日本臨床救急医学会雑誌
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19 巻, 4 号
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会告
原著
  • 松井 鋭, 植松 悟子, 三品 浩基, 辻 聡
    2016 年19 巻4 号 p. 553-558
    発行日: 2016/08/31
    公開日: 2016/08/31
    ジャーナル フリー

    背景:平日時間外の小児救急外来患者における小児救急電話相談事業(#8000)の認知と利用歴を調査し,児の属性や子育てに利用する情報源と#8000の認知との関連について検討した。方法:2013年1月7日から3月28日の期間に,国立成育医療研究センター救急外来を平日17時から翌日9時の時間帯に受診した児の保護者に対し質問票を配布した。#8000の認知と受診前の利用歴,受診児の属性,受診理由,普段の子育てに利用する情報源などを調査した。結果:648人が質問票に回答した(回収率79%)。#8000の認知割合は31%で,認知者の利用割合は21%であった。#8000を知っている群は知らない群に比べて,インターネットを子育ての情報源とする割合が高く,また児の年齢が低かった。結論:時間外救急受診児の保護者における#8000の認知や利用割合は低く,普段の子育ての情報源によって認知割合に差を認めた。

  • 松浦 治人, 渡部 広明, 中尾 彰太, 木村 信広, 松岡 哲也
    2016 年19 巻4 号 p. 559-565
    発行日: 2016/08/31
    公開日: 2016/08/31
    ジャーナル フリー

    泉州医療圏においては平成24年10月より,外傷に特化した覚知時ドクターカー(以下DC)出動要請システムを構築し運用を開始した。これに伴い,病院前における救急隊・通信指令室員・医師などの多職種による連携活動の必要性が増している。今回,覚知時DC 出動要請システムの運用開始後の病院前外傷救護の現状について,平成24年10月〜平成25年12月の間の外傷傷病者338例を対象に調査した。対象傷病者のうちDC出動傷病者は169 例,覚知時DC要請は148例であり,DC出動要請の頻度が低いことや,出動要請の正確性の点で指令室間の格差が大きいなどの課題を認めた。DC出動症例においては,消防隊や救助隊等,救急隊以外との連携活動を実施していた割合が77%と高く,医師接触までの時間は短縮されており,DC出動の有用性が示された。このシステムを今後も継続していくことで多職種間の共通認識が醸成されれば,外傷チーム現場派遣システムとしてさらなる発展が期待できる。

  • 岩瀬 史明, 井上 潤一, 小林 辰輔, 宮崎 善史, 松本 学, 加藤 頼子, 池田 督司, 木下 大輔
    2016 年19 巻4 号 p. 566-570
    発行日: 2016/08/31
    公開日: 2016/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:2014年4月1日救急救命士法の改正により拡大された,心肺機能停止前の重度傷病者に対して静脈路確保と輸液,意識障害の傷病者に対する血糖測定と低血糖傷病者に対するブドウ糖溶液の投与に対する山梨県の現状を調査すること。方法:2014年4月1日から2015年3月31日まで山梨県内の拡大処置の実施状況を事後検証票から後ろ向きに調査した。結果:心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保の対象症例は173例であり,低血糖発作症例は79例であった。心肺機能停止前の輸液は,循環血液量減少が70%,心原性が8.1%,アナフィラキシーが6.4%であった。現場出発前の静脈路確保は現場出発後に比較して,現場滞在時間を約5分間延長させていた。低血糖症例に対するブドウ糖溶液の投与により,97%で意識は改善していた。

  • 近藤 匡慶, 菅谷 量俊, 長野 槙彦, 磐井 佑輔, 金子 純也, 諸江 雄太, 工藤 小織, 久野 将宗, 畝本 恭子, 村田 和也
    2016 年19 巻4 号 p. 571-577
    発行日: 2016/08/31
    公開日: 2016/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:バンコマイシン(以下,VCM)負荷投与は,抗菌薬TDMガイドラインに記載されているが,有用性を示す報告は少なく,今回,救命救急センターでの有用性を検討した。方法:トラフ値,治療効果,投与日数等を負荷投与群,通常投与群(以下,対照群)で比較検討した。負荷投与は初日1〜2g投与し,維持投与はトラフ値10〜20μg/mLを目標に薬剤師が投与設計した。結果:負荷投与群7例,対照群21例を認め,トラフ値は,対照群9.4±5.4μg/mLと比較して負荷投与群15.8±6.8μg/mLと有意な増加を認め(p<0.05),トラフ値10μg/mL以下の症例が対照群62%から負荷投与群29%と減少傾向を示した。治療効果は有意差を認めなかったが,投与日数では,負荷投与群で有意な短縮を認めた(p<0.05)。結論:VCM負荷投与は,早期に血中濃度を上昇させ,治療効果に寄与する可能性が示唆された。

  • ―傷病者への接触からアドレナリン投与までの時間が社会復帰に及ぼす影響―
    植田 広樹, 田中 秀治, 田久 浩志, 匂坂 量, 白川 透, 後藤 奏, 島崎 修次
    2016 年19 巻4 号 p. 578-585
    発行日: 2016/08/31
    公開日: 2016/08/31
    ジャーナル フリー

    背景:病院外心停止傷病者に対するアドレナリンの投与の有効性については臨床的なエビデンスが不十分である。目的:救急救命士が心停止プロトコールに沿って実施したアドレナリン投与が社会復帰率に及ぼす影響について検討すること。方法:全国ウツタインデータ(2006〜2012年)から300,821症例を対象とし,アドレナリン投与群(n=40,970)と非投与群(n=259,851)に分類して効果を解析した。結果:アドレナリン投与による心拍再開率は非投与群の7.9%に対して投与群が22.5%と良好なものの,社会復帰率は非投与群の3.2%に対して投与群が1.9%と低値を示した。しかし,接触から7.9分以内に限定した早期投与群を検討すると,アドレナリンを投与された傷病者の社会復帰率は4.2%と,それ以降に比べ高かった〔OR=4.23(3.44-5.20)〕。考察:今後は,救急救命士が傷病者への接触から7.9分以内にアドレナリンを投与できるように何らかの工夫を講じ,傷病者接触から薬剤投与までの時間を短縮することが必要と言える。結語:病院外心停止症例においてアドレナリンは,早期に投与すれば社会復帰率を改善しうると考える。

  • 関根 和弘, 田中 秀治, 田久 浩志
    2016 年19 巻4 号 p. 586-591
    発行日: 2016/08/16
    公開日: 2016/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:バイスタンダーCPR(以下,ByCPR)の質の定義を作成前後でByCPRの実施率と質の変化を確認した。対象:N市消防管轄において,1999年1月から2007年末までに発生した941件の心肺停止症例のウツタイン様式データを検討した。方法:1999年から2002年までのByCPRの有効性を確認せず,応急手当を実施した場合ByCPRありとしていた時期をA期間,有効なByCPRの定義付けを実施した2003年から2007年までをB期間とし,A期間・B期間を後ろ向きに検討した。結果:救急隊員が現場でByCPRを確認し質の定義付けを実施したB期間では,それ以前のA期間と比較してByCPR実施率は有意に低下した(p<0.05)。心拍再開率も同様にB期間で低値であった(p<0.05)。一方,心拍再開した症例ではB期間の方が1カ月生存率は高値であった。結語:ウツタイン様式のデータを分析するうえでは,救急隊がByCPRの質を定義する必要性がある。

調査・報告
  • 藤田 康雄, 多治見 公高
    2016 年19 巻4 号 p. 592-597
    発行日: 2016/08/31
    公開日: 2016/08/31
    ジャーナル フリー

    2014年4月1日より意識障害症例での血糖測定と低血糖症例へのブドウ糖溶液投与,ショックが疑われる症例への静脈路確保と輸液の2行為が救急救命士の処置として追加された。秋田県では同日より全県で活動を開始し,2014年9月30日までの6カ月間で血糖測定対象は551例で,うち497例(90%)に血糖測定が行われ,血糖値50mg/dL 未満は113例であった。48例でブドウ糖溶液投与を行い,42例で意識レベルの改善を認めた。心肺機能停止前静脈路確保対象は184例で,125例(64.8%)に静脈路確保を施行し,47例で血圧低下の進行を認めなかった。一方プロトコル逸脱例やショックの判断不明例が多数みられた。さらに観察不十分な症例も多く,輸液処置の有効性は評価できなかった。新たな特定行為の導入にあたっては,十分な教育・訓練と指示医師を含めたプロトコル周知が重要である。

  • 坂田 陽介, 町田 佳也, 小杉 孝志, 福田 靖
    2016 年19 巻4 号 p. 598-603
    発行日: 2016/08/31
    公開日: 2016/08/31
    ジャーナル フリー

    本県では平成22年末に傷病者の搬送および受け入れの実施に関する基準(以下実施基準)が策定されたが,内因性疾患では明確な観察基準が少なく観察時の判断ツールとしては現実性を欠いた。そこでわれわれは平成26年に一定基準の観察項目を設けた症状別アセスメントシート(以下,シート)を作成し,検証を行った。結果,緊急度・重症度が高いと判断した症例はほぼ適切な医療機関へ搬送が行われていた。一方,観察項目の見直しが必要と考えられ,今回改訂版を作成し再検証を行った。期間中シート使用回数は459回。何らかの観察項目に該当した症例を医療機関側から返却された検証票と比較した。観察項目該当症例の診断結果は中等症以上が153件であった。シートは緊急度・重症度判断の指標として有効であり,重症所見の見落としが少なくなるとの意見を得た。しかし緊急度が低い症例では活用できず,搬送先の選定に迷う中等症症例で有効活用できると考えられた。

症例・事例報告
  • 加藤 昇, 遠山 一成, 田中 淳, 中川 淳一郎, 日野 裕志, 中條 悟, 奥田 和功, 島津 和久, 岸本 正文, 塩野 茂
    2016 年19 巻4 号 p. 604-608
    発行日: 2016/08/31
    公開日: 2016/08/31
    ジャーナル フリー

    症例は70歳代,男性。汎発性腹膜炎,重症敗血症状態で緊急開腹した。十二指腸球部前壁から下行脚にかけて大きな潰瘍穿孔と後腹膜(前腎傍腔)の感染を認めた。後腹膜を開放し,穿孔部を縫合閉鎖後,大網で被覆した。術後6日目突然腹腔内出血が生じ,CTで十二指腸周囲に気泡を含む後腹膜血腫を認め,止血を要する縫合不全のため再手術を施行した。後腹膜血腫を除去し,動脈性出血を止血した。穿孔部はほぼ全開状態で約3cm径であった。低侵襲的に閉鎖するため,空腸ループを結腸後で挙上し,穿孔部辺縁の十二指腸全層と空腸漿膜筋層を結節縫合して閉鎖した。軽度の縫合不全を生じたが良好に経過し,狭窄も生じなかった。空腸漿膜パッチ術は,十二指腸全層欠損に対して狭窄を来さずに閉鎖できる簡便な方法として,おもに外傷領域で選択されてきた。十二指腸潰瘍穿孔では報告が少ないが,縫合不全等で2回目以降の手術時に,オプションとして考慮してよい術式と考える。

  • 松田 律史, 松浦 誠, 菅沼 和樹, 岩倉 賢也, 中谷 充, 志賀 一博, 矢野 賢一, 淺井 精一, 早川 達也
    2016 年19 巻4 号 p. 609-614
    発行日: 2016/08/31
    公開日: 2016/08/31
    ジャーナル フリー

    多数傷病者事故は局所災害であり,消防・医療ともに特別な対応が必要となる。また外国人傷病者は災害弱者として特別な配慮を要する。今回,われわれは外国人傷病者を含む多数傷病者事案を2例経験した。事例1:高速道路上での大型バス1台と大型トラック3台による事故であり,軽症11名,中等症1名,重症1名が生じた。軽症者11名中9名が中国人旅行者であり,分散搬送の困難さから,全傷病者を当院で受け入れた。事例2:一般道路上での大型バス2台による事故であり,軽症28名が生じた。患者は全員中国人旅行者であり,分散搬送の困難さから他院で9名,当院で19名を受け入れた。防ぎ得る災害死の回避のため,分散搬送は災害医療の原則である。しかし,外国人傷病者の場合,通訳者を考慮に入れない分散搬送は,適切な診療に結びつかない可能性がある。軽症の外国人傷病者に対しては,搬送先の集約化も考慮するべきと考えた。

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