日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
Print ISSN : 1345-0581
ISSN-L : 1345-0581
12 巻, 3 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
原著
  • 安田 康晴, 加藤 義則
    原稿種別: 原著
    2009 年 12 巻 3 号 p. 299-305
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    ガイドライン2005では良質のCPRが強調され,救急隊員教育においてもCPRの質の向上に対する認識が高まった。しかし救急隊員121名を対象に胸骨圧迫の質を測定した結果,胸骨圧迫成功率は60.6±34.5%であり,従来から行われているCPRトレーニング方法では質の高い胸骨圧迫が行えていないことが判明したことから,新しいCPRトレーニング方法について検討した。対象は救急救命士養成課程の救急隊員75名で,方法はすべての被験者がはじめに2分間バッグバルブマスク換気と胸骨圧迫を測定し(Base Line群),その後胸骨圧迫の深さやリズム,換気の量や速さなどを客観的にリアルタイムで,かつ結果を定量的にフイードバックする方法(Personal computer Evaluation Skill Training:PEST)によるトレーニングを行い,再度2分間バッグバルブマスク換気と胸骨圧迫について測定した(PESTS群)。換気成功率は,Base Line群が28.3±27.5%,PESTS群が42.6±31.1%,胸骨圧迫成功率は,Base Line群が60.6± 34.5%,PESTS群が92.6±14.0%と,換気・胸骨圧迫ともPESTS群が有意に成功率が高かった(p<0.05)。従来から行われている指導者による評価表を用いたトレーニング方法では,十分にCPRの質を向上させることができていなかったが,PESTは短時間でCPRの質を向上させることができた。

  • 東 栄一, 木下 浩作, 山口 順子, 古川 力丸, 野田 彰浩, 向山 剛生, 櫻井 淳, 雅楽川 聡, 大井田 隆, 丹正 勝久
    原稿種別: 原著
    2009 年 12 巻 3 号 p. 306-311
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    高齢者熱中症患者の重症度と関係する病院前での因子を明らかにする。平成17年に東京消防庁管下で救急搬送され,初診時に「熱中症」と診断された患者1,041名を対象とした。患者発生場所は,加齢とともに室内での発生割合が増加した。70歳以上の高齢者は約23%で,高齢者夫婦のみの世帯もしくは高齢者独居世帯が約64%を占めた。初診程度と関連する病院前での因子として,発生場所,脈拍異常および高齢者か否かについて評価すると,全年齢層では①高齢②頻脈である傷病者は,初診程度が「中等症・重症・重篤」になる確率が有意(p<0.0001)に高いことが明らかになった。一方,高齢者の初診程度が「中等症・重症・重篤」となる病院前での予測因子として,高齢者世帯,室内発症(p<0.0001),頻脈(p<0.0017)で有意に発症確率が高い。都市部における高齢者熱中症患者の重症化防止には,定期的な高齢者単独世帯への訪間が有効であると考えられた。

  • 林 靖之, 川村 光喜, 東 孝次, 甲斐 達朗
    原稿種別: 原著
    2009 年 12 巻 3 号 p. 312-316
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    はじめに:近年自動体外式除細動器(以下AED)がさまざまな場所に設置されるとともに, これを用いた市民による除細動(PAD)事例が散見されるようになってきた。そこで2006年からの2年間に豊能医療圏でAEDが装着された症例について検討した。結果:症例数は2006年に3例,2007年に7例であった。場所は公立施設3,老健施設3,駅1,ゴルフ場1,温泉施設1,サービスエリア路上1であった。装着者の多くは施設職員であった。電気ショックが実施されたのは7例で,そのうち5例が心拍再開し入院,3例が1か月生存している。AEDの事後解析は6例に実施され,3例がVFで除細動適応であった。ほかの4例は解析が困難であった。また事後解析できたVF事例に対して実施者事後面談による心のケアを行った。結論:AED装着事例は徐々に増加している。今後このAEDの問題点に関する対策を地域医療圏で講ずることが重要と考えた。

  • 松林 嘉孝, 石井 桂輔, 北見 聡史, 藤原 智洋, 濱邊 祐一
    原稿種別: 原著
    2009 年 12 巻 3 号 p. 317-322
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    多発外傷における大腿骨骨幹部骨折に対する即時(受傷後24時間以内)髄内釘固定の是非については確立した基準はない。即時髄内釘固定とDamage control orthopedic surgeryの優劣を示すエビデンスもなく,治療の選択に迷う場合がある。多発外傷に合併した大腿骨骨幹部骨折を文献的に検討し,当科の治療基準を作成した。当科における即時髄内釘固定回避基準を以下に示す(1項目でも該当すれば回避する)。①低体温(深部温<35℃),②凝固異常(PT-INR>1.5,Plt<50,000/μl),③acidosis(pH<7.2),④呼吸不安定(P/F ratio<250),⑤循環動態不安定(non/transient responder,Shock),⑥緊急処置・手術を必要とする可能性がある胸腹部・頭部臓器損傷(処置・手術後は除く),⑦手術時間が6時間以上と見込まれる,①Gustilo-Anderson type ⅢBおよび血管損傷を伴うもの。さらに,作成した基準を用いて,過去4年間に当科に搬送された症例をretrospectiveに検討した結果,基準からはずれた治療を行っていた症例は少なく,おおむね妥当な基準と考えられた。

調査・報告
  • ―4医療機関の調査結果から―
    熊田 恵介, 豊田 泉, 小倉 真治, 永田 二郎, 福田 充宏
    原稿種別: 調査・報告
    2009 年 12 巻 3 号 p. 323-328
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    電子カルテシステムが情報システムとして有効に利用されているかについて調査した。その結果,データ抽出が困難な施設があること,あらかじめ必要とされる項目を明記し入力しない限り検索ならびにデータ出力は現時点では不可能であること,抽出されたデータは必ずしも正確とはいえず検証作業が必要とされること,新たな検索項目が必要となった場合,事後での対応は非常に困難であることなど,データ収集・分析を継続して行う組織構築の必要が課題として挙げられた。今後は医療者の負担軽減,相互引用性,医療安全,教育につながる情報システムが必要とされ,人的資源の投資,データの検証作業と現場へのフィードバック体制,必要なソフト開発などが求められる。確実で安全かつ質の高い医療とは何かを見据え,電子カルテシステムの有効活用に取り組む必要がある。

  • ―とくに物質依存症への早期介入プロジェクト―
    伊藤 敬雄, 大久保 善朗, 久志本 成樹, 川井 真, 横田 裕行
    原稿種別: 調査・報告
    2009 年 12 巻 3 号 p. 329-334
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    Yale-New Haven Hospital救急医療部門(ED)への搬送患者は年間約10,000例,そのうち薬物使用者26%(うち42%が薬物依存症),アルコール飲用者45%(うち28%がアルコール依存症)であった。また,ED搬送患者の37%が精神科救急ユニットに入院し(1日平均10.8人),その60%が物質依存症と診断されている。米国では精神科入院病床が絶対的に不足しており,EDにおいてもコメディカルによる専門的地域資源の活用などソーシャルワーキングの充実が図られている。物質依存早期介入プロジェクトは医療機関への入院・ 入所を減少させるだけでなく,EDにおける精神科医の診察・治療を待たずに専門地域資源に紹介できるシステムとして有用である。今後,物質依存症ばかりか精神疾患全般において,救急医療施設搬送の機会を捉えて精神科救急と専門的地域資源との連携システムの整備が本邦においても検討される必要がある。

  • 今道 英秋, 鈴川 正之
    原稿種別: 調査・報告
    2009 年 12 巻 3 号 p. 335-342
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    目的:離島等のへき地を有する小規模自治体の初期救急医療の現状を分析し,課題について検討する。方法:平成19年9月に全国の市区町村の地域保健担当者を対象に記名式調査を行った。結果:1596市区町村から回答が得られた(回答率874%)。全市町村の初期救急医療の対応施設は,初期救急専門施設25%,一般の医療機関41%,市町村外の医療機関26%であった。人口5万人未満の小規模の自治体においては,初期救急専門施設をもつところは少なく,市町村内の一般医療機関と市町村外の医療機関によって対応されていた。比較的交通アクセスがよいへき地をもたないところでは,市町村外の施設による対応が多く,交通アクセスが悪い離島,離島以外のへき地では市町村内の一般医療機関の対応割合が高かった。結論:社会資源が十分ではない小規模の自治体は,近隣の自治体との連携をふまえて,適切な初期救急医療体制を構築する必要がある。

症例報告
  • ―閉塞型睡眠時無呼吸症候群と中枢型睡眠時無呼吸症候群の両者の発現をみた症例―
    岸本 真房, 鈴木 聡史, 富野 敦稔, 藤井 弘史, 山本 透, 北澤 康秀
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 12 巻 3 号 p. 343-347
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    呼吸困難を主訴に救急搬送され意識障害を呈した閉塞型睡眠時無呼吸症候群と,中枢型睡眠時無呼吸症候群の両者を発現していた1例を経験した。閉塞型睡眠時無呼吸症候群の重症例には,放置することにより上気道閉塞をきたし,CO2ナルコーシスから意識障害へ至る場合もあり,厳重な経過観察と早期の積極的治療が必要である。急変時,高度肥満のため喉頭展開が困難であったが,気管支鏡補助下での経鼻挿管により速やかに気道確保が可能であった。抜管により上気道再閉塞の危険性が高いと判断し,次いで気管切開術を施行した。気管切開下にかかわらず無呼吸発作を認めていた。夜間酸素療法により中枢型睡眠時無呼吸症候群は消失した。食事療法・運動療法による生活習慣の改善により体重減量をはかり,気管切開孔を開鎖することができた。

  • 田村 暢一朗, 石原 諭, 井上 貴博, 石丸 剛, 鈴木 幸一郎
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 12 巻 3 号 p. 348-351
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    受傷直後心肺停止に陥ったが,現場から開始された蘇生術により心拍再開した環椎後頭関節脱自の救命例を経験した。環椎後頭関節脱自の救命例は比較的まれであるが,病院前診療の質の向上や搬送時間の短縮により救命例が増えつつある。環椎後頭関節脱自は初期診断時に見逃されやすく,頸椎側面レントゲンにおいてbasion-axial interval,basion-dens intervalを測定することで診断感度が上昇するという報告があり, とくに意識障害を合併している外傷患者には頸椎側面レントゲンにおいてbasion-axial interval,basion-dens intervalを測定すべきであると考えられた。

  • 石川 進, 長谷川 豊, 禰屋 和雄, 阿部 馨子, 鈴木 晴郎, 久川 聡, 城島 久美子, 小川 越史, 島田 竜, 堀内 敦
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 12 巻 3 号 p. 352-355
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    体外循環下にペースメーカー本体およびリードを摘出した4症例を報告し,ペースメーカー感染に対する本法の適応と手術時の注意点に関して検討した。感染経路は全例ポケット感染で,起因菌はMRSA 2例,表皮ブドウ球菌,CNS各1例であった。手術方針としては,全システムの摘除,心臓内の感染巣切除を行い,新しいペースメーカーリードは心外膜側ヘー期的に装着した。手術では心臓・縦隔と感染巣とを厳密に分離した操作を行った。術後の感染再燃はなく全例生存退院したが,MRSAの2例で自血球数,CRPの低下に2週間を要し,術後6週間の抗生剤投与を行った。体外循環下での全システム摘除術は安全かつ確実であり,敗血症,菌血症合併例やリード抜去困難例では早期の実施が望ましい。

  • 山田 航希, 与那覇 博康, 紙尾 均, 高橋 孝典, 岩城 克則
    原稿種別: 症例報告
    2009 年 12 巻 3 号 p. 356-361
    発行日: 2009/06/30
    公開日: 2023/10/20
    ジャーナル フリー

    沖縄県小浜島(人口650人)において県内初のPublic Access Defibrillation(以下PAD)奏功例を経験したので報告する。症例:47歳,女性。2007年9月小浜島内のリゾート施設で室内清掃作業中に意識消失して倒れた。心停止状態と判断した従業員2人が,施設内に設置してあった自動体外除細動器(以下AED)を使用し心拍再開した。診療所医師が現場に到着時,意識レベルGCS 3点,自発呼吸微弱であったため診療所に搬送し気管挿管を施行。石垣島の県立八重山病院にヘリ搬送し,集中治療室に入室した。意識レベルは徐々に改善し,入院3日目には人工呼吸器から離脱した。AEDを解析したところ心室細動(VF)を認めた。冠動脈造影検査では有意な狭窄病変はなく,心エコー検査で左室壁肥厚を認め,基礎に肥大型心筋症の存在が示唆された。退院時には,ほぼ以前のADLを回復し,沖縄本島の病院で植込み型除細動器の植込み術を施行した。本例は適切な一次救命処置とPADにより心拍が再開し後遺症もなく完全社会復帰した。離島という地理的条件が厳しく,医療資材の乏しい不利な環境でも地域との協力により救命の連鎖が迅速に連動することを証明した1例であった。

feedback
Top