日本臨床救急医学会雑誌
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26 巻, 4 号
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原著
  • 定岡 由典
    原稿種別: 原著
    2023 年 26 巻 4 号 p. 447-454
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:救急隊員のキャリア・プラトー現象の様相を明らかにし,今後の救急隊員のキャリア発達支援に資することを目的とする。方法:近畿地方に位置する3消防本部の救急隊員に対し昇任可能性認知や職務挑戦性などのアンケートを実施した。結果:指導救命士と救急管理者の資格使用とキャリア目標を有する救急隊員がプラトー化を抑制していた。キャリア目標では指導救命士,救急隊長,管理職を目標とする救急隊員がプラトー化を抑制していた。結論:指導救命士制度の創設は,救急隊員のプラトー化の抑制に貢献していることが示唆された。また,消防庁の救急業務に携わる職員の生涯教育の指針による救急隊員教育は,救急隊員のプラトー化抑制策のひとつとして有用と考えられた。今後,プラトー化の抑制といった観点からも救急隊員教育に積極的に取り組む必要がある。

  • 上野 恵子, 寺本 千恵, 西岡 大輔, 近藤 尚己
    原稿種別: 原著
    2023 年 26 巻 4 号 p. 455-467
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:地域包括ケアでは個人のニーズに応じた支援が不可欠であり,医療現場でも患者の社会的ニーズが顕在化し対応を求められることがある。しかし,救急車を利用して医療機関を受診し入院せずに帰宅する患者にそのニーズを満たすような支援が提供されることはほとんどない。そこで,軽症の救急車利用者のなかでも支援の必要性が高い高齢者の社会生活状況を簡便に把握し多職種で共有するチェックシートを作成した。方法:質問紙調査3回の修正デルファイ法。救急救命士,医師,看護師,医療ソーシャルワーカー,地域包括支援センター職員,保健師が参加。結果:1回目調査は28人(回収率100%),2・3回目調査は25人(回収率89.3%)が回答した。住環境,世帯構成,キーパーソンや介護者の有無,経済状況などの28項目を共有するチェックシートを作成した。結論:実用化に向けて項目の信頼性・予測妥当性の検証や運用プロトコルの構築と効果検証を進めていく。

  • 野村 侑史, 内田 夏海, 神成 文裕, 野村 直孝, 大谷 義孝, 根本 学
    原稿種別: 原著
    2023 年 26 巻 4 号 p. 468-472
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:特別養護老人ホームにおいて2020年4月から救急医が入居者本人・家族とのadvance care planning(ACP)を積極的に実施し,その変化を調査した。方法:施設入居者の入院数,入院に伴う施設退去数,延命治療希望の変化,看取り件数を後方視的に調査し,ACP開始前と比較した。結果:ACP件数は2020年52件,2021年39件であった。入院数は2019年67件,2020年52件,2021年30件と減少し,入院による施設退去は2019年17件,2020年16件,2021年7件と減少していた。ACPにより2020年は8件中7件,2021年は14件中12件が延命治療希望から希望なしに変更となった。施設での看取り件数は2019年7件,2020年15件,2021年17件と増加していた。結論:地域包括ケアシステムに救急医が積極的に関与することで望まない延命治療を受けることなく看取りができつつあった。

  • ―大阪市救急搬送記録を用いた地域網羅的解析―
    清水 健太郎, 北村 哲久, 前田 達也, 小倉 裕司, 嶋津 岳士
    原稿種別: 原著
    2023 年 26 巻 4 号 p. 473-479
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    背景:高齢者の救急搬送におけるDNAR(do not attempt resuscitation)の影響を地域網羅的に検討した報告はほとんどない。方法:大阪市消防局の救急搬送記録を用いて,救急隊が医療機関を選定した65歳以上の心停止症例1,933例を対象に検討した。三次医療機関への搬送の有無を目的変数とし,年齢,初期心電図波形,発生場所,DNARなどを説明変数として多変量解析を行った。結果:心停止症例1,933例において,DNARの保持率は8.3%であった。DNARの有無は三次医療機関への搬送選定に関して有意差があった(DNAR有8.1% vs 無45.5%,p<0.05)。発生場所が老人ホームの372件に関しても同様に有意差があった(DNAR有7.2% vs 無33.0%,p<0.05)。三次医療機関への搬送を目的変数として多変量解析を行うと,年齢,初期心電図波形,発生場所,普段の生活状況,DNARに統計学的有意差があった。とくに,DNAR有のオッズ比は0.157(95%信頼区間(0.088-0.282)であった。考察:高齢者心停止症例の救急搬送時には,DNARに対する意思表明が三次医療機関への搬送を有意に減少させていた。心停止症例に対し適切な医療を提供するために,アドバンス・ケア・プランニング,地域と救急医療機関とのより密接な連携が重要と推察された。

調査・報告
  • 谷崎 義生, 松本 正弘, 中村 光伸, 笠原 征爾, 飯島 康明, 宮本 直子, 朝倉 健
    原稿種別: 調査・報告
    2023 年 26 巻 4 号 p. 480-488
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    背景:循環器病対策推進基本計画が策定され救急隊の人材育成が急務となっているが,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックのため各種集中研修コースの実施が困難である。目的:従来の集中研修方式からCOVID-19パンデミックに対応した新たな分散研修方式を開発する。方法:群馬県MC協議会検証医が『JRC蘇生ガイドライン2020』に準拠した群馬PSLSコースに,受講前に視聴する4つのeラーニング教材と確認テストの作成による座学の廃止,初期評価で実施する3つのセッション運用法の改訂,新方式のシナリオシミュレーション運用法を導入した新群馬PSLSコース検討した。結果:開催予定時の感染状況を顧慮し,受講者を救急救命士6名と少人数に絞り込んだ新群馬PSLSコースのトライアルコースを開催し,良好な結果を得た。結論:感染状況に対応した分散研修方式による研修の実施は可能である。

  • 石川 幸司, 林 裕子, 山本 道代
    原稿種別: 調査・報告
    2023 年 26 巻 4 号 p. 489-496
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    背景:看護師は実際の急変場面で落ち着いて実践することが困難であると指摘されている。目的:本研究の目的は,救急領域のジェネラリスト看護師を対象に急変対応時に生じる生理的・心理的な生体反応を明らかにすることである。方法:シミュレータで急変場面を再現し,急変対応時に生じる生体反応として自律神経活動,脳波,唾液アミラーゼ,バイタルサイン,心理的反応(STAI)を測定した。データは安静期,実践期間を急変に気づくまで,気づいてから終了までの期間に分類して比較検討した。結果:副交感神経活動HFは,安静期から実践期間,終了まで有意な変化は認められなかった。一方,交感神経活動LF/HFは安静期に比べ,実験開始0.9から急変に気づくまでの期間で3.6と有意に上昇し(p=0.003),急変に気づいてから1.2へ低下した。心理的反応に変化はなかった。結論:ジェネラリスト看護師の急変対応は,交感神経の活性化を認めたが,急変と認識した後も落ち着いて対応していた。

  • 森 恵里子, 井上 歩, 園山 和代, 宮川 大樹, 後藤 希, 山田 雅, 國嶋 憲
    原稿種別: 調査・報告
    2023 年 26 巻 4 号 p. 497-504
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    京都市立病院では,2020年9月より臨床検査技師が救急室で業務を行っている。その主な業務は,検査業務,診療補助業務,その他業務があげられる。配置導入時には人員確保の問題などがあったが,短時間の滞在から開始し,現場の意見を取り入れながら徐々に業務や配置時間を拡大することができた。配置から約1年後に実施した医師・看護師対象のアンケートでは,臨床検査技師の救急室配置は必要だとする回答が90%以上を占めた。また臨床検査技師による救急室での静脈路確保についても必要だとする回答が85%以上を占めた。アンケートで肯定的な意見が多数であった要因としては,救急室で他職種と協働するなかで,臨床検査技師の有用性が認知されてきた点が大きい。今後も臨床検査技師として,検査に関する専門性を活かしながら,従来の枠にとらわれない幅広い業務を行い,多方面で患者に貢献できる存在を目指していきたい。

  • 小野 裕美, 髙橋 誠一, 上田 華穂, 徳井 沙帆, 千賀 大輝, 猿谷 倫史, 安齋 勝人, 園田 健一郎, 安藤 陽児
    原稿種別: 調査・報告
    2023 年 26 巻 4 号 p. 505-512
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:病院派遣型救急ワークステーションの病院実習における実習指導体制の構築を図るため教育プログラムを改訂した。方法:病院実習の教育プログラム改訂前後において,実習担当者別に救急隊員の病院実習教育項目の実施数の変化や内容,また医師同乗出動の動画を使用した振り返りの有用性を検討した。結果:教育プログラム改訂後,担当者別では救命ICU看護師,認定看護師やフライトナースなど専門性の高い看護師の教育項目実施数に加えて,総実施数も増加した。医師同乗出動における動画を使用した振り返りでは,医師は救急隊の患者状態の評価や情報把握などについて高く評価していた。結論:教育プログラムの改訂によって,教育項目の総実施数の増加だけでなく,救急隊員の希望した救命ICUでの実施数の増加,また,医師同乗出動における動画を使用した振り返りにより,救急隊員の客観的な活動の把握が可能となり有用性が示唆された。

  • ―エアストレッチャーとターポリン担架の比較―
    清田 雄一, 二宮 伸治, 安田 康晴
    原稿種別: 調査・報告
    2023 年 26 巻 4 号 p. 513-518
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    背景:近年の消防機関の雇用を取り巻く課題には,女性消防吏員の採用推進や定年延長制度に基づく継続・再任用雇用があり,傷病者搬送資器材の省力化について検討する必要がある。目的:救急隊員の負担軽減および省力化搬送資器材として,ターポリン担架とエアストレッチャーを比較・検討すること。方法:住居内を模擬しターポリン担架とエアストレッチャーによるスライド搬送を行い,傷病者と搬送者の安心度,搬送者の身体負担,取手部の最大荷重,搬送時間を測定した。結果:エアストレッチャーはターポリン担架に比べ傷病者と搬送者の安心度は高く,身体負担は低かった(p<0.05)。さらに取手荷重は小さく,搬送時間は短かった(p<0.05)。結語:エアストレッチャーによるスライド搬送は傷病者搬送時の安全かつ救急隊員の身体負担の軽減が可能な省力化搬送資器材であり,女性活躍対策や定年延長による諸問題の解決に有効である。

症例・事例報告
  • 森山 直紀, 山田 勇, 小谷 穣治
    原稿種別: 症例・事例報告
    2023 年 26 巻 4 号 p. 519-524
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    腹部外傷における胆囊損傷合併頻度は2%程度とまれである。搬入時は軽微であった外傷性胆囊内出血により,のちに手術を要した症例を考察する。症例は70歳代,女性。右ハンドル車の助手席にシートベルトを装着して乗車中に事故に遭い受傷した。当院搬送時の造影CTで右下殿動脈損傷と腹腔内出血,胆囊内にごくわずかな出血がみられた。右下殿動脈損傷に対して動脈塞栓術を行い入院したが,5日目に上腹部痛が悪化し発熱した。造影CTで急性壊死性胆囊炎と診断し腹腔鏡下胆囊摘出術を行った。胆囊穿孔はなく,病理組織検査では出血を伴うびまん性全層性壊死と血管内血栓形成の所見であり,血流障害が疑われた。入院13日目に退院した。本症例はシートベルトによる胆囊内出血と,それに続発する胆囊炎であったと思われた。当初軽微な外傷性胆囊内出血であっても,後に手術を要することがあり,詳細な読影による予測と臨床所見の出現に注意が必要である。

  • 唐津 進輔, 武居 哲洋, 藤澤 美智子, 永田 功
    原稿種別: 症例・事例報告
    2023 年 26 巻 4 号 p. 525-527
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    麻薬投与直後の筋硬直は広く知られるが,投与から時間が経った筋硬直に関する報告は少ない。心臓手術後の患者にスガマデクスを投与し,突然の換気困難に陥った症例を経験した。症例:併存疾患のない53歳男性。感染性心内膜炎による大動脈弁閉鎖不全症に対して大動脈弁置換術を施行した。術中フェンタニル,レミフェンタニルを使用したが,換気に問題はなかった。出血性脳梗塞合併例であり,意識レベルを確認するためICU帰室後にスガマデクス200mgを投与したところ,気道内圧が著明に上昇し陽圧換気困難に陥った。用手でも換気できずSpO2は80%まで低下しECMOを準備した。投与3分後から自発呼吸が出現したため換気量が得られ,SpO2は回復した。投与後約30分間は強制換気時には換気量が得られなかったが,その後回復した。麻薬使用患者へのスガマデクス投与が麻薬による筋硬直を表在化させ,換気困難に陥ったものと推測された。

  • 西川 嘉広, 小出 哲朗, 池口 麻由子, 桐生 浩子, 今西 義紀, 大森 加奈子, 橋本 陽, 大矢知 立城, 堀田 康広, 伊藤 久美 ...
    原稿種別: 症例・事例報告
    2023 年 26 巻 4 号 p. 528-531
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    今回,アテゾリズマブ投与中の2型糖尿病患者が1型糖尿病を発症し,糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis,以下DKA)で救急搬送された症例を経験した。主治医は当初,2型糖尿病の悪化に伴うDKAと考えていたが,薬剤師が投薬歴を確認したところ,アテゾリズマブ5コース終了後に発症したDKAであることが判明し,なおかつDKA発症前の1日総インリン量が5単位以上増加したことから,アテゾリズマブによる1型糖尿病の発症が考えられたため,薬学的介入(1型糖尿病および他の内分泌関連副作用のスクリーニング検査および糖尿病内分泌内科への受診提案)を行った。その結果,糖尿病内分泌内科との連携により,速やかにDKAは改善し,血糖値は安定したことから,アテゾリズマブ誘発DKAの早期発見および重症化回避につながったものと考える。

  • 種田 靖久, 田中 裕也, 松岡 知子, 吉村 知哲
    原稿種別: 症例・事例報告
    2023 年 26 巻 4 号 p. 532-537
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    Ic群抗不整脈薬であるピルシカイニド(以下PIL)による重大な副作用報告は,血中濃度が2.0μg/mL以上(有効治療血中濃度域0.2〜0.9μg/mL)によるものが大半であるが,それ以下においても出現した2症例を経験した。症例1は74歳,男性。既往に心不全,狭心症,末期腎不全あり。原因不明の意識レベル低下にて来院。PIL血中濃度は1.56μg/mL。頭蓋内病変などは否定され,PIL中毒による房室ブロックを契機とした意識レベル低下と診断。症例2は86歳,女性。既往に心筋梗塞,慢性腎臓病あり。倦怠感,徐脈あり来院。PIL血中濃度は1.31μg/mL。翌日には徐脈改善し薬剤性洞不全症候群と診断。2症例ともに併用薬にはビソプロロールが含まれていた。β遮断薬との併用による相互作用も考慮され,基礎心疾患を有する患者ではPIL血中濃度の軽度高値により重大な副作用が発現する可能性が示唆された。

  • 永井 美紗子, 松村 宣寿, 小林 駿, 蔵増 優, 齊藤 志穂, 山田 尚弘, 須田 拓郎, 根本 信仁, 辻本 雄太, 森野 一真
    原稿種別: 症例・事例報告
    2023 年 26 巻 4 号 p. 538-542
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    症例は53歳,女性。食事中に一時的に窒息し,呼吸困難が出現したため救急要請となった。食物刺激による喉頭痙攣で気道狭窄を生じ,換気不全をきたしていたため経口気管挿管を行った。喉頭痙攣発症後17時間でカフリークテスト陰性を確認して抜管したところ,喉頭浮腫での気道狭窄が経時的に顕在化し,呼吸促迫したため抜管後7時間で再挿管した。窒息時の強い陰圧によって生じた上気道の粘膜損傷が喉頭浮腫の要因の一つと考えられた。本症例は一度の食物窒息を契機に,短期間で喉頭痙攣および喉頭浮腫により二度の気道緊急を起こした。一般的な喉頭浮腫に関しては低リスクでも,気道粘膜の点状出血など粘膜損傷の所見を認める場合,喉頭浮腫の可能性を考慮し,抜管前の喉頭ファイバーでの上気道の評価を検討する必要がある。また気道緊急において安全な医療を提供するため,初療の教育とバックアップ体制の構築を行い,各科医師と連携することが重要である。

  • 尾崎 諒吏, 飯尾 純一郎, 中山 美里, 泊 翔平, 具嶋 泰弘, 前原 潤一
    原稿種別: 症例・事例報告
    2023 年 26 巻 4 号 p. 543-547
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    気道確保を要するLudwig’s angina(LA)の患者に対する気管支鏡下挿管の成功率は比較的高いとされる。今回,気管支鏡下挿管が困難であり,輪状甲状靱帯切開術により救命したLAの症例を経験した。70歳の男性が,来院2日前からの咽頭痛,当日からの発熱,呼吸困難を主訴に搬送された。頸部でのstridorや流涎などの所見から急性喉頭蓋炎による上気道閉塞を疑った。気管支鏡下挿管を試みたが喉頭周囲に著明な浮腫を認め困難であり,輪状甲状靱帯切開術を行った。気道確保後の造影CTで深頸部の膿瘍形成,喉頭蓋の浮腫を認め,今回の病態はLAの炎症が喉頭蓋まで波及したものと判断した。通常,LAの患者に対する気道確保では外科的気道確保の必要性は低い。発症からの時間が長い場合や,嚥下障害,呼吸困難など気道緊急のサインを認める場合に挿管困難となる可能性がある。その際は,輪状甲状靱帯切開術も考慮した対応が重要である。

  • 岡田 和弘, 河中 拓郎, 森 雅博, 近澤 博夫, 吉田 政之
    原稿種別: 症例・事例報告
    2023 年 26 巻 4 号 p. 548-551
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    一酸化炭素(CO)中毒は閉鎖空間で集団での発症が多く,発生状況から推定されることが多い。しかしながら,状況からでは想定困難なCO中毒の発生もあり得る。今回,非閉鎖空間において単独で発生し,熱中症が疑われたCO中毒の症例を経験した。症例は60歳代の男性。高血圧症にて近医に定期通院され内服治療により血圧は安定していた。工場内にあるガス発生装置上部での作業中に,突然5分程度持続する強直性の痙攣を発症し救急要請された。巨大工場の一角で発症したが,近傍にあるシャッターや窓は開放状態で,周囲の作業員は無症状であった。作業場に熱気があり,多量の発汗が認められたことより熱中症が疑われ搬送された。動脈血ガス検査にてカルボキシヘモグロビン(COHb)34.5%と高値が判明しCO中毒と診断され,高気圧酸素療法を目的に高次医療機関へ転院となった。CO中毒は想定しにくい環境下でも発生し得ることを救急隊員および救急医は再認識しておくことが必要である。

  • 河村 宜克, 藤田 基, 井上 智顕, 山本 隆裕, 古賀 靖卓, 八木 雄史, 中原 貴志, 戸谷 昌樹, 金田 浩太郎, 鶴田 良介
    原稿種別: 症例・事例報告
    2023 年 26 巻 4 号 p. 552-556
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    トンネル内で急性一酸化炭素(carbon monoxide,以下COと略す)中毒患者が多数発生した事例において,隣県のドクターヘリコプター(以下ドクヘリと略す)とともに傷病者7例を高気圧酸素(hyperbaric oxygen,以下HBOと略す)治療装置のある4施設に分散搬送したので報告する。トンネル内で作業員が倒れているとの情報で,ドクヘリが覚知要請された。 現場到着時,傷病者はトンネル内で,発電機を複数台持ち込み作業していたとの情報から,急性CO中毒を疑った。傷病者は7例で19〜58歳,全員歩行不能であり,JCS 1桁であった。 経皮的カルボキシヘモグロビン濃度は,測定可能であった4例では30%前後であった。最終的に救急車で直近のHBO治療装置保持施設に3例,次に近い施設に1例搬送した。山口県ドクヘリで2例,広島県ドクヘリで1 例をさらに離れたHBO治療装置保持施設2施設へ分散搬送した。

  • 関口 航也, 持田 勇希, 落合 剛二, 海田 賢彦, 山口 芳裕
    原稿種別: 症例・事例報告
    2023 年 26 巻 4 号 p. 557-562
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    とくに既往のない20歳代,女性。発熱と咳嗽を認め近医受診するも胸部X線上異常所見なく経過観察となっていたが,4日後に呼吸困難が出現し当院救命救急センターに搬送された。血液検査上炎症反応が高値であり,胸部CTにて左肺に多房性の隔壁を伴う膿胸腔と胸水貯留を認めたため急性膿胸と診断し,胸腔鏡下膿胸腔掻爬術を施行した。胸水と胸膜切除組織からA群レンサ球菌が検出され,原因菌と同定した。術後は炎症反応の著明な改善を認め,3週間の抗菌薬経静脈投与を行った後に退院となった。A群レンサ球菌は膿胸の原因菌としてはまれであり,感染が重症化する恐れがあるため速やかな治療介入が重要である。本症例は4日以内に膿胸が急激に悪化する経過を辿っており,多房性の膿瘍腔を認めていることから原因菌同定前に早期の手術介入を選択した。劇的な臨床経過を辿る急性膿胸には,培養結果を待たずして超早期の外科的治療介入を考慮すべきである。

  • 杉本 龍史, 関口 秀文, 上間 貴子
    原稿種別: 症例・事例報告
    2023 年 26 巻 4 号 p. 563-567
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー

    救急医療現場での精神科的問題解決を目的とするシステムを立ち上げ,MOBILE PCUと名づけた。MOBILE PCUは精神科治療室を移動可能にするシステムであり,救急病院の要請を受けて精神科専門医を含むチームが緊急車両で出動する。出動先の救急外来などで精神科診察と,その判断に基づく対応を担う。2020年4月に開始して2021年4月までの間に,15症例の要請を受けすべてに出動した。警察要請の1例のほかはMOBILE PCUの車両で精神科医療機関へ転送した。かかりつけの精神科医療機関での受け入れができない7例を含め12例を自院へ搬送した。MOBILE PCUは地域での精神科救急の負担を軽減する可能性があり,同様のシステムが各医療圏へ拡大することが期待される。

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