日本臨床救急医学会雑誌
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23 巻, 1 号
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会告
原著
  • 黒田 啓子, 沓澤 智子, 高良 文子, 岡山 隆史, 加茂 由香利, 松木 秀明, 若井 慎二郎, 森 悟子
    原稿種別: 原著
    2020 年 23 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/02/29
    ジャーナル フリー

    目的:日本緊急度判定支援システム(Japan Triage and Acuity Scale;JTAS)で, ①トリアージ看護師が判定したJTASレベルと医師による診療後転帰との一致,②「アンダートリアージ」の影響要因を明らかにする。方法:2013年1 〜12月(毎月1 〜5日の5日間)に,救急車以外の時間外受診患者1,629名を対象とした。救急経験平均年数7.5年の看護師が判定したJTASレベルや診療後転帰を後ろ向きに調査した。「4:低緊急」,「5:非緊急」で入院となった患者41名を「アンダートリアージ群」,帰宅患者595名中42名を「コントロール群」とし,多重ロジスティック回帰分析で要因を解析した。結果:JTAS レベルと転帰で正の相関(rs=0.312,p<0.001)を認め,「アンダートリアージ」率は2.5%,影響要因として「収縮期血圧」「循環器病薬」ほか,「深在性疼痛」は8.8倍の独立因子であった。結論:トリアージ看護師によるJTASレベルは診療後の転帰と相関するが,「深在性疼痛」など「アンダートリアージ」要因を考慮する。

調査・報告
  • ―プロトコールの問題点―
    倉橋 ともみ, 小林 洋介, 白浜 功徳, 渡邉 峰守, 中野 浩, 浅岡 峰雄
    原稿種別: 調査・報告
    2020 年 23 巻 1 号 p. 12-18
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/02/29
    ジャーナル フリー

    目的:当地区で救急救命士の処置が拡大された2015年度以降,来院時低血糖の症例に対し救急車内で血糖測定・ブドウ糖溶液投与が行われなかった理由を検討した。方法:2015年度からの3年間に当院救急外来に救急車で来院,15歳以上で来院時血糖値70mg/dL 未満の患者を対象に,救急車内のJapan Coma Scale(以下JCSと略す),血糖測定・ブドウ糖溶液投与の有無,来院時血糖値などを調査した。結果:対象は397例で,血糖測定50例,ブドウ糖溶液投与は8例に行われた。ブドウ糖溶液未投与389例のうち297例が血糖未測定であり,その74.7%はJCS Ⅱ桁未満であった。救急車内の血糖値が50mg/dL 以上の17例すべてで来院時さらに血糖値が低下した。結論:JCS Ⅱ桁未満,血糖値50mg/dL 以上でも血糖測定・ブドウ糖溶液投与が可能になるようプロトコールの再検討が必要である。

  • 下山 京一郎, 東 一成, 織田 順
    原稿種別: 調査・報告
    2020 年 23 巻 1 号 p. 19-26
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/02/29
    ジャーナル フリー

    2017年度訪日外国人観光客は2,869万人であった。東京オリンピックが迫り,増加する外国人観光客に対する医療体制の構築が急務である。東京医科大学病院救命救急センターは三次救急症例のみが搬送される救命救急センターであり,比較的多数の外国人患者が搬送される施設である。そこでわれわれは,訪日外国人観光客を含む重症外国人患者87例についてその傾向,診療上の障壁について検討した。男女比は2:1で,国籍別割合はアジア人で74%を占め中国人が33%と最多であった。54%に何らかの形で通訳が必要で,51%の患者が入院した。 傷病としては心肺停止が最多であり25%を占めた。未収者の割合は14.9%に及んだ。診療上の障壁としては大使館,国際搬送サービスなど他機関との連携に難渋することが多かったが,言語面,文化面での問題に難渋した例は少なかった。通訳者のなかに専門職はほとんど含まれておらず,医療安全面でのリスクが高い状態で重症外国人患者診療が行われていることがわかった。

  • ―失敗理由に特化した訓練モデルを使用した実践研究―
    玉木 昌幸, 田中 勤, 田中 秀之, 村上 宏, 熊谷 謙
    原稿種別: 調査・報告
    2020 年 23 巻 1 号 p. 27-31
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/02/29
    ジャーナル フリー

    背景:病院実習中の救急救命士(以下,研修者)が,生体への静脈路確保(以下, IV)に失敗する理由は共通しており,失敗理由に特化した対策が必要と考えた。目的:IV技術向上のために自作IV訓練モデルを使用し,その効果を検証すること。方法:研修者に共通のIV失敗理由に特化した自作IV訓練モデルでシミュレーション訓練を実施後,病院実習での生体へのIV成功率をモデル未使用者および過去の研修者の成績と比較した。また,モデル使用者にアンケートを実施し,結果を検討した。結果:IV成功率はモデル使用群86.2%,モデル未使用群81.0%であり,使用群が有意に高かった(p<0.05)。また,過去4年間の研修者の成績との比較でもいずれよりも有意に高かった(p<0.05)。アンケート結果もモデルを使った訓練への肯定的意見が多かった。結論:モデル使用群は有意にIV成功率が高く,アンケートでも好評であり,IV成功率向上に有効であることが示唆された。

  • 木下 大輔
    原稿種別: 調査・報告
    2020 年 23 巻 1 号 p. 32-35
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/02/29
    ジャーナル フリー

    大腿骨近位部骨折の受傷後1年での死亡率は十数%といわれており,その死亡率は術後の歩行能力が関与するとの報告が多い。また退院時の歩行能力がその生命予後を左右するとの報告もあり,歩行能力の再獲得が非常に重要である。2017年1月〜2018年8月までに当院で手術を施行した52例について,退院時に歩行可能であった26例と歩行不能であった26例に分け検討した。年齢,認知症の有無,入院前の歩行能力に加え,初回車椅子乗車までの日数に有意差があり,ROC曲線を描きカットオフ値を求めると術後3日でもっとも予測能が高かった。つまり入院前に自立歩行が可能であり認知症のない患者は,術後3日以内に初回車椅子乗車をすることで退院時歩行能力を再獲得できたという結果である。本検討での結果は十分条件とは断言できないが,術後3日以内の早期離床により歩行能力の再獲得さらには長期的な生命予後につながる可能性が示唆された。

  • 安田 康晴, 今井 寛, 太田 祥一, 木下 順弘, 小林 誠人, 野々木 宏, 山村 仁, 脇田 佳典, 森村 尚人, 横田 順一朗
    原稿種別: 調査・報告
    2020 年 23 巻 1 号 p. 36-41
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/02/29
    ジャーナル フリー

    救急隊員が使用できる自動式人工呼吸器は,救急業務実施基準により救急車に搭載可能であるが,救急救命処置に位置づけられておらず使用について齟齬が生じている。そこで,救急救命処置に自動式人工呼吸器の使用を位置づけるために,全国251の地域メディカルコントロール協議会(以下,MC協議会)に自動式人工呼吸器の使用方法などのアンケート調査を行い,課題を抽出した。228 MC協議会のうち226 MC協議会が自動式人工呼吸器を使用している消防本部を管轄していた。44 MC協議会で非侵襲的陽圧換気法(NPPV)にも適応としていたが,自動式人工呼吸器のプロトコルは228 MC協議会中6 MC協議会しか作成していなかった。自動式人工呼吸器使用の教育は173 MC協議会で行われていたが,専門性の高い医師や臨床工学技士による教育はごく少数であった。救急救命処置に自動式人工呼吸器の使用を位置づけるためには,教育内容や適応,プロトコルの策定,事後検証などの指針を示す必要がある。

  • 赤尾 いづみ
    原稿種別: 調査・報告
    2020 年 23 巻 1 号 p. 42-47
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/02/29
    ジャーナル フリー

    「救急安心センターおおさか」では,脳卒中の早期症状を見逃さず,早期受診へつなげる取り組みの一つとして,電話救急医療相談の質の向上に努めてきた。2017年度看護師による緊急度判定の結果,脳卒中を疑い救急搬送に至った大阪市内の115症例を,重症度,傷病名,発症から入電までの時間を視点に検証した結果,電話救急医療相談における脳卒中の正診率は68.7%であった。本研究では,発症から電話救急医療相談に至るまでに時間を要している症例も多く,救急安心センター(#7119)の認知度を高め,『Time is brain』の概念を市民に普及させることが,一人でも多くの「潜在的な重症患者の救護」につながると考えられた。

  • 大髙 俊一, 岡野 雄一, 奥本 克己
    原稿種別: 調査・報告
    2020 年 23 巻 1 号 p. 48-51
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/02/29
    ジャーナル フリー

    目的:わが国では災害時のトリアージとしてSTART法が普及している。しかし緑区分は傷病者数が多く,診療や観察が不十分となる。今回われわれは平成28年熊本地震において緑区分であった傷病者について調べ,院内START法の問題点とその対策を検討した。 方法:平成28年4月14日〜18日に熊本赤十字病院を受診し,START法を受けた傷病者を対象とした。トリアージタグ,当院の災害カルテ,電子カルテより緑区分の傷病者数,転帰,疾患内訳を抽出した。結果:921名が緑区分にトリアージされ,11名(1.2%)が入院した。疾患内訳は内因性傷病者が11名中8名(73%)であった。また帰宅予定であったが「帰宅待機エリア」から入院となった症例があった。結語:START法で緑区分となった傷病者にも入院症例が含まれていることを認識し,対応する必要がある。また「帰宅待機エリア」が災害時に有用な可能性がある。

症例・事例報告
  • 水津 利仁, 水野 正之, 阿部 雅志, 松本 尚
    原稿種別: 症例・事例報告
    2020 年 23 巻 1 号 p. 52-57
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/02/29
    ジャーナル フリー

    諸外国(アフリカやインドなど)では遭遇する機会もまれではないが,わが国ではきわめてまれなライオンによる外傷を経験したので報告する。わが国では大型の野生動物による外傷といえばクマによる外傷の報告が多く,頭頸部と顔面から胸部までの上半身に与える損傷が大多数である。本症例はクマによる報告同様,頭部と頸部に受けた損傷が大きく,それ以外の部位では擦過傷程度であった。また,クマによる外傷は殴打による爪外傷の報告が多いのに対し,ライオンは牙による咬傷が多く,受傷形態はイヌ・ネコによる咬傷に近い。クマとライオン,イヌ・ネコとライオンそれぞれの外傷の類似点を踏まえ,今後同じような症例に遭遇した場合,造影CT検査を行ううえでの撮影法とその考え方について考察した。

  • 田中 保平, 藤原 慈明, 渡邊 伸貴, 山黒 友丘, 富永 経一郎, 新庄 貴文, 太田 真, 伊澤 祥光, 米川 力, 間藤 卓
    原稿種別: 症例・事例報告
    2020 年 23 巻 1 号 p. 58-61
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/02/29
    ジャーナル フリー

    75歳,男性。ハチ酒造りを趣味とし,これまで多数回のハチ刺傷歴があるが症状を呈したことはなかった。某日スズメバチに両肩を2カ所刺傷された後,意識消失した。血圧低下・頻呼吸・全身の膨疹を認め,アナフィラキシーショックとしてアドレナリンを筋注され当院に搬送となった。病着したとき,呼吸・循環動態は安定していたため,経過観察を目的に入院し翌日に退院した。ハチ刺傷によりアナフィラキシーショックをきたすことはよく知られ,通常は2度目以降の刺傷により発症率が増加すると思われる。一方で複数回の刺傷において無症状であればその危険性は低下していると考えられやすい。しかし本症例は多数回の刺傷歴があるものの無症状で経過し,今回に限りアナフィラキシーを発症した。残念ながらその機序を説明する所見を得ることはできなかったが,このような症例が存在することの重要性に鑑みここに報告する。

資料
  • 日本交通科学学会・日本臨床救急医学会反射材学術的ガイドライン策定合同委員会ワーキンググループ
    原稿種別: 資料
    2020 年 23 巻 1 号 p. 62-67
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2020/02/29
    ジャーナル フリー

    緊急自動車に対する反射材の取り付けについて学術的に検討した結果,次のとおり推奨する。 1.反射材を車体に取り付けることは,視認性の向上に有用である。 2.反射材の選択においては,再帰性に富んだ反射材が望まれる。 3. 反射材の取り付けにおいては,他の交通の妨げにならないこと,車両の前面に赤色の反射材を用いないこと,車両の後面に白色の反射材を用いないこと,が原則である。 4. 車体の輪郭に沿って反射材が取り付けられること,車体の下部にも反射材が取り付けられること,は視認性の向上に有用である。 5. 蛍光物質を含む反射材は,夜間のみならず,明け方,夕暮れ,悪天候などでの視認性向上に有用である。 6. 今後は救急自動車以外の緊急車両,現場で活動する関係者が着用する衣服などで,反射材を用いた視認性の向上を検討する余地がある。

編集後記
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