日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
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8 巻, 3 号
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原著
  • 三宅 康史, 関井 肇, 横手 龍, 清水 敬樹, 杉田 学, 清田 和也, 有賀 徹
    原稿種別: 原著
    2005 年 8 巻 3 号 p. 195-202
    発行日: 2005/06/30
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    さいたま赤十字病院救命救急センター3年間の薬物中毒患者421例のうち,意図的に薬物を過量摂取し外来診療のみで帰宅とした148例について,retrospectiveに検討した。背景因子として既往のないものが40%あった。ベンゾジアゼピン系,バルビタール系の内服が多数を占め,大量内服と思われる患者は少なく(10%),また不整脈の危険が指摘される三環系抗うつ薬やメジャートランキライザーで帰宅させたものは少数であった。血液検査,胸部X線,心電図で重大な異常を示すものはなかった。医療経済の点から,対象となった患者にかかった費用は1日入院の30%であった。医学的には,内服量よりも内服薬の種類,バイタルサインの安定と意識障害の改善度,付き添い者の存在が帰宅許可の決め手として重要であった。再企図が確認された患者は21例(14%)で,このうち2例は精神科受診を条件に帰宅させたにもかかわらず,その後早期に薬物を過量に摂取し,うち1例は心肺停止状態で再搬送された。入院加療や精神科専門医の受診が再企図の予防を保障しない現状では,帰宅を許可する場合一連の診療内容について診療録に記載し,付き添い者に十分説明することが重要である。提供する医療内容が良質であり安全であることを保障しつつ,無駄のない効率的な医療を実践するという観点から,本臨床研究は意義深いものと考える。

  • 高原 喬, 城谷 寿樹, 和田 孝次郎, 小野 健一郎, 鈴木 節
    原稿種別: 原著
    2005 年 8 巻 3 号 p. 203-206
    発行日: 2005/06/30
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    救急車で当科に搬送された飲酒患者198例について来院時血中エタノール濃度を測定し,そのうち頭部外傷を伴った115例について検討した。頭部外傷を伴った症例の血中エタノール濃度は非頭部外傷症例と比べ有意に高かった。頭部CTを施行した98例中24例に頭蓋内損傷を認め,その受傷部位は側頭部,後頭部に多かった。頭蓋内損傷の有無と血中エタノール濃度には関連は認めなかった。二輪車事故の症例では頭蓋内損傷を伴いやすく,血中エタノール濃度は他の受傷機転の症例と比べ有意に低値であった。70歳以上の高齢者11例の血中エタノール濃度はその他の症例と比べ有意差はなく,受傷機転のほとんどが転倒で,頭蓋内損傷を認めた3例の意識障害は軽度であった。受傷機転が二輪車の事故,受傷部位が側頭部・後頭部,70歳以上の高齢者では,意識レベルに関係なく頭部CT検査を行うのが望ましいと思われた。

  • 久保田 勝明, 小谷 朋央貴, 日暮 一正
    原稿種別: 原著
    2005 年 8 巻 3 号 p. 207-214
    発行日: 2005/06/30
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    中規模都市における救急搬送時間の実態を把握することと,搬送時間の短縮のための行政施策を探ることを目的として,新たな高次救急医療機関(以下新設病院)が中規模都市に設置された場合の市内外搬送割合と搬送時間短縮の効果を検討した。その結果,中規模都市における搬送時間は大都市より長いことがわかった。その要因として市外搬送の割合が高く,その搬送理由として「掛かりつけ」,「患者指定」が多いことがわかった。新設病院の設置を想定した分析では,新設病院を掛かりつけにした場合,大都市の搬送時間と変わらないことがわかった。また,市外搬送率は42.1%→17.5%,平均搬送時間は,12.4分→6.8分と5.6分短縮され,大幅な改善がみられた。これらの結果より,搬送時間を短縮するためには,高次救急医療機関がない中規模都市では,24時間対応の高次救急医療機関の新設による効果が大きいことが判明した。

臨床経験
  • 安田 香, 田中 香織, 竹下 あゆみ, 井上 真子, 中道 利恵, 川西 弘一, 田北 武彦
    原稿種別: 臨床経験
    2005 年 8 巻 3 号 p. 215-220
    発行日: 2005/06/30
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    切断指再建術後の看護で,患指の血行動態を判断する基準は確立されていない。そこでわれわれは色調観察法,ピンプリック法,退色判定法をもとに,客観的な観察法を確立した。

  • —とくに画像診断と治療方針に関して—
    当麻 美樹, 高岡 諒, 平方 栄一, 渡瀬 淳一郎, 切通 雅也, 松阪 正訓, 尾中 敦彦, 塩野 茂, 田伏 久之
    原稿種別: 臨床経験
    2005 年 8 巻 3 号 p. 221-230
    発行日: 2005/06/30
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    口腔内杙創の臨床的特徴,診療上の問題点(とくに画像診断と治療方針)につき,自験例7例と文献より考察を加え,さらに異物の種類による画像所見の相違を実験的に検討した。本損傷は,乳幼児では決してまれではなく,その多くは自然治癒していると考えられている。しかしながら一方で,穿通性損傷をきたし急速に生命危機に陥る症例も報告されている。穿通性損傷では,異物の直接損傷による出血や気道閉塞,脳脊髄損傷や脳血管損傷といった受傷直後より生じる病態,後咽頭膿瘍や縦隔膿瘍,内頸動脈閉塞による広範囲脳梗塞のように受傷数時間経過してから出現する病態,遺残膿瘍のように受傷後数カ月から数年して明らかとなる遅発性感染性合併症が問題となることを念頭において診療にあたることが必要である。また,安易な創処置や診察のみで帰宅させるべきではなく,異物遺残の可能性や神経学的異常所見を認めた場合には,十分な鎮静下に画像診断を行い,数日間の入院経過観察が望ましい。

症例報告
  • 津田 雅庸, 北澤 康秀, 斉藤 福樹, 尾田 聖子, 上能 伊公雄
    原稿種別: 症例報告
    2005 年 8 巻 3 号 p. 231-235
    発行日: 2005/06/30
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    アテノロールはβ1選択性の交感神経遮断薬として用いられるが,今回急性中毒を経験したので報告する。症例は82歳女性で数年前より心不全でアテノロールを服用していた。全身倦怠感を主訴に近医受診したところ心電図上補充調律であり,著明な心拡大を認めたため当院へ救急搬送となった。来院時無尿で心不全合併。イソプレナリンを使用し循環動態は安定したが無尿が続き,血液濾過透析を行った。透析以後尿量は徐々に増加し,心電図上洞調律となったため他院転院となった。急性アテノロール中毒の治療は一般に対症療法が選択され,薬物治療を中心に必要なら心臓ペーシング,透析などを行うとされている。今回の症例では透析を行い,経時的にアテノロールの血中濃度を測定した結果,透析前後で対数線形(log(conc.))で直線(R2=0.992)となり,自然低下と大きな変化はなく,急性アテノロール中毒に対しHDFは効果が低い治療である可能性が示唆された。

  • 佐藤 光太朗, 真壁 秀幸, 井上 裕久, 細谷 優子, 小林 誠一郎, 遠藤 重厚
    原稿種別: 症例報告
    2005 年 8 巻 3 号 p. 236-239
    発行日: 2005/06/30
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    平成■年■月■日より発熱,咽頭痛が出現し,近医耳鼻咽喉科で扁桃周囲炎の診断で穿刺排膿,抗生剤投与を受けた。■月■日,胸部にガス像をみとめたため当センター紹介となった。初診時胸部は高度に腫張,発赤しており捻髪音,握雪感をみとめた。胸部CTにて頸部から胸部の皮下にかけてガス像をみとめたためデブリドマンを施行した。術中所見では皮下から筋膜までの壊死をみとめた。グラム染色の結果はグラム陽性球菌であり,培養の結果はPeptostreptococcusであった。 壊死性軟部組織感染症のうちnon clostridial cellulitisと診断し抗生剤投与,1日2回のデブリドマンによつて炎症は落ち着いた。第20病日にメッシュグラフトによる植皮を行い,54日後転院となった。

  • 三原 結子, 土肥 謙二, 弘重 壽一, 八木 正晴, 三宅 康史, 新藤 正輝, 有賀 徹
    原稿種別: 症例報告
    2005 年 8 巻 3 号 p. 240-245
    発行日: 2005/06/30
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    敗血症性ショックの患者においてはコルチコステロイドの必要量が増す一方で,副腎機能不全やステロイド耐性によリステロイドの相対的欠乏をきたすことが知られている。われわれはステロイド補充療法を行い,敗血症性ショックから離脱した2例を経験したので報告する。症例1は72歳男性,症例2は60歳男性。ともに肺炎に伴い敗血症性ショックをきたした。カテコールアミンの持続投与を行っても血圧が改善せず,hydrocortisone 50mg 6時間ごとの投与により循環動態の著明な改善を認めた。hydrocortisoneは7日間同量の投与を行い,以後漸減した。hydrocortisone投与前の血清コルチゾール値は症例1では3.3µg/dl,症例2では14.6µg/dlであり,ともに低値を示していた。敗血症性ショックをきたした患者においては,適量のステロイド投与による循環動態の改善や死亡率の低下が報告されている。とくに,基礎疾患を有している,カテコールアミンに反応しないなどの場合は常にステロイドの相対的欠乏の可能性を念頭におき,補充療法を行うことが重要であると思われる。

調査・報告
  • 野田 彰浩, 木下 浩作, 丹正 勝久, 林 成之
    原稿種別: 調査・報告
    2005 年 8 巻 3 号 p. 246-249
    発行日: 2005/06/30
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

    〔背景〕平成14年6月1日に道路交通法(道交法)が一部改正され,罰則が強化された。〔目的〕日本大学医学部付属板橋病院救命救急センターに搬送された患者を対象に,道交法改正前と後の各1年間で交通外傷患者や飲酒運転交通事故患者の数,重症度が改善したか否かを検討した。〔方法と結果〕道交法改正前後の全外傷患者に対する交通外傷患者の比率および全交通外傷患者について初診時のAPACHE Ⅱ値とISS値の比較を行った。さらに飲酒運転事故による外傷患者について同様の比較を行った。道交法改正前後でこれらの数値に統計学的有意差は認めなかった。〔結論〕三次救急を担う当施設では,道交法改正前と後の1年間では交通事故および飲酒運転事故による患者数の減少や重症度に統計学的有意差をみいだすことはできなかった。交通外傷患者の転帰改善には,道交法改正のみでなく病院前救護や外傷初期診療システムの構築と普及が急務である。

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