 具美, 江津 篤, 望月 勝徳, 北村 真友, 菊池 忠, 岡元 和文
    原稿種別: 原著
    2009 年 12 巻 1 号 p. 25-30
    発行日: 2009/02/28
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    目的:救急救命士(以下,救命士と略す)の増加に伴い,救命士2人以上の搭乗による救急搬送も可能となった。そこで,「複数救命士による病院前救護は,特定行為実施率・成功率を上昇させ,蘇生率も向上させる」と仮説をたて後視的に検討した。方法:松本広域で平成17-18年に発症した院外心肺停止711例を対象とした。搬送記録から特定行為実施率/成功率・蘇生率について,救命士1人搭乗(I群)と複数搭乗(Ⅱ群)で比較した。結果:特定行為実施率/成功率は,器具を用いた気道確保はⅠ群50%/81%,Ⅱ群63%/89%,静脈路確保はⅠ群19%/55%,Ⅱ群45%/62%で,実施率はⅡ群において双方で有意に高く,成功率は気道確保のみ有意差を認めた。心拍再開率は,Ⅰ群279%,Ⅱ群30.3%であった。結論:複数救命士による病院前救護活動は,特定行為実施率と気道確保成功率を高めたが,心拍再開率は統計学的な差には至らなかった。今後の薬剤投与認定救命士増加に伴い,静脈路確保技能の改善が課題と考えられた。

調査・報告
  • 金田 浩太郎, 笠岡 俊志, 石川 慎太郎, 金子 唯, 小田 泰崇, 井上 健, 鶴田 良介, 前川 剛志
    原稿種別: 調査・報告
    2009 年 12 巻 1 号 p. 31-36
    発行日: 2009/02/28
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    目的:山口県内の医療施設以外における自動体外式除細動器(automated external defibrilator,以下AEDと略す)設置状況を調査し,その現状と問題点を明らかにする。方法:県や市町村の資料,県内の消防本部および施設への電話調査によりAED設置施設数,院外心肺停止(cardiopulmonary arrest,以下CPAと略す)発生件数およびAED使用例を調査した。結果:山口県内のAED設置施設数は375施設で,AED設置1施設に対する人口は約4,000人であった。市・郡別AED設置施設数には地域格差を認めた。AED設置施設数に対するCPA発生件数(35~59件)にも地域格差を認めた。また一般市民が除細動を実施した2症例で社会復帰を認めた。結論:山口県においてもAED設置が普及しているが設置場所の把握,分布,維持,救助者の育成,結果の検証などの問題が部分的に確認された。今後,このような調査が全国的に行われ,AEDの導入に役立てられることが望まれる。

臨床経験
  • 村上 典子, 中山 伸一, 冨岡 正雄, 松山 重成, 宮本 哲也, 西倉 哲司, 小澤 修一, 中村 雅彦, 吉永 和正
    原稿種別: 臨床経験
    2009 年 12 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2009/02/28
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    がん医療の分野では,死別に至るまでの家族のケアを重視し,死別後の遺族のケア(グリーフケア)にも力を入れているが,救急医療においては困難であるのが現状であろう。筆者が経験した3例の症例を通して,自殺企図患者が死亡に至るまでの家族のケアがその後のグリーフケアにつながること,救急医療スタッフが2次的に遺族の心を傷つける可能性があること,災害急性期から遺族のケアも視野にいれた災害医療活動が必要であることなどを問題提起した。また,JR福知山線脱線事故での教訓を生かして発足した日本DMORT研究会での取り組みについても紹介した(DMORT:Disaster Mortuary Operational Response Team:災害時遺族・遺体対応派遣チーム)。救急医療における家族のケアは,医師のていねいな病状説明,看護師が家族に寄り添う姿勢,救急隊の声かけなどから実践できることであり,それが遺族のグリーフケアにつながるのである。

症例報告
  • 土居 浩一, 矢埜 正実, 松山 正和, 新名 克彦, 西村 正憲, 中村 栄作, 松尾 彰宣, 大地 哲史, 竹智 義臣, 窪田 悦二
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 12 巻 1 号 p. 43-49
    発行日: 2009/02/28
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    症例は80歳代の男性。平成18年某月交通事故に遭遇し,当院救命救急センターに搬送された。来院時のCT検査にて胸骨骨折,気胸と軽度の肺傷害の診断のもとに入院となった。来院翌日,腹痛と呼吸苦が出現し,CTにて消化管穿孔と縦隔気腫,心嚢気腫を認め,緊急手術を施行した。空腸穿孔部縫合閉鎖とドレナージ術を施行した。手術終了時から呼吸状態が悪化し,人工呼吸器管理を行っても十分な酸素化が得られない肺傷害に陥った。高齢ではあったが,受傷直前の活動性も高く,既往もないうえ,当院の導入基準である①感染がコントロールされている,②循環動態が安定している,③出血傾向が出現していない,④重篤な臓器障害が新たに出現していない,の4項目がすべてクリアされていたため,経皮的心肺補助法[percutaneous cardiopulmonary support(PCPS)]を導入した。縦隔気腫と肺傷害の改善に伴って呼吸状態は改善し,術後2週間後にPCPSを離脱し,4週間後には,人工呼吸器から離脱した。栄養管理やリハビリ治療等の集学的治療により,全身状態は改善し,3ヶ月後にリハビリ専門施設に転院となった。

  • 大楽 耕司, 宮内 崇, 大塚 洋平, 忽那 賢志, 戸谷 昌樹, 小田 泰崇, 井上 健, 鶴田 良介, 笠岡 俊志, 前川 剛志
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 12 巻 1 号 p. 50-56
    発行日: 2009/02/28
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    大動脈閉塞バルーン(intra-aortic balloon occluder,以下IABO)を用いて出血制御した腹部外傷の1例を経験した。症例は65歳,男性。乗用車事故により受傷した。ISS 24,RTS 6.904,腹腔内に大量の血液貯留を認め,造影CT検査で腸間膜と右側腹壁背側皮下に血管外漏出像を認めた。その後収縮期血圧が60mmHg台に低下し,IABOを挿入し開腹術を施行した。術中所見では回腸損傷,腸間膜損傷,回腸静脈損傷を認めた。IABOで血圧を維持しながら,損傷した回腸静脈を結繁止血し,損傷した回腸を部分切除して人工肛門を造設した。後腹膜や腹直筋間からの出血に対してはinterventional radiology(以下IVR)による上血を行った。IVR後にバルーンの拡張を解除したが,血圧低下は認めなかった。開腹術が必要な外傷症例では,IABOの併用が有益であると考えられた。

  • ―心停止バイパスの概念の重要性―
    望月 勝徳, 北村 真友, 菊池 忠, 関口 幸男, 岩下 具美, 堂籠 博, 今村 浩, 塩原 徹郎, 岡元 和文
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 12 巻 1 号 p. 57-61
    発行日: 2009/02/28
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    経皮的心肺補助法(PCPS)の緊急使用によって救命し得た偶発性低体温症による心停止例を経験した。症例は66歳の女性で,川から救出直後に心肺停止に陥り,バイスタンダーCPRが開始された。救急隊は直近の病院を回避して常時PCPS使用が可能な当院ヘ直接搬送した。当院ではPCPSの迅速導入と復温を行い,心拍再開に至った。第9病日,患者はとくに後遺症なく退院した。トラウマバイパスと同じく,偶発性低体温症が心停上の原因である場合,若千の搬送時間の延長があっても,PCPSが使用可能な病院まで搬送することが救命率の向上に寄与するものと考える。本症例は病院外心停止バイパスの概念の重要性を示唆する。

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