日本臨床救急医学会雑誌
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10 巻, 4 号
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原著
  • ―動脈血中乳酸値と心拍再開との関係―
    黒木 雄一, 池田 寿昭 , 池田 一美, 向島 健, 横山 智仁, 吉川 和幸
    原稿種別: 原著
    2007 年 10 巻 4 号 p. 393-396
    発行日: 2007/08/31
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    目的:来院時心静止患者の動脈血乳酸値が,その不可逆性を反映するかどうかを検討する。対象と方法:当救命救急センターヘ搬送された来院時心肺停止患者で,連続した60例のうち,無脈性電気活動17例を除外した心静止43例を対象とした。自己心拍再開群(R群)5例と自己心拍非再開群(NR群)38例について,背景因子,動脈血乳酸値を比較検討した。結果:年齢,性別, 目撃者の有無,バイスタンダーの有無,覚知・病着時間,体温,pH,血清カリウム値は両群で有意差を認めなかった。それに対し,乳酸値は両群で有意差を認めた(R群97±12mg/dl vs NR群127±48mg/dl,p=0.004)。さらに,乳酸値≧117mg/dlは感度60%,特異度100%で自己心拍非再開を判別した。結語:動脈血中乳酸値は来院時心静止患者の不可逆性を反映した。

調査・報告
  • 岡本 博照, 角田 透, 照屋 浩司, 山口 芳裕, 島崎 修次
    原稿種別: 調査・報告
    2007 年 10 巻 4 号 p. 397-403
    発行日: 2007/08/31
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    医学生が救急医になることの要因を検討する目的で,平成15年杏林大学にて救急医療や救急医に対する意識調査を行った。医学生118人の約半数は入学時の動機に救急が関係し,大多数が救急に何らかの関心を持っていた。救急医療や救急医に対するイメージの回答の多くは,社会貢献や医師教育に貢献しているというプラスイメージのものが多かった。マイナスイメージの回答は少なく,その一部は救急医の過重労働等に関係するものであった。救急医になりたいとの回答は全体の46.6%で,6年生および女子学生での回答割合は低く,それぞれについてのχ2検定ではいずれも有意であった(p<0.05)。イメージとの関連は認められず,今後の母数を増やした多施設調査が期待される。

  • 千代 孝夫, 木内 俊一郎
    原稿種別: 調査・報告
    2007 年 10 巻 4 号 p. 404-408
    発行日: 2007/08/31
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    和歌山県赤十字救命救急センターを受診する患者のうち,退院から短期間のうちに再受診に至った患者103名(2004年3月~6月)について,その要因と問題点を検討した。前回入院の在院日数は平均14.5日で,10日以内の短期入院は再受診総数の約6割を占めていた。前回入院の原因疾患は悪性腫瘍と慢性疾患が約半数を占めていた。退院から再受診までは3日以内が半数以上を占めていた。再受診の4分の3は時間外に来院していた。再受診時の転帰は帰宅が約6割であった。入院中と同じ疾患で受診した症例は84.5%であった。退院後も自宅での療養が必要となる慢性疾患や悪性疾患については,在院日数が短い場合,患者や家族が十分な教育を受けられず自信がないままに退院するため,不安を抱えた患者や家族は時間を問わず救急外来を受診することが多くなる。入院中から退院後の療養内容を指導,教育できる体制を充実させなければならない。

  • 大河原 治平, 清住 哲郎, 金子 直之, 越阪部 幸男, 阪本 敏久, 岡田 芳明
    原稿種別: 調査・報告
    2007 年 10 巻 4 号 p. 409-414
    発行日: 2007/08/31
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    埼玉県下で開催したメディカルラリーの経験を報告する。 1日(約8時間)の日程。スタッフ98名,競技者57名(12チーム)。想定は4事例で,①小児のVFとPablic Access Defibrilation(以下,PADと略す),②通り魔による複数傷病者,③非番日にコンサート会場でテロに遭遇,④瓦礫の下での救護とした。競技者は全想定に挑戦し,その対応をスタッフが採点し,終了後に要点を解説した。全プログラム終了後に参加者全員にアンケート調査を行った。競技者のうち,想定に関しては87%が,評価基準に関しては89%が「適切」と回答した。スタッフからは87%が「競技者の行動から学ぶものがあった」と回答があった。日程に関しては,競技者の大多数は「適切」,スタッフの36%は「きつい」と回答した。全体としては,斬新なテーマ,リアルな状況設定,既存のプロトコールにとらわれない評価方法がうまく噛み合って,競技者・スタッフともに高い満足度が得られた。開催を重ねてさらに洗練させたい。

  • 遠藤 重厚, 宮手 美治, 廣田 和美, 多治見 公高, 加藤 正人, 川前 金幸, 村川 雅洋, 東北急性肺障害研究会
    原稿種別: 調査・報告
    2007 年 10 巻 4 号 p. 415-421
    発行日: 2007/08/31
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    東北6県下のICU(またはこれに準ずる施設)を有する35施設において,呼吸機能の低下が原因でICUに入室した患者の背景,呼吸機能,転帰などの実態調査を行った。調査は医師記入式 「症例メモ」を用いて,SIRSの基準及びPaO2/FIO2低下(≦300mmHg)の2条件を満たした158例を集積した。1994年のAmerican-European Consensus Conference on ARDS:AECC)の診断基準に準拠して,入室日を基準に症例を群分けした。その結果,非ALI群:37例(23.4%),ALI(非ARDS)群:42例(26.6%),ARDS群:79例(50.0%)であった。また,ICU入室30日後の死亡率は非ALI群:8.3%,ALI(非ARDS)群:19.5%,ARDS群:23.0%であり,ARDS群の死亡率は諸家の報告に比べ低い傾向にあった。さらに入室当日はX線所見がAECCの基準値以下で非ALI群であったが,以後3日目にかけてX線所見が悪化し,ALIへと進行する症例を認め,PaO2/FIO2低下がX線所見の悪化に先行する症例の存在が明らかとなった。

臨床経験
  • 森本 文雄, 高市 薫, 小野 榮, 下 正宗
    原稿種別: 臨床経験
    2007 年 10 巻 4 号 p. 422-425
    発行日: 2007/08/31
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    2次救急医療機関で救急救命士が中心となって開催されているミニACLSコースの地域救急医療体制への影響を検討した。対象および方法:受講者へのアンケートと,救急車搬送記録(平成15年から17年)を調査した。救急車搬送記録では,救急車搬送件数,CPA患者搬送件数,CPA患者における特定行為実施件数と現場到着から病院到着までの時間を調べた。結果:楽しく,有意義で,続けた方がよいというアンケート結果であった。コース開催病院のCPA収容件数は,21件から36件,35件と増加し,市外への搬送は15件から8件,7件に減少した。特定行為実施件数は6件から39件,57件に増加したが,CPA患者における救急車の現場到着から病院までの時間は短縮した。コース開催病院における救急患者搬送件数も増加した。まとめ:2次救急医療機関におけるミニACLSコースにより地域救急医療の質が向上した。

  • 岡田 保誠, 稲川 博司, 小島 直樹, 石田 順朗, 佐々木 庸郎, 古谷 良輔
    原稿種別: 臨床経験
    2007 年 10 巻 4 号 p. 426-431
    発行日: 2007/08/31
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    5例のワーファリン内服中の脳出血患者に血液凝固第Ⅸ因子複合体500単位とビタミンK 20mgの投与を行った。すべての症例に緊急開頭血腫除去術を行ったが,手術中の止血には特に難渋することがなく,術後出血も認めなかった。投与後15分で再度測定したPT-INRはいずれの症例でも著明に短縮していたが,PT-INRが5.0以上の1症例では投与後も1.5以下にはならなかった。ワーファリン内服中の脳出血患者に血液凝固第Ⅸ因子複合体を投与することは迅速な凝固コントロールのために有用であり,安全な手術施行が可能になると考えられた。血液凝固第Ⅸ因子複合体の至適投与量についてはさらなる検討が必要であると思われた。

症例報告
  • 廣田 哲也, 塩川 智司, 渡辺 知朗, 加藤 俊彦, 野阪 善雅, 端野 琢哉, 佐藤 善一
    原稿種別: 症例報告
    2007 年 10 巻 4 号 p. 432-436
    発行日: 2007/08/31
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    症例は68歳,男性。左下肢よリマンホールに落下して左側腹部を叩打し,その翌日に左肋骨骨折と診断されて一旦帰宅した。受傷4日後に咳とともに突然の左側腹部痛を認め,以降,漸次増悪したため,その2日後に救急搬送された。初診時腹部CT検査で脾損傷(日本外傷学会脾損傷分類Ⅲa)と高吸収域を示す腹腔内出血を認め,その翌日には貧血が進行したため脾動脈造影を行った。脾上極に限局する無血管野と脾内分枝の途絶を認めてマイクロコイルによる選択的脾動脈塞栓術を行い,再度脾動脈造影にて脾実質の約半分が濃染されることを確認した。術後,再出血や脾膿瘍,血小板著増などを併発せず,第23病日に軽快退院した。脾動脈塞栓術は遅発性脾破裂に対する治療としても確立されているが,本邦における報告は少なく,塞栓方法も種々である。自験例のように脾損傷の範囲が全体の50%程度で限局している場合,マイクロコイルによる選択的脾動脈塞栓術は再出血や重篤な合併症を併発することなく,有効と考えられた。

  • 延原 泰行, 久保 尚士, 楊 大鵬, 滝瀬 博仁
    原稿種別: 症例報告
    2007 年 10 巻 4 号 p. 437-442
    発行日: 2007/08/31
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    症例は80歳,女性。心疾患の既往はなし。腹痛,嘔吐を主訴に来院し,腸閉塞の診断のもと,イレウス管による保存的治療を開始した。イレウスは軽快したが,腹部CTにおいて,回盲部に腫瘤像を認めたため,2005年春,全身麻酔下にて手術を施行した。術前心電図,心臓超音波検査で異常を認めなかった。手術終了直後に,心電図上V3~V6にST上昇を認め,急性心筋梗塞が疑われた。心臓超音波検査では左室心尖部から体部にかけて広範囲に壁運動の低下と心基部の過収縮を認め,たこつぼ型の超音波像を呈した。特徴的な心臓超音波検査所見およびトロポエンT以外の心筋逸脱酵素の上昇がないことから,たこつぼ型心筋症と診断した。術後経過は良好で,術後28日目には,心電図にて陰性T波のみを認め,心臓超音波検査では左室壁運動も正常化した。たこつぼ型心筋症は各種の外科的処置に関連して発症することがあり,外科医も認知すべき疾患であると考えられた。

  • 松本 正孝, 鈴木 全, 石川 和男, 溝端 康光, 松岡 哲也, 横田 順一朗
    原稿種別: 症例報告
    2007 年 10 巻 4 号 p. 443-448
    発行日: 2007/08/31
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    症例は79歳女性。航空機内で呼吸困難を呈し,泉州救命救急センターに搬入された。来院時,心嚢液貯留,心不全,および肺炎,呼吸不全を呈していた。心嚢液より緑膿菌が培養され,緑膿菌による心外膜炎と診断した。心タンポナーデを合併したため,抗生物質の投与に加え,心膜開窓持続ドレナージを行った。呼吸不全に対しては気管切開を含む人工呼吸器管理を行った。化膿性心外膜炎は心タンポナーデを高頻度に合併するため,感染徴候の明らかな心嚢液貯留症例には,心嚢穿刺を行い,心嚢液の性状から化膿性心外膜炎が疑われた時は,早急に心膜開窓持続ドレナージを行うことが重要である。

  • 加藤 俊哉, 佐々木 俊哉, 中山 禎司, 笠原 真弓, 吉野 篤人
    原稿種別: 症例報告
    2007 年 10 巻 4 号 p. 449-452
    発行日: 2007/08/31
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    当院において,心肺蘇生法の普及啓発は,AHA-ACLS,BLSコース受講経験者の増加,日本救急医学会ICLS院内コースの開催などにより,徐々に進行している。しかし外傷初期診療については遅れが目立っていた。外傷の病院前救護と病院での初期診療について救急隊員と病院職員が共通の認識を持つことを目的に院内外傷ミニセミナーを開催した。JPTECTMプロバイダーマニュアルに準拠した講義,デモ供覧,体験実習と外傷初期診療ガイドラインJATECTMに準拠したデモ供覧を半日で行った。病院職員からは救急隊による病院前救護の概略を理解できた,救急隊員からは病院での初期診療の一端を知ることができた等の感想が得られた。またJPTECTM,JATECTMのプロバイダーコース受講の動機付けにもなった。

  • 宮本 哲也, 栗林 佐智子, 松本 大典, 村田 武臣, 黒田 祐―, 小澤 修―
    原稿種別: 症例報告
    2007 年 10 巻 4 号 p. 453-458
    発行日: 2007/08/31
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    症例:57歳,男性。胸部圧迫感と冷汗のため当センターヘ搬入された。収容時よリショック状態であり,心電図及び心エコーより左主幹部心筋梗塞を疑い,まず,人工呼吸管理を行い,循環動態の安定を目的に経皮的心肺補助法,大動脈内バルーンパンピングを導入した。同時に冠動脈造影を施行した結果,#5に90%の狭窄と造影遅延像(TIMI flow grade Ⅱ)を認め,ステント留置を行った。peak CPK 18240と広範囲の梗塞を認めた。ただし,第5病日より炎症所見の上昇を認め,抗生物質投与行うも効果なく,血液培養よりCandida albicansが検出された。ミカファンギンナトリウムを投与するも腎機能及び呼吸循環状態の悪化を伴い,敗血症も合併しきわめて重篤な状態となった。抗真菌剤をボリコナゾールヘ変更し,その後は炎症反応,呼吸循環状態は次第に改善し救命しえた。

  • 福原 信一, 今井 憲, 塚原 紘平, 木村 健秀, 清水 順也, 古城 真秀子, 古山 輝久, 金谷 誠久, 白神 浩史, 久保 俊英
    原稿種別: 症例報告
    2007 年 10 巻 4 号 p. 459-464
    発行日: 2007/08/31
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    乳幼児突発性危急事態(apparent life‐threatening event:ALTE)は,健常な乳児が突然,死亡するのではないか, と思わせるような病状を呈するため救急外来を受診することも多い。頻度は決して低くないことに加え,ALTEの病状で受診した患者の約半数に原因疾患があり,中には後に重篤な病状を来たす疾患も含まれる。当院で経験したALTEの2症例を基に検討を加えた。症例1は無呼吸発作を主訴に当院へ救急搬送された。病院着時に循環不全を認め,等張液の補液などを行い軽快した。症例2も無呼吸発作を主訴に当院を直接受診した。病院着時は笑顔で身体所見に異常を認めなかった。2例とも精査を行ったが,原因疾患を特定できなかった。家族に一次救命処置(以下BLS)を指導した後に退院し,2症例とも経過は良好であった。現時点では医療従事者のALTEに対する認識は高くなく,小児救急医療に関わるすべての医療従事者がALTEを認識することが望まれる。

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