さいたま赤十字病院救命救急センター3年間の薬物中毒患者421例のうち,意図的に薬物を過量摂取し外来診療のみで帰宅とした148例について,retrospectiveに検討した。背景因子として既往のないものが40%あった。ベンゾジアゼピン系,バルビタール系の内服が多数を占め,大量内服と思われる患者は少なく(10%),また不整脈の危険が指摘される三環系抗うつ薬やメジャートランキライザーで帰宅させたものは少数であった。血液検査,胸部X線,心電図で重大な異常を示すものはなかった。医療経済の点から,対象となった患者にかかった費用は1日入院の30%であった。医学的には,内服量よりも内服薬の種類,バイタルサインの安定と意識障害の改善度,付き添い者の存在が帰宅許可の決め手として重要であった。再企図が確認された患者は21例(14%)で,このうち2例は精神科受診を条件に帰宅させたにもかかわらず,その後早期に薬物を過量に摂取し,うち1例は心肺停止状態で再搬送された。入院加療や精神科専門医の受診が再企図の予防を保障しない現状では,帰宅を許可する場合一連の診療内容について診療録に記載し,付き添い者に十分説明することが重要である。提供する医療内容が良質であり安全であることを保障しつつ,無駄のない効率的な医療を実践するという観点から,本臨床研究は意義深いものと考える。
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