日本臨床救急医学会雑誌
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12 巻, 5 号
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調査・報告
  • 山内 亮子, 和田 貴子, 深澤 政富, 馬場 道夫
    原稿種別: 調査・報告
    2009 年 12 巻 5 号 p. 465-472
    発行日: 2009/10/31
    公開日: 2023/09/06
    ジャーナル フリー

    在宅療養者が救急車要請時に患者情報を用紙で提示することで搬送時間が短縮すると考え,文献を参考に「情報提供用紙」を作成した。緊急時の救急隊と医療機関の連携に関する文献は19件で,提示された事例は19例,うち16例が在宅人工呼吸器導入例(15例/16例が小児)であった。救急隊への情報提供方法は統一されたものはなく,2つの市では独自に事前登録制度を設け,台帳登録することで搬送時間が短縮していた。事前登録制度は搬送時間が短縮するものの,消防で導入するにはさまざまな検討課題が残されている。今回作成した情報提供用紙は人工呼吸療法導入の小児例などを考慮し,氏名,年齢,既往歴など必要事項のほか,患者アセスメントを容易に記載できるようにした。この用紙を退院時に患者・家族に渡すことで救急搬送時に救急隊員が患者を把握しやすく,患者側は用紙が手元にあることで退院後の安心につながると考えた。

  • ―自衛隊員による考察―
    柳川 洋一, 牟田 直, 後藤 義孝, 加藤 圭, 牧野 信也, 山田 憲彦, 齋藤 大蔵
    原稿種別: 調査・報告
    2009 年 12 巻 5 号 p. 473-477
    発行日: 2009/10/31
    公開日: 2023/09/06
    ジャーナル フリー

    自衛隊衛生科部隊を消防署と比較すると,出動には個人でなく地方自治体からの要請が必要,各市町村に存在していないため災害現場へ出動するには時間を要する,多数の人員動員は可能だが準備に時間を要する,各種免許保有者が組織内におり医療・搬送が同一指揮命令系統内で実施可能,大量負傷者同時搬送可能,広域搬送可能,長期災害支援可能,などの違いがある。一方,衛生科部隊は,プライマリーケアは可能であるものの外傷外科医が必ずしも配置されていない。したがって,大規模災害時の超急性期は消防署と日本DMATによる活動が主体となって重症外傷患者の安定化を行う。この問,衛生科部隊は救護班を派遣しつつ,全体としての医療出動態制を整え,急性期から慢性期にかけて患者の広域。大量搬送を実行し,また,消防署やDMATの不足する能力を補完する形での活動を行う。これが現時点での現実的な連携のあり方ではないかと考える。

  • 池田 正樹, 兼古 稔, 石川 佳信
    原稿種別: 調査・報告
    2009 年 12 巻 5 号 p. 478-484
    発行日: 2009/10/31
    公開日: 2023/09/06
    ジャーナル フリー

    当消防署における平成16~17年のCPA症例の検証を行ったところ,バイスタンダーCPR実施率約23%,口頭指導実施率約9%と低かった。口頭指導非実施の原因を調査した結果,通信員交替,通信員の口頭指導に対する意識不足,通報者の傷病者容態判断不確実が全体の約60%を占めていた。これを受けて口頭指導実施例の増加に向けた対策を行った。通信員交替を原則禁止する通信・救急出動体制の見直し,通信員に対する教育訓練の実施,住民の傷病者容態判断の負担軽減を目的とした通報受信要領の検討, 口頭指導についての広報を行ったところ,平成18年以降,口頭指導実施率33%,CPR実施率67%とよい成果が得られた。通信要領,口頭指導状況を検証し,当消防署が取り組んだ改善策により,口頭指導実施率の増加,バイスタンダーCPR実施率の増加につながったと考えられる。

  • 井上 征雄, 伊藤 重彦, 西中 徳治, 恩田 純, 海塚 安郎, 濱 禎二, 長嶺 貴一, 瀬尾 勝弘, 相原 啓二, 白石 公彦
    原稿種別: 調査・報告
    2009 年 12 巻 5 号 p. 485-494
    発行日: 2009/10/31
    公開日: 2023/09/06
    ジャーナル フリー

    北九州地域の病院外心停止例をウツタイン様式に基づいて検討した。2005年4月から1年間の心停止症例は807例で,心原性373例,非心原性434例であった。院外・心原性心停止患者に限定すると,バイスタンダー目撃ありは132例,救急隊目撃は24例であった。バイスタンダー目撃ありの自己心拍再開は45.5%(60/132例),生存入院は32.5%(43/132例),24時間生存は26.5%(35/132例),生存退院は6.8%(9/132例)で,社会復帰についてはcerebral performance category(以下CPC)1は5.3%(7/132例)であった。全807例中の社会復帰例(CPC1)13例,心原性は10例,非心原性は3例で,低体温症例を除き12例全例が病院前に心拍再開していた。救急隊が現場接触し,最初にモニター装着した時点での心電図所見(以下初期心電図波形)について,ventricular fibrillation(以下VF)5例の他にもpulseless electrical activity(以下PEA)にも4例社会復帰を認めた。救急隊目撃例を除く全院外心停止症例におけるバイスタンダーcardiopulmonary resuscitation(以下CPR)率は42.5%(332/758例)と比較的高かったが,バイスタンダー目撃ありの心原性心停止症例における社会復帰(CPC1)は5.3%と低く,地域の高齢化を考慮しても満足できるものとはいえなかった。今後,さらなるデータの蓄積と解析を行い,対策を講じていく必要があると思われた。

症例報告
  • 水 大介, 南 丈也, 佐竹 悠良, 鈴木 啓之, 徳田 剛宏, 濱里 彩子, 許 智栄, 林 卓郎, 有吉 孝一, 佐藤 愼一
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 12 巻 5 号 p. 495-500
    発行日: 2009/10/31
    公開日: 2023/09/06
    ジャーナル フリー

    症例は52歳,女性。特記すべき既往歴なく,突然の上腹部痛にて近医受診。画像所見から急性膵炎が疑われたため当センターヘ転送された。全身状態は安定しておりアミラーゼ値も正常であったため,精査を進めているうちに突然ショック状態となった。貧血の進行を認めたため腹腔内出血を疑い,緊急血管造影を施行。背膵動脈と上腸間膜動脈の吻合枝からの分枝部に動脈瘤を認め,同部から血管外造影剤漏出がみられた。同動脈瘤からの腹腔内への活動性出血に対して塞栓術による緊急血管内治療を試みたが,止血効果が不十分であったため開腹による止血術を加えた。術後経過は良好であったが,術後10日目に再度前下膵動脈アーケードに動脈瘤の再発・破裂を確認。塞栓術を施行し救命しえた。腹腔内動脈瘤破裂はまれな疾患であるが,治療が遅れると救命が難しい。また単純CTにおいて膵炎との鑑別が困難であることを念頭におく必要がある。当院での6症例の検討もふまえ,報告する。

  • 水 大介, 佐竹 悠良, 鈴木 啓之, 徳田 剛宏, 許 智栄, 林 卓郎, 渥美 生弘, 佐藤 愼一
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 12 巻 5 号 p. 501-505
    発行日: 2009/10/31
    公開日: 2023/09/06
    ジャーナル フリー

    症例は68歳,男性。腹部大動脈瘤に対して2年前に当院で人工血管置換術を施行されている。救急受診3週間前から38℃台の発熱が持続するため入院精査を行ったところ,肺癌による腫瘍熱と判断された。退院後も38℃台の発熱が持続し,しだいに嘔気・嘔吐を伴うようになり,吐血も認められるようになったことから救急受診に至った。来院時全身状態は安定しており,上部消化管内視鏡にてMallory-Weiss症候群と診断され入院となった。入院後突然の大量吐血からショックとなった。緊急血管造影および腹部CTにて腹部大動脈から十二指腸内に造影剤の漏出を認めたため,腹部大動脈十二指腸瘻と診断し救急処置を行ったが,第2病日に死亡した。腹部大動脈十二指腸瘻は消化管出血の原因として緊急かつ重症疾患であり,リスクをもつ患者では常に考慮する必要がある。

  • ―Retzius窩血腫にてショックをきたした1症例―
    本村 友一, 瀧 健治, 寺坂 勇亮, 西中 徳治
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 12 巻 5 号 p. 506-510
    発行日: 2009/10/31
    公開日: 2023/09/06
    ジャーナル フリー

    比較的軽微の受傷機転によりショックとなり,出血源検索に難渋した高齢者外傷症例を報告する。79歳女性。自転車走行中に転倒し左大腿を打撲しERへ搬入された。Primary Survey異常なし。Secondary Survey終了後,検査を待つ間にショックとなり初期輸液療法を開始した。出血源検索で体表面,FAST,胸部および骨盤X線検査に異常を認めなかった。初期輸液療法への反応乏しく濃厚赤血球輸血を行い,いったんショックを離脱した。左下腹部に膨隆を認めたため施行した腹部CTでextravasationを伴う腫瘤を認めた。持続的輸血が必要であったため,止血目的に緊急手術を施行した。恥骨後膀胱前隙(Retzius窩)に760gの血塊を認めた。出血源は明らかに同定できなかった。9日目に独歩退院した。骨折を伴わない軟部組織損傷でショックをきたしうる。とくに高齢者は結合組織が疎なため,容易に軟部組織内大量出血をきたし,予備能の低下から比較的容易にショックに至り遷延し重篤な病態へ移行しうる。

  • 犬飼 道雄, 梶谷 伸顕
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 12 巻 5 号 p. 511-515
    発行日: 2009/10/31
    公開日: 2023/09/06
    ジャーナル フリー

    当院で経験した特発性縦隔気腫の2症例について,文献的考察を加え報告する。症例1は20歳のやせ型の男性。キャンプファイヤーで大声を張り上げていたところ左頬部腫脹を認め来院する。症例2は16歳のやせ型の男性。バレーボール練習後から続く呼吸困難と,受診日当日から明らかになった右頸部違和感を主訴に来院する。両症例とも皮下気腫を認め,胸部単純X線検査と胸部CT検査で縦隔気腫を確認した。保存的治療を行い,両症例とも軽快した。現在再発を認めていない。日常診療において本症の発生頻度は低いが,突発性の胸背部痛や皮下気腫を伴う若年男性を診た場合,鑑別診断として特発性縦隔気腫を念頭におく必要があると思われた。

資料
  • ―200床以上の国公立病院における検討―
    江原 朗
    原稿種別: 資料
    2009 年 12 巻 5 号 p. 516-519
    発行日: 2009/10/31
    公開日: 2023/09/06
    ジャーナル フリー

    軽症患者のいわゆる「コンビニ受診」を抑制するために,選定療養(時間外診療)による保険外負担を徴収する医療機関が現れてきた。しかし,軽症患者の受診抑制に限らず,緊急を要する重症患者の受診が抑制されてしまう危険性も否定できない。そこで,200床以上の国公立病院について,保険外負担の徴収前後における時間外受診数の変化について検討を行った。保険外負担徴収後の各月期の受診数(中央値)は,徴収前の80%(外来),98%(入院)であった。統計学的には,外来の受診が有意に減少したが,入院では有意な減少は認められなかった。しかし,現時点ではこうした制度を導入した施設数は少なく,今後さらなる検討が必要である。

  • 高島 茂樹
    原稿種別: 資料
    2009 年 12 巻 5 号 p. 520-528
    発行日: 2009/10/31
    公開日: 2023/09/06
    ジャーナル フリー

    日本がもつ救急医療システムは,日本社会にとつて最大最高のセーフテイーネットである。しかし,今その救急医療システムが危ない。救急医療システムを取り巻く社会経済環境の変化に対応したシステム全体の最適化のための再設計に取り組まなければならない。 再設計にあたっては, システムを総合管理する総合性,組織と機能との関連に着目した複合性,社会システムとしての社会性の3つの視点をもつ必要がある。将来的な持続可能性を担保した救急医療システムに改革していくためには,改革の重点を次の3点に絞り,具体的な作業に着手していく必要がある。第一に,救急医療システムの全体最適化の観点から,救急医療資源の確保・救急医療資源の配分・救急医療資源の再生産の戦略的な取り組みを可能とする,真に一元的かつ持続的な柔軟性に富んだシステムとしての救急医療に改革していく必要がある。第二に,このシステムとしての救急医療を支えるため,救急医療のための安定的な独自の財政基盤として,救急医療の特殊性が加味された,現場指向の救急医療保険制度を創設する必要がある。第三に,救急医療システムを支える国民的理解の向上が必要である。

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