日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
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14 巻, 5 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 廣田 哲也, 則本 和伸, 矢田 憲孝, 宇佐美 哲郎, 菊田 正太, 岩田 博文, 村瀬 翔, 三木 豊和, 大橋 直紹, 端野 琢哉
    原稿種別: 原著
    2011 年 14 巻 5 号 p. 585-590
    発行日: 2011/10/31
    公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

    背景:2005年に発症3時間以内の脳梗塞に対する経静脈的血栓溶解療法(t-PA療法)が認可されたが,本邦における実施例は脳梗塞患者全体の約2%とされている。対象と方法:2009年3月~11月に当院救急外来で脳梗塞と診断された138例を対象に,発症から受診までの時間に関与する患者要因について前方視的に検討した。結果:t-PA療法を適用し得る3時間未満の早期受診例は49例(36%),t-PA療法の実施例は7例(5%)を占めた。救急搬送例は50例(36%)で, 自己来院例と比較して早期に受診した。3時間以上の受診遅延に関与する独立因子は,発症時の対応(経過観察)(odds ratio 16.8,p<0.001),独居(odds ratio 9.6,p=0.003),意識障害なし(odds ratio 53,p=0.02)であった。意識清明で認知症を有さない104例のうち,受診決定者が脳卒中を危惧した症例は52例で,うち「直ちに受診を要する」と判断したのは28例であった。考察:脳卒中の症状とともに,発症早期におけるt-PA療法の有効性や救急車利用の重要性について,より社会全体に啓発する必要がある。

調査・報告
  • 森脇 義弘, 鈴木 範行, 成原 健太郎, 桝井 良裕, 山本 俊郎, 伊巻 尚平, 八木 啓一, 北野 光秀, 木下 弘壽, 松原 正之
    原稿種別: 調査・報告
    2011 年 14 巻 5 号 p. 591-598
    発行日: 2011/10/31
    公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

    背景:救急症例の搬送先病院選定までの時間延長が問題化している。横浜市では,消防司令センター常駐の救命指示医師(救命指導医)の仲介で,心肺停止(cardiopulmonary arrest,以下CPA)症例を直近の指定病院へ搬送するシステムを構築し,確実な搬送先病院の確保と搬送までの時間短縮に努めてきた。目的:横浜市のCPA搬送先病院選定システムが搬送先病院の選定時間の短縮に有効か否かを明らかにする。対象と方法:対象は1年間の病院外CPA 4,971例。救命指示医師の業務記録から病院選定経過と搬送先病院決定までの時間,選定制度自体の確実性を検証した。結果:直近指定病院への搬送適応と判断された2,989例のうち,98.9%は直近指定病院,1.0%は受入不能で次に近い指定病院,0.1%は3回目の要請で搬送が決定した。2回以上要請の33例の搬送先決定時間の延長は平均2.1分であった。通院中医療機関への搬送が妥当と判断された420例のうち,96.1%は1回の要請で通院中医療機関,3.3%は通院中医療機関で受入困難とされ直近指定病院,2例では直近指定病院でも受入不能とされ次に近い指定病院へ搬送した。2回以上要請の16例の時間延長は平均3.3分であった。結論:本制度により院外CPA症例の搬送先病院の選定は迅速確実に行われ,その実効性も高く維持されていた。

  • ―茨城県・阿見町消防本部における導入前・後の比較―
    田中 博之, 千島 要, 高橋 克充, 宇都木 哲男
    原稿種別: 調査・報告
    2011 年 14 巻 5 号 p. 599-602
    発行日: 2011/10/31
    公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

    目的:茨城県阿見町消防本部は,自動胸郭圧迫装置である負荷分散ベルト:AutoPulseTM(以下,LDBと略す)を導入した。その効果を検証する。方法:対象は2008年1月1日より2009年2月28日までに発生した院外心停止68症例。LDB装着の対象と考えられた導入前22例と,LDB導入後実際に装着・使用した16例を比較・検討した。結果:LDB使用時の心拍再開(以下,ROSCと略す)は,8/16例(ROSC率50%)で得られ,導入前(4/22例,18.2%)に比べ有意に増加した。無脈性電気活動症例はLDB導入前,ROSCが0/2例だったが,導入後は5/6例(85.6%)で心拍再開した。考察:本研究ではLDBの使用によってROSC率が上昇した。しかし,LDB使用例のうちROSC 8例中7例はROSCが病院到着後に認められ,LDBが直接ROSCを促したとはいいがたい。また,LDBの使用は長期生存や社会復帰をもたらさなかった。

  • 比留間 孝広, 金 弘, 境田 康二, 井上 哲也, 有馬 孝博, 池田 勝紀, 薬丸 洋秋, 矢作 直樹
    原稿種別: 調査・報告
    2011 年 14 巻 5 号 p. 603-609
    発行日: 2011/10/31
    公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

    船橋市ドクターカーが出動した小児心肺停止を検討し,その実態を知る。方法:1993年4月から15年間にドクターカーが出動した小児心肺停止90例を,乳児,幼児,学童に分類し,原因,初期心電図, 目撃・bystander CPRの有無,転帰を検討した。結果:乳児が62%と多く,外因性が46.7%を占めた。乳児は82.2%がasystoleで,学童は26.7%が心室細動であった。乳児,幼児,学童で目撃は37.5%,26.3%,60%,bystander CPRは14.3%,26.3%,40%で,心拍再開は16.1%,26.3%,53.3%であった。学童では目撃・bystander CPRが多かった。結論:小児心肺停止は成人と比較すると外因性が多く,予防が重要である。学童は心室細動が多く,生活の中心が学校で,目撃・CPR率も多く救命率が高い。学校単位でのCPR講習やAED設置が必要である。

症例・事例報告
  • 伊関 憲, 吉田 隆之, 野村 尚
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 14 巻 5 号 p. 610-613
    発行日: 2011/10/31
    公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

    巨大子宮筋腫が起因し,腹圧上昇後に腹壁瘢痕ヘルニアと臍ヘルニアによる嵌頓ヘルニアとなった1例を経験したので報告する。症例:51歳,女性。既往歴:10代前半,虫垂炎手術。造影剤アレルギー。現病歴:夕食後に嘔吐した後から腹痛が出現し来院した。右下腹部と臍部に膨隆を認め,腹部に圧痛を認めた。単純CTでは,骨盤内に巨大な腫瘤像(18cm×11cm×31cm)と腹壁瘢痕ヘルニアと臍ヘルニアを認めた。嵌頓状態であり緊急開腹手術を施行し,右下腹部切開で虫垂炎手術痕より脱出した腸管と,正中切開では臍部より脱出した腸管に同様の所見を認め腹腔へ還納した。正中切開部を伸長し子宮筋腫に対して,子宮全摘を行った。摘出された子宮は3,452gであった。考察:巨大子宮筋腫による慢性的腹壁脆弱に嘔吐による腹圧上昇が加わり,腹壁瘢痕ヘルニアと臍ヘルニアが生じたと考えられた。子宮筋腫により腹壁瘢痕ヘルニアと臍ヘルニアが同時に発生した症例は,文献上はじめてであった。

  • 福田 信也, 宮内 崇, 荻野 泰明, 田中 亮, 小田 泰崇, 金田 浩太郎, 笠岡 俊志, 鶴田 良介
    原稿種別: 症例報告
    2011 年 14 巻 5 号 p. 614-619
    発行日: 2011/10/31
    公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

    後縦靭帯骨化症の既往のある77歳男性。2mの高所より転落受傷し,当院に搬送された。浅呼吸,徐脈・低血圧,低体温の状態であった。CT上C3・T1椎体,C7棘突起の骨折,MRI上C2-5脊髄内に高信号域を認め,頸髄損傷と診断した。気管挿管,人工呼吸管理とし,大量輸液とドパミン持続投与を行った。人工呼吸器離脱は困難と考え,第7病日に気管切開術を施行した。徐脈・低血圧も改善なく,高度の徐脈発作に対して頻繁にアトロピンを使用するようになった。第21病日より頸髄損傷後の徐脈に対してテオフィリンの経腸管投与を開始した。血中濃度を10μg/ml前後で調節することで徐脈発作は消失し,第33病日にドパミンを中止,第50病日に転院した。キサンチン誘導体が脊髄損傷後の徐脈に有効との報告は散見される。脊髄損傷後の徐脈に対するテオフィリン投与は,恒久的ペースメーカーを回避できる有効な治療手段と考えられた。

  • 井上 征雄, 伊藤 重彦, 岩永 充人, 溝田 新吾, 石原 唯史, 高瀬 忠, 竹村 保美
    原稿種別: 事例報告
    2011 年 14 巻 5 号 p. 620-624
    発行日: 2011/10/31
    公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

    北九州市では,病院前救急医療の質の向上と救急救命士への生涯教育の一環として,救急ワークステーション所属の救急車へ医師が同乗指導を行っている。出動基準は平日9時から17時までの全出動事案で,2008年8月から2010年4月までの件数は226件であった。病態別分類は心肺停止33件,急病131件,一般負傷46件,交通事故13件,労働災害2件,自損行為1例で,重症度別では,心肺停止33件,重症15件,中等症111件,軽症67件であった。活動時間は,出動から現場到着が平均5分58秒,現場滞在が平均10分,現場から病院までが平均6分32秒であった。特定行為や傷病者の観察手技向上,想定病名や活動方針の決定などに対する指導やメディカルコントロールの面で,今回の同乗指導は有用であった。今後は救急隊への指導や客観的な評価について評価票の導入を考えている。病院前救急医療の質の向上のため,今後も同乗指導を継続したい。

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