日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
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24 巻, 3 号
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会告
原著
  • 横田 茉莉, 西田 昌道, 石井 健, 濱田 裕久, 中原 慎二, 坂本 哲也
    原稿種別: 原著
    2021 年24 巻3 号 p. 307-313
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:めまいの原因のうち脳血管疾患は3.2〜12.5%程度とされる7, 8)。神経学的所見が明らかでないめまい患者のうち,MRI施行により判明した脳実質・血管病変とそれらのうち治療介入が必要な割合を調査すること。方法:2016年4月からの3年間に,めまい症状で救急外来を受診した患者で,神経学的所見が明らかではなかったがMRIを施行した426例を対象とした。結果:12例(2.8%)に脳梗塞,11例(2.6%)にその他脳実質病変,93例(21.8%)に血管病変を認め,治療介入が必要な症例は19例(4.5%)であった。結論:神経学的所見の有無での脳血管疾患の除外は難しい。めまい症状以外の所見がなくても脳血管疾患を完全に否定することはできない。MRI施行の検討や,末梢性めまいと確実に診断できる場合を除いて,院内で経過を観察し症状変化がないことを確認することが望まれる。

  • 岡田 昌彦, 小野川 淳, 松永 裕樹, 濱邉 祐一, 黒木 識敬, 安倍 大輔, 篠田 大悟, 中野 光規, 由利 康一
    原稿種別: 原著
    2021 年24 巻3 号 p. 314-319
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:当院ERで経験した孤立性上腸間膜動脈解離11症例を検討する。方法:当院のERで4年間に経験した11症例を対象として患者データを調査して検討を行った。結果:症例の平均年齢は46.5±5.5歳で女性は1例のみであった。全例が腹痛を訴えており,症状出現から受診までは即日受診が7例(64%)で,上腹部痛が8例(73%),突然発症が9例(81%)で持続痛であった。CT検査での解離所見は偽腔閉塞型の割合が多く,4例(36%)が研修医の読影により診断されていた。治療は全例で保存的治療を行い軽快退院した。結論:突然発症の持続する上腹部痛患者は孤立性上腸間膜動脈解離を鑑別にあげて,造影CT検査で上腸間膜動脈の所見を確認することが重要と思われた。また研修医教育において,これらの画像を提示して共有することが有用であると思われた。

  • 高橋 司, 井山 慶大, 村上 道夫, 長谷川 有史
    原稿種別: 原著
    2021 年24 巻3 号 p. 320-330
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:救急救命士(以下,救命士と略す)養成課程の学生について,原子力災害に対応する意志や意識に影響を与える因子を明らかにすることを目的とした。方法:救命士養成課程の学生186名に対し無記名自記式質問紙調査を実施し,多変量解析を行った。結果:救命士養成課程の学生の「行動」に直接影響を及ぼす因子は,「放射線リスク認知」「行動コントロール感」であり,「態度・規範」「ベネフィット」は直接的な「行動」への影響は少ないことが示唆された。一方で,その影響の大きさについては集団の背景(学校区分,地理的環境)によって異なることが明らかになった。結論:救命士養成課程の学生について,原子力災害に対応する意志や意識に影響を与える因子が明らかになった。本研究の結果から導かれた,学生の意識に対する共通した特性と,背景の違いによる多様性の双方を考慮して指導にあたることが重要と考えられた。

  • 中村 秀明, 阪本 奈美子, 染谷 泰子, 矢島 務, 刈間 理介, 鈴木 宏昌
    原稿種別: 原著
    2021 年24 巻3 号 p. 331-338
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    救急救命士が実施する静脈路確保(peripheral intravenous cannulation;PIVC)の成否因子を検討した。方法:BANDO-MC において2018年8月1日〜2019年2月28日に記録されたPIVC 381症例を対象とした。結果:傷病者の年齢(OR 0.97,95%CI 0.958-0.994;p<0.05)の増加とともにPIVC成功率の低下を認めた。静脈の太さ(OR 1.34,95%CI 1.142- 1.591;p<0.001)と静脈の視認性(OR 1.22,95%CI 1.051-1.425;p<0.001)はPIVC の成功に寄与していた。考察:静脈の形状がPIVCの成否に影響しており, それらを改善することはPIVCの成功率の上昇に寄与する可能性が示唆された。

  • 谷口 圭祐, 松本 英樹, 金木 健太郎, 津野 佑太
    原稿種別: 原著
    2021 年24 巻3 号 p. 339-345
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:救急救命士の気管挿管病院実習にて患者の個人要因を調査し,直視型喉頭鏡を使用した場合での気管挿管困難予測因子について推論する。方法:麻酔導入時に患者の個人属性,上顎中切歯突出や義歯の有無,小顎,頸椎可動性,3-3-2の法則について確認し,気管挿管施行時に声門視認性(Modified Cormac-Lehane System;MCLS)を記録した。結果:MCLSを目的変数とした重回帰分析では,小顎(β=0.59;p<0.001),頸椎可動性(β=0.19;p<0.001)が有意な正のβを示し,性別が有意な負のβ(β=−0.34;p<0.001)を示した。結論:患者の性別,小顎,頸椎可動性は救急救命士による直視型喉頭鏡下の気管挿管困難との関連が示唆された。簡便な評価法として救急現場における気管挿管困難の予測に活用できる可能性が高い。

  • 四宮 理絵, 岸上 多栄子, 山本 潤美, 粂橋 美帆, 國方 美佐, 黒田 泰弘
    原稿種別: 原著
    2021 年24 巻3 号 p. 346-353
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:香川県内救急隊員の児童虐待に関する認識と経験を明らかにする。方法:児童虐待に関する質問紙調査を救急隊員(1,167人)に実施。結果:有効回答は561。虐待の4分類を知っている者24.1%,通報先を知っている者は49.2%で,虐待対応に関心がある者は85.4%,虐待対応への不安がある者が73.6%いた。虐待の学習経験がある者は33.9%,虐待事例対応経験がある者が19.3%いたが,学習経験・虐待事例対応経験と不安の有無の間にはどちらも差がなく,学習経験と知識には,統計学的有意差があった。不安内容は【知識不足】,【虐待の判断困難】などで,多職種連携のための要望として【虐待対応のための体制づくり】,【マニュアル類の作成】などがあがった。結論:救急隊員は虐待対応に関心はあるが,知識・経験不足があり,対応への不安を感じていた。多職種間での症例検討や実践的教育,救急現場に特化したマニュアル・体制づくりが必要である。

調査・報告
  • 齋藤 靖弘, 成田 拓弥, 熊坂 雄一郎, 八木澤 啓司, 徳留 章, 丸藤 哲, 武田 清孝
    原稿種別: 調査・報告
    2021 年24 巻3 号 p. 354-358
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:われわれは,診療情報提供書の一部に薬歴内容の不備が存在することを確認してきた。今回,他院からの紹介により転院搬送された患者の診療における診療情報提供書の薬歴内容の正確性を探索的に調査した。方法:2019年4月1日〜2020年3月31日までに札幌東徳洲会病院へ紹介で転院搬送され,入院となった患者を対象とした。診療情報提供書に記載された薬歴内容と,救急初療室専従薬剤師が診療情報提供書以外を薬歴内容の情報源として実施した持参薬鑑別内容を比較し,診療情報提供書に記載された薬歴内容の正確性を評価した。 結果:診療情報提供書の約半数は薬歴内容が記載されていなかった。診療情報提供書によって患者の薬歴内容を正確に把握できたのは全体の23%であった。結論:救急患者転院時における薬歴内容把握には,お薬手帳を中心とした手段を用いて把握することが重要である。

  • 衛藤 泰秀
    原稿種別: 調査・報告
    2020 年24 巻3 号 p. 359-366
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:2人組で胸骨圧迫を行った場合,交代時間が異なれば胸骨圧迫の質にどのような違いがあるか,健康な女子大学生を対象に検討した。方法:対象者16名を2人組に無作為に振り分け,6分間の胸骨圧迫を2分交代,1分交代,30秒交代の3方法で行い,胸骨圧迫の深さ,テンポ,胸骨圧迫比率を測定し,胸骨圧迫の質を評価した。また,脈拍数,アンケートなどより,胸骨圧迫に伴う疲労についても評価した。結果:各方法における30 秒ごとの胸骨圧迫の深さの比較では,いずれにおいても統計学的有意差を認めなかった。しかし,圧迫前後での脈拍数上昇の程度では,30秒交代法がもっとも小さく,実施後のアンケートにおいて,この後も継続可能でもっとも楽な方法として30秒交代法を選んだ者が多かった。考察:以上の結果,30秒交代法は胸骨圧迫の主観的疲労が少なく胸骨圧迫の深さの減衰を抑制できる可能性が示唆された。

  • 宮道 亮輔, 山畑 佳篤
    原稿種別: 調査・報告
    2021 年24 巻3 号 p. 367-371
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:救急医がJapan Maternal Emergency Life-Savingベーシックコースにインストラクターとして参加して得たものを質的に分析し,探索的にモデルを構築することである。方法:コース参加5回以上の救急科専門医9名に半構造化面接を行った。逐語録を作成し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析してモデルを作成した。結果:8つの概念を抽出し,「コース内で得られるもの」,「コース外の影響」,「産科救急への認識」の3つのカテゴリーを作成した。これらの関係から,2つの自己強化型ループからなるモデルを構築した。結論:コースに参加することでコース内で得られる知識や技術を獲得し,産科との連携や地域をみる視点などコース外への影響が増し,母体救命への当事者意識が上がり産科医療の壁も低くなり産科救急への認識が増し,さらなるコース参加につながる可能性が示唆された。

  • 牧野 夏子, 中村 惠子, 菅原 美樹
    原稿種別: 調査・報告
    2021 年24 巻3 号 p. 372-381
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:救急看護認定看護師がとらえた外傷看護実践における看護師の役割を明らかにする。方法:救急看護認定看護師5名を対象にフォーカスグループインタビューを行い,質的記述的に分析した。結果:【外傷初期診療における患者の救命と安寧を考慮した意図的介入】【患者の安全と安楽を意図した二次的合併症予防へのケア計画と実施】【急性期から長期的視点で見据えた患者の機能障害受容と社会復帰に向けた資源の活用】【診療中に並行して行う家族の対処能力の見極めと代理意思決定支援】【期をとらえた家族への受容促進のかかわり】【患者・家族の意向とシームレスな診療の進行を考慮した医療者間の調整】の6カテゴリーが抽出された。結論:外傷看護実践における看護師の役割は「直接ケア」と「調整」の2つの特徴が見出され,外傷看護に特化した実践役割に加えて社会復帰を見据えた調整役割が求められていた。

  • 松井 豊, 畑中 美穂, 田島 典夫, 岡野谷 純
    原稿種別: 調査・報告
    2021 年24 巻3 号 p. 382-388
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    バイスタンダーに渡す感謝カードに対する消防職員の認識や行動を検討するために,質問紙調査を行った。対象者は,感謝カードを渡すような現場で救急活動をした経験のある消防職員178名であった。調査の結果,多くの消防職員は,バイスタンダーのストレスと,その対策の必要性を認識していた。消防職員の感謝カードに対する考えやその効果の認識には,肯定的な意見と否定的な意見とが混在していた。回答者の70%以上が,バイスタンダーに感謝カードをあまり渡していなかった。その理由は,切迫した活動状況で搬送を優先したい気持ちや,誰がバイスタンダーかわからない状況,対象者が情緒的に混乱している状況などにあった。これらの結果をふまえ,感謝カード制度の問題点や課題を論じた。

  • 山岸 利暢, 柏浦 正広, 松井 崇頼, 村田 信也, 石田 岳史, 百村 伸一, 坪井 謙
    原稿種別: 調査・報告
    2021 年24 巻3 号 p. 389-399
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:COVID-19流行期に救急受け入れ困難症例が問題となった。本研究では,当施設の救急患者受け入れ体制の工夫がCOVID-19流行期の救急応需に寄与したのかを調査した。 方法:2020年3月27日〜5月25日と2019年の同期間に小児科医以外の医師が診療した患者データについて後方視的に解析した。当施設では,感染防護策をとりながら救急医が救急外来受診患者のフローを管理し,感染症を疑う救急搬入患者でも安定していれば発熱外来で診療して救急初療室を温存したり,患者の入院方法を工夫し救急外来・発熱外来の診療時間の短縮に努めたりした。結果:救急応需率は2019年,2020年の比較では3月は75.7% vs 77.1%(p=0.907), 4月は83.3% vs 62.3%(p<0.001),5月は80.1% vs 71.6%(p<0.009)で4月,5月では有意に低下した。一方,2020年は4月と比較して5月の応需率は有意に増加した(p=0.004)。結論:当施設の救急患者受け入れ体制の工夫で,2020年の救急応需率は2019年よりも低下したものの,2020年では4月〜5月にかけて増加した。

  • 森本 文雄
    原稿種別: 調査・報告
    2021 年24 巻3 号 p. 400-402
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    回復期の病院で急変時に特化した事前確認を導入した。対象および方法:①手術などでの転院,②心停止時の胸骨圧迫(心臓マッサージ),③人工呼吸器の装着について入院時に確認している。退院患者50例のカルテを調査した。結果:①手術などでの転院には,「希望する」11例(22%),「希望しない」27例(54%),「判断できない」12例(24%)と回答した。 ②心停止時の胸骨圧迫には,「希望する」5例(10%),「希望しない」43例(86%),「判断できない」2例(4%)と回答した。③人工呼吸器の装着には,「希望する」4例(8%),「希望しない」45例(90%),「判断できない」1例(2%)と回答した。結語:回復期の病院で急変時に特化した事前確認を導入した。当院スタッフの意識と隔たりがある結果で,心肺蘇生教育充実の必要性を感じた。

  • 岩崎 恵, 庄古 知久, 安達 朋宏, 内山 まり子, 加藤 開, 谷澤 秀, 中本 礼良, 吉川 和秀, 小島 光暁
    原稿種別: 調査・報告
    2021 年24 巻3 号 p. 403-408
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    背景:COVID-19蔓延期の災害対応において,病院クラスター発生は病院機能停止を伴う大きなリスクである。感染者が含まれる多数傷病者受入方法を平時から検討しておく必要がある。目的:大規模災害発生時の多数傷病者受入に伴うCOVID-19クラスター発生の防止。 方法:防災訓練ワーキンググループにてCOVID-19蔓延期の災害対応を検討し,大規模災害発生時の多数傷病者受入方法とPCR検査を施行不能な場合に行う入院時のCOVID-19感染リスク分類のためのトリアージ法を策定する。結果:従来の二次トリアージに加えCOVID-19のリスク評価を行い,以下の4段階に分類するCOVIDトリアージを開発した。カテゴリーⅠ(紺)は発災前PCR陽性または抗原陽性,Ⅱ(紫):はCOVID-19の可能性が高い,Ⅲ(ピンク)はCOVID-19の可能性が低い,Ⅳ(白)は発災前PCR陰性とした。結語:災害拠点病院は潜在的なCOVID-19患者を受け入れるために従来のトリアージに加え,感染リスク別の入室カテゴリーを策定し,後日陽性者が判明した場合でも被害を最小限にする対策を準備しておく必要がある。

  • ―長期間にわたる暑熱環境下での救護対応の実際―
    清水 伸子, 山本 利春, 笠原 政志, 守屋 拓朗
    原稿種別: 調査・報告
    2021 年24 巻3 号 p. 409-414
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    第16回世界女子ソフトボール選手権大会において,アスレティックトレーナー(AT)が現場を指揮する救護トレーナーとして救護活動を行った。医師との連携のもと,長期間にわたる暑熱環境下での国際大会にて競技会場内の救護活動を実施した取り組み内容を報告する。 事前準備として,緊急時対応計画(EAP)の作成,人員や資器材の確保,各関係諸機関との連携,暑熱環境対策を,医師による監修を受けながら遂行した。救護活動は,夏季11日間,全4会場,総計73試合の球場内で行い,選手・観客の救急対応を担当した。対応事例として,選手では捻挫・打撲・挫創などの外傷に対する処置が多く,選手・観客ともに熱中症疑いなどの内科的疾患の発生もみられた。医師不在の現場では,医師の指導のもと,EAPにのっとって救護トレーナーがコマンダーとなり対応することで,一定の役割を果たすことができる可能性がある。

症例・事例報告
  • 田中 由基子, 新井 晶子, 阿竹 茂, 河野 元嗣
    原稿種別: 症例・事例報告
    2021 年24 巻3 号 p. 415-419
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は75歳の男性で,自宅2階の窓から転落し受傷した。直後は自分で受傷機転を説明していたが,約1時間後には発語を認めなくなり,意識障害,呼吸不全,循環障害が進行した。画像検査で骨盤骨折,左大腿骨頸部骨折を認めたが,頭部・胸部には外傷の所見はなかった。集学的治療を行い,循環動態は安定したが3日目には刺激に対し除脳硬直肢位を認めるようになった。頭部MRIの拡散強調画像でstarfield patternを認め,診断基準も満たすことより脂肪塞栓症候群(以下,FES)と診断し,家族に支持療法継続の同意を得た。症状および頭部MRI画像所見は緩やかに改善し,第62病日にGCS E4V4M6,平行棒内歩行が可能な状態まで回復し転院した。高齢者のFESにおいて経時的に頭部MRI画像を撮像することが長期間の支持療法継続の決定に有用と考えられた。

  • 蜂谷 聡明, 寺島 良, 秋葉 力, 向坂 文冶, 古賀 貴博, 田中 良男, 南 啓介, 高松 優香, 太田 圭亮, 明星 康裕
    原稿種別: 症例・事例報告
    2021 年24 巻3 号 p. 420-424
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    徐脈は頸髄損傷患者において重篤な合併症である。今回,頸髄損傷後の症候性徐脈に対し,シロスタゾールが有効であった症例を経験した。症例は82歳,男性。交通事故のため当院に搬送された。第5/6頸椎の脱臼骨折,左椎骨動脈解離を認めた。第3頸髄以下の完全麻痺,神経原性ショックを認め,ドパミンを一時的に使用した。ドパミン中止後から徐脈傾向となった。第8病日のcomputed tomography(CT)で椎骨動脈解離が原因と思われる小脳梗塞を指摘された。しかしながら自覚症状はなく経過観察とした。第26病日,体位変換時に著明な徐脈となり心停止に至った。神経学的異常なく自己心拍再開したが,その後も徐脈が続いていたためシロスタゾールを開始した。以後,心拍数は改善傾向となり,症候性徐脈はみられなくなった。頸髄損傷後の症候性徐脈に対し,シロスタゾールが効果的であったと考えられた。

  • 武田 宗和, 矢口 有乃, 久保田 英, 並木 みずほ, 市丸 秀章, 齊藤 眞樹子, 永井 玲恩
    原稿種別: 症例・事例報告
    2021 年24 巻3 号 p. 425-428
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    背景:尿管結石疝痛発作に対して,指圧により鎮痛を行っている泌尿器科医も存在する。目的:救急外来部門における尿管結石疝痛発作に対する指圧の治療成果を報告する。方法:2018年1月から15カ月間で当院救急外来において尿管結石疝痛発作に対し,志室を指圧された15例について,施術前後のNRSを指標にその有効性と限界を検討した。結果:10例(67%)で施術5分以内にNRS≦3となり,全例歩行可能となった。10例のうち4例は10〜40分後までに疼痛が再燃したため,鎮痛薬を必要としたが,施術に伴う有害事象はみられなかった。考察:合併症もなく,一時的にでも速やかに疼痛軽減が期待できるという観点からは,尿管結石疝痛発作に対する指圧は,『痛み』を緩和するという意味で姑息的治療としての有益性は高いといえる。

  • 三浦 航, 鶴岡 歩, 孫 麗香, 吉野 智美, 山下 智也, 宮市 功典, 林下 浩士
    原稿種別: 症例・事例報告
    2021 年24 巻3 号 p. 429-433
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    今回われわれは,血中致死濃度を上回る急性カフェイン中毒患者に対して持続血液透析を施行した1 例を経験したため報告する。症例は30歳代,男性。自殺目的にカフェイン(無水カフェインにして13g)を大量服用し,服用5時間後に気分不良が出現し自ら救急要請した。来院時所見として頻脈,高血圧,間代性痙攣,代謝性アシドーシスがみられた。持続血液透析(continuous hemodialysis;CHD)を開始したところ,開始10 時間で臨床症状の改善が得られ,CHDは15時間で終了した。精神科の診察を経て第8病日に退院となった。退院後に判明した入院時の血中カフェイン濃度は132.68μg/mLと血中致死濃度とされる80〜100μg/mL を上回っていた。血中カフェイン濃度からCHDのカフェインクリアランス値を計算したところ0.437mL/min/kgとなり,これは患者自身の肝による代謝クリアランスを下回る値であった。カフェイン中毒においては,血中カフェイン濃度の半減期が大幅に延長し,消化管からの吸収も遅延するため二峰性に血中カフェイン濃度が再上昇する可能性を考慮する必要がある。単回のHDでは二峰性の濃度上昇に対応できないと考え,本症例における血液浄化療法のモダリティとしてはCHDを選択した。しかし実際には,CHDによるカフェインのクリアランスは低くHDほど効率的ではなかった。カフェイン中毒に対して血液浄化療法を施行する場合は,まずHDを施行し速やかに血中濃度を安全域まで低下させ,二峰性の濃度上昇による症状が出現しないか経過観察することが重要と思われる。

  • 室谷 知孝, 寺脇 平真, 稲田 麻衣子, 東出 靖弘, 是永 章, 是枝 大輔, 東 秀律, 久保 真佑, 浜崎 俊明, 宇山 志朗
    原稿種別: 症例・事例報告
    2021 年24 巻3 号 p. 434-438
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は16歳男性で,徐々に増悪した心窩部痛および下腹部痛を主訴に前医より紹介され当院救急外来を受診した。造影CT検査では,短時間で急激に増加した多量の腹水と下腹部に拡張した小腸を認めた。しかしながら画像検査結果のみでは確定診断に至らず,緊急で診断的腹腔鏡検査を施行した。その結果,多量の腹腔内出血を伴い著明に腫大したMeckel憩室の穿孔所見を認めたため,引き続いて腹腔鏡補助下に切除した。Meckel憩室の合併症は一般的に腸閉塞,憩室炎,腸重積,潰瘍およびそれらに伴う下血などが多いとされるが,多量の腹腔内出血をきたす症例はまれであり,自験例でも診断に苦慮した。今回われわれは,腹腔内出血で発症したMeckel憩室に対し診断的腹腔鏡検査にて確定診断し,引き続いて腹腔鏡補助下に治療できた1例を経験したため文献的考察を加えて報告する。

  • ―埼玉県東部地域メディカルコントロール協議会救急医療研究会報告―
    小林 元裕, 有馬 健, 松島 久雄, 松山 尚弘, 秋元 政史, 林 周平, 髙瀬 彰広, 小川 勝也, 永井 義隆, 佐藤 宏之
    原稿種別: 症例・事例報告
    2021 年24 巻3 号 p. 439-442
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    埼玉県東部地域メディカルコントロール協議会では,当地域で発生する搬送困難症例を解消するため,病院,消防,行政といった多職種での研究会を開催している。今回,高齢者の心停止症例搬送の際に蘇生をしないで搬送するよう求められ,難渋した事案をきっかけに,高齢者施設職員を含めた多職種で,研究会を開催し問題点を共有することとした。研究会では活発な意見交換が行われ,多くの問題点があげられたが,情報共有の問題がもっとも大きな問題とされた。このため,地域で共通の情報提供書を作成し,円滑な情報のやり取りを行うことが,問題解決の一助になると考えられた。今後,高齢者施設の意見も取り入れた情報提供書の作成を行っていくこととした。

編集後記
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