日本臨床救急医学会雑誌
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10 巻, 1 号
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原著
  • 金子 洋, 中川 隆, 松本 尚
    原稿種別: 原著
    2007 年 10 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    JPTECTMプロバイダーコースにおける試験成績・IP取得率に地域差が存在するという経験的事実に関して,その背景と原因を考察する目的で,2003年3月から2005年3月までにJPTECTM協議会東海・甲信支部で開催されたJPTECTMプロバイダーコースを受講した2,246名の試験結果を試験地別,職種別に比較,検討を行った。実技試験成績と筆記試験成績には正の相関が認められたが,IP取得率は試験地別に有意差を認めた組み合わせが存在した。この原因には受講者背景(医療資格)が地域によって異なることが考えられたが,実技試験の難易度や評価に地域差があると示唆される結果も存在した。シミュレーション主体の教育コースとして実技試験評価に地域差があることは間題であり,JPTECTM協議会は制度改定とインストラクター教育に取り組む必要がある。

  • 岩下 具美, 関口 幸男, 今村 浩, 岡元 和文, 小山 徹, 清水 幹夫
    原稿種別: 原著
    2007 年 10 巻 1 号 p. 9-15
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    目的:心肺停止者の救命率向上の一因として,迅速な二次救命処置がある。発生現場から病院までの搬送時間短縮を検討する。対象と方法:2003年に松本広域圏で発症した院外心肺停止300症例を対象に,搬送記録から,発生場所,収容病院,搬送時間を抽出し,収容病院が直近であるかと転帰を調査した。結果:全症例の平均搬送時間は11.6分。直近病院搬入例は133件(直近率44.3%)で,搬送時間は8.8分であった。当広域13消防地区を,直近率と搬送時間を指標に,4群(A:直近率が高く搬送時間が短い,B:直近率は高いが搬送時間が長い,C:直近率が低いが搬送時間は短い,D:直近率が低く搬送時間も長い)に分けた。心拍再開率は,直近病院搬送例と短時間搬送例で高かった。考察:搬送に長時間を要す地区のドクターカー・ドクターヘリの利用,直近率が低い地区の近隣病院受入強化,また全般的に直近率向上が課題となった。この検証により地区別搬送体制の改善点が明瞭となった。

  • ―救急隊員は何を知りたいか?―
    後藤 由和, 太田 圭亮, 村本 信吾, 松本 泰作, 稲葉 英夫
    原稿種別: 原著
    2007 年 10 巻 1 号 p. 16-19
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    救急搬送事例検討会を充実させることを目的として,公立能登総合病院救命救急センターで行われた検討会で提示された事例の質疑内容を分析した。検討会は合計50回開催され,123事例178項目が挙げられた。質疑事項の症候別内訳は,意識障害45%・外傷26%・腹痛9%・胸痛8.4%・呼吸困難6.7%・その他であった。各症候のおもな原疾患は,脳神経系疾患・頭頚部外傷・胆石胆嚢炎・心不全・肺炎であった。質疑内容は,搬送・臨床症状・入院後経過・応急処置内容の順であった。以上から,症候別の臨床像など医学知識に関する講義と搬送・処置に関する検証を行うこと,講義内容の理解度確認のため,自己管理の小テストを事例検討会において行うなどの案が考えられた。これらの具体的な工夫を活用し,質の高い事例検討会になるように取り組む必要がある。

  • 並木 淳, 山崎 元靖, 船曳 知弘, 鈴木 昌, 藤島 清太郎, 堀 進悟, 相川 直樹
    原稿種別: 原著
    2007 年 10 巻 1 号 p. 20-25
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    Glasgow Coma Scale(GCS)による意識レベル判定の現状と問題点を明らかにする目的で,1年間の救急車搬入患者3,449人を対象とし,初期臨床研修医が判定するJapan Coma Scale(JCS)およびGCSスコアについてretrospectiveな検討を行った。全症例の85%がGCS 15で占められた。GCSのEVM各要素とJCSスコアには全症例の93%で整合性が認められたが,GCS 14~4では各GCSスコアの10%以上の症例でJCSとの整合性を欠いていた。GCSのEVM各要素の理論上の組合せ120通りのうち,実際に対象症例の0.2%以上で記載された組合せは8通りであった。EVM各要素の点数とJCSとの整合性の分析の結果,1)見当識障害の判定,2)音声に対する開眼反応,3)疼痛部位認識と逃避の区別,がGCSによる意識レベル誤判定のおもな原因と推定された。GCS判定の精度向上のためには,使用頻度の高い8通りのEVMの組合せについてのトレーニングが効果的と考えられた。とくに,見当識と音声に対する開眼反応についての知識を再確認する必要性が示唆された。

調査・報告
  • ―ACLS基礎コースを取り入れて一
    荻野 朋子, 中島 千里, 中川 隆, 竹内 昭憲, 小澤 和弘, 水野 公正, 金子 洋, 早川 好美, 夏目 美樹, 加藤 喜久
    原稿種別: 調査・報告
    2007 年 10 巻 1 号 p. 26-31
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    目的:看護学部生に対するACLS基礎コース受講の効果を明らかにし,ACLS学習教授法の評価について検討する。対象・方法:受講生74人を対象に演習終了後自記式質問紙による調査を行った。結果:①ACLSの知識・スキルは約80%の学生がおおむね習得できており,ACLSの内容では,リーダーとしての判断・指示を難しいと感じた学生が多かった。②ACLS学習において,「実践が中心」,「学習者主体」,「リアリティー」の教授法は学生の学習効果を高めていた。③ACLS演習を取り入れたことにより,学生は救命の連鎖,チーム医療の重要性を理解できた。このことより,このような学習の場は,学生に専門職者としての自覚を促す契機となると考えられた。

  • 武内 有城, 新家 卓郎, 左合 正周, 草深 裕光, 井口 光孝, 浅岡 裕子
    原稿種別: 調査・報告
    2007 年 10 巻 1 号 p. 32-40
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    今回,われわれは「中心静脈カテーテル留置後に緊張性血気胸を合併した死亡事故」という院内製作ビデオを用いて全職員が参加するワークショップを開催し,医療事故が発生した場合の対応と事故防止対策について討論した。277名(全職員の51.7%)の参加者があり,院内スタッフが演じた医療事故ビデオによる事例提示は視覚と聴覚に訴えるだけでなく,仮想体験としてより現実に近い感覚が得られ,安全管理に関する詳細な検討が可能で,参加者の98.1%が満足していた。医療安全管理システム(予防策,安全管理マニュアル,事故後の対応など)の重要性を認識するためには,講演などの形式より,参加者が自発的に考え,作業し,討論することにより,職種間の合意を形成するワークショップ形式の手法が効果的であった。さらに,その話題提供の材料として,顔なじみの院内スタッフが演じるビデオを用いることは,体験学習として現実味があり有用であった。

臨床経験
  • 杉山 大介, 田中 摂子, 関原 正夫, 田村 政昭
    原稿種別: 臨床経験
    2007 年 10 巻 1 号 p. 41-46
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    2001年~2005年の5年間に,当院救急外来を受診したハチ刺症患者648例およびハチアナフィラキシー患者51例を対象に,年齢分布,性別,症状,治療,受診手段などについて検討した。ハチ刺症は30歳以降になるとアナフィラキシー症状を生じる確率が高くなり,注意が必要である。またアナフィラキシー症状を呈しているにもかかわず自家用車で来院した患者が多く,救急車を利用すべき重篤な救急疾患であることを啓蒙する必要性がある。治療に関しては,アナフィラキシーショックに対しても初期治療として即効型のステロイドが投与されている例が多く,アナフィラキシーショックに対する薬剤投与の第一選択がアドレナリンであることを,医療者に対し周知啓蒙することが重要と思われた。またハチアナフィラキシーの既往のある患者に対しては,携帯型アドレナリンの自己注射キットを積極的に導入していく必要性があると考えられた。

  • 島崎 淳也, 澁谷 正徳, 吉岡 伴樹, 森本 文雄, 藤芳 直彦, 鈴木 義彦
    原稿種別: 臨床経験
    2007 年 10 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    当院では,分娩後大量出血症例に対して産婦人科と救急部が共同で治療にあたっている。過去5年間で救急部入院となった分娩後大量出血症例は6例あり,平均年齢は31.1歳,疾患の内訳は弛緩出血3例,子宮内反症1例,常位胎盤早期剥離1例,羊水塞栓症1例であった。救急部医師の診療開始時6例全例出血性ショックの状態であり,全例に輸血を施行した。うち4例には,O型緊急輸血(放射線照射済みO型Rh(+)血を輸血する当院の緊急輸血システム)を施行した。止血方法としては,弛緩出血3例に対して経カテーテル動脈塞栓術(以下TAE),子宮内反症1例に対して内反整復術,羊水塞栓症1例に対して子宮摘出術を施行した。常位胎盤早期剥離1例は保存治療で止血し得た。羊水塞栓症の1例は死亡したが,他5例は生存・独歩退院した。分娩後大量出血症例に対して,O型緊急輸血およびTAEはきわめて有効であった。

  • 一臨床倫理検討会の取り組み一
    小川 尚子, 田中 裕, 洪 淑姫, 後藤 美紀, 芝原 奈緒, 谷口 園代, 京力 深穂, 松嶋 麻子, 霜田 求, 杉本 壽
    原稿種別: 臨床経験
    2007 年 10 巻 1 号 p. 52-60
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    当センターでの臨床倫理検討会の取り組みを通して,救急領域でどのような倫理的問題点があるのか検討した。対象と方法:治療方針の決定などで問題となった18例を対象とした。東北大学清水哲郎教授が開発した臨床倫理検討シートを用い,倫理的問題点を臨床経過や治療方針,患者・家族への説明と意思,当事者間の一致・不一致などに即して,医師,看護師,臨床倫理の専門家で検討した。結果:救急領域における倫理的問題点として,①侵襲的治療の適応,②救命治療の継続の是非,③代理人の選定,④限られた資源の活用の問題が明らかとなった。結論:救急領域で生じる診療上の分岐点について,臨床倫理検討シートを活用することで共通する倫理的問題点が明らかとなり,治療方針の決定や診療上の問題点の解決を行うことが可能と考えられる。

  • ―JATECTM・JPTECTMの役割―
    湯浅 洋司
    原稿種別: 臨床経験
    2007 年 10 巻 1 号 p. 61-64
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    地方における外傷診療では,二次救急医療施設の果たす役割が大きく,そのレベルアップが治療成績向上の鍵となる。地方二次救急医療施設である当院では,救急科を開設し,JATECTMに準じた外傷初期診療を実践している。また,JPTECTM・JATECTMデモンストレーションを行い,JATECTM診療フロー図およびJATECTMに準じた外傷レントゲン撮影手順を初療室に掲示することによって,JATECTM・JPTECTMの院内啓発に努めた。

症例報告
  • 本田 真広, 戸谷 昌樹, 藤田 基, 小田 泰崇, 鶴田 良介, 笠岡 俊志, 前川 剛志
    原稿種別: 症例報告
    2007 年 10 巻 1 号 p. 65-70
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    症例は41歳,男性。仕事中に倒木の下敷きになり,不安定型骨盤骨折,左横隔膜損傷,右大腿骨骨折の診断で当院救命救急センターに紹介搬送された。脈拍は大腿動脈でかろうじて触知可能であったがHb 2.7と低値で,大動脈遮断バルーンを使用し血圧を維持した。両側内腸骨動脈・右下横隔動脈に対しTAE,左横隔膜ヘルニア・腸間膜損傷に対し横隔膜・腸間膜修復術を施行した。脾門部付近からの出血に対してはガーゼパッキングを施行し,閉腹困難のためsilo closureとした。経過中,両側殿筋壊死・後腹膜感染をきたし,定型的筋膜閉鎖も困難であったが,徹底的なデブリードマンとドレナージ,メッシュによる腹壁閉鎖などによって救命できた。vacuum pack closureも困難な場合,メッシュによる腹壁閉鎖および全身状態安定後の筋皮弁による腹壁修復が有効であった。不安定型骨盤骨折に対する血管内塞栓術の合併症として殿筋壊死・後腹膜感染を考慮する必要があり,腹壁閉鎖についても腹部コンパートメント症候群に注意しつつ,できるだけ早期に施行する必要がある。

  • 末廣 浩一, 林下 浩士, 松浦 康司, 宮市 功典, 吉本 昭, 有元 秀樹, 韓 正訓, 鍛冶 有登
    原稿種別: 症例報告
    2007 年 10 巻 1 号 p. 71-75
    発行日: 2007/02/28
    公開日: 2024/02/08
    ジャーナル フリー

    症例は59歳男性。既往歴にアルカプトン尿症,慢性腎不全があった。右季肋部痛を主訴に当センターに搬送された。来院時は意識,循環および呼吸状態は安定しており,感染性腸炎の疑いで経過観察入院となった。しかし,翌日に意識レベルの低下を認め,血液検査では著明な代謝性アシドーシスおよびメトヘモグロビン(以下MetHbと略す)血症を示し,溶血による貧血が進行したため,全身管理目的に集中治療室に入室となった。入室後,輸血,メチレンブルー投与,持続血液透析および血漿交換療法を施行した。しかしMetHb血症および代謝性アシドーシスの進行を抑えられず,入室2日目に死亡した。病理解剖の結果,死因は敗血症であった。アルカプトン尿症はホモゲンチジン酸酸化酵素の欠損によって生じる先天性代謝異常である。本症例ではホモゲンチジン酸の蓄積がヘモグロビンに作用し,MetHb血症の原因となったと考えられた。

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