日本臨床救急医学会雑誌
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21 巻, 1 号
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会告
原著
  • 藤森 隆史, 竹中 ゆかり, 仲村 佳彦, 江藤 茂, 三渕 拓司, 吉村 健清
    2018 年21 巻1 号 p. 1-5
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    血液の絞り出しおよび穿刺部位の違いが血糖値に与える影響を検討した。①非絞り出し群と絞り出し群,②指腹で穿刺した群(指腹群)と爪脇で穿刺した群(爪脇群)をそれぞれ2群間で比較した。①の血糖値は非絞り出し群が113(83 〜303)mg/dl,絞り出し群が116(89〜275)mg/dlであった。その差は5.0(−45 〜20)mg/dlで,絞り出しにより有意に血糖値は上昇した(p<0.001)。②の血糖値は指腹群が116(87 〜162)mg/dl,爪脇群が116(82 〜170)mg/dl であった。その差は−1.0(−28 〜14)mg/dlで,有意差を認めなかった(p=0.151)。穿刺部位の違いが血糖値に与える影響はないが,絞り出しにより,血糖値は有意に上昇した。絞り出しを避けるまたは絞り出しにより血糖値が上昇することを考慮した上でのブドウ糖溶液投与プロトコールの作成が望まれる。

  • 藤原 紳祐, 小野原 貴之, 河上 ひとみ
    2018 年21 巻1 号 p. 6-11
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    目的:2011年12月より嬉野医療センターにRapid Response System(以下,RRS)を導入したが,Medical Emergency Team(以下,MET)起動件数は思うように増えなかった。対策の一つとして一般病棟へ出向いてラウンドする活動も加えることで徐々に起動数が増加した。定期的なプロアクティブラウンドのRRSにおける有用性に関して評価を行った。方法:METを要請するRRSを導入した時期をO期,定期的なラウンド形式のRRSも取り入れた時期をT 期として後方視的に比較検討した。結果:T期では,MET起動件数が有意に増加し,ICU外心肺停止数,予定外ICU入室数,院内死亡数の有意な減少が見られた。結論:人的資源の限られる中規模病院では,十分なMET起動件数が得られないことがある。定期的なプロアクティブラウンドを行うことでRRSの認知を広め,成熟したRRSを構築できる可能性がある。

調査・報告
  • 本多 満, 一林 亮, 鈴木 銀河, 豊田 幸樹年, 渡辺 雅之, 田巻 一義, 横室 浩樹, 河田 匡教, 橋本 秀平, 岸 太一
    2018 年21 巻1 号 p. 12-16
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    目的:医学部卒前教育は座学のみでは限界があり,災害医学教育においても例外ではない。今回われわれは,エマルゴ・トレーニング・システム® を用いて医学部5年生に災害シミュレーション演習を行い,演習後に意識調査を行いその有用性を検討した。対象および方法:対象は2013年より当大学にて演習を行った158名。演習後に意識調査を行い,事前学習および演習での達成度,卒前教育における演習の有用性と必要性に関して5段階で評価した。結果:1. 事前学習の達成度は,低容量性循環不全に対する大量輸液と,酸素投与に関してが有意に低かった。2. 事前学習の達成度と演習での達成度には正の相関を認めた。3. 演習での達成度に関係なくその有用性や必要性を認識していた。結論:卒前災害教育において演習形式によるシミュレーション教育が必要であると思われた。しかし,演習を行うためには学生の事前学習によりその効果がさらに得られることが示唆された。

  • 中澤 真弓, 中村 秀明, 鈴木 宏昌
    2018 年21 巻1 号 p. 17-22
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    はじめに:救急車の不適正利用が社会問題となっている。目的:一般市民が,救急車を呼ぶべき救急疾患を示唆する状況に遭遇した場合,救急車を呼ぶ判断をするのかを明らかにする。方法:2016年5月,全国の一般市民5,000人を対象にインターネットによる質問調査を実施した。結果:平均年齢45.2(± 14.6)歳。「救急車を呼んだことがある」38.5%,「自分または身近な人が救急車で運ばれたことがある」62.6%,「救急車を呼ぶべき症状について見聞きしたことがある」46.9%。救急車を呼ぶべき状況では,15症例中9項目で「どちらともいえない」と回答した割合が15%を超えた。考察と結論:一般市民は救急車を呼ぶべき救急疾患を示唆する状況にある傷病者に遭遇した場合でも,救急車を呼ぶかどうか判断できない場合もある。その際,救急車を呼ぶとの判断ができるように,緊急度を判定するツール等のさらなる周知が必要である。

  • 中村 眞人
    2018 年21 巻1 号 p. 23-27
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    心停止の場所で人の生死が決まってよいのかとの思いで,千葉市を日本のシアトルに!構想がスタートした。医師会・千葉市・千葉大学が参加する連携委員会で協議し,小,中,高校対象の救急蘇生講習を軸としたいのちを守る推進プラン,医師会主催ICLS・BLS講習会,救急対応力向上研修会,医師会認定救急医制度などを開始した。例えばいのちを守る推進プラン実践校は,2011年は,1中学校区4校。2015年は,20中学校区56校と増えた。医師会主催のICLS講習会は10回,BLS講習会は8回,ICLSワークショップ講習会は2回開催した。その結果,ICLSディレクター 1名,ICLSインストラクター 8名が誕生し,BLS・ICLS講習会の医師会単独開催が可能になった。救急対応力向上研修会は39回開催し,医師会認定救急医は,初級が約20名,中級が4名,上級が1名になった。これらの活動は,学校医・産業医・かかりつけ医として医師会に求められる公益活動につながると思われる。

  • 中谷 亮介, 満田 正樹, 稲葉 静香, 早田 修平, 中村 俊介
    2018 年21 巻1 号 p. 28-32
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    今回,院内急変対応時に薬剤師に求められる役割を見出し,急変対応に必要な知識および技能の習得を目的として,医師および看護師を対象に急変対応時の薬剤師の必要性についてアンケート調査を行い,薬剤師を対象に院内急変対応シミュレーション研修や急変対応アクションカードの作成,急変対応に関するアンケート調査を行った。8割以上の医師,看護師が院内急変時に薬剤師が必要と回答し,急変対応時に薬剤師に期待する役割として,「使用薬剤の提案」,「薬剤の搬送」,「薬剤の取り出し」,「使用薬剤の記録」の4つの項目が主にあげられた。取り組み前は院内緊急コールに駆け付けることができていなかったが,取り組み後は全症例に対して薬剤師が介入できていた。今回の取り組みにより急変対応における薬剤師の役割が明確となり,急変対応への積極的な参画が可能となった。

症例・事例
  • 吉田 拓也, 松島 暁, 橋本 成弘, 橋本 奈々子, 甲賀 麻里子, 宮地 正彦
    2018 年21 巻1 号 p. 33-36
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は53歳女性で,乳癌がありカペシタビンの投与が開始された。服用開始4日目に口のもつれを自覚し,8日目に構音障害を主訴に当院へ救急搬送された。来院時Japan Coma Scale 0,構音障害を認めた。頭部CTでは器質的な病変は認められず,頭部MRIを行ったところ,脳梁および放線冠(深部白質)が拡散強調画像において高信号を認めた。病歴および画像所見からカペシタビンによる白質脳症と診断した。カペシタビン休薬2日目に構音障害は改善した。それに伴い,頭部MRIの所見も改善した。構音障害を主訴とする救急搬送症例を経験することは多い。脳血管障害や代謝性疾患など鑑別疾患は多岐に及ぶが,鑑別には身体診察や血液検査などとともに頭部CTやMRIなどの画像診断学的アプローチは不可欠である。薬剤性脳症は頭部MRIにおいて特徴的な画像所見を呈することが知られており,鑑別に重要である。

  • 劉 啓文, 伊藤 誉, 二宮 大和, 寺内 寿彰, 木全 大, 篠崎 浩治, 小林 健二
    2018 年21 巻1 号 p. 37-41
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は30歳女性。突然の心窩部痛を主訴に救急外来を受診。来院時苦悶様顔貌で,右季肋部に圧痛を認めた。腹部CT 検査で胆囊腫大および粘膜の高吸収像,頸部の渦巻き像を認めたことから胆囊捻転と診断し,緊急で腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した。腹腔内を観察すると,胆囊は捻転解除後であったが,著明に腫大しており,漿膜面に虚血性変化を認めた。胆囊は底部,体部が肝床部に固定されていない遊走胆囊(Gross分類Ⅱ型)であった。内腔は粘膜面の黒色調変化を来し,組織学的に壁全層の炎症細胞浸潤,うっ血,出血を認め,捻転に伴う変化として矛盾しない所見であった。胆囊捻転はまれな疾患であり,先天的要因として遊走胆囊,後天的要因として亀背,側彎,腹部打撲などが指摘されている。高齢女性に多いとされるが,小児や若年者の報告も散見され,原因不明の胆囊腫大を認めた場合は,常に捻転の可能性を考慮すべきである。治療は腹腔鏡下胆囊摘出術が適している。

  • 菊地 斉
    2018 年21 巻1 号 p. 42-45
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    小児の細菌性心外膜炎は,抗生剤が普及した本邦ではまれな疾患である。また,小児では主訴が分かりづらく診断と治療が遅れると致死的となる重症感染症である。起因菌としては,Hemophilus influenzae type b(以下,H.influenzae type b)の報告例が散見される。今回我々は,心タンポナーデを伴い外科的心囊ドレナージ術を行ったH.influenzae type bによる細菌性心外膜炎の小児2症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

資料
  • 植田 広樹, 田中 秀治, 田中 翔大, 匂坂 量, 田久 浩志
    2018 年21 巻1 号 p. 46-51
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    背景:近年,早期に投与されたアドレナリンが脳機能予後を改善することが報告されている。しかし,119番通報から傷病者への接触までの時間(以下,Response time)と,傷病者へ接触してからアドレナリンを投与するまでの時間(以下,Adrenaline time)を関連付けた報告はない。目的:本研究の目的は,病院外心停止症例において救急救命士による早期アドレナリン投与がResponse timeに関係なく,脳機能予後の改善に影響を及ぼすか検討すること。方法:全国ウツタインデータ(2011〜2014年)を用いた後ろ向きコホート研究を実施した。対象は年齢8歳から110歳までの目撃ありの心停止(心静止,VF,無脈性VT,PEA)でアドレナリンの適応であった症例のうち,119番通報から救急救命士が傷病者への接触まで16分以内,かつ傷病者へ接触してから22分以内(99%タイル以内)にアドレナリンを投与した13,326症例を抽出した。対象をResponse timeが8分以内の群(n=6,956)と8分以上16分以内の群(n=6,370)の2群に分類し,さらにそれぞれの群をAdrenaline timeが10 分以内の群と,10分以上の群の2群に階層化した。Primary outcomeを1カ月後脳機能予後良好率,Secondary outcomeを心拍再開率としてロジスティック解析を実施した。結果:Response timeの2群に対して,Adrenaline time の早さにより1カ月後脳機能予後良好率に影響を与えるかオッズ比で比較してみたところ,Response timeが8分以内の群は2.12(1.54〜2.92)であった。8分以上16分以内の群は2.66(1.97〜3.59)であった。一方,心拍再開率はResponse time が8分以内の群で2.00(1.79〜2.25),8分以上16分以内の群で2.00(1.79〜2.25)であった。Response timeが8分以内の群も8分以上16分以内の群も,Adrenaline timeが10分以内の群の方が10分以上の群と比較し1カ月後脳機能予後良好率,心拍再開率ともに有意に高かった。考察:病院外心停止症例においてアドレナリンは,Response timeが8分以上かかったとしても,16分以内であれば,救急救命士が傷病者へ接触後できる限り早期に投与すれば1カ月後脳機能予後良好率を改善し得ると考える。結語:今後,救急救命士は傷病者への接触から10分以内の早期にアドレナリンを投与するための工夫を行うとともに,地域のプロトコールを見直すなど,早期にアドレナリンを投与できるための努力が必要である。

編集後記
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